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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
―ララコバイア編ー
205/1227

4-15 監獄島の班長。

―――ララコバイア王国・ネットハルト島

     強制奴隷収容棟・班長室

R4075年9月10日(大樹)11:00―――


 近衛魔術剣士隊の老師ナディアと隊員5名と眷属神エリウスと俺は、ララコバイア王国国王ヴィルヘルムの書状を手に、俺の神授スキル【転位召喚・極】で、ネットハルト島にある強制奴隷(受刑者)収容棟の看守の責任者の部屋へと転位移動した。因みに、俺達以外は、グロリオサの間に待機中である。



 俺は、部屋を見回す。部屋はまるで・・・


「ゴミ屋敷!?」


 足の踏み場も無い。何とも酷い有様だった。


 俺の眷属亜神になったばかりの魔剣隊の前老師オスカーからの情報によると、ネットハルト島の強制奴隷収容棟の看守責任者とトハルト炭鉱(鉱山)の採掘管理人は、内務大臣に任命されたネットハルト島の代官が兼任しているそうだ。


 ネットハルト島の代官は選王民特権階級の王国民。うちの王国だと準貴族階級の助爵相当になるらしい。


 助爵相当の立場にある者の執務室の1つに何が起こったんだ?



「主殿。見てください。暦が7月のままです」


「・・・ですね」


 俺は、エリウスに指摘され、執務室の机の上に置かれた卓上カレンダーへと視線を動かした。


 今日は9月10日・・・


「・・・2ヶ月やそこらで、部屋ってこんな事になるか?」


「主殿。2ヶ月ではありません。10年と2ヶ月です」


 俺は卓上カレンダーの小さな文字に目を凝らす。


「えっ?4701年!?」


 神授スキル【転位召喚・極】で、未来に!!!


「お兄ちゃん。そのカレンダーは、リーファ(R)歴ではない。カトラ(CTR)歴だ。CTR4701年はR4065年の事だよぉ~」


 って、事は無いか。あぁ~ビックリした。


「王都をラワルトンクに遷都した年が元年って聞いてましたが、慣れてないんでビックリしました」


「アハハハハァ~。外国の者は皆そんな感じで反応が面白いのだよぉ~。慣れるしかないよ。だって、年号と暦が大きくずれてるのはこの国位な物だからねぇ~。アハハハハ」


 ずれてるか。そういえば、


「イニャス首相も年号の数字が合わないって言ってな」


「この国に住む者なら皆知ってるんじゃないかなぁ~。ホント、有り得ない話なんだよぉ~。ララコバイア王国がゼルフォーラ大陸史に登場するのはR199年。存在してもいない国が4711年前に遷都ってありえないよねぇ~。これって王国挙げての歴史改竄詐欺。カトラ(CTR)歴は当時の王国民によって捏造された見栄とか箔付けの為に晒した醜態なんだよぉ~」


 老師ナディアは、澄まし顔で『エヘン』と、偉そうなポーズを決めている。


 幼く見えるけど、14歳だったっけ?


「老師。魔剣隊は王国の要。その要の長が、王国を見栄っ張りの詐欺師だ!改竄の常習犯だ!捏造の専門家だ!醜態を晒し続ける阿呆だ!等と、罵るのは如何な物かと考えます。確かに、辻褄の合わ無いおかしな年号ではあります。ですが、そこはもう少し大人な・・・・・・。私の様にオブラートにお願いします」


 隊員Aの方が老師ナディアよりもけちょんけちょんに言ってたと思うのだが・・・。



「老師。机の上の日報ですが、10年前の7月22日の報告で終わっています」


 隊員Bは、机の上に置かれたファイル(日報)を手に取り、ページを捲りながら報告した。


「老師。部屋に残留する魔力から見て魔術が使われた形跡はありません」


 隊員Cは、自然魔素(まりょく)を計測する魔導具で、ドアや窓や壁や天井や床に残った残留魔素を確認していた様だ。


「老師。争った後では無いという事ですか。だとすると・・・あぁ―――」


≪ビリッビリビリッ


 隊員Aは、卓上カレンダーの前に立つと、7月と8月のページを破り捨てた。


「今は9月だからな。これで幾分かスッキリした」


 隊員Aの表情は澄み切った空の如く晴れやかだった。


「老師ナディア。彼は?」


「あいつは常にあんな感じだぞぉ~」


 そっか......


 この世界の1年は13ヶ月。1ヶ月は30日。10日で1週間。1週間は無地水火風(むちすいかふう)聖邪光闇樹(せいじゃこうあんじゅ)


 無は1日、11日、21日。地は2日、12日、22日。水は3日、13日、23日。火は4日、14日、24日。風は5日、15日、25日。聖は6日、16日、26日。邪は7日、17日、27日、光は8日、18日、19日。闇は9日、19日、29日。樹は20日、30日。大樹は10日。


 ......何月だろうが同じ様な気がしないでもない。それに捲った所で10年前の9月。・・・あっ、10年前の9月も今年の9月も同じかぁっ!!!



