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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
ーコルト編ー
23/1227

1-15 甘いクレープと、嘘の中の真実。

作成2018年2月26日

***********************

【タイトル】 このKissは、嵐の予感。

【第1章】(仮)このKissは、真実の中。

 1-15 甘いクレープと、嘘の中の真実。

***********************

――― パマリ侯爵領コルト侯爵邸 執務室

――― 6月1日の26:17


「・・・実は、ロイク君には口止めしていたんだが、コルト町の南12Kmに広がる湿地帯に魔獣が集結しているとの情報を得て、今日の昼過ぎ頃・・・コルトの貴族領軍私兵隊に殲滅討伐命令を出した。夕方になっても戻らない為、副隊長のエリック・カルゼノイ家臣子爵を追加部隊として派遣したのだが・・・」


 あれ?


「彼と彼の部下達の日頃の素行について私は知らなかったのだが、少々問題がある者達だった様でな、ロイク君や当家の御者に対する礼を欠いた立ち居振る舞い。私兵隊内での命令違反」


 俺達が夕食会に遅れた理由を、彼等の責任にする様な感じだったけど・・・


「どうやら、手柄を焦った為なのか、アームストロングが平民だからなのか、私の指示に従わず自家の手勢のみで出陣した様なのだ」


 あれ?


『フフフッ』


「なるほど。王国軍のパマリ領本部とパマリ領騎士団事務所が把握している限りでは、領軍の3分の1にあたる約1000名が最初に出陣。内訳は、大隊1部隊、中隊3部隊、小隊6部隊。医療部隊1部隊。次に、追加部隊で小隊1部隊が出陣。兄上、間違いありませんか?」


「エリック子爵めぇ~・・・増援部隊として大隊を指揮し、本隊に合流する様に私が命令したにも関わらず手柄を自分達の部隊で独占しようと考えるとは・・・1000名の貴族領軍私兵隊で殲滅出来ていない魔獣達を相手に40人程度で駆け付け何が出来ると言うのだぁっ!」


『なかなかの大根役者よね。痛々しくて面白いわ』


 悪趣味ですよ。


『愚か者と、嘘と愚か者、神様からの予定表にあった役者は出揃った様ね』


「そうだ。ロイク君。先程見せて貰った。宙に地図を出す魔術で状況を確認させてくれないか?」


「ロイク君は転位の他にそんな魔術も使えるのかね?」


「あぁ~・・・はい。神授スキルの1つです」


『ロイクの魔法でパパっと片付けて、夕食会の続きを楽しみましょうよ』


 食べる気、満々ですね・・・


『別腹だって言ったでしょう』


 はぁ~・・・このメンバーなら問題無いかぁ!


「神授スキル【タブレット】発動≫」


 可視化:対象・セイズマン・パマリ次期侯爵。ジェルマン・パマリ子爵。マリア・パマリさん。アリス・パマリさん。今回限り:設定・10倍に拡大。今回限り。表示:コルト町の南10Km地点を中心に半径10Km・貴族領軍私兵隊を青色・魔獣を赤色・民間人を黄色・危険度の高い魔獣は黒。


≪・・・認証更新しました。表示します。


 俺の目の前。約100cmの距離にに、幅(横の長さ)約180cm×奥行(縦の長さ)260cm×厚さ約0.5cmの透明な版が出現する。版に浮かび上がった地図には、青と赤の点が入り乱れていた。


「な・・・これは、凄い。かなり正確な地図じゃないか・・・」


「御父様。この上にある小さな南外壁門は、コルト町の門ですよね?」


「だと思う。ロイク君これは正確な地図を確認出来るスキルなのかい?」


「いえ、これは本来は俺の道具を管理したり、認識済の情報を再確認する為のスキルだと俺は思っています」


「つまり、認識している情報であれば、ここに浮かび上がると言う訳か・・・」


「少し違いますが、そんな感じでだいたいあってます。因みに、青が貴族領軍私兵隊。赤が魔獣です。黒い点があれば、討伐対象魔獣危険度の高い魔獣なんですが・・・居ないようですね」


「姿の見えない魔獣を、討伐対象の魔獣と推測した訳だね」


「はい」


「ロイク君。点滅している物と点滅していたない物があるようだが、これは?」


「セイズマン・パマリ次期侯爵様。これはですね・・・」


 えっと、なんだろう。色の点滅と非点滅の違いは?


