表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
―ララコバイア編ー
223/1227

4-30 井戸の底の大都市⑤~二つの塔と海の民~


 俺達は、東側の塔の十階へと移動した。


≪ガッガツ


「あれっ、回らないや。ちょっと待ってください」


 右手にほんの少しだけ力を込める。


≪バキッ キィ―――ン


 高周波、ギリギリ可聴音域と思われる不快な高音が鼓膜を劈く。


「この扉。巧妙に偽装されておりますが、純ミスリル(魔銀石)の様です。・・・いやはやロイク様の御力は計り知れませんなぁ~。まさか片手で純ミスリルを引き千切ってしまわれるとは」


 オスカーは少しばかり長い眠りに付いていた為、ミスリル製品の新しい呼称をまだ知らない。


「オスカー殿。今微かにですが自然魔素(まりょく)の飛散を感じたのですが・・・主殿も感・・・」


 何だ今の高音はっ!


「ロイク様っ!」

「あ、主殿っ!」


 エリウスとオスカーさんは、奥歯を噛み締め渋面な表情を浮かべる俺に気付いたみたいだ。


「「如何なされましたぁっ!!!」」


 二人共声が大き過ぎるから。ちょっと耳がですね・・・。


「まさか、先程感じた自然魔素に悪意がぁっ!」


「な、何と。ロイク様。大丈夫ですかぁっ!」


 耳がキーンってしてるだけで・・・。


「主殿ぉっ!」

「ロイク様ぁっ!」


「高い音にちょっと耳をやられまして、不快な気分になってただけです。済みませんが、少し声のボリュームを下げて貰えませんか」


「こ、これは申し訳ございませんでした」

「はっ!畏まりました」


「二人は平気みたいですが大丈夫だったんですか?」


「音ですよね。私の耳には何も聞こえませんでした」


「主殿。私もです。ただ、主殿がドアノブを破壊した瞬間一瞬だけ自然魔素がドアより飛散した様に感じました。私には自然魔素が飛散した様に見え、主殿には音として広がり耳に届いたのかもしれません」


 その可能性もあるのか。まぁ~何にしろ不快だっただけで特に被害も無いみたいだし中の調査だな。


「不快な音だっただけです。もう収まったんで部屋の中に入りましょう」


 目の前でブラブラ揺れているドアに手を掛け。序に神眼を少しだけ意識する。


「これ邪魔ですよねぇ~。なるほど、一見鋼鉄製のドアに見えますが、確かにピュアミスリル100ですね。誤認する様に施されているだけみたいなんで、貰っちゃいましょう。・・・邪魔だし」


「それは構わないと思います。なにより先程の自然魔素の飛散も気になりますので持ち帰り調べた方が良いと考えます」


 ピュアミスリル100ってのが理由だったんだけど、そっか持って帰って調べた方が良いのか。


「この放置された地下都市を庇護する国などありますまい。いっその事、その扉だけではなくこの地下都市ごとロイク様が管理なされては如何でしょう。・・・・・・ところで、ピュアミスリル100とはいったい何の事でしょうか?」


 えっ?・・・・・・正直、何か薄気味悪いし遠慮したいかな。井戸の底のゴーストビッグシティー。持ってても良い事ないでしょう・・・。


「今はこのドアだけで・・・満足かな」


「オスカー殿。ピュアミスリルとはchefアランギー様が世界標準にと採用しましたミスリル製品の呼称の一つです」


「そうなのですか」


「はい。純度の低いワンスミスリル......


 これは、・・・長くなりそうだ。


 俺はピュアミスリル100のドアをタブレットに......


・(収納した)



・・・・・・・(エリウスが)


・・・・(ミスリルについて)


・(説明中)



......。最後にピュアミスリル100です。これは、ミスリル100%の製品の事です」


「すると、先程の扉はミスリル100%製と言う事ですかな」


「その通りです」


 エリウスの説明が終わった様だ。


 さてと、サクッと終わらせて地上に戻ろうっと。


「それでは、気を取り直して調査を再開しましょう」


「そ、そうでしたな」


 オスカーさんを先頭に、俺達はドアを失った部屋へと踏み込んだ。



 室内は、


「魔術封じの牢屋として使われていた様ですね」


 オスカーさんは、室内に足を踏み入れると、ここが牢屋だったと早々に気が付いた様だ。


 しかも、


「魔術封じの牢屋って、魔術が使えなくなる牢屋って感じですか?」


 聞いた事の無い牢屋シリーズだ。


「オスカー殿?」


 オスカーさんは首だけを動かし部屋の天井や四面の壁をチラ見し、真後ろに立つエリウスと壁に視線を残した状態で立っている。


 異様な姿だ。


 俺の隣に立つエリウスは、オスカーさんと視線が交錯している。異様な姿に直視されている状態である。


「お、オスカー殿・・・」


「この東の塔は、最上階だけを牢屋保護部屋として使っていたのでしょう。しかも魔封牢として。ロイク様はお若い故聞いた事が無いかも知れませんね。魔封牢は魔術に長けた者の拘束を目的とした部屋の事です。私の幼少の頃は軍や関所、宮殿や貴族の屋敷やギルド(協会)には必ず設置されておりました」


