4-21 フォルヘルル島、調査一日目①~父と子~
ララコバイア王国のサルディー魔務大臣(65)。
彼は、オスカーさんの長男でフォルヘルル領フォルヘルル島の領主であり、ララコバイア王国の六大公爵家の1柱フォン・フォルヘルル家の当主である。
彼は、魔務大臣として、王家の旧霊廟バイタリテ宮殿の調査の指揮を執っていた。
だが、ルーカス第1王子の提案をそのまま採用した俺の要請をそのまま快諾したヴィルヘルム殿の召集令を受け、調査の指揮を一次的に部下へと引継ぎ、フォルヘルル領フォルヘルル島の領主として王城アウフマーレライ城に登城。
拝謁の為、急ぎグロリオサの間へとやって来た。
拝謁の場に於いてイニャス首相の存在はたぶん不自然じゃない。50歩譲ってルーカス第1王子の存在も不自然では無いと思う。100歩譲って貰ってエリウスや俺の存在も許容範囲内であって欲しいと切に願う。
彼は、見てしまった。ヴィルヘルム殿の隣に腰掛け、俺が提供した工房ロイスピーのチャコレート菓子と神茶を楽しみながら、元気な姿で談笑する父オスカーの姿を。
この親子の間に何となく深いかもしれない確執がある事を知らなかった。
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―――ララコバイア王国・フォルヘルル領
フォルヘルル島・西ドュン村の港
R4075年9月13日(水)12:47―――
フォルヘルル島の西の集落西ドュン村の港へと移動した。
移動は勿論、【眷属・神】エリウスと新米【眷属・1】オスカーさんと俺は、俺の神授スキル【フリーパス】での転位移動。サルディー魔務大臣と話の流れで同行する事になってしまったルーカス第1王子と他同行者数名は、俺の神授スキル【転位召喚・極】で召喚移動である。
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「入島入村受付ですか」
島ならではって感じなのかな。
「はい。ロイク様。ララコバイア王国では、寄港し下船した時点で入島手続きが必要になります。港から集落内へ移動する場合は更に入村手続きが必要になります」
「アシュランス王国国王陛下。父オスカーの説明に付け加えさせていただきます。我がフォルヘルルには西ドュン集落と東ドュン集落2つの中規模集落がございます。この2つの集落は1日に20便以上の短フェリと呼ばれる定期船によって密接に結び付いています。またケーヴェナ領アーテム島の南の村フリュスとも東西ドュンは1日に20便以上もの短フェリによって密接な関係を築き、更にはケーヴェナ領アーテム島の北の村リート、クレーフェルト領カトラ島のカトラとは中フェリと呼ばれる定期船によって1日に10本以上もの本数で良好な関係を築き、サーフィス領クヴァレ島の中核都市サーフィス、ブレス領ジェリス島のジェリスとは長フェリと呼ばれる定期船によって1日5本以上もの本数で健全な関係を築き、しかも王都ラワルトンクとは東ドュンのみになってしまいますが巡フェリと呼ばれる巡行定期船によって1日1本もの頻度で親密な関係を維持し続けているのです」
ん?・・・さっきからサルディー魔務大臣は長々と何の説明をしてるんだ?
