4-40 新迷宮②~神眼Ⅲなのにunknown~
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「でっけぇ―なぁ―。何喰ったらこんなでっかくなっちゃうのよぉ―」
父バイルは、たぶんナマコと思われる存在の上に飛び乗った。
「ば、何やってんだよ」
危ない危ない。親父が本物な事は承知している。うっかり口に出してしまうところだった。
「おめぇ―が執拗く聞いて来っから、本物かどうか確かめてんだろうがぁっ!見りゃ分かんだろうがよぉ―」
本物ねぇ~。ふぅ~ん・・・・・・。
忙しなく飛び跳ね動き回る父バイル。そんな父の姿を何処か遠くに感じながら、
「で、これは?」
と、顔と声を取り繕い声を掛ける。
口慣れるって怖いな。
≪グニョッ ベチィ ピタピタ
父バイルが踏み込む度に聞こえて来る潤いと張りを感じさせる奇妙な音。
「ははぁーん、なるほどねぇ―」
あ、あの顔はダメなパターンだ。
父バイルは、ニヤニヤとほくそ笑みながら、左肩に掛けた弓の鳥打ちを左手で握り大きく振りかぶると、
「せぇ―のっ!」
掛け声と共に、勢い良く振り下ろした。
≪シュッ
≪ペッ チ―――ン
手首のスナップとしなりを利用し振り下ろされた弓はまるで鞭の様にたぶんナマコと思われる存在を叩き付け、大きな音を響かせた。
「おっ、良いねぇ―――。楽しくなってきたぞぉ―」
父バイルは、その場にしゃがみ込みと、
≪ピターンピターン
「あらよっと」
≪ベチィ ペチーンペチーン ぺターン
「あっそれっ」
≪ペペペペペチーン ペチーン パーンパーン
「ほい」
≪ペタ
「よお―」
≪ペタペタペタ
「あらよっと」
≪ペペチーン
ナマコでリズムを取りながら合いの手を入れ始めた。
≪パパパーン
「よっ」
≪ペペチーン ベチィペチペチ
「ほい」
≪パンパーン ペチーン ペチーン
「うん。なんつぅ―かぁ―。あらよっと」
≪パァ―――ン
「これでっけぇ―ナマコだわ。・・・ほい」
≪ペチペチペチペチ パパパーン
「・・・そ、そっか」
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父バイルがこれだけ騒いでも何も起こらないのであれば大丈夫だろう。そう判断した俺は、サラさんとサンドラさんを俺の神授スキル【転位召喚・極】で呼び出し合流した。
「サンドラさん。これなんですが、親父の話ではボンバーシーコンコンブルってナマコの仲間らしいんです。前に見たのと比べてどうですか?」
「よっ」
≪ぺペチーン
「そうですねぇ~。以前見たナマコは、何と言いますかもっとこう・・・」
サンドラさんは、胸の前で両手を動かし大きさを再現する。
「・・・小さくて、掌に収まるサイズでした」
≪ベチィッ ペチィッ
「あっそれ」
≪パッチーン
「ロイク様。バイル様はその・・・ナマコの上でいったい何をされているのでしょうか?」
あ~えっと、触れない様にしてたんだけど、やっぱり無理があるか。どう答えたら良い?親父のあれはいったい何だ?
「分からないです」
正直俺にも分かりません。サラさん。
「鼓舞や決起の類の様にも見受けられますが、・・・形式ばった騎士団の物とはかなり違う様です」
サンドラさん。家の親父に協調性や統率力が必要な鼓舞何て気の利いた事が本当に出来ると思ってますか?無理ですよ。
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「だからよぉ―。ボンバーシーコンコンブルだってさっきから言ってんでしょうぉ―。たっくよぉ―。サンドラッチが見たってぇ―ナマコはぁっ!普通の奴だっ普通の良く落ちてんだろうがぁっ!」
これが?
「バイル様。迷宮化したとは言え森に海の生き物がいるのは」
「チッチッチッ」
父バイルは、右手の人差し指を顔の前に立て内外内と三回振り、サンドラさんの言葉を遮ると、
「サンドラッチ良いかぁ―。俺のこれはボンバーシーコンコンブルつってなっ!でっけぇ―タイプなんだよぉっ!」
顔の前に立てた指を鼻穴に突っ込み穿りながら気怠そうに言葉を続けた。
その指その手って、さっきまで・・・。
「良かった良かったぁっ!これで全部解決したなぁっ!」
親父、鼻穴に指を突っ込みながら自信満々にドヤ顔をキメるのは良いが、・・・この状況でどうして解決したと思える?
「大きいタイプですか。・・・流石にこれは、・・・大き過ぎると言いますか。限度と言う物が」
サンドラさんは納得していない様子だ。
そりゃ~そうだろう。目の前のたぶんナマコと思われる存在はパッと見で全長六十メートル、高さ八メートルもある。
俺も納得してない。サラさんも同じだと思う。
「バイル様。ここには私達だけしかいませんが、流石にそ、それは、その・・・鼻を堂々と穿るのはお止めになった方が・・・」
「あっ?サラ姫さんよぉ―。かいんだからしょうがねぇ―でしょうぉ―。我慢したって何もねぇ―しすんだけ損損魔猿ってなぁっ!ガッハッハッハッハ。イテッ、あぁ―指抜くの忘れてたぜ」
サラさん。親父は羞恥心がずれてるんです。・・・いや、無いんです。生まれる時に忘れて来たんだと思います。
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良く分からない物 ← unknown
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・・・やっぱりunknownか。
「なぁロイクゥ―。これ食えっかなぁ―。食うとこ結構ぉ―あんぞぉっ!」
父バイルは、俺の隣に移動して来て、逞しい言葉を口にした。
「何だか分からない物を食う気なのか?」
「だってこれナマコだぞぉっ!」
えっ?俺がおかしいのか?