 へぇ~・・・。って、事は、沐浴場があるのに、


「この建物は、神殿じゃないって事ですよね?」


 規模がかなり大きい宮殿か城ってところか。


「そうかもしれません。ただ、私の知る神殿はスタシオンエスティバル(中空の避暑地)クリュの創造神様の創神殿、神宮殿、本殿、迎賓殿。スカーレットのスカーレット大神殿くらいですので、断言するには些か知識が不足しております。それに、神殿や教会に魔封牢は無かったと言い切れぬ事実もございます。数千年間に渡り世界を欺き続けた世界唯一の宗教だった旧教は、創造神様の名を騙った偽りの神殿や大聖堂や教会を世界中にばら撒き懺悔の小部屋と称した監禁部屋で拷問や殺生や強姦。凶行に励み続けていたのですから。旧教以前にも旧教の様に劣悪なる宗教が存在していたとしても今更驚きません」


 オスカーは、スカーレットにある各神々の神殿にまだ参拝してい無い。


「はてはて、オスカー殿は、もう一つ神殿を御存知のはず」


「もう一つですか?」


「はい。井戸の上の廃墟です。あの廃墟は神殿だったのですよね?」


「・・・と、伝え聞いてはおりますがはっきりとは断言しかねます」



 俺達は、最上階の部屋唯一の窓の前に立ち外の景色を確認している。


 窓の外には、西側の塔と無人の街並みが見える。


「窓。狭いですね」


「牢屋の窓です。このサイズは良い方だと思います」


「オスカー殿、このサイズがですか?私には隙間にしか見えません」


「無いよりは遥かにましです」


「ふむ」


 俺の一言に、エリウスとオスカーさんは、互いの意見をぶつけていた。


「向こうの塔も最上階は牢屋なんですかね?」


「古来より高所に造られた牢には意味が御座います。東は高貴なる者を保護(・・)する光の監視。西は堕ちたる者を隔離する闇の監視」


「ようは、向こうにも牢屋があるって事ですね」


「はい。ロイク様」


 脱線の気配を感じた俺は結論を急ぎ、オスカーさんの話を無理矢理終わらせた。だがしかし、


「オスカー殿。この建物には、東と西にしか塔がありません。もし仮に北と南にも塔があり最上階が牢屋であった場合はどの様な意味があるのですか?」


 エリウス。そこ聞いちゃ、


「俗に、北は武長ける廷臣即ち武官の隔離に、南は学長ける廷臣即ち文官の隔離に使われていたと言われております。どちらも地下牢がありますれば事足りる為、塔の最上階に態々造るとは考え難く東西南北の語呂合わせの言葉が語り継がれてしまったのではないかと言われております」


「ほぉ~。そうなるとこの塔もあっちの塔もなかなか酔狂な存在ですな」


「酔狂ですか」


「高貴な者であろうと、堕ちた者であろうと、武官であろうと、文官であろうと地下牢で十分なはず」


「エリウス様。東の高貴なる者とは王族やそれに連なる者。そしてヒューム以上の存在の事です。如何なる理由があろうともその身柄は光の時間に在り続けなくてはいけません」


「陽が沈み闇の時間になってしまえば東側の塔であっても闇の時間の支配下。それならばいっその事、地下牢と絶える事の無い蝋燭の火で光の在り続ける空間を準備した方が効率的ではないか?」



・・・・・・・・・・


・・・・・・・


・・・・




 何か二人の会話、長くなりそうだ。


 俺は、二人を窓の傍に残し、部屋の中を見て回る事にした。


 あれ?・・・ドアが戻ってる。


 タブレットで......


・(収納アイテムを確認する)


 ピュアミスリル100のドアは一枚。間違い無く収納されていた。


 閉じられたドアに触れ、もう一度タブレットに......


