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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
―ララコバイア編ー
212/1227

4-20 ラブコールと、感染源。

―――ララコバイア王国・王都ラワルトンク

 アウフマーレライ城・グロリオサの間

R4075年9月13日(水)11:20―――


 【眷属・神】エリウスと新米【眷属・1】(眷属・亜神予定)オスカーさんを従者にし、神授スキル【フリーパス】で、ララコバイア王国の王都ラワルトンクにある王城アウフマーレライ城の王子の私室へ移動した俺は、間髪入れずに神授スキル【転位召喚・極】で、部屋の主ララコバイア王国の第1王子ルーカスを召喚し、王子の案内でアウフマーレライ城のグロリオサの間へと移動した。


 グロリオサの間では、目の下にクマをそして頬はこけ覇気を失ったヴィルヘルム殿とイニャス首相が、親書や報告書を片手に呻き声を上げ頭を抱えていた。


「アシュランス王国国王陛下。お話しました通りで、一昨日からずっとこんな有様なのです。はぁ~。父上っ!!!イニャス!!!アシュランス王国の国王陛下が参られました。・・・はぁ~、確りしてください」


 ここに来る前、グランディール城の歓談の間でルーカス第1王子から聞いてはいたが・・・・・・こ、これは想像していたよりもかなり深刻に見える。


 若干引きながら2人の様子を窺っていると、王子の声が届いたのだろう。


「うおぉぉぉ・・・」


「かふぅ―――」


 ヴィルヘルム殿は引き続き呻き声を、イニャス首相は口から寿命をいや息を漏らし反応する。


 まるで壊れかけたからくり人形の様に命を持たぬ無機物が如く、カクカクと首から上だけを不器用に動かす2人。2人は、ついさっき死んだばかりのある程度鮮度を保った魚の様な目で俺を捉えていた。


 きもっ!



 ・・・・・・も、もしかして倫理が崩壊しエロエロに成る呪いを、俺が解呪しちゃったせいで!?・・・いや、いやいや。んな訳ない。


 俺を視界に捉えた2人。2人は、・・・・・・・七、八呼吸置いてから、


「ロ、ロイク・・・ど・・・殿。よ、良くぞ、参ら・・・れ・・・れた」


「お―――・・・御見・・・苦しいぃ―――・・・・・・呪いのけ・・・ん・・・・・・・します」


 ガラガラカサカサと、まるで夏の世の夢夏の終わりの死にかけた蝉の様な声で俺に話掛けて来た。


「だ、大丈夫ですか?何か今にも死にそうな感じなんですけど」


 会話するのも辛そうだな。


 2人へと手を翳し、下級(精霊)魔法☆1☆1☆1【ベネディクシヨン】を、



 施した。


 恩を1つ・・・・・で、ある。



―――R4075年9月13日(水)11:50


 俺の魔法で、その身が激務から解放された訳では無い。精神と事態。厳しい現実を残し、身体的にのみ回復した2人と話を進める。


「勿論です。アイダさんが何処で魂の守り人(バイタリテ)の呪いに感染したか、凡その目星は付いたんで安心してください」


「「お・・・おぉ・・・お―――」」


「それで1つお願いがあります。感染源の候補がフォルヘルル島に34箇所あるみたいなんで、サルディー魔務大臣の同行を許可して欲しいんです」


 34箇所の呪いを調べれば、アイダさんから回収した呪いと、同じ物が見つかるはずだ。


「「な、な、なな、さ、3・・・34!?」」


 2人は、大きく目を見開き、奇声にも似た悲鳴を綺麗にハモらせた。


「ロイク殿。な、何かの間違いであろう?な、何がどうなってフォルヘルルに・・・。ご、御老体。フォルヘルルにドュンにその様な場所が?心当たりはあるのか?」


「オスカー殿。どうなのですか?」


 そして、鬼気迫る表情でオスカーさんに詰め寄った。


「陛下が我が領にて冬季の御静養をなされたのは40年以上も前の事になりますかな」


 そんな2人を何処吹く風かと言わんばかりに淡々飄々と語るオスカーさん。何か凄く大人だ。


「僅か1ヶ月程度の滞在ではあったが、実に思いで深く有意義であったと記憶しておる。楽しかったとしか記憶に残っていない。どうなのだ心当たりはあるのか?」


「オスカー殿。どうなのですか?」


「32年前に家督を譲り、その後はずっと王都住まいでしたからのぉ~。更に付け加えますと、ここ5年と少しばかり眠っておりましたので、てんで世情に疎くなってしまいましたわ。ワッハッハッハッハ」


