4-14 再検証。
―――ララコバイア王国・王都ラワルトンク
アウフマーレライ城・グロリオサの間
R4075年9月10日(大樹)10:15―――
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「容疑者が所持していた旧教の身分証を確認し、当時の王国教区の教区長(大司教)と王都教区の副教区長(司教長)と王都の旧中央創生教会の神官長(司祭長)の証言を得て、逮捕した男をコンラート・ジーメンスだと断定したんですよね。どうして家族に本人確認しなかったんですか?」
「警備隊は、容疑者の実家ジーメンス男爵家と妻ジャネット・ジーメンスに本人確認を要請しております」
そっか。要請してたのか。
「警備隊本部の資料室の当時の捜査記録資料によりますと、王都選王民居住区にありますジーメンス男爵家の王都邸にて当主クルト卿と面会し捜査への協力を要請。その際、次期当主として同席を希望した当主の長男フリーダーが容疑者の愚行に激高...... ......に陥る。結果、任務遂行が困難な状況にあるとの判断に至り撤収」
本人確認もしないで、弟を罵った挙句、怒りをぶつけたのか。
「同日光の時間終了間際ジーメンス男爵家よりジーメンス男爵家三男コンラート・ジーメンスとの絶縁を宣言する書簡が選籍局に提出され、選籍局はこれを受理」
「選籍局って何ですか?」
「ララコバイア王国の貴族爵位家騎士爵位家、選王民特権階級家の戸籍を管理する部署です」
「なるほど」
うちの貴族庁みたいなものか。
「絶縁により、王国選民法特権第11条2項が適応され...... ......警備隊本部は捜査への協力要請を断念した。と、あります」
「また、貴族特権ですかぁっ!!!」
「はい。選民特権です」
ララコバイア王国の貴族特権は、責任放棄転嫁に近いものばかりじゃないか。
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俺の問い掛けに対し、ララコバイア王国の内務大臣ダニエル・ピーター伯爵(54)は、捜査資料片手に何度も止まりながら、応え続けていた。
応えてくれるのは有難い。だが、俺が欲しい答えは1つも無かった。旧教の関与、貴族の特権、資料の消失、担当者の高齢化。
最初から分かっていた事ではある。だが、胡散臭過ぎる。杜撰過ぎる。この状況は異常過ぎる。
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グロリオサの間には、バイタリテの悲劇を起こした犯人としてギルティ―判決を受け流刑されいているはずの旧教の元大司教コンラート・ジーメンス(27+一応31)、コンラートの妻ジャネット・ジーメンス(56)、長女アイダ(35)、次女リゼット・ジーメンス(32)。ララコバイア王国国王ヴィルヘルム・カトラ(52)、宝妃ティルア・カトラ(18+一応31)、お休み中の王太孫セリム・カトラ(2+一応31)、王妃エステル・カトラ(40)、第1王子ルーカス・カトラ(20)。首相イニャス・フォン・リンプール公爵(62)。内務大臣ダニエル・ピーター伯爵(54)。前老師オスカー・フォン・フォルヘルル(92)。
ララコバイア王国側の警備は、老師ナディア・フォン・クレーフェルト・カトラ(14)と魔剣隊の隊員5名。
オスカー・フォン・フォルヘルルは、俺の眷属亜神になったばかりである。自宅で安静にしているように伝えたのだが、頗る調子が良いと車椅子で自主的に出席。
俺達は、サラさん、テレーズさん、俺。警護は眷属神のエリウス。
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「旧教の許可ですか?」