・(収納した)


 ピュアミスリル100のドアが二枚になった。何だか良く分からないけど二倍になったしこれって得したって事だよな・・・。


 タブレットの画面からドアがあった場所へと視線を移す。


 ドアは無い。・・・たぶん今の所はだろうな。いったい何が・・・・・・。う~んむ。


 ドアがあった場所から右の壁へと視線を動かし歩み寄る。


 おや?3mmサイズの魔術陣いや術式か?・・・いや、違う。何だこれ。


 目を凝らし壁一面を見る。


 同じサイズの魔術陣でも術式でも無い何かが、横一列に約8cmの間隔で施されていた。


 まさか。


 神眼を意識し四面の壁を視る。


 ・・・・・・まじですか。


 四面全ての壁に、俺の胸の位置程の高さで横一列約8cmの間隔で施された魔術陣とも術式とも違う謎の何か。


 これって、これでただの模様って事は無いよな。


 目の前の謎の模様を凝視ながら思考していると、


「ほう。これはまた珍しい。この建物は昔懐かしい物の宝庫ですなぁ~」


 おっと、吃驚。オスカーさんが俺の真横に立っていた。俺が凝視する謎の模様をパチパチと音が聞こえてきそうな程に激しく大きく瞬きをしながら睨み付けていた。


「ふむふむ。ふ~むふ―――む。なるほどぉ~これが神眼。私の場合は亜神眼ですかな。ふむふむ。知識に関連付いておる訳ですかぁ~。そうですかなるほどぉ~。ほうぉ~おやおや見えて来ましたぞぉ~。おぉ―――これは、何と水の方式。思い出しました。これは水の方式です」


 どうやら、オスカーさんは、神眼の制御がある程度可能になった様だ。


「オスカーさんこれを知ってるんですか?」


「はい。いやはや凄いですなぁ~。知識として存在し得さえすれば忘れていても、視ようと意識さえすれば視認出来てしまう訳ですかぁ~。ふ~むなるほどなるほどぉ~・・・」


「おや。オスカー殿の眼もやっと馴染んで来ましたか」


 エリウスは窓から離れ近付いて来た。


「どうやらその様です」


「今夜はパァーッと祝いの酒盛といきますかっ!ハッハッハッハ」


「お手柔らかにお願いします」


 お手柔らかにって言ってるけど、神様は飲んでも酔わないって。あれ?・・・そうでも無いか。フォルティーナは何年間も寝ずに飲み続けて酔い潰れて喰われて腹を裂いて生還したとか言ってたし、酔いはするのか?



・・・・・・・


・・・・(二人は脱線中)




「オスカーさん。水の方式について知っている事があったら教えてください」


「水のと言いますか。方式全般についてになってしまいます。方式には四大属性の何れかに魔力が流れる様にパスを繋いだ物と繋いでいない物があり、上にパスを繋いだ物は水の方式。右に繋いだ物は風の方式。下に繋いだ物は火の方式。左に繋いだ物は地の方式。繋いでいない物は未使用の方式と言います」


「それで?」


「それでと言いますと?」


「水の方式は何をする為の物ですか?」


「あぁ~。その名の通り水を出します。水と言ってもチョロチョロと僅かな水をです」


「だとすると、風の方式は」


「そよ風程度にそよぐ風が吹きます」


「火の方式は」


「蝋燭の炎三割といった感じの明るさと熱の火が灯ります」


「地の方式は?」


「サラサラと僅かばかりの粒子の細かい砂が出ます」


「それ何に使うんですか?」


「炎三割程度の火を消したり、チョロチョロと流れ床を濡らした水を吸わせたりでしょうか」


 へぇ~。


「まるで、子供の工作の様な魔導具擬きですな。ハッハッハッハ」


「オスカー殿。笑っておりますが、これは魔導具より優れた物なのです」


「その方式とやらがですか?」


「そうです」


 これが?


 神眼をもう少しだけ強く意識し壁の模様を視る。


「魔導具には魔導具を動かす為の動力源として魔晶石や魔石。少し古い物ですとソル化やラメール化やフゥー化やヴァン化の鉱石や宝石が代替品として使われております」


自然魔素(まりょく)が必要ですからな」


「ですが、この方式には、動力源が必要ありません」


「ほおぉ~」


 ・・・確かに。上下左右に二等辺三角形と文字の様に見えなくも無い模様があるだけで動力源が無い。


 中央から上に向かって線が走ってるのは、水の方式としてパスが繋がっているからだろう。この線が動力源って事はないよな。


「これ、どうやって稼働させるんですか?」


「押します」


「押す?」


「えぇ、方式をプッシュします」


「これを・・・」


 目の前の壁に施された正面の方式を指で押してみた。



「何も起きませんよ」


「軽く触れた程度で水や火が出たら惨事になってしまいます。押すのを止めてしまうと止まってしまいます」


 あぁ、なるほどね。


 もう一度、方式を指で押してみた。


・(長押し中)


