4-16 グロースヘレバットと、ペルデュソーサリエ。
―――ララコバイア王国・ネットハルト島
トハルト鉱山・第1号坑道(旧坑道)・地下
R4075年9月10日(大樹)12:20―――
「すんげぇ~だろうぉ~。これが、トハルト鉱山名物超激レアの地下大浴場だぁっ!!!」
≪おぉ~
見渡す限りの風呂風呂風呂。旧坑道の地下には湯源郷が存在していた。
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―――12:00(20ラフン程前)
俺達は、トハルト鉱山で最も古い第1号坑道から入坑した。
第1号坑道は、500年程前に廃坑となり、現在は囚人達専用の多目的坑道として開放されている旧坑道である。
旧坑道は、新旧問わず地属性魔術によって埋め立てが行われ、第1号坑道に残る多目的坑道と地下大浴場のみが現存しているそうだ。
多目的坑道には、大部屋が29部屋、中部屋が53部屋、小部屋が193部屋、争いが絶えない娯楽部屋が1部屋、簡易治療所が3ヵ所、食堂が3ヵ所整備され、地下大浴場へと続く幅の狭い急な階段が8ヵ所埋め立てられず残されているそうだ。
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班長の話を聞きながら、案内されるがままに旧坑道内を歩き、地下大浴場へと続く緩やかなスロープを下り、幅の狭い急な螺旋階段を一列になって下りる。
足元に注意しながら慎重に下りる事107段。
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―――12:21
想像以上だ。いったい、
「幾つあるんですか?」
「数かぁ~?あぁ~かなり前に1度ぉ~数えたんだよなぁ~。確かぁ~そん時は・・・・・・大中小あせぇ~のからふけぇ~のまであわせて200か300だったかなぁ~」
「200か300・・・ですか」
大雑把過ぎて数えた意味が無いレベルだ。
「んだぁ~。途中で飽きちまってなぁ~。ガッハッハッハッハ」
目の前で豪快に笑う班長。
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俺達は風呂の調査に来た訳じゃない、今は数を気にしている場合ではないか。
「代官殿。地下大浴場に着きましたが、ここでいったい何を?」
「囚人を探すなら大浴場が手っ取り早いとはどういう事でしょうか?」
「皆さん。螺旋階段を下りてから、少し息苦しくありませんか?」
「息苦しくもありますが、それ以前に魔力が低下している感じがします」
「早く出た方が良いのではないでしょうか?」
魔剣隊の隊員A、B、C、D、Eである。
「ここはよぉ~。第1号坑道から第24号坑道まで全部の坑道と繋がってんだぁっ!!!」
壁の穴は、各坑道と繋がってる訳か。
「でもってよぉ~。囚人達が全員で入っても余裕があんだぜぇ~。なぁっ!すげぇ~だろうぉ~」
班長は、毛並の良い長い髭を触りながら、自慢気である。
旧坑道の岩盤を刳り貫き水を張り地熱を利用し沸かした風呂群。この風呂の数ならかなりの人数が同時に入浴出来るだろう。ただ、自慢する程超激レアな感じはしない。
「監獄島の坑道には巨大な風呂があるとオスカーの爺から聞いて知ってはいたんだけどねぇ~。正体は巨大な地下空間全体を利用した風呂群だった訳か。これ、天然温泉だったら凄い事になってたよねぇ~。お兄ちゃん」
目の前に広がる風呂群が全て温泉だったら確かに凄いかもな。
「老師。この島は国王陛下の直轄島です」
「小さな集落が幾つかあるそうですが、凶悪犯罪者達を流刑する監獄島です」
「終身奴隷達は勿論の事、島民も離島が禁止されていると聞いた事があります」
「私は島民が看守を任されていると聞いた事があります」
隊員A、B、C、Dである。
「おっ。詳しいじゃねぇ~かぁっ!!!この島は島民も囚人達みてぇ~に島から出ちゃなんねぇ~決まりがあんだよ」
継承の呪い【バイタリテの呪い】に侵された者達が強制的にネットハルト島に移住されられたんだっけ。この呪いも解呪しておかないとな。
「定期的に王都と島を往復する代官殿だけが島の情報源という訳ですか」
隊員Eである。
「んにゃ。教会の連中も出入りは自由だぁっ!!!」
この島にも、正創生教の教会があるのか。・・・って、フォルティーナもchefアランギー様もいないのにどうしてこんなに綺麗に脱線するんだよ。
「それで、班長さん。ここは全ての坑道と繋がってるんですよね。ここから順に周って確認するって事ですか?」
「お兄ちゃん。ここには立派な名前があるのだよぉ~」
名前?