「老師。食べかけのサンドイッチが応接用のソファーの上に」


 隊員Dだ。


「老師。飲みかけの紅茶が応接用のテーブルの上に」


 隊員Eだ。


 サンドイッチと紅茶。・・・この2つに関しては報告の必要性を感じ無いのだが・・・。


「サンドイッチか。具はぁっ!?」


「はっ!ただいま確認致します。・・・・・・老師。マヨネーズたっぷりタマゴ&パセリです」


「そうか。ハムとレタスとチーズとトマトのサンドイッチの方が好きなんだが、仕方がないタマゴサンドで我慢する」


「ハム、レタス、チーズ、トマトのサンドイッチは美味しいですからね。因みに、私は、パン、チーズ、レタス、ハム、トマト、ハム、レタス、チーズ、パンの順番で挟むBCLHTHLCB派です」


「粒マスタードはぁっ!?」


「無し派です」


「素晴らしい。因みに、私は、BHCLLTLLCHB派の無し派だ。BCLHTHLCBも美味しいがBHCLLTLLCHBも美味しいのだよぉ~」


「老師もパンに水分を嫌う派だったとは、感激です」


「お兄ちゃんはどうなのだ」


「俺ぇ~?・・・・・・・・・拘りは無いかな・・・」


 魔剣隊って大丈夫なのか?



「老師。紅茶ですが、フレーバーティーの様です。色や香りから察するにアールグレイ系の何かではないかと思われます」


「苦いのと酸っぱいのは嫌いだ」


「砂糖やミルク等を入れお飲みになってみては如何ですか?」


「角砂糖3個。濃厚ミルク100cc。紅茶80cc。これが老師がお飲みになられる王道の飲み方です」


 隊員Aは、常識だと言わんばかりに、まるで隊員Eを諭す様に言い放った。


「老師がいつも飲まれているあれ(・・)は、紅茶だったのですかぁっ!!!」


「そうだ。あれ(・・)は、ダブルロイヤルミルクティーだ」


「フッ、甘いな。昨日から砂糖を3個から5個に増やしたのだよぉ~」


「「「「「何と、3個から5個にですかぁっ!!!」」」」」


 隊員A、B、C、D、Eは、驚きの声を上げた。


 確かに甘いな。と言うか、甘過ぎる気がするけど・・・。って、ロイヤルミルクティーって甘い紅茶の事じゃなかったと思うけど?って、何やってるんだよ。俺達はぁっ!



「老師ナディア。エリウス」


「はい」


「どうした。お兄ちゃん」


「10年前の7月のページのカレンダーと、10年前の7月22日で終わってる日報。この2つの間接証拠だけなら、10年前の7月23日以降この部屋では執務が行われていない可能性が高いと判断出来ます」


「はい」


「おぉ~流石はお兄ちゃんだぞぉ~」


「でも、テーブルの上に置かれた飲みかけの紅茶が、カレンダーと日報2つを証拠から除外してしまいました。10年前の紅茶が気化する事も無く鮮やかな色彩とベルガモットの爽やかな香りをはたして残していられるでしょうか?」


「主殿・・・」


「お兄ちゃん・・・」


≪ガチャ


「誰かいるのかぁ~?」


 部屋のドアが開き、赤いサングラス、白無地のTシャツ、デニム生地の短パン、黒いハイソックス、黒い革靴。身長140cm位の髭もじゃの男が入って来た。


 溢れんばかりの存在感。男を視界に捉えた瞬間思った第一印象である。


「誰だぁ~おめえ等はぁ~。ここは収容棟のジェイルエリアの物置だぁ~

どっから入ったぁ~?」


 俺は、ヴィルヘルム殿から預かった手紙を取り出し、存在感しかない男に渡した。



「事情はぁ~、分かったがぁ~」


 溢れんばかりの存在感をこれでもかと放出し続ける男は、読み終わると長い髭の中に手紙を仕舞い込んだ。


「おぉ~。便利な髭だな。仕組みを教えてくれよぉ~」


「陛下は子供をこんな島に・・・。おっと、忘れてたぜぇ~。俺っちはよぉ~。この島の班長だ。宜しく頼むぜぇ~」


「班長さんですね。こちらこそ、宜しくお願いします」


「おっと、本土だと代官つぅんだったっけかなぁ~」


 俺と班長は、握手を交わした。班長の手は、何となく湿っていた。


「おっ!ここだったかぁ~。何処にやったか考えても出てこねぇから困ってたんだよぉ~」


 班長は、テーブルの上に置かれたサンドイッチを手に取ると、ムシャムシャと食べ始めた。


「食べて大丈夫なんですか?」


「あぁ~?大丈夫だろうぉ~。囚人達から奪い取った朝飯のサンドイッチだぞぉ~。常夏ってったって流石にんな早く腐んねって。グビビビビ・・・ゴクッ」


 そして、紅茶を音を出しながら飲み干した。


 代官にサンドイッチと紅茶。ここまではOKだとして、・・・目の前の代官は長い髭の毛並みも良く健康そのもの。日報が10年前の7月22日で終わっていたのは何故だ?