≪点滅:危険な状態。非点滅:正常な状態。


 なるほど


「点滅は、危険な状態に陥ってる場合です」


「兄上。ロイク君のこのスキルで、魔獣の集結を知り、領軍を出陣させのですね」


「・・・あぁ、そうだ」


「ロイク君。さっき、認識済の者の情報を浮かび上がらせる事が出来ると言ったね。ならば、君の知っている者達の状態だけでも、ここに出せないのかね?」


「そうですね。可能だと思います。俺の知っている人ですよね・・・。アームストロング隊長。ワイ魔術部隊隊長。ゼット大隊部隊長。兵士のチャールズ君、ブレア君。あ、参謀で出陣中のジョージ・パマリ様。それと・・・副隊長のエリック・カルゼノイ子爵様。取り巻きの兵士の名前までは分からないですね」


「いやいや、隊長達の状況が分かるだけでも、戦況を把握するには有益な情報だよ」


≪・・・表示しました。


「あら?ブレアって人、南外壁門の上・・・コルトの町の中に居るみたいよ?」


「アリスさん。たぶんですが、今朝の演習の際に貴族の子弟令嬢達を危険な状態にした責任で、南外壁門の傍の貴族領軍私兵詰所で待機(謹慎)しているんだと思います」


「演習時の責任を兵士がですか?」


「はい。アームストロング隊長から聞いた話では、チャールズ君とブレア君が、ジョージ様やアンガス様やトランプ様やイザベラ様。他貴族家の子弟令嬢様達に、湿地帯で演習中の貴族領軍私兵隊を見学させる為、コルト川を下る船を手配。兵士や親達に秘密にする為、船を使い計画的に出入管理を回避した責任だと聞いています」


「ふ~ん。責任を押し付けられた様ね」


「アリスさんも、もそう思いますか?」


「誰でも、そう考えると思いますよ」


『フフフッ』


「ふっ。兄上。どうせ、ジョージかアンガス、トランプあたりが、領軍の兵士に命令したのでしょう。彼等は命令に従っただけ。謹慎は2・3日程度で、職務に復帰させて問題無いでしょう」


「あぁ~・・・」


「ロイク様。ブレアという兵士は地図上で確認出来ましたが、チャールズという兵士は何処にいるのでしょう?謹慎中に出陣して死亡って事はありませんよね?」


「ちょっと待ってください。違う場所で謹慎しているのかもしれません」


 コルトの町南10Km地点を中心に、半径20Kmを表示。アームストロング隊長・ワイ魔術部隊隊長。ゼット大隊部隊長。兵士のチャールズ君、ブレア君。参謀のジョージ・パマリ様。それと・・・副隊長のエリック・カルゼノイ子爵様のみを表示。


「おぉ~地図の範囲が広くなったぞ」


『いたわ』


 いましたね・・・・・・出陣中の参謀も・・・


「兵士チャールズは、領主館の東見張塔、貴族領軍領主館詰所に居る様だね・・・」


「貴方。この地図ですが、あともう少しだけ範囲を広げる事が出来るでしたら、サス山脈の東側も見られるのではないでしょうか?」


「だが、このスキルは、確認済の情報だと・・・・・・おや、ロイク君は、湿地帯より南やルートフォーとルートトゥーの分岐から王都方面に行った事はあるのかい?この地図だと、西コルト川の東岸の平原まで確認出来ているが・・・」


