4-28 井戸の底の大都市③~大広間~+小麦粉と蕎麦粉の割合。
オスカーさんを天井絵のあるホールに残し、エリウスと俺は建物内の調査を再開した。
「主殿。私は地下を調べて参ります」
そう言うとエリウスは、警戒する事無く階段を下りて行った。
地下はエリウスに任せるとして、こっちはどうしようかなぁ~。かなり大きな建物だし闇雲に歩き回ってもぉ~・・・・・・タブレットで......
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・(検索中)
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......うむ......。
無人都市の名称不明。この建物の名称及び用途不明。
分かった事と言えばぁ~......
用途不明なこの建物の左右には、同じ建築様式の塔が一基ずつ存在する。
塔の高さは26m。一階から六階には部屋が7部屋ずつ。八階と九階には部屋が3部屋ずつ。最上階の十階には部屋が1部屋ずつ。
用途不明なこの建物自体は地上三階地下三階建て。
三階中央の大広間は吹き抜けの巨大なドーム状になっている。
中央ドームの天辺の高さは地上22m。三階の天井の平均の高さは15m。地下は深さ15m。
地下一階、地下二階、地上一階、地上二階に部屋が集中している。地下一階から地上二階の部屋の総数は514部屋。
中心にドーム状になった六角形の大広間がある地上三階は......
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≪用途不明な建物の三階中央の大広間≫
六角形のドーム
ドームの中心の高さ 地上22m
≪三階中央の大広間の周囲≫
大広間を囲む通路の幅 1m
1mの通路を囲む部屋 36部屋
※全て約70㎡と同じ広さ※
36部屋を囲む通路の幅 4.8m
4.8mの通路を囲む部屋 108部屋
※大小様々な広さ※
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......大広間を含めると145部屋。
地下三階は、七区画に分かれている様だ。詳細はエリウスの報告待ちってところか。
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あの入口は正面玄関じゃなくて南口玄関だったのか。そうなるとさっきの天井絵があったホールは南口の玄関ホールでぇ~・・・。
いったいこの建物は何なんだ。東口玄関、西口玄関、北口玄関、中央口玄関にも南口の玄関ホールとほぼ同じサイズのホールがある。三階中央のドーム状の大広間と五つのホール。ホールってそんなに必要か?
・・・・・・う~んむ。取り合えず三階の大広間を調べてみるか。そうなると、ここからだとぉ~・・・あっちの階段が最短ルートだな。
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三階中央の大広間へと移動した。
念の為、途中にあった部屋の中を確認しながら移動した。
どの部屋も、窓には綺麗なレースカーテンと薄緑色のシルクカーテンが掛けられ、床には今は存在していないが家具や調度品に合わせたと思われる色の絨毯が真新しい状態で綺麗に敷かれていた。
綺麗なカーテンと絨毯は、メンテンナスフリーとリュニックファタリテに良く似た何かが施されたこの建物に固定されていた。
カーテンレールから外しても勝手に戻る。
捲って丸めて立てても勝手に戻る。
持ち出しは不可能。・・・ただ、たぶん俺には可能だと思う。
さて、大広間だが、六角形の吹き抜けの中心には、周囲360度を十一段の階段に囲まれた高さ約242cm。面積約30㎡の一段高くなった場所が一個所。祭壇の様にも見えなくはない。
「広っ!ってか、あの中央のは壇なのか?」
中央の階段の前まで歩を進める。
≪・・・・・・
ん?・・・あれ?大広間に入ってから足音が聞こえない。
態と強く踏み込みんでみる。
≪・・・ ・・・ ・・・ ・・・
音が吸収される床?声は吸収されてなかったよな。
「あーあーあー」
だな。足音だけ吸収する床に何の意味が・・・・・・?
神眼を意識し床を見やる。
???ハァッ!?・・・all unknown!!!?
大広間を隈なく見回す。
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・(隈なく凝視中)
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マジか。マ・ジ・で・す・か!・・・この大広間 all unknown だ。
素材一つ分からない未知なる大広間。マルブルに似てるけど何だか良く分からないプランシェ。ヴィトライユに良く似てるけど違うらしい色鮮やかなヴェール。階段一段一段の端にはブニョブニョムニュムニュしたヴィアンドより少し硬い何か。
見回す限りの unknown 未知。 all unknown 全てが詳細不明何一つサッパリ分からない場所だった。
イヤ。六角形、ドーム状、壇、壇に伴う十一階の階段、七箇所の両開きの扉、足音を吸収する床に関しては認識出来ている訳で......