≪チョロチョロチョロチョロ


「出ましたね。う~ん・・・壁伝いに何となく水分が流れ床に染みてるみたいですが、これは?」


「水です」


 オスカーさんは、力強く断言した。


 た、確かに水だけど・・・。


「無いよりは遥かにましです。一舐めするだけで渇きを癒す事が出来ます」


 オスカーさんは、俺の表情を汲んでくれたのだろう。少しだけ補足してくれた。

 

≪チョロチョロチョロチョロ


・(長押し中)


 押し続ける限り出続ける。・・・押してる指が邪魔で方式の状況が良く分からないな。


・(長押し+思案中)


 そうだぁっ!いっそのこと床に大きく描いて押してみるか。


 タブレットから......


・(白墨を取り出す)


≪カリカリ シュッ ス―――


「ロイク様。いったい何を?」


「主殿。絵ですか?」


「絵・・・近いですが違います。壁に施された方式を拡大して床に施してみようと思いまして」


≪カリカリ


「「水の方式をですか?」」


「ですよ」



 単純明快な水の方式は、実に簡単に完成した。


 完成した水の方式を上から眺める。


 良い感じだ。・・・しかし、こうも大きいと何処を押したら良いのか分からないな。


「オスカーさん。一つ確認します。方式って何処を押しても動きますか?」


「指で押す物しか知りません」


 何処でも良いって事かな。それなら適当に、


「主殿。随分と大きく描きましたな」


 ・・・。エリウス。君は毎回地味にタイミングが悪いと言いますか。何と言いますか。はぁ~。


「・・・えっとですね。大きい方が自然魔素(まりょく)の流れを観察し易いと考えたからです。ですので、方式の内側なら何処を押しても良いって事だろうから、取り合えずおしてみましょう」


 右膝を付き、右手の人差し指で直径1mの内円手元に最も近い部分を押してみた。


・(長押し中)


 円の中央から頂点に向かって走る線と頂点に向かって敷かれた二本の等辺から自然魔素が集積されていく。


「頂角に大量の魔力が集まっているようなのですが・・・大丈夫なのでしょうか?」


「宙を漂う自然の力の循環風の自然魔素を右の二等辺三角形の頂点が吸収し、パスで繋がる上の頂点に集積していますね。うん?左の二等辺三角形も地の自然魔素を少量ですが吸収しているようです」


 おかしいな。


「自然魔素は集まってるんですが動かないですね」


・(長押し中)


 五ラフン()程経過したが、水の方式は上の二等辺三角形の頂角に自然魔素を集積し続けていた。


「ロイク様。私の成りたての神眼がおかしいのでしょうか?」


「どうかしましたか?」


「蓄積された魔力の量が、上級魔術のそれと同じ次元にある様に思えるのです」


 上級魔術を運用する次元の自然魔素(まりょく)量に近い?う~ん・・・。


「エリウス。分かりますか?」


「魔術ですよね。・・・・・・大樹が一日に生み出す循環と比べても微々たる量に見えますが」


 俺、魔術使えないからなぁ~。


「この位なら問題ないですよね。何かあっても水が出るだけだし。って、おっ!!!」


 水の方式の上の二等辺三角形の頂点が白く発光し始める。


「輝き出しましたが、大丈夫なのでしょうか?」


 う~む。


「そろそろ、水が出るのかも」


 発光は、上の二等辺三角形全体へと広がって行く。


「主殿。三角形の内側一杯に自然魔素の集積が完了した様ですが・・・」


「ロイク様。円が点滅している様に見えるのですが・・・」


「集積は完了したみたいですね。それに円も点滅してます。はい。間違いありません」



「ロイク様。円が三角形と同じ様に白く発光している様に見ます」


「してますね」


「ロイク様。光が強っき、来ます。み、水の自然魔素がぁ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――~」