「班長。私から班長いや代官に1つ言っておきたい事がある」


 老師ナディアは、日報の件を、


「私は近衛魔術剣士隊の老師ナディア・フォン・クレーフェルト・カトラだ。子供では無い。分かったかぁ~」


 確認しなかった。


「いやチッこいし子供だろうぉ~」


「班長の方が私より小さい。ホラッ!」


 老師ナディアは、班長の隣に背伸びして立った。


 背伸びをしなくても老師ナディアは、ドワーフ(小人)族の班長より背が高い。確実に勝てる相手に全力で勝ちに行った。


 反則にはならないか。最初から勝ってる訳だし・・・。



「代官殿。老師に代わり質問します。この部屋は看守責任者の執務室ですよね?」


「執務室だったなぁ~」


「この有様は何事ですか?」


「物置だからな。綺麗な方だろうぉ~」


  隊員Aの質問に、班長は答えた。



「日報が10年前の7月22日で止まっていますが、王都への報告はどうなっているのですか?」


「あぁ~?日報だぁ~?・・・おぉおぉまじかよ。こんなところにあったかぁ~。あん時はまいったよなぁ~まったくよぉ~。日報を無くして、無くした事も忘れて、1ヶ月位報告を忘れてたらなぁ~。連絡鳩が来てよぉ~王都に今直ぐ来いって...... ......王都に行ったら警備隊やら騎士隊やら魔剣隊やら軍務省の連中やら内務省の連中に会う度に説教されてなぁ~。帰りには持ち切れねぇ~ってくれぇ~の書類の山を渡されてなぁ。...... ......船で往復8日間だぞぉ~やってらんねぇよぉ~」


 無くした報告書、日報のファイルは、執務室の机の上に置いてあった訳か・・・。


「カレンダーが10年前の7月のままだったのはどうしてですか?」


「ここは物置だぞぉ~」


「答えになっていません」


「どうせ見ねぇ~し・・・、それにだ。この島は常夏だぁっ!!!何月だろうが関けぇ~ねぇ~。分かんだろうぉ~」


 隊員Bの質問に、班長は答えた。



「代官殿。私達は、国王陛下の命を受け、31年前に終身強制労働の刑でこの島に送還された囚人コンラート・ジーメンスを受け取りに来ました」


「31年前って、31年前だよなぁ~」


 当然だ。


「そうです」


「俺っちは前の班長の後任なんだなぁ~。前の班長も前の班長の後任でなぁ~」


 前任者の後を任された者は、当然、後任である。


「そうですね」


「31年前の班長は、俺っちの前任の前任の前任の班長だからよぉ~。その頃の奴が何処で何してるかなんか知んねぇ~ぞ」


「囚人コンラート・ジーメンスの引き渡しです。当時の班長は関係ありません」


「だ・か・らよぉ~。31年前の囚人が何処で何してるかなんか知んねぇ~って」


 隊員Cの質問に、隊長は答えた。



「囚人が何処で何をしているか分からないとはどういう事でしょうか?」


「ここは別名監獄島だぞ」


「そうですね」


「来たばかりのヒヨッコ共には無理だが、慣れちまえばそうでもねぇ~。配給に頼らず生きられる。坑道の何処かで適当に強制労働しながら自由に暮らしてるはずだぜぇ~」


「どういう事ですか?」


「良いか。看守は俺っちを入れて6人しかいねぇ~。教会は神授の後ゴチャゴチャしててよぉ~。嫌味な爺と強欲な爺と口のわりぃ~婆が居なくなったと思ったら、女の神官長にわけぇ~男と女の見習いが来て、名前まで変わってやんの。確か改戒創生教会が【正創生教・王都ラワルトンク中央聖人教会・ネットハルト出張教会】だったかな。長たらしくてあってか自信ねぇぞぉっ」


「それで、6人だと何か不都合が?」


「おっ、そうだったなぁ~。この島にはよぉ~。囚人が600人から2000人位居んだよ。6人しかいねぇ~俺っち達だけじゃ面倒見切れねぇ。囚人は強制奴隷契約してっから、逃げねぇ~し襲って来ねぇ~。何で第1号坑道から第24号坑道この島にある全ての坑道に囚人班長がいんだよぉ~」


 隊員Dの質問に、班長は答えた。



「囚人班長とは何ですか?」


「各坑道の採掘と水と食料の配給を看守の代わりにやる係だっ。強制労働は免除されねぇけどなぁ~。水と飯には苦労しねぇ~。囚人の管理もしてくれる訳よぉ~。囚人班長、考えた先々々代の班長はえれぇ奴だわ」


 もう1人のコンラート・ジーメンス。簡単には見つからなそうだ。


 真名不明。容姿不明。何もかもが不明。これではタブレットでも検索出来ない。直接受け取りに行けば直ぐに完了すると思っていたんだけどなぁ~。


「そうですか。それでは、1号坑道から周りましょう」


「周るって何する気だぁ~?」


「順に周って、囚人の中からコンラート・ジーメンスを見つけるんですよ」


「構わねぇ~・・・けどよぉ~。うまくいくと思えねぇ~ぞ」


 隊員Eの質問に、隊長は答えた。

ありがとうございました。

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