「老師ナディア。今は地下大浴場の名前はどうでも」
「んだぁ~。ここは、グロースヘレバットつってなぁっ!!!誰が付けたか分かんねぇ~御大層な名前があんだよぉ~」
・・・言い終える前に遮られた。
「グロース・ヘレ・バットですか。主殿。コルト語の響きに似ていると思いませんか?」
コルト語?グロース・・・ヘレ・・・バット・・・。あぁ~コルト語だ。神授スキル【フリーパス】の効果で、言葉や文字にも制限が無いんで、普通に聞き流してたよ。
「アンブル語に直訳すると大きな地獄風呂ですね」
「あん?地獄風呂だぁ~?・・・まぁ~、地獄風呂っちゃぁ~地獄風呂かぁっ!!!おめぇ~うめぇ~事言うなぁっ!!!」
上手い事って、直訳しただけですけどね。
「な、何たる不敬。神授により王となられた我が主殿をおめぇ~呼ばわりするとは、言葉遣いに気を付けていただきたい」
「コロッと死んだりしねぇだろうによぉ~・・・・・・分かった分かった!!!めんどくせぇ~けど様付けっからよ。それで良いんだろぉっ?」
エリウスと班長の会話は暫く続いた。
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「お兄ちゃんは、コルト語が古代語が分かるのかぁっ!?どの言葉が風呂にあたるのか教えて貰えないだろうか?」
これ以上の脱線は回避したい。
「構いませんが、王都に戻ってからにしましょう」
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「さてと、長いしってっと、本格的に低下しちまうからなぁっ!!!囚人共を集めっから、勝手に確認して良いぞぉ~」
班長は、毛並の良い長い髭から掌サイズの魔導具を取り出すと、それを口の前に構えた。
「私が感じた通りだったのですね。ここは能力を低下させる魔術が施されているのですね」
隊員Dである。
「魔術だぁ~?おめぇ~もうやられちまったのかぁっ!!!ここは地下だ。しかも旧つっても坑道だぞぉ~。普通、息苦しくなんだろうぉ~。身体能力と思考はたぶん序だ」
息苦しさの序に低下する身体能力と思考能力ねぇ~。・・・・・・もしかしてっ!
俺は神眼を意識し周囲を確認する。
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【地属性】43% 【水属性】11%
【火属性】27% 【風属性】 3%
【闇属性】16%
【無属性】
※自然の力の循環が正常な場所に存在※
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呼吸に必要な自然の力の循環が不足してる場所だったのか。
宙には見えないけど酸素とかって言う存在があって、ヒュームはこれが少ないと意識を失ったり命を落としたりする場合があるって、chefアランギー様が教えてくれた。
ここは少ないだけで死んだりはしないレベルだけど長居するのは控えた方が良さそうだ。
「で、集めちまって良いのかぁっ!?」
早く出た方が良いし、
「お願いします」
「面白れぇ~から良く見とけよぉ~」
≪あーあーあーあー。あ~今日も良い感じだぁ~。はい、注目。
注目?
班長が口の前に構えた魔導具に向かって声を出すと、班長の声が地下大浴場に響いた。
「「「「「拡声の魔導具?」」」」」
隊員A、B、C、D、Eである。
「おぉ―――面白いなぁ~。凄いなぁ~。私の知らない魔導具がここにもぉ~」
「老師が知らない。・・・拡声の魔導具では無いのか」
隊員Aである。
≪はい。注目。
だから、注目って何処に?