「そ、そうなんですね・・・」
「ロイク様。ララコバイア王国はラメールとゼーゲルシッフの国です。取舵のジャスパット、面舵のララコバイアと言ったら造船操舵技術の二大」
「そ、そうなんですね・・・」
オスカーさんまで・・・。
「アシュランス王国国王陛下。父オスカーの言葉に付け加えさせていただきます。ララコバイア王国は100以上の島々からなる列島王国です。王都のある大陸領では街道が整備され陸路を利用する事も可能ですが、大洋に浮かぶ島々からなる大洋領ではそうもいきません。基本的に他島の集落が隣の集落になります。ですので、海路を利用した交通や物流が発達しているのです。長い転寝から目覚めたばかりの年寄には難しい話かもしれませんが、魔導船の開発に成功した我がララコバイア王国にとってもはやジャスパット王国など論外。造船操舵の二大ですか。はぁっ!いつの時代の話を」
もしかして、この親子喧嘩してる?・・・取り合えず話題を変えた方が良いかな。
「西ドュン村と東ドュン村って直線距離にして5Km位しか離れてませんよね。目と鼻の先の集落に行くのに船を使ってるんですか?」
乗船して航行して下船。しかも面倒な事に、出村手続き、出島手続き、入島手続き、入村手続き。手間のオンパレード。どう考えても出村手続きと入村手続きだけで済む陸路の方が時間の無駄を省ける。何より楽だ。
「そうです。快適で便利な短フェリは生活の1部なのです」
「ロイク様。息子の稚拙な説明に親として少しばかり補足させていただきます。ララコバイア王国では、ゼルフォーラ大陸側に存在する領土を大陸領と呼び、カトラシア諸島等の島々からなる大洋側に存在する領土を大洋領と呼んでいます。大陸領は基本的に王家の直轄地でその多くが国王陛下の直轄領となっております。大洋領は大小様々な大きさの島々からなる領島の集合体です。領島とはゼルフォーラ聖王国で言う所の貴族領に当たります。この領島は、1貴族家1島が原則です。ですが、特例として集落の存在しない島に限り1貴族家3島が認められております。特例の代表例はイニャスが領主のリンプール領です。リンプール領はアルト島、ヘレス島、クライン島の3島からなる領島で、正確には、領島の中の領群島に分類されております」
「そ、そうなんですね」
・・・東西ドュン村の話はどうなったんだ?って、言うか。この親子を何とかして。
救いを求めるべくルーカス第1王子へと視線を動かす。
愛憎渦巻く王宮育ちのルーカス第1王子は綺麗な海と素朴な島、大自然の大パノラマに感動と興奮を覚え、同行した侍女達とビーチで楽しそうに戯れていた。
・・・ダメだ。
「アシュランス王国国王陛下。父オスカーの不足した知識に付け加えさせていただきます。先程から領島領島と一纏めに説明しておりましたが、お察しの通りでございます。領島とは、1島1集落の集合領島、1島2集落以上の分散領島、多島1集落の集合領群島、多島2集落以上の分散領群島。この4つの事を言います」
お察しの通り。って、申し訳ないんですが、今の所何も察してないんですけど・・・。って、言うか。2人喧嘩してます?仲が悪かったりしませんか?
「ロイク様。うっかり失念しておりました。補足させていただきます。ララコバイア王国では、この領島に国王陛下の直轄島を加えた物を大洋領または列島と呼びます。因みに、リンプール領は群島領の中の多島1集落の集合領群島です。ここフォルヘルル島は2つ以上の集落を有する分散領島です」
「そ、そうなんですね・・・」
「アシュランス王国国王陛下。父オスカーの足らない説明に1つ付け加えさせていただきます。我がフォルヘルル領フォルヘルル島は稀有な領島と言っても過言ではございません。お察しの通りケーヴェナ領アーテム島も我がフォルヘルルと同様に分散領島でございます。ですが、我がフォルヘルルは島の北側に西ドュン、東ドュンと僅か5Kmの距離に東西集落が密接な関係を保ちながら存在しまるで1つの集落ではないかと見紛う程。しかしアーテムは島の北側にリート、南側にフリュス。気持ち良い位に分断されており密接な関係を築く途中だとか・・・。我がフォルヘルルが稀有な島である事は周知の事実なのです。その根拠となっているのが他領島では目にする事の出来ない集落間を繋ぐ道の存在なのです」
何だ。陸路もあるのか。補足補足って親子で喋り続ける割に、話が進まないからもう良いかなって、
「ロイク様。息子の話に少しばかり補足させていただきます」
「は、はぁ~・・・」
まだ、続くのか・・・。
「東西ドュンを繋ぐ道と偉そうに申しておりましたが、あれを道と呼ぶのは道を知らぬ者の戯言。図々しいだけの愚見です。親として思う所はありますが実に情けない限りです」
こういう時って、どう反応したら正解なんだ?
救いを求めるべく直ぐ後方を警戒しながら歩くエリウスへと視線を動かす。
真面目な仕事ぶり。正に警護護衛の鏡だ。親子の話に全く興味を抱いていない。
・・・ダメだ。俺の為を思うなら・・・。
「あの道は、文献によりますと初代フォルヘルル公爵の時代には既に存在していたそうです。道には400m間隔で石標が置かれていたそうで、石標にはハオプトシュトラーセツェントルム・シュトラーセオスト①、ハオプトシュトラーセツェントルム・シュトラーセオスト②や、ハオプトシュトラーセツェントルム・シュトラーセヴェスト①と名と考えるには長過ぎる文字が掘られていたそうです。石標はハオプトシュトラーセツェントルム・シュトラーセオストが1から6。ハオプトシュトラーセツェントルム・シュトラーセヴェストが1から8まで存在していたそうなのですが、現在はハオプトシュトラーセツェントルム・シュトラーセオストが1から2。ハオプトシュトラーセツェントルム・シュトラーセヴェストが1のみ残っております」
「へぇ~」
古代言語だよな?