「そうです。ララコバイア王国では旧教を王国から追放処分するまで、司法仲裁調停諮問全ての裁判が旧教の裁定の下で行われていました」
「司法もですか?」
「王国法にではなく、王国民の日常生活の範囲内で道徳風紀習慣行事に対し非常に強い影響力を持っていました」
「国政や王族や貴族や捜査に干渉してたんですよね?」
「はい。あくまでも生活の範囲内でです」
生活の範囲内って、また随分とアバウトな・・・。
「国王陛下。アシュラ国王陛下」
ジャネットさん。俺、アシュラ国王陛下では・・・まぁ~、俺の事だって分かるから良いんですどぉ~。
「御夫人。陛下の御前です。許可無き発言はお控え願えますかな」
「申し訳ありません」
ダニエル内務大臣は、ジャネット夫人の発言を制した。
「よい。このままでは埒が明かん。ジャネットよ続けるが良い」
「国王陛下。ありがとうございます。・・・私は夫コンラートが身柄を拘束され有罪となりネットハルト島へ移送さるまでの4日間。毎日、面会を求め警備隊本部に行きました」
「4日間?えっ?たった4日間でコンラートさんはギルティ―判決を受けて強制労働になったんですか?」
「はい」
「強制労働・・・私はここにおりますので私ではない私が有罪になったという事になりますが」
「島で強制労働しているもう1人のコンラートさんの事も気になりますが、1度も面会出来なかった事とか、逮捕されてから数日でギルティ―になった事とか不審な点が多過ぎませんか?」
「はい。警備隊本部の受付の方から初日に言われたのは、夫コンラートの「精神が不安定な状態にあり人と話が出来る状況にないと副神官長が御判断された。面会は日を改められよ」でした。2日目は、夫コンラートが「懺悔を希望し司教のみが入室を許された聖なる箱で世界創造神様に祈りを捧げている。世界創造神様への御祈りを邪魔してはいけない。面会は日を改められよ」でした」
・・・なんだかなかぁ~。
「3日目は、夫コンラートの身柄は「勅命により王都中央創生教会へ移送された。以降の面会手続きは、警備隊本部ではなく世界創造神創生教の王都中央創生教会でするように」でした。4日目は、王都中央創生教会の神官長より「終身強制労働刑、有罪判決を受けた罪人に女子供を会わせる事は出来ない。罪人の関係者だと噂が広がり困るのは私や娘達ですよ。皆がバイタリテの悲劇を知る前に王都から離れなさい。実家に戻られてはどうですか」でした」
「おかしいですねぇ~。捜査資料には、容疑者の同僚で王都中央創生教会副神官長の協力を得て、容疑者の妻ジャネット・ジーメンスに捜査への協力を要請した。と、あります」
「事件後、旧教の聖職者が家に来た事はありませんが・・・」
「当時の王都中央創生教会に、副神官長はいないはずです」
ジャネット夫人と元大司教コンラートは、ダニエル内務大臣が読み上げた資料の内容を否定した。
「ですが資料には、副神官長は容疑者の自宅にて妻と面会し無実を訴える訴状と釈放申請書を託され警備隊本部に提出しております。釈放申請書は裁判所に提出した為、ここには残っておりません。ですが、訴状の写しは残っております」
ダニエル内務大臣は、後ろに控える担当官に資料を渡す。
担当官は、ジャネット夫人の目の前のテーブルに資料を置いた。
「こ、こんな訴状書いていません」
「だが、容疑者コンラート・ジーメンスの妻ジャネット・ジーメンスより提出された訴状の写しだと資料には記されています」
写しじゃ筆跡鑑定は無理か。・・・その前に、まずはこれの確認からだな。
「コンラートさん。副神官長ってポストは旧教には無いんですよね?」
「あります」
あるのか!