「魔導具から声が響いていない」
「大浴場に直接響いてないか?」
隊員D、Eである。
「おぉ~~~。離れた場所で声を響かせる魔導具!!!仕組み。仕組みが知りたい。終わったら貸してくれないかぁっ!」
「老師。班長殿の魔導具は、離れた場所で声が響く魔導具という事でしょうか?」
隊員Aは、老師ナディアに質問した。
「そんな魔導具、聞いた事がありません」
「代官殿。それはいったい?」
「それは魔導具なのですよね?」
隊員B、C、Dは、率直な意見を述べた。
「うるせぇ奴等だなぁ~。良いから黙って見てなってぇっ!!!」
≪班長命令班長命令。野郎共ぉ―――!!!今直ぐ地獄まで下りて来ぉ―――いっ!!!キィ―――ンィンィン・・・・・・
高周波な残響音と共鳴音が坑道内に木霊する。耳障りで不快な音に反応したのか身体中が痒い。
俺は、耳を押さえさがら、魔導具に目を凝らす。
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【魔導具】マイクロフォン MD4S100
製造元:株式会社エクスリマグ
登録日:SR1996年04月09日
製造日:SR2055年16月31日
製造国:ハオスレール王国
対の【魔導具】スピーカーフォンに
音声を送信する魔導具
送信可能距離半径4Km
※ハイキャンセリング優先※
記憶可能スピーカーフォン数100個
【素材】混合金属
ゴールド79% クロム1%
大地シルバー20%
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「声を対の魔導具に送る魔導具みたいですね」
「おっ、知ってんのかぁっ!!!これはよぉ~、ここが開礦した頃からあるらしいぜ。俺っちが班長になった時、前任の班長から受け継いだんだけどよぉ~。すんげぇ――――――便利なんだぜぇっ!!!」
大ゼルフォーラ時代よりも前の古代文明時代の魔導具の可能性が高い。もしそうならペルデュソーサリエで造られた国宝級を軽く飛び超える魔導具って事になる。便利とかそういう次元じゃ済まないぞ。
≪おいコラァっ!!!俺っちが待つの嫌いだって知っててちんたらやってんのかぁ~。俺っちの中で600数え終わるまでに、さっさと来いっ!!!
600。・・・地味に長いな。
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「お兄ちゃん。お兄ちゃんもあの魔導具が気になってるのかぁ~?」
「気になりますねぇ~」
老師ナディアの言う通りである。あの魔導具が気にならない訳が無い。
「あん?さっきからこればっか見てっけど何だぁ~。これが気になってたのかよぉっ!!!ホレ、触って良いぞぉ~」
「貰って良いんですかぁっ!?」
「んな訳あるか。やっちまたら、ここどうすんだよぉっ!!!。触るくれぇ~なら良いぜ。持ってみっか?」
だよな。触るだけだよな。
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班長から魔導具マイクロフォンを受け取り、感触を確かめながら、少しだけ自然魔素を流してみる。
まじか!
「こ、これ・・・」
「お兄ちゃん。どうかしたのかぁ~?」
3層構造の魔力陣・・・・・・。本当に存在してたんだ!
「お兄ちゃん?」
記憶したし、工房に戻ったら早速実験だな。魔力陣、魔法陣、魔術、魔導具、武具、魔法。ハハハ。凄い事になるかも。
「お兄ちゃん!?」
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魔導具マイクロフォンは、小さな立体魔力陣が刻み込まれた混合金属で造られていた。
1層目の魔力陣は、対の魔導具スピーカーフォンへ音声を送信するだけのシンプルな構造。
2層目の魔力陣は、人工的に大地石化させた銀石が宙から集めた地属性の自然魔素を制御し1層目と3層目の魔力陣へと供給。
3層目の魔力陣は、1層目と2層目の魔力陣の修復と、3層目自体の劣化防止と、刻み込まれた魔力陣の認識阻害。
3層構造ってだけでも驚きなのに、まさかまさかの事象の並行処理。間違い無い。この魔導具はペルデュソーサリエだ。
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魔力陣の外装に下層と上層へ干渉する回数や力を固定する補助の術式を刻み込む事で、多層構造が可能になるのか?
・・・・・・・・・あっ、並行処理は本当の意味での並行じゃないみたいだ!