「このスキルは、俺の警戒・索敵・探索・調査スキルを反映させる事で、行った事の無い場所であっても確認する事が出来ます」


『あらぁ~?神眼で全て理解出来ているはずよねぇ~』


 この位の嘘は神様も許してくれます。


『フフフッ』


「・・・今は、姿が見えない魔獣と領軍の件が先だ。これが解決した後、サス山脈の情報をロイク君には改めてお願いしたい」


「分かりました」


「御父様。ここ・・・」


「あぁ~」


 2人は、ジョージ・パマリと書かれたポイントを目配せで確認し、大人な対応で流した。


「ロイク君。兵士の所在確認も取れた事だし、領軍隊長を中心に部隊がどう展開しているのか知りたい。もう少し範囲を限定した状態で地図を浮かび上がらせて欲しい」


「分かりました・・・あのぉ~」


「どうしたんだね」


「いえ・・・何でも」


 直接、行って、殲滅しちゃった方が速いかもって思ったんだけど・・・


『それで良いと思うのだけれど。ダメなの?』


 他人の仕事を奪ってはいけないというか。何でもかんでも頼られる様になるとダメだからって・・・


『でも、放置していたら、結界の効果が切れた瞬間から、人間種達は次々死に出すわよ』


 そうですよね・・・


「ロイク君。先程の地図で気になった事があるんだが、子爵の名前はあったかね?」


「ちょっと待ってください」


 表示:アームストロング隊長を中心に半径5Km。正常な状態の人間を青。瀕死状態の人間を赤。危険度の高い魔獣を黄色の点滅。


「青は、正常な状態の人間です。赤は瀕死な状態の人間です。黄色の点滅は危険魔獣です。アームストロング隊長を中心に5Kmが浮かび上がる様にしました」


「兄上、見当たりませんな」


「大隊や中隊が苦戦している戦場に、小隊で乗り込んだのでしょう?しかも湿地帯に騎馬隊で・・・」


「魔獣の正体が不明な状況で、パマリ領駐屯騎士団は出陣しないだろう。だからと言って、この状況に追加の領軍を出陣させたところで戦況が改善するとも思えん」


「セイズマンどうしたら良いと思う?お前は王都の騎士団の団長だろう。戦いにかけては、父上や私よりも長けておる」


「そうですねぇ~。まず、情報が少な過ぎます」


「ロイク君。先程、魔獣達をリスト化した様に、貴族領軍私兵隊の兵士達もリスト化出来ないだろうか?」


「出来ますよ。ちょっと、待ってください」


 表示:貴族領軍私兵隊の正常な状態の兵士、瀕死な状態の兵士。魔獣の詳細。


≪・・・・・・表示しました。

挿絵(By みてみん)

『あら。あの人間種死んだのね』


 ・・・


「兄上、彼等は昼過ぎに出陣したはずです」


「そうだが、それがどうした」


「半日近く魔獣と戦闘状態にあって、死者が29人だけですか?」


 ・・・


『どうしたの』


 支援補助はとっくに切れてしまってるはずですが、結界は明日の朝から昼過ぎ位まで効果が持続するはずなんです、結界を張った俺自身ですら無効化の魔法で解除しない限り、傷1つ付ける事が出来ないのに、死亡者が29人ですよ。


『ふ~ん』


 あの突風餓鬼猫(ベータラ)という魔獣がやたんでしょうか?


『どうかしら。突風猫(ガラ―コート)は何処の森の中にも住んでいますが悪戯専門です。魔落ちした闇属性の突風餓鬼猫(ベータラ)は質の悪い悪戯を専門にする程度で、人間種を殺したり襲ったりすると聞いた事がありませんよ』


 そうなんですか・・・


「出陣命令を出してから、これだけ経ったと言うのに、ほとんど殲滅出来ていないではないか」


翡翠石竜子(ジェッドリザード)闇大石竜子(オプスリザード)は、討伐対象ではありませんが、集団になると厄介な魔獣です。それに、ロイク君が先に討伐した金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)痺れ魔鰻(マグネ・アンギーユ)とも戦闘状態にあったのであれば、これだけの人数が生き残っている事の方が奇跡と言える」


「ダ、金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)が居たのか?」


「はい。討伐対象S級魔獣で危険度が4から5だという話でしたので、貴族領軍私兵隊の皆さんから許可を貰った上で、俺が痺れ魔鰻(マグネアンギーユ)と一緒に仕留めました」


「兄上。あの、S級魔獣緊急度危険度が4から5の金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)です」


「あの、1匹で数十億数百億とも言われる魔獣が・・・・・・許可を出したのは誰だ?」


「えっとぉ~。アームストロング隊長や他の隊の隊長達です」


「S級の金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)をロイク君が討伐してくれたおかげで、領軍の現状があるのです。もし、ロイク君が討伐していなかったら、無属性の高火力、高い攻撃力を持った者で編成したパーティーや部隊でもない限り、一方的にやられ全滅していた可能性があります」


「全滅か・・・」


「はい、全滅です」


「そんなに危険な魔獣なのか?」


「そうですね。例えば、闇炎牙狼(オプスキュリテ)を騎士団で討伐する場合。あくまでも1匹を前提とした場合ですが、9人のフルパーティーを4つか5つ。つまり小隊1部隊でギリギリ倒せるかどうかです。確実に討伐を成功させる為には、小隊3部隊。9人のフルパーティーが15位は欲しいところでしょうか」