「王都の中央創生教会には無いって事ですか?」
「いえ、あります。後任の神官が選任されるまでは空席のままだと聞いていました」
「後任の神官がジャネットさんに会ったって可能性はありませんか?」
「アシュラ国王陛下。私は副神官長に会った事も話した事もございません」
「ロイク様。バイタリテの悲劇が起きた日。私達旧教関係者が中央創生教会より霊廟バイタリテへ向かった早朝の時点では、副神官長の席は空席でした」
なるほど。
「旧教の神官巫女が旧霊廟バイタリテ宮殿に向け出発した後で、後任の副神官長が選任された可能性はあるとして、問題は会った事も話をした事も無い人に訴状や釈放申請書を渡せるかってところかな。まぁ~普通に考えたら無理ですけどね」
「ロイク殿。我が国は旧教によって冤罪塗れな気がしてならないのだが・・・」
「確認は、この件が終わってからでお願いします。虚偽か真実かは簡単に見極められるし簡単に終わると思います」
「簡単に見極められるとはどういうことだ?」
「ヴィルヘルム殿。無属性魔術【マルクリム】を付与した紙に、YES/NOとかOui /Nonとか調書の際本人に回答を書かせるんです」
「アシュランス王国国王陛下。それには重大な落とし穴があります」
「イニャス首相。落とし穴ですか?」
「はい。我が国の識字率は低いです」
「ロイク様。ゼルフォーラ王国でも読み書きを学ぶ農家や漁家、猟師や冒険者はとても少ないそうですよ。生きる上で必要ないと考える者も多いと聞きます」
「え?」
「え、ではありませんよ。ロイク様の故郷はどうでしたか?」
「あぁ~・・・そういえば字を書いたり読んだりしてるところを余り見た事がないかも」
バラは商人の息子だし読み書き出来てた。そういえば、宿屋のおじさんは計算が苦手で字が書けないからおばさんに任せてるとか言ってた様な・・・。
「ロイク様。サラの言う通りです。それに、読み書きはスキルに近い高等知識の1つとされ習得する為には時間もお金もかかります」
俺は母さんから読み書き計算を教わってたから出来るだけだったのか。深く考えた事無かった。
「テレーズ。高等知識では無く、初等知識よ」
「あれ?そうだったっけ?」
「高等知識は、古代語、古代言語の事でしょう」
「ああぁぁ―――。そうだったわね」
思いっきり脱線してるし・・・。
「サラさん、テレーズさん。高等知識とか初等知識については後で聞くから、後で教えて貰えるかな」
「えぇ良いわよ」
サラさん。
「任せて」
テレーズさん。
2人は、元気良く返事してくれた。
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「読み書きに関しては分かりました。だったら、対象に直接無属性魔術【マルクリム】をかければ良いんじゃないかと」
「主殿。生命を持った存在にマルクリムを施す事は出来ません」
知らなかった。そうなると・・・・・・。
「だったらこんなのはどうだろう」
神授スキル【マテリアル・クリエイト】白いシルクハット...... ......創造 ≫
俺は白いシルクハットを創造した。
≪シルクハットですか?
「シルクハットですが、普通のシルクハットじゃありません。ジャネットさんこれを被ってください」
≪シュッ クルクルクルクル パフッ
俺は、ジャネットさんの頭の上にシルクハットを回転させながら投げた。そして矢継ぎ早に、
「質問します。YES/NO、Oui/Non、あるいは、はい/いいえで答えてください。ジャネットさん。貴方は男ですか?」
「いいえ」
白いシルクハットは白いままだ。
「ジャネットさん。貴方は31年前に副神官長を名乗る者に会い、訴状や釈放申請書を渡しましたか?」
「いいえ」
白いシルクハットは白いままだ。
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俺は、9回どうでも良い質問を繰り返した。
「最後にもう1つ質問します。ジャネットさん。貴方は夫コンラートさんを愛していますか?」
「・・・」
「ロイク様。つ、妻に何を・・・」
この場で、答えるには恥ずかし過ぎたか。
「質問を変えます。ジャネットさん。貴方は夫コンラートさんの事が嫌いですか?」
「いいえ」
白いシルクハットは白いままだ。