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......大広間の扉の開閉時は、床とは異なりとっても大きな音が響いた。
大広間、三階を隈なく調べてみたが、結局何も分からなかった。
「≪『エリウス』→エリウス≫」
「≪『はい。主殿』→ロイク≫」
「≪『何か分かりましたか?』→エリウス≫」
「≪『地下一階には何もありませんでした。地下二階を調査中ですが地下一階と同じ雰囲気の部屋ばかりです』→ロイク≫」
「≪『こっちは、三階から調べてるんですが、コルト下界の万物を視認するはずの神眼ですら何が何だか何も分からない中央の大広間が物凄く怪しい感じです。ただ、本当に良く分からないんで三階中央の大広間は後にして、先に二階と一階を調べるつもりです。地下の調査が終わったら一旦天井絵のホールで落ち合い、オスカーさんも連れて3人で三階中央の大広間に行きましょう』→エリウス≫」
「≪『畏まりました』→ロイク≫」
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調査を終えた俺達は、南口の玄関ホールで落ち合った。
「主殿。地下三階なのですが、武器庫と思われる空間、食糧庫と思われる空間、4つの大きな部屋だけの空間、戦闘訓練に適した空間、魔術や魔法の訓練に適した空間、飛行訓練に適した空間、個室が81部屋の空間。81部屋の内1部屋だけ4つの大きな部屋の空間の一部屋より大きな造りになっていました。地下三階だけであればこの建物は城です。ですが、地下二階への通路は成人した男のユマンがすれ違えられる程度の階段が8つ。地下一階への通路は同じ様な階段が6つ。これでは城として機能しません」
「こっちは、三階中央の大広間だけが良く分からない感じでした。他の部屋はマルブル、大樹の森に自生する色んな種類の巨木、レースのカーテン、シルクのカーテン、フカフカの絨毯、壁や天井に描かれた絵。皆似た感じで特に違和感は無いって感じでした」
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エリウスと俺が調査内容を報告し合っていると、
「ロイク様。エリウス様。一つ宜しいでしょうか?」
オスカーさんが話掛けて来た。
オスカーさんは、いつもの感じに戻ったみたいだ。
「一階にはここと同じ様なホールがあと4つあったのですよね?」
「えぇ。ここは南口の玄関ホールで、あとの4つは、北口の玄関ホール、西口の玄関ホール、東口の玄関ホール、中央口の玄関ホールです。それがどうかしたんですか?」
「全ての天井に、ここと同じ絵が描かれていたのですよね?」
「パッと見は同じ感じでした」
「なるほどパッと見はですか。・・・そうですか。見比べてみる必要がありそうですね」
オスカーさんは、ニヤリとほくそ笑むと、
「ロイク様。エリウス様。まずは近い西口の玄関ホールに行きましょう。さぁっ!!!」
歩き始めた。
「え?オスカーさんっ!三階中央の」
って、もう見えないし。ハァ~、三階中央の大広間を調べたかったんだけどな。・・・仕方ない。
「エリウス。追いかけましょう」
「畏まりました」
エリウスと俺は、オスカーさんの後を追った。
何で西口の玄関ホールが近いって......