闇炎牙狼(オプスキュリテ)の事は分かった。金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)はどうなんだ」


「良いですか兄上。闇炎牙狼(オプスキュリテ)は、討伐対象魔獣緊急性危険度1の魔獣です。2匹の場合、緊急性危険度が3になります。3匹だと5。4匹で7。5匹で9。6匹で、S級の討伐対象に上方修正されます。6匹だとS級討伐1。7匹でS級2。8匹でS級3。9匹でS級4です。分かりますか?」


「何が言いたい?」


「つまり、確実に殲滅する為に、1匹の闇炎牙狼(オプスキュリテ)に対して通常120人近くの手練れの戦闘職の者が必要で、討伐対象S級レベル4の状態の闇炎牙狼(オプスキュリテ)の場合は、9匹な訳ですから、単純計算した場合1080人。実際は魔獣の数が増えた時点で、人員はもっと必要になると言われています。金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)はレベル4から5です。無属性攻撃以外は、魔術攻撃も通常攻撃も無効化されます。しかも、防御力が非常に高く生半可な攻撃では意味がありません。他の魔獣がいなかったとして、現在交戦中の領軍1000名では金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)に、ダメージを与える事も出来ないまま全滅していたでしょう」


「むむむ」


「領軍が不甲斐ないとは言いません。兄上が殲滅討伐命令を出した時点の、魔獣達との状況が今だと考えると、金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)とも交戦していたら、確実に全滅し数日の内に街道は魔獣で溢れ返っていたでしょう」


「そうか・・・ロイク君。・・・中央街道とコルトの危機を救ってくれたのだと、今理解した感謝する。ところで、仕留めた痺れ魔鰻(マグネアンギーユ)金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)は、どうしたのかね?」


「それなら、東岸に移動してから仕留めて、スキルで回収しました」


「そうか・・・」


『フフフッ。ロイクが倒した魔獣の事が気になるみたいね』


「しかし、兄上。ロイク君から魔獣の報告を受けた時点で、魔獣の数から考えても、駐屯騎士団や王国軍本部と話し合った上で、出陣命令を出すべきだったのではないでしょうか?何故、貴族領軍私兵隊だけで・・・しかも殲滅討伐にも関わらず、中途半端な3分の1に出陣命令を出したのですか?」


「・・・うーん。緊急だった。そこまで配慮していられなかったのだ」


『ロイク。この人間種は、どうして翡翠石竜子(ジェッドリザード)金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)が欲しいって自分の思っている事をはっきり言わないのかしら?欲望が素直に溢れ出ているのに』


 貴族領軍私兵隊が討伐した魔獣の素材は、領主の物にはなるけど、兵士の維持費とか褒美として処理される事が多いって、村では聞いた事があるよ。王国の討伐対象を貴族領軍私兵隊が討伐した場合は、報奨金は領主に支払われると思うし・・・セイズマン・パマリ次期侯爵様は領主では無いから、貴族領軍私兵隊が翡翠石竜子(ジェッドリザード)を倒しても命令しただけで、受け取る権利はないし・・・金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)も俺が仕留めたから権利は俺だしね。


『自分の物にはならないから、態度には出して、言葉にはしないのね。理解し難いは・・・』


「ジェルマン・パマリ子爵様。湿地帯の貴族領軍私兵隊をどうするつもりですか?」


「そうだねぇ~・・・姿の見えない魔獣の正体が分からない。どう動くべきか判断が非常に難しい。この魔獣の数に間違いが無いとして、範囲内に危険度の高い魔獣も居ない。集団で幻覚を見ているという事は考えられないだろうか?」


「幻覚ですか?」


「集団である必要も無いか。幻覚を1人ずつ次々見せたとしたらどうだろう。例えば、味方の兵士が突然怪我をしたり倒れたりする幻覚はどうだろう?」


「姿の見えない魔獣・・・これに似た事が以前あったと思うのですが・・・」


「マリア。心当たりがあるんだね?」


「この状況に似た事が、遊撃隊の訓練の時にあったのですが・・・・・・ですがそれは森の中でたまに遭遇する妖精の悪戯でしたし・・・」


「どんな状況だったんだね?」


「王都の東にある東モルングレー山脈とルーリン湖に挟まれた森で、遊撃隊の訓練を行った時の話です。目印を付けた森猪を森に放し、幾つかのチームに分かれ仕留めた数や仕留めた状態を競うという、弓矢を扱う者には基本的な訓練です」