俺は、シルクハットをタブレットに回収し、直ぐに装備状態つまり頭に被った状態で取り出した。
≪今のはどうやって・・・
皆の問いを無視して話を進める。
「次は、俺が、反対の事を答えます。誰か何か質問してください」
「ロイク殿。何をやっているのか。聞いても良いかな?」
「ヴィルヘルム殿。良いから何か俺に質問してみてください」
「ふむ。・・・では、訊ねる。ロイク殿はバイタリテの悲劇に巻き込まれた者達を救出したか?」
「Non」
白いシルクハットが黒くなった。
≪あっ。黒に・・・
「ロイク殿。これは?」
「このシルクハットは真偽判定の魔導具です」
≪おおおぉぉぉ―――
「な、なんと」
ヴィルヘルム殿初め、全員が目や口を見開き、間の抜けた表情をしている。
「ろ、ロイク様。わ、私も1つ1つ質問しても宜しいでしょうか」
「サラずるい。ロイク様。私も1つ質問を」
何だかとっても怖いんですけど・・・。
「ど、どうぞ・・・」
「それではまずは私からです。ロイク様は。サラ。私の事をどの様に思われているのでしょうか?」
「どのように・・・?」
「あぁぁ~~~もうじれったいわね。端的に聞くわ。ロイク様は私の事を好きですか?」
「はぁっ?・・・な、何、言ってるんですかぁっ!!!」
「こ、答えてください。YESでもOuiでも構いません。さぁ~、さぁ~」
「エリウス」
「主殿。如何致しました」
「この状況から俺を守るとか可能かな?」
「・・・そうですねぇ~。それでは主殿に1つ質問致します」
「今?」
「はい。今です。この状況から逃げられると思いますか?」
「・・・いい・・・いいえ」
白いシルクハットは白いままだった。
「さぁ~ロイク様。お答えください」
「・・・・・・・・・O・・・・・・Oui・・・です・・・」
白いシルクハットは灰色へと変化した。
「灰色?・・・」
サラさんは、微妙な表情をしている。
「「ロイク様。灰色。灰色ってどういう事ですかぁっ!!!」」
「わ、分かりません・・・」
白いシルクハットは黒くなった。
「サラ。ロイク様は御存じの様ですよ」
「そうね。テレーズ」
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結局、脱線し皆に笑われる事となった。
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「コンラートさんは、王都教区の教区長だったんですよね?」
「はい」
白でした。
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「主殿。現状手掛かりに成り得るのは、もう1人のコンラート・ジーメンスの存在です。身柄の確保を優先するべきかと」
この状況では、エリウスの提案が正しいと思う。
「それもですが、捜査と封印に関わったオスカーさんの供述も欲しいです」
「私のですか?」
「はい。オスカーさんは6年間の長期睡眠から目覚めたばかりで31年前の記憶が曖昧なんですよね?」
「申し訳ございませんがその通りです。若かりし頃の記憶は鮮明に残っておるのですが、60歳を超えた辺りからはどうも微妙でして。フォッフォッフォッフォ」
「なので、老師ナディアにバイタリテの事件の当日から1ヶ月の間にオスカーさんに、前老師に面会を求め近衛魔術剣士隊事務所を訪れた旧教関係者のリストをお願いしてあります。リストを見て何か思い出したら教えてください」
「畏まりました」
老師ナディアは、空飛ぶ絨毯等、知識や技術の交換を条件に、動いてくれた。交換したところで俺と同じ事はほぼ出来ないだろうけど・・・。
「ご、御老体。アシュランス王国国王陛下。魔剣隊は我が国の軍事の要。資料は最高機密にあたりますので・・・流石に・・・」
「イニャス良いではないか。旧教に関するリストなのだろう。それに31年前の人の出入り等今更機密でも何でもあるまい」
「そ、それはぁ~・・・しかしですね・・・」
「老師。ロイク殿にリストを」
「良かったよぉ~陛下がダメだとか言いだしたらどうしようかと思ったよぉ~。徹夜でまとめたリストが無駄になった挙句の果てに満たされないまま疼いた身体が路頭に迷う所だったよぉ~」
老師ナディアってこんなキャラだったっけ?