「アシュランス王国国王陛下。30年以上もの間、フォルヘルル島を離れていた者の雑言に惑わされてはいけません。ハオプトシュトラーセツェントルム・シュトラーセオストだろうがハオプトシュトラーセツェントルム・シュトラーセヴェストだろうがどうでも良い話です。東西ドュンを繋ぐこの道の事を領民達は親しみを持ってアルトガッセと呼び大切にしているのですから」
「何が親しみだ。何が大切にしているだ。お前のその目は節穴過ぎるぞ。馬車も荷馬車も手押し車すら通れぬ逆に荷物になってしまう程に荒れ果て有っても無くても代り映えせぬ様な道の何処が道なのだ。足元に注意しながらヒーコラ歩きやっとの思いで到着したとしよう。そんな酔狂な時間があるなら船に乗っ取るわ。片道を歩いてる間に、船でなら往復昼寝付きではないか」
「アシュランス王国国王陛下。父オスカーの古い知識に幾分か補足させていただきます」
まだ、続くのか・・・。
「東西ドュンは直線距離にして約5Km程離れております」
「ですね」
「同じ話を何度もするとは、ロイク様に対し失礼ではないか。ロイク様。愚息に代わりましてこのオスカー謝罪させていただきたく思います」
「人の話の腰を折るとは、人に礼儀を説く前に自身のあり方について残り少ない時間を当てられた方が宜しいのではないですかな。おっと、卑しさにあてられ主題からそれてしまいましたな。アシュランス王国国王陛下申し訳ございません。話を続けさせていただきます」
「は、はぁ~」
「我がフォルヘルルの東西ドュンは港を中心に発展した集落です。この2つの集落は航行技術を競い合い切磋琢磨し現在に至りました。この現実を理解する事も出来ず、半世紀程前に陸路の必要性を説き街道を整備しようと我がフォン・フォルヘルル家の私財を溝に投げ捨てた愚かな領主がいました。お恥ずかしい事にその領主とはそこに居る父オスカーその人なのです」
恥ずかしい事か?・・・海路は天候に左右され易いし、陸路があった方が良く無いか?
「お察しの通りでございます。父オスカーは、我がフォン・フォルヘルル家の富を散財させた挙句の果て、誉高き家名を汚したのです」
「は、はぁ~・・・」
「領主として、常識を持つ1人のヒュームとして、考えずとも分かるであろう簡単な事が理解出来ないのでしょう。同じ過ちを繰り返えさぬよう、私は理解ある領主として無知故に踊らされ我がフォン・フォルヘルル家の富の散財に協力した一部の領民達に教育の機会を与える事にしました。学ぶ機会に恵まれぬ無知は罪ではありません。ですが、学ぶ機会に恵まれた無学は大罪です。ですので、私は無学を軽蔑します。例えそれが肉親であってもです。ですから......」
う~ん。オスカーさんが無学ねぇ~。オスカーさんが無学なら家の親父はいったい何だ?・・・・・・無学って言うか卑猥で下品で無責任なだけで、いつもの事だしな。んあぁ―――、率先して人様の前には出したくないが、嫌う理由にはならないな。恥をかくのは親父な訳で、親父はそんな事気にしないだろうし、迷惑自由、出物自由、浪漫自由、何だってほぼ自由な人だから真面目に考えるだけ無駄なんだよなぁ~。
「......無知な領民達を罰す必要は無いと考えます。何故なら彼等の言い分を私はとても良く理解出来てしまったからです。『何倍もの時間を費やし陸路を移動する必要はあるのか?』...... ......『家には船はあるが馬車は無いぞ。馬車を買う金があるなら美味い物でも食う』等々。思えば魔剣隊の老師の後任しかり、父オスカーの珍妙で奇異な行動は半世紀以上も前から始まっていたのでしょう」
おっと、親父の何気ないいつもの下品な日常の、出来る事なら関わり合いを持ちたく無い無責任な行動の数々を思い出してしまった。・・・何か気分が悪くなってきた。疲れてるのかなぁ~。
「主殿。如何なされました?顔色が優れない様ですが」
「あ、いや、ちょっとね」
エリウス。そこから俺の顔って見えない・・・。いや、神様になったし何でもありなのかも。
「サルディー殿。主殿に代わり訊ねる」
「神エリウス様。勿体なき御言葉。誠にありがとうございます。何なりとお申し付けください」