「ふむ」


「森猪を狙っていたはずが、森熊に見えたり。人に見えたり。魔獣に見えたり。木の上から狙っていたはずなのに土の中に埋まっている様な感覚になったり。弓矢が突然壊れたり・・・」


突風猫(ガラ―コート)の悪戯ね』


 疲れていたり、眠かったり、集中力が欠如している時には、特に注意しろって親父が言ってた森の微睡って魔獣の仕業だったんですか?


『魔獣?・・・そうね核を持った動物だし魔獣扱いにはなるかしらね。突風猫(ガラ―コート)は元々は獣なのよ」


 獣が魔獣になるんですか?


『そうね。元々は森猫とか山猫よ』


 魔鼠を狩ってくれる森猫ですか?


『そうよ。魔鼠を何千何万って狩り食べると上位進化するとか、一定の大きさになると上位進化するとか、一定の年数を生きると上位進化するとか、正確な進化の方法は私も分かりませんが、獣の森猫や山猫が上位進化して核を持った突風猫(ガラ―コート)になるのは確かよ』


 獣が魔獣化するなんて・・・知りませんでした。


『核を持った突風猫(ガラ―コート)は、核が成長して魔晶石になると、浸食による上位進化が可能になるでしょう。闇属性の浸食を受けて進化した結果が突風餓鬼猫(ベータラ)よ』


「なるほど。森の中では稀にその様な事が起きる訳だね」


「妖精の悪戯と呼ばれる位なので、体験する方が難しいと思いますよ」


「家の親父も話てくれた事があります。疲れてる時や眠い時、集中力が落ちてる時には注意しろって、森のの微睡に騙されるからと」


「妖精の悪戯に森の微睡か・・・特に害は無いのだろう?」


「木から落ちたり、転んだりする程度で、大きな怪我や、命を落としたという話は聞いた事がありません」


『悪質な悪戯をする突風餓鬼猫(ベータラ)なら、見せる幻覚が人間種達を混乱させる事もありえるかもしれませんよ。見えない敵と交戦していると沢山の人間種達が思い込んでしまったとしたら』


 なるほど


「ジェルマン・パマリ子爵様。マリアさん。貴族領軍私兵隊は、突風餓鬼猫(ベータラ)によって幻覚を見せられ見えない敵と交戦していると思い込み。幻覚を見ていない兵士まで集団心理の中で見えない敵が居ると思い込んでいる可能性があります」


突風餓鬼猫(ベータラ)がかね?ロイク君。突風餓鬼猫(ベータラ)は闇属性の魔猫で、魔鼠より少し強い程度の魔獣なんだよ・・・魔猫が幻覚魔術を使うとは聞いた事が無い」


「そうなんですね・・・」


『人間種の思い込みによる否定って、見ていると本当に面白いわよね。目で見た物だけを信じていては、幻覚すらも真実。目に見え無い物は嘘って事よね?』


 目には見えていなくても、神様や家族や仲間、友情や愛情や信仰とか、人間でも信じる物は一応あるとは思うんですが・・・


『ロイクが魔獣達を倒して、解決した方が速いわよ。コルトの町の人間種は状況が状況なだけで救援すら決断出来ないでいるし、戦っている人間種達は混戦状態の中で居もしない敵とも交戦中。夜通し気力に満ちて戦い続ける何て無理でしょう?疲労の中で結界が自然消滅。魔獣にとっては朝食よね。どうするの?』


 ・・・セイズマン・パマリ次期侯爵様の返答次第にします。


『あの人間種の返答次第ねぇ~・・・フフフッ』


「セイズマン・パマリ次期侯爵様。このままでは、貴族領軍私兵隊の兵士達に施した結界の効力が切れてしまいます。切れる前に助けに行こうと思うのですが、貴族領軍私兵隊に協力する許可をいただけませんか?」