≪ザァゴゴゴゴゴ―――


 狭い窓から勢い良く外へと噴き出す(排出される)水。


 出入口は出現したドアによって遮られていた為、塔内部への水の被害は全く無かった。


 エリウスの視線の高さまである水。オスカーさんや俺の背丈よりはまだ高い位置に水面がある。


 一時は最上階の部屋を水没させていた訳だからかなり減った計算になる。



 水は少しずつ減り、俺の胸より少し下で止まった。


「いやぁ~吃驚しましたねぇ~」


「溺れて死ぬところでした」


「オスカー殿。亜神が水の中で存在の終わりを迎えたという話はありません。ご安心ください」


「方式侮れませんね。まさかこの部屋一杯の水を一瞬で生み出す何て思ってもみませんでしたよ。窓が無かったらここ貯水槽になってましたね」


「おっ。高い場所に貯水槽とは理に叶っておりますな。主殿。ハッハッハッハ」


 しっかしぃ~この方式。研究のし甲斐がありそうだ。


「ところでロイク様。この水はどうされるおつもりで?」


「窓からはもう出ませんよね」


 窓と水面の高さを見比べる。


「排水溝でも下に作りましょうか?」


「たぶん穴をあけてもメンテナンスフリーに良く似た何かで直ぐに修繕されてしまうと思います。ここは」


 タブレットに収納かな......


・(水を収納した)



 タブレットから着替えを取り出し着替え、濡れた服をタブレットに収納し、西の塔の最上階へと移動した。


 オスカーさんは光だ闇だと説明してくれたが、東も西も全く同じ造りの魔封牢だった。窓の外の景色が東の塔と無人の街並みに変わっただけである。


「主殿。見てください」


 エリウスが指差しているのは、回収していないドア。閉められたドアに浮かび上がる直径40cmサイズの方式だった。


「ゲッ」


 オスカーさんは、オスカーさんにしてはお下品な声を出した。


「押してないのに光ってますよ。あの・・・水の方式・・・・・・」


「ゲゲ」


「やはり水の方式でしたか。私もそうでは無いかと思ったのです」


「ガッハッハッハッハァ~もうどうとでもですな。ロイク様。エリウス様。気を付けてくだされ。それは、水の方式に似ていますが大きく外れでございます。ここはメトーデを執行する処刑場も兼ねた魔封牢だった様です。その方式は汚水の方式。処刑するだけですからな汚水で十分と言う訳です。ギャッハッハッハッハ」


 メトーデ?処刑?・・・それよりも、


「オスカー殿」

「オスカーさん」


「「大丈夫ですか?」」


「さぁ~来ますぞぉ~。点滅が終わり発光に切り替わりました。先程のロイク様の方式程ではないでしょうが大量の水が来ますぞぉ~汚水がぁ―――」


 汚水かぁ~。汚水塗れになるのは流石に嫌かな。



・・・・・・・・・・


・・・・・・・


・・・・




 俺達は俺の神授スキル【フリーパス】で、汚水よりも速く移動し、エリウスが下りて来た井戸の底に立っている。


「あれは、水の牢獄で溺死させる海の民の処刑方法の一つです。海洋国家に生まれ育った者にとって溺れ死ぬとは屈辱的な死の一つ。あの処刑法が施された魔封牢が存在する以上、この地下都市は海の民によって建設された都市と言って良いと思われます」


「海の民が造った街・・・ですか」


 無人の地下都市を見やる。そして、想像してみる。


 汚水で溺死か・・・屈辱的というか、処刑なんだよな。


「オスカー殿はヒュームの中では老齢だったのですよね?」


「有難い事に」


「ずっと疑問だったのですが、名誉死、尊厳死、忠誠死、無駄死、犬死、そして新たに加わりました屈辱死。全て生を失う事に変わりはないはず」


「死は死ですからな」


「死んでお詫びを等と自ら命を絶ち無責任にも責任を放棄し、挙句の果てには彷徨い。死して尚も自分以外の存在に迷惑をかけ続けるヒュームが多いのですが。これは何死に当たるのですか?」


「あ、えっ・・・そ、それはぁ~・・・名誉?いやっそこまでになるとただの自殺とも言えなくもない様な・・・」


 哲学を語り始めた二人。


 これも長くなりそうだ。


 井戸の底に広がる無人の地下都市を調査した成果を自分なりにまとめてみる。


・(一人で検討中)


 回数に限度があるのかは分からないが、ピュアミスリル100が手に入る場所が二個所。一個所は汚水に注意する必要があるがドア一枚約6Kgは素晴らしい。最初からミスリル100%ってのが実に良い。


 絨毯とカーテンは一セットずつタブレットに強制的に収納した。施されている事象とその方法を調べる為である。


 庭の樹木草花もタブレットに収納した。


 あの三階の大広間かぁ~。その内時間を作って再調査決定だな。ハァ~・・・結局、井戸の底の調査は成果無しっか。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