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―――アシュランス王国・王都スカーレット
エルドラドブランシュ宮殿・屋上のアトリエ
R4075年9月13日(水)22:10―――
会議を終えたトストフィアンセ達は、既に解散し其々の許へと移動し仕事を再開していた。
サラ、アリス、テレーズ、バルサ、メリア、カトリーヌは、執政官を務める州の州都の執務室へ。
バジリアは、王国警備隊本部へ。
騒がしい方のトゥーシェは趣味部屋へ。
そんな中、マルアスピー、パフ、アル、フォルティーナ、女王様な方のトゥーシェ、マリレナ、ミューは、工房ロイスピーに新設したばかりの粉物研究室へと移動し、蕎麦粉と小麦粉の割合について議論していた。
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「ねぇマリィ何てどうかしら?」
「ん?アスピーそれは何対何の割合の事だね?」
「小麦粉や蕎麦粉の話では無いわ」
「ハァ~。・・・良いかねアスピー、今はだね。究極のクレープ、ガレットの生地について話合っているね」
「えぇ。知っているわ。私が提案したのだから。それで、マリィ何てどうかしら?」
「・・・」
フォルティーナは、マルアスピーの表情を確認すると、
「パフパフゥ~。アスピーは何を言ってるね」
「え、えっと、え・・・マルアスピー様。マリィ―とはいったい何の事でしょうか?もう少し詳しく教えていただけませんでしょうか?」
「パフちゃん違うわ。マリィ―では無くマリィよ」
「えっと、そのマリィについてもう少し詳しく教えていただけませんでしょうか?」
「そうね。マリィはここに居るもう一人のトゥーシェの新しい名前の候補の1つよ」
「えっ?」×5人
パフ、アル、フォルティーナ、マリレナ、ミュー。女王様な方のトゥーシェ以外の5人の声が綺麗にハモり、十個の瞳が一斉にその視界にマルアスピーを捉えた。
「マルアスピー様。トゥーシェさんの名前ですか?」
「えぇ」
マルアスピーは、マリレナの質問に短く答えた。
「僕達はヒューム属の旨い食べ物の話をしていたはずだぞ」
「そうね」
マルアスピーは、ミューの言葉にも短く答えた。
「え―――とっ、まずは割合の話を終わらせてしまって、名前についてはその後にっという事にしませんか?」
「それもそうね」
マルアスピーは、アルの提案に同意した。
「その通りだな。アル良く言ったね。アスピーも良く気付いたね。トゥーシェの名前なんかよりもだね。小麦粉や蕎麦粉の方が大事な話だね。さぁ~今だね。続きを始めるね」
「・・・」×4人
パフ、アル、マリレナ、ミュー。八つの瞳がマルアスピーからフォルティーナへと移りその視界にニヤニヤとほくそ笑むそれを捉えた。
「フォルティーナ様。それはちょっと・・・言い過ぎかと」
「何がだね?マリレナ。話の意味が分からないね。もっと何て言うかあれだねあれ言葉のキャッチボールをだねぇ~」
「フォルティーナ」
「何だね。アスピー。今あたしが話してるところだね」
「そうね。目の前に居るのだから、話している事くらい分かるわ。でも今は新商品に使う生地の検討会の続きを始めるのよね?」
「・・・そ、その通りだね」
「ぶっちゃけ、僕としては美味しければ何でもありだぞ」
「その通りだね。あたしも美味しければ何でも良いね。隠し味は愛情だね。隠し味は真心だね。ハァーンいったい何を言ってるね。有史以来そんな物に味は存在しないね。嗚呼、全くだね。やれやれだね。良いかね。あの創造神でも流石にそんな不確定な」
「フォルティーナ様」
「何だね。アル」
「その御話は今必要な御話でしょうか?」
「そうだったね。今はキャッチボールの話の続きだったね」
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一時間後、新商品の生地の割合は、小麦粉0%蕎麦粉100%。試行錯誤の末......
「あぁ~、もう面倒だね。蕎麦粉が13%だ37%だ何てもうどうでも良いね。悩まずドンと一気に100%で良いね」
マルアスピーは、普段は基本的に使えないフォルティーナの意見も試してみる価値はあるかもしれないと判断し、蕎麦粉100%を試してみた。
......試行錯誤の結果。新商品の生地は蕎麦粉100%に決定した。
決定後、検討会は解散と成り、トゥーシェの名前について話合われる事は無かった。
女王様な方のトゥーシェはというと、終始無言のまま目の前に出されるガレットを口に運んでは、事前に手渡されていた採点表に点数を書き込んでいた。
懇願された事とはいえ受諾したからには身命を賭して応える。それが魔族の斯くあるべき姿だと、幼少の頃より教わっていたからだ。
また、仮にも家族から頼まれたシャレット家の財産にも関わる重要事項。その責任は計り知れない。味覚と言う正直自信など皆無な世界へのジャッジメントである。邪念を捨て至公に徹し臨まなくては足手まといになってしまう。心を無にして挑もう。そう心に誓いガレットを口にしていた。
因みに、彼女の採点表には、蕎麦粉100%。『99点』...... ......小麦粉3%蕎麦粉97%。『100点』と、書かれていた。
女王様な方のトゥーシェが100点満点中100点を付けたこの割合は、料理の神chefアランギー様と妖精のおしごとが織りなすガレットと全く同じ配合だと、ロイク達皆が知るのはもう暫く先の事になる。
ありがとうございました。