「1撃で数千匹の魔獣を殲滅出来るロイク君が行ってくれるのであれば、殲滅も救援も解決したも同じですな。兄上!」


「・・・だが・・・」


「どうしたのですか?兄上・・・」


「・・・ロイク君が殲滅してしまっては、魔獣達と戦い戦死した貴族領軍私兵隊の兵士達の立場というか・・・兵士達の功の場というか・・・素材の権利が・・・」


「半日近く交戦状態にある兵士達が今心から願っている物は功績ではなく休息です。ロイク君の結界魔術のおかげで兵士達の戦死者がこの程度で済んでいると分かったからには、結界が切れる前に代替部隊と交代させるか、追加部隊を合流させ殲滅するか、重装備の部隊を出し撤退させ兵を整え改めて出陣するか。現状では、正体不明の魔獣よりも兵士の命を優先する必要があると判断します」


「ロイク君。兵士達にもう1度結界を張る事は出来無いのかね?」


『なるほどぁ~そうきたのね』


「結界が消滅した兵士になら可能ですが、皆が同時に切れる訳ではないので、早く切れる人から遅く切れる人に合わせ待機している余裕があるなら、殲滅してしまった方が楽です」


「うーむ・・・」


「兄上」


「・・・貴族領軍私兵隊を維持する為に、年間幾らの税金やパマリ家に負担があるか知っているか?」


「パマリ侯爵領の財政はここ数年黒字だと父上は仰っていましたが」


「うぐ・・・少しでも負担を軽くする為にも、素材が高く売れる翡翠石竜子(ジェッドリザード)は捨てがたいのだ」


「確かに、状態が良い物であれば、1匹1000万NL以上で取引可能でしょうが、兵士が死んでしまってはそれ以上の損失になります。4匹4000万NLだとして、補償や再編の為の資金として間に合いますか?」


「それは・・・」


「そして、家臣とは言え、子爵家の当主が戦死しているのです。パマリ侯爵家として、殲滅が終わり次第やるべき事が山積みです。私は、ロイク君の力を借り事態を早急に解決する事を、王都中央騎士団第3師団の団長として兄上に提言します」


「・・・分かった。・・・分かった!ジェルマンの意見を受け入れよう。ロイク君、力を貸してくれ」


「喜んで」


「ジェルマン。証言者として、ロイク君に同行してくれ」


「了解した」


「御父様。私もロイク様に同行し、英雄と呼ばれる者の戦い方を学びたいと思います。同行の許可をお願いします」


「貴方、私もロイクさんの力には興味があります」


「分かった。分かった。だが、私にではなくロイク君に確認するべきだろう・・・」


「ロイク様」


「ロイクさん」


「一緒に連れて行ってください」(2人同時)


『私と、パフちゃんは、クレープを食べながら待っているわね』


 ・・・夫婦はいつも一緒に動くんじゃなかったでしたっけ?


『夫を温かい目で見守るのも妻の努めよ』


 甘いデザートを食べながらですか?


『そうね』


 分かりました。【フリーパス】の時に、2人を移動させない様に気を付けます。


『ありがとう。あ・な・た・・・』


 ・・・


「パーティーメンバーの有無関係無いしに転位出来ますので、このまま湿地帯に転位します。そでも良いですか?」


「装備も何も無い状態でですか?」


「アリスさんは、見学ですから」


「分かりました」


「ジェルマン・パマリ子爵様も、マリアさんもです。念の為、3人に結界を張っておきます。向こうに移動したら、俺は貴族領軍私兵隊の安否や交戦中の魔獣の状況を確認する前に、殲滅させます。良いですね」


「分かった」


「分かりました」(アリスさん)


「分かりましたわ」(マリアさん)


「それでは、結界を張ります」


 精霊聖属性魔法【サンミュール】452中制御1以下:対象・ジェルマン・パマリ。マリア・パマリ。アリス・パマリ。


「それでは、転位します。俺の傍から離れないようにお願いします。行きます」


 【フリーパス】【タブレット】場所:アームストロング隊長の頭上5m:俺だけ移動。



―――― コルト町の南12Km地点 湿地帯


 魔獣の数は減ってるみたいだけど・・・暗闇の中の湿地は音が凄いなぁ~。これじゃ~魔獣が何処に居るのか音では判断出来そうにないな。目の前に居るのを倒すしかない訳か。


 【転位召喚】:対象・ジェルマン・パマリ。マリア・パマリ。アリス・パマリ:場所・俺の周囲。



「うわぁっ」


「おットットット・・・宙に浮いてるの?」


「あらあら・・・私達スカートなのに・・・」


「はい。俺の魔術で3人とも宙に浮いたまま全体を確認しながら証言者になって貰います」


「今日は星明かりが無い様だから、暗くて殆ど何も見えないのだが」


「眼下で兵士と魔獣達が戦闘中だという事は、音を聞いている限り分かりますけど・・・」


「大丈夫です。一瞬で終わりますから。それに倒す時だけは魔術で周りが明るくなりますから、全部見えるはずです。一瞬なのでスカートの中を見上げて覗く余裕なんて、兵士には無いと思います」