「天候不良による欠航。獣や魔獣の運搬。山林鉱産資源の運搬。他にも懸案事項はありますが、今はこれらに言及しましょう。主殿は、海路に偏った危機的な現状に御心を痛めておいでなのです」
エリウス・・・。俺、おこころ、痛めて無いですよ・・・。
「懸案事項?」
エリウスが発した言葉の意味を、サルディー魔務大臣は理解出来ず困惑している様だ。
「そうです。懸案です。例えば西ドュン村に怪我人や病人がいたとします。残念な事に西ドュン村にはタイミング悪く治療可能な人も物もありません。余裕のある東ドュン村に救援を求める事になりました」
「支え合うのは当然の事ですからね」
「問題はここからです。運悪くは外は嵐。吹き荒ぶ風海はまさに荒海。海に出るそれ即ち死を意味します。この様な状況でサルディー殿ならどうしますか?」
「どうもしません」
「「え!?」」
エリウスと俺は目配せし、そして同時にオスカーさんへと静かに視線を移した。
「お、お前は領民を見捨てると言うのか?」
「聞き捨てなりませんな。仮にも貴方も領主だったのです。大洋領の常夏の嵐がどの様な物か忘れたとは言わせません。良いですか。船が出せぬ程の嵐が我がフォルヘルルを襲ったのであれば海路陸路問わず使い物になりません。頑丈な家屋へ避難し嵐が去るのを待つしかありません。船が転覆する程の嵐なのですから。天候の回復を待って船を出すだけの事です。命を救う為に他の命を犠牲にしてどうすのですか?我がフォルヘルル領のモットーは安全第一!!!なのです」
サルディー魔務大臣は、力強く答えた。
・・・反論し難い。
「素材や資源の運搬はどのように」
「簡単な事です。持ち運びし易い様に切り分けます。我がフォルヘルル領の教訓に、無謀無用!!!と、古の頃より伝わっております言葉が存在します。モットーの安全第一もそうですが、偉大なる先人の言葉は1つ間違えれば死の足音が響く危険と隣合わせの大洋と共に生きる私達にとっては絶対!!!なのです」
サルディー魔務大臣は、高揚を露わに力強くはっきりと答えてくれた。
「そうですか・・・。あ、主殿。・・・・・・」
エリウスは、静かに身を引いた。
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「ロイク様。申し訳ございません。息子に限らず領島には変化を嫌う者が多く、現状維持を求める声が大多数なのです」
どう反応するべきか言葉を失いかけていた俺に、オスカーさんは〆の一言を、申し訳なさそうにそっと耳打ちした。
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西ドュン村の入島入村受付所で手続きを済ませた俺達は、会話をしながら役場へと歩を進める。
「領主の命令で素通りして良いなら、俺のスキルで直接役場に移動しても良かったんじゃないですか?」
「アシュランス王国国王陛下。領主や王子が集落内に突然現れたら騒ぎになってしまいます」
「領主や王子って時点でどうやっても騒ぎになるだろうし、そんなに気にする必要無いと思うんですけど」
例えば、目の前の兵士。
役場の入口の前に立つ2人の兵士を見やる。
兵士は入口の左右に直立の姿勢で控え微動だにしない。俺達に気付いたにも関わらず敬礼はおろか会釈すら無く無視を決め込んでいる。
領主だ。王子だ。神様だ。と、騒ぎになる気配を微塵も感じさせない徹底ぶりである。
「オスカーさん。兵士が領主を無視して大丈夫なんですか?」
「あれは、フォルヘルルの伝統的な礼式の1つで直立不動石兵の敬礼と言いまして、未成年の者以外へはあれで正解なのです」
「へぇ~」
≪バタバタバタバタ
「御、御領主様。そ、それに先代様!?帰、帰島の連絡は来て・・・も、申し訳ございません。至、至急そそそ村長を呼んで参ります」
俺達が領主の一行だと気が付いた50代位の男性が駆け寄って来て、慌ただしく駆け去って行った。
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ありがとうございました。