劣化防止の術式は3層目の魔力陣自体に作用している。認識阻害の術式は魔導具全体。
修復の術式は2層目の魔力陣から供給された自然魔素が3層目の外装に刻み込まれた補助の術式に蓄積され満タンになった時だけ、2層目と1層目に作用するのか。
「主殿!」
「お兄ちゃん!」
しかし分からないなぁ~。素材にゴールドを79%も使ってるのはどうしてだ?
魔力陣を刻み込むのに魔硬石使っているのは、理に適てる。
しっかし凄いなぁ~。直径3mmサイズの3層式の魔力陣か。
「その魔導具はなぁっ!!!マインドインプットコールつってなぁ~。長ったらしいんでぇ、俺っちはマイクって呼んでんだけどよぉ~。それに向かって喋ると、鉱山中に声が聞こえんだよぉっ!!!すげぇ~だろうぉ~」
えぇ凄いです。俺もそう思います。
地下大浴場よりも、この魔導具【マイクロフォン MD4S100】の方がとっても凄いです。
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「看守カンダ殿。第2号坑道16人全員揃いました」
「囚人班長2番。ご苦労」
「看守カンダ殿。第3号坑道33人全員揃いました」
「囚人班長3番。ご苦労」
「看守カンダ殿。第4号坑道25人全員揃いました」
「囚人班長4番。ご苦労」
「看守カンダ殿。第5号坑道41人全員揃いました」
「囚人班長5番。ご苦労」
「看守カンダ殿。第6号坑道8人全員揃いました」
「囚人班長6番。ご苦労」
「看守カンダ。何人だぁっ!!!」
「はぁっ!!!班長閣下。御報告致します。カンダ班123名。全員集合致しました」
「おう」
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「看守ナンダ殿。第7号坑道122人全員揃いました」
「......第8号坑道79人......」
「......第9号坑道100人......」
「......第10号坑道56人......」
「......第11号坑道37人......」
「看守班長11番。ご苦労」
「看守ナンダ。何人だぁっ!!!」
「はぁっ!!!班長閣下。御報告致します。ナンダ班394名。全員集合致しました」
「おう」
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≪報告の詳細≫
【カンダ班】看守カンダ
第 2号坑道 強制労働囚人 16人
第 3号坑道 強制労働囚人 33人
第 4号坑道 強制労働囚人 25人
第 5号坑道 強制労働囚人 41人
第 6号坑道 強制労働囚人 8人
強制労働囚人=作業員 合計123人
【ナンダ班】看守ナンダ
第 7号坑道 強制労働囚人 79人
第 8号坑道 強制労働囚人 100人
第 9号坑道 強制労働囚人 56人
第10号坑道 強制労働囚人 37人
第11号坑道 強制労働囚人 11人
強制労働囚人=作業員 合計394人
【ワンダ班】看守ワンダ
第12号坑道 強制労働囚人 99人
第13号坑道 強制労働囚人 4人
第14号坑道 強制労働囚人 388人
第15号坑道 強制労働囚人 255人
第16号坑道 強制労働囚人 71人
強制労働囚人=作業員 合計817人
【ヌンダ班】看守ヌンダ
第17号坑道 強制労働囚人 200人
第18号坑道 強制労働囚人 216人
第19号坑道 強制労働囚人 210人
第20号坑道 強制労働囚人 197人
第21号坑道 強制労働囚人 226人
強制労働囚人=作業員 合計1049人
【モンダ班】看守モンダ
第22号坑道 強制労働囚人 493人
第23号坑道 強制労働囚人 509人
第24号坑道 強制労働囚人 666人
強制労働囚人=作業員 合計1668人
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「班長閣下。御報告致します。強制労働作業員4051名。全員揃いました」
「おぅ」
・・・長い。・・・しかも凄く、
「主殿・・・4051人ですか?」
「いないですよね・・・」
人数があっていない。
「こんな感じでっ!ここに集めちまった方がはぇ~訳よぉ~。なぁ~いちいち見て周るより楽だろうぉ~」
「班長さん」
「んだ?」
「100人もいないんですけど・・・」
「うおぉ~?・・・・・・あれまぁっ!ちっとばっかし少ねぇなぁっ!!!」
ありがとうございました。