「そ、そうか・・・一瞬で可能だったな・・・ロイク君は」


「はい。それでは、終わらせてしまいましょう」


 さて、魔獣と人が入り乱れている中で、的確に魔獣だけを規模を調整して倒すなんて、今の俺の魔法では無理だよね・・・マテリアル・クリエイトで俺の心象を創造した方が良いかな。


 【マテリアル・クリエイト】自然魔素:清澄無属性1以下・・・1でも良いか。状態:短剣・長さ20cm:対象・【タブレット】表示範囲内認識魔獣全て:場所・魔獣の後頭部から30cm上:攻撃方法・突き刺す:禁止事項・貫通。これで良いかな?心象を強く思い描いて・・・それと、【マテリアル・クリエイト】:自然魔素・清澄光属性:状態・発光5カウン:場所・俺の上空100m。発動≫でもって、短剣攻撃も発動≫。



 空が突然輝き、昼間の様に明るくなる。皆、空を見上げる。俺達が居る事に気付いた者は、アームストロング隊長や近くにいる人達だけで、殆どの兵士が更に上空に出現した発光体に、気を取られていた。


 発光体が消えた頃には、兵士達の周りから魔獣の気配は消えていた。


「士爵殿ですか?」


「アームストロング隊長。セイズマン・パマリ次期侯爵様の命令で皆さんに協力しに来ました。発光中に魔獣は殲滅しました。俺のスキルで仕留めた魔獣は既に回収済みですので、残ってる魔獣は貴族領軍私兵隊の皆さんで倒した魔獣になります。回収してから戻りますよね?」


「そ、そうですね・・・士爵様。隣に人が居るようですが・・・」


「はい。王都中央騎士団第3師団の団長ジェルマン・パマリ子爵様と、同じく第3師団の遊撃隊隊長のマリア・パマリ様と、御令嬢のアリス・パマリ様です。俺と貴族領軍私兵隊の殲滅討伐の状況の証言者として同行していただきました」


「な、各隊の隊長達よ良く聞け」


「はぁっ!」


「英雄ロイク・シャレット士爵様の力によって、たった今、魔獣達は全滅した。殲滅討伐完了だ。先程の発光体もまた士爵様の魔術によるものだ。我々の働きを見届ける為、王都中央騎士団第3師団団長ジェルマン・パマリ子爵様。第3師団遊撃隊隊長マリア・パマリ様。そしてご令嬢アリス・パマリ様が証言者として士爵様に御同行くださっている。速やかに隊列を整えろ」


「はぁっ!」


「隊列を整えろっ!後方支援と魔術部隊は、明かりを準備しろ」


「明かりを準備しろ」


「はぁっ!」


 隊列はあっという間に整った。俺の眼下には、明かりが灯り、湿地帯の水面に反射し戦いの後とは思えない幻想的な風景を演出していた。


「敬礼」


「敬礼ぇ~!」


「はぁっ!」



「うむ。皆、良く頑張った。コルトへの帰路最後まで気を抜かない様に。兄上には私からも報告しておうこう。良くやった」


「はぁっ!」


 遠くの兵士達には聞こえていないだろうけど、主家の者からの労いの言葉は嬉しいよね。


「お、お、御母様・・・し下着が・・・」


「あら、はしたないわ・・・」


「ま、ま、丸見えです。ロイク様ぁ~!」


「お、俺のせいですか?」


「違いますけど、ロイク様のせいです」


「家からの礼の品もそうだが、責任を取って貰うしか無いかな。ワッハッハッハッハ」


「まぁ~貴方たら」


『面白くなって来たわね』


 何がですか?


『別にっ!クレープ甘くてとっても美味しいわよ』


 ・・・


「ロイク様ぁ~・・・」


「ワッハッハッハッハッハ」


『フフフッ』


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