父バイルは、変な物でも見る様にしかめっ面で俺を凝視している。
「普通はこんなに大きくないんだろう?」
「あったりめぇ―だろうがぁ―。俺のはっ!普通のナマコじゃねぇ―のっ!ボンバーシーコンコンブルってなっ!でっけぇ―タイプなのっ!・・・あぁ―――分ったよぉっ!ハァ―ア―」
親父は、深く大きな溜め息を付くと、矢筒から矢を一本取り出し、地面に線を引き始めた。
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「普通のナマコはなぁっ!普通こんくれぇ―な訳よぉ!」
絵から推測するに、約十四センチメートルから十五センチメートルってところだろうか。
「私が見たナマコは、十センチメートル以下でしたが」
「子供だ子供っ!」
「子供ですか・・・」
「たぶんなっ!それかぁ―、普通のより小っちぇ―タイプのナマコだなっ!あぁ―――だなぁっ!」
「そ、そうですか・・・」
「おう。任しとけぇ!」
「ロイク様、信じても良い物でしょうか?」
サラさんが、ホイスパーで問い掛けて来た。
「分からないです」
「そうですか・・・」
コソコソ会話をしていると、
「はいそこっ!親の前でイチャイチャしないのぉっ―。ちゃんと許可取ってからにしろつっただろうがぁ―。あぁ―やってらんねぇ―。迷宮の調査だっつぅ―からめんどくせぇ―のにしっかた無く付いて来てやったのにこれですかぁっ!ハァ―――。まっ、何でも良いんだけどよぉ―。でなっ!こっちは、ボンバーシーコンコンブルだぁっ!」
「六十センチメートル位でしょうか?・・・これは子供サイズなのでしょうか?」
「サンドラッチ。ちゃんと見たかぁ―?」
「ナマコの絵が二つ描かれているだけなのですが」
「だなっ!良く見ろってぇ―。ボンバーシーコンコンブルはなっ普通のナマコより六倍以上もでっけぇ―訳だっ!俺のボンバーシーコンコンブルがでっけ―理由が分-たっかぁ―?」
「普通のナマコのサイズを約十五センチメートルだとします。目の前のこれが仮にナマコだとして約六十メートルあります。約四百倍の大きさです」
「俺のボンバーシーコンコンブル。マジでけぇ―なぁっ!」
「大き過ぎると思うのですが」
「大き過ぎるって言われてもなぁ―。俺のせぇ―じゃねぇ―しよぉ―。・・・・・・良し分かった。後はロイクに聞いてれぇっ!」
「はっ?」
「はっ?じゃ、ねぇ―よっ!ロイク。おめぇ―には神の眼があんだろぉ―。はい宜しくぅ―」
こいつは、俺の話、聞く気無いだろう。・・・いやいや本物だから覚えていられないだけかもしれない。冷静になれ俺。
「さっき話したと思うけど、神眼ではunknownだったんだよ」
「そっかぁっ!大変だなぁっ!まっそぉ―いうこたぁ―良くあるってなぁっ!良くあるってこたぁ―何度もあるってぇ―話だぁっ!頑張れぉっ!」
「ロイク様の神眼でも分からなかったのですか?スキルのレベルが上がったのですよね?」
「そのはずなんですが・・・」
「サラ姫さんよぉ―。神眼も万能じゃねぇ―んだよぉ」
何故に親父。お前が語る。
「は、はぁ~・・・」
「考えてもみろよぉ―。神眼Ⅲとかってぇ―。すんげぇ―中途半端だろうぉ―。半端な奴ぁ―半端ってなぁっ!んなもんだぜぇ―。世の中はよっ」
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父バイルが無駄に騒ぐので、ちょっと大きくなり過ぎたボンバーシーコンコンブルと言う事で取り合えず保留にした。
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一応ボンバーシーコンコンブルと言う事になった存在の上で合いの手を打ち盛り上がっている父バイルを無視し、サラさんとサンドラさんと俺は話し合いの場を設けた。
「ナマコの件は後回しにして先に進みませんか?」
「私もその方が良いと考えます」
「ロイク様とサラの意見に賛成します。このままここで調査を続けていても進展がみられるとは思えません」
「よっ」
≪ぺペチーン スパーン
「あのぉ~。私ふと思ったのですが、闇の時間に動くと迷う森が迷宮化したのですよね?」
「そうなりますね」
「闇の時間だけ闇の迷宮と繋がるのですよね?」
「創造神様からのメールにはそう書いてありました」
「サラ。いったい何が言いたいのですか?」
「闇の時間の調査なのですが、光の時間の様に出来るのでしょうか?」
ありがとうございました。