「オスカー殿。笑ってる場合ではありません。フォルヘルルはフォン・フォルヘルル公爵家の領島。大事になれば責任はオスカー殿の」


「息子が負う事になりますな。32年前に家督を譲っておいて良かったわ。ワッハッハッハッハ」


「御老体・・・」

「オスカー殿・・・」


 まるで他人事の様に語るオスカーさんを、2人は呆れた表情で見つめていた。



「イニャス。その為に、サルディーを伴い調査をしに行くのだ。父上、サルディーの領島への帰還許可と、アシュランス王国国王陛下一行の中央政府関連施設への出入許可をお願い致します」


 何となく白けてしまった空間に、ルーカス第1王子の声が響いた。



「アイダさんの呪いの感染源を特定するのも重要ですが、どうして34箇所も存在しているのかを調べる必要があります」


「過・・・り・・す事に・・・」


「ん?」


「どうしたイニャス。申してみよ」


 イニャス首相は、声に成らない声で何かを呟いた。それは、ヴィルヘルム殿の耳にも何となく聞こえていた様である。


「は、はっ!・・・ネットハルト島とこの城の地下に封印された遺産(・・・)と今回の件を、あぁ~何と言いますか、過去の失態から、そのぉ~・・・、我々は何も学んでいない。・・・・・・そんな気がしたものですから。陛下や王国を批判し否定している訳ではありません。ただ私はその・・・」


「よい。余とて許される立場にあるのなら批判していただろう。ただ、当時を思えばこそ我慢するのもやぶさかではない。とはいえ・・・」


「陛下?」


「この遺産は、途轍もなく大きな負の遺産、恥ずべき過去だ。はぁ~・・・。何とも面倒な事に、意思の有無に関わらず受け継いだからには責任を伴う。当時の王と同じ状況で同じ場所に立ち、同じ様に国を思うのであれば、余とて結果は過去のそれと同じ物になっていただろう。そう思えばこそやぶさかではないのだが。・・・だが、現状に於いて問題はこの遺産この愚行の真実が隠蔽され、正しく受け継がれていない事にある。当代の国王と六大公爵の目の前にのみ広がる現実は隠蔽され真実を語らぬ事実の欠けた負の遺産でしかない。我々は事実の欠けた現実からいったい何を学ぶ」


「暫く見ぬ内に陛下もイニャスも随分と大人になったのぉ~。息子と話すのが怖くなって来たわ。ワッハッハッハッハ」


 被害者サイドに微妙に陥りながらも、責任の所在を明確に理解しその責任を果たす覚悟を持った体で進む2人の会話をオスカーさんは、冗談で一蹴し笑い飛ばした。


「52となった余を子供扱いするは御老体だけだぞ。ハッハッハッハ」


「オスカー殿。私は今年で63ですぞ。曾孫も1人いる身で」


「うんうんまだまだ若い」


 92歳のオスカーさん。そうですよね。オスカーさんから見たら63歳も52歳も「若い」で、片付いちゃいますよね。


 ・・・長寿種族の家のあの人達って、どういう風に見てるんだろう。ふとそんな考えが頭によぎった。が、今はその時では無い。そうだ、今と言えば、ヴィルヘルム殿とイニャス首相の会話の方が重要である。


 今と言う現実は、事実を隠蔽された時点で、失敗から学ぶ未来を紡ぎ出す事は無い。


 ヴィルヘルム殿の言う通りなのかもしれない。でも、欠けた現実から分かる事もあるんはずだ。


 ・・・・・・石化の解除を優先した方が良いのか?


 それとも、あっ!・・・でも、これは・・・・・・、内政干渉行為になってしまうか。


 国とか大人の事情って複雑で難しい。



 新米眷属オスカーさんの長男サルディー魔務大臣を待つ間、ヴィルヘルム殿とイニャス首相から頭を抱えるに至った原因を聞く事になってしまった。


 原因それは、大火山と一枚大岩の大陸ベリンノックに存在する【ズィスパール王国】と【アイゼンタール王国】からの援軍要請。


 ズィルパール王国とアイゼンタール王国は、海洋資源を巡り度々海上で衝突している。そして、現在は戦争の真っ只中である。


 原因それは、大火山と一枚大岩の大陸ベリンノックに存在する【ベリンノック王国】と【フェルゼンラール王国】からの中立不可侵要請。


 ベリンノック王国は、ベリンノック王国から独立したベリンノック共和国と戦争の真っ只中であり、ズィスパール王国とは軍事同盟を締結している。


 フェルゼンラール王国は、ズィスパール王国と戦争の真っ只中であり、ベリンノック共和国とは軍事同盟を締結している。


 原因それは、大火山と一枚大岩の大陸ベリンノックに存在する【ベリンノック共和国】からの【ベリンノック王国】打倒の軍事同盟要請。


 因みに、大火山と一枚大岩の大陸ベリンノックには6つの国が存在している。最後の1つ【ベトギプス王国】は、現在内戦中である。


 と、まぁ~、ララコバイア王国はベリンノック大陸に存在するベトギプス王国を除いた5ヶ国からの熱烈なラブコールを同時に受けてしまい。その一方的な求愛に2人は頭を抱えていた訳だ。



「ロイク殿の所へは何も?」


「俺の所にですか?」


 そういえば、親書が来てたな。あぁ~・・・。


「フゥファニー公爵。えっとchefアランギー様の話では、どうせ戦費や食料支援、援軍の要請だろうから放っておこうって事で、まだ目を・・・」


「はぁ?・・・親書をですか。良いのですか!?」


 イニャス首相の目が怖い。


ユマン()族同士の争いに、創造神様との約束もあって許可無く俺は関われませんから」


「創造神様や神々様との約束ですか。それはそれで、国家運営が大変そうですなぁ~。ハッハッハッハ」


 イニャス首相の目は普通に怖いままである。笑っていない。


「ど、どうなんですかね?うちは建国した時からこんな感じだったし。何より王国の国王になったのも初めてだったんで、創造神様からの神授無しで国政に関わった経験が無いんですよね」


「アシュランス王国国王陛下。初めて国王・・・いえ何でもありません」


 ルーカス第1王子は、思う所があるのだろう。だが、言葉を止めそれ以上語る事は無かった。


「国王とは簡単に成れるものではありません。ララコバイア王国の王位継承・・・・・・ゴホン」


 イニャス首相も何故か言葉を止めた。そしてそれ以上何も語る事は無かった。



「ロイク様。陛下。宜しいですかな。フゥファニー卿、マクドナルド卿、ルードヴィーグ卿の御三方より連合国家フィリーの基本条約を教えていただいたのですが、加盟国が禁止されているのは加盟国間での戦争と、非加盟国への単独での軍事行動のみ」


「オスカーさん急にどうしたんですか?」


南西大陸(ベリンノック)の5ヶ国は連合国家フィリー非加盟国。軍事行動の範囲外であれば支援。範囲内であれば基本条約を盾に拒否するも無視するもやぶさかではない。と、思いましてな」


「なるほど。イニャス。不可侵は軍事行動か?」


「軍を動かすとは違いますので、軍事行動には当てはまらないかと・・・」


「父上。我々が動かぬ事で相手の状況が好転する以上、これは立派な軍事行動と考えても宜しいのではないでしょうか?」


「戦略か戦術か。外交の一環か軍事の一環か。その辺りは、ララコバイア王国の見解を好きに押し通して良いと思いますぞ。連合国家フィリー加盟国は大国ばかりです。いざとなったら、アシュランス王国なりゼルフォーラ聖王国なりドラゴラルシム龍王国なりターンビット王国にでも助けて貰えば良いのです。その為に、ララコバイアは連合に加盟しているのでは?」


 オスカーさん。それ、その気があったとしても、公言しちゃダメな部分ですよね?


「オスカー殿。そ、それは王国としての体裁が・・・」


「御老体。海洋王国ララコバイアは、何処ぞの傾国の様に質の悪い言い掛かりやぶら下がりなどせぬ。堂々と居直る等愚の骨頂。傍から見ているだけでも哀れで恥ずかしい。・・・余、余にはその様な真似は出来ぬ!!!」


「では、5ヶ国に対してはどのようになされるおつもりで?」


「・・・・・・い、イニャス。連合国家フィリー加盟国は、非加盟国の軍事行動に対し1国のみでの介入を禁止されている。他の加盟国への要請を提案し、我が国は要請を受けた他加盟国と協調した上で最善を行使する」


「父上。それって・・・」

「陛下・・・」


 ヴィルヘルム殿。それって、普通に丸投げ。何処かにぶら下がる気ですよね・・・。


「大人に成られましたな。陛下」


「あ、あぁ・・・」


 これって、大人な対応って言えるのか?・・・甚だ疑問である。



 温かくもあり、微妙でもある。グロリオサの間は何とも言えない空気に満ちていた。

ありがとうございました。

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