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俺は、老師ナディアから受け取った資料を、神授スキル【タブレット】に収納し情報をタブレット内に蓄積しリストを返却した。
「ありがとう。返しておくよ」
「え?・・・せめて目くらいは通して欲しいよぉ~。この私が徹夜してこさえたリストなんだよぉ~」
俺は、出席者全員の顔の前方60cmにタブレットの画面を出した。
「こ、これは何だ?・・・資料と・・・同じ・・・」
老師ナディアは、手元の資料と表示画面を見比べている。
「今、皆さんの前の宙に浮かび上がっている絵は、老師ナディアが持っている資料と同じ物です」
≪おぉ~
サラさん、テレーズさん、エリウス以外の皆が声を上げた。
「こ、これは、な、何て魔導具なのだぁっ!!!」
「老師これは、バースデイ・スキルです」
「ちぃっ。神授スキルか。なら興味無い。例の約束を」
老師ナディアは、小声で確認して来た。
「分かってます」
「ロイク殿。我が国の老師と親しそうだが、何処で?」
「陛下。お兄ちゃん達とは仮装舞踏会の日にガーデンで偶然会ったんだよぉ~」
偶然ねぇ~。
サラさん、テレーズさん、エリウスに視線を送る。皆頷いてくれた。
「その時、空飛ぶ絨毯ととっても美味しい御菓子と御茶の存在を知って、空飛ぶ絨毯の他にも沢山の事を神アランギー様より御教授いただいたのだよぉ~。でも、私には理解不能な事ばかりでした。いやぁ~世の中分からない事ばかりですよぉ~。なので、女神フォルティーナ様と神アランギー様よりいただきました有難い提案を御受けする事にしました」
「神々様より神託をいただいのか?」
「はい」
何か、長くなりそうだぞぉ~。
「済みません。話を続けても良いでしょうか?」
「おぉ済まん。済まん。ロイク殿続けてくれ。老師ナディア後程神託の内容を聞かせて貰えるかな」
「教える分には問題ないよぉ~。・・・でも、陛下が知っても意味が無いと思うよぉ~」
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「目の前の絵に情報を付け加えて行きます。まず、バイタリテの悲劇が起こったのは、31年前の2月23日の」
9時44分って言っても通じる人は少ないから。午前で良いよな。
「午前です。そして、ここに居るコンラートさんではないもう1人のコンラートさんが逮捕されたのが同日の昼過ぎです。旧教から破門追放処分。聖職者の身分を剥奪されたのはいつになってますか?」
「王城の世界創造神創生教会対策室には当時の資料が残っておりませんでしたが、書庫の閲覧禁止棚に31年前の2月1日(無)から2月30日(樹)。1ヶ月間の王国と旧教との記録が保管されておりました。それによりますと、R4044年2月23日(水)昼食後仕事を再開した後のカトゥルールの際、枢機卿院の印で王都教区教区長コンラート・ジーメンスの破門を宣した聖文を、王国教区長が閣僚達の前で読み上げた。と、あります。・・・こ、国王陛下は、同日2月23日(水)の早朝ゼルフォーラ王国領リリスへ向け出立しており御不在であった為、帰国した2月29日(闇)の午後、御前会議を行い王都教区教区長コンラート・ジーメンスの破門を宣した聖文を受諾した。と、あります・・・」
ダニエル内務大臣は、おかしな点に気付き、ヴィルヘルム殿や俺へと何度も視線を飛ばしながら最後まで読み上げた。
≪はぁ?
出席者全員が同じことを考えたと思う。...... ......いないのに、移送の命令を出せる訳が無い。でも、さっき真偽判定の魔導具でジャネットさんが警備隊本部の担当者から王命で移送されたと聞いた事が真実であると証明されている。...... ......何より、枢機卿院はガルネス神王国のガルネス大寺院にある。悲劇が起こったのが午前中で、容疑者が逮捕されたのが昼過ぎ(この世界の正午は15時)で、枢機卿院の印の聖文で破門処分になったのがカトゥルール。王都ラワルトンク、ガルネス神王国の王都ガルネス間を半日以下で往復出来る連絡鳩等存在しない。つまり、3時間や4時間そこらで枢機卿院から破門を宣した聖文が届き、王国教区教区長が閣僚達の前で読み上げるなど不可能。
・・・枢機卿院の印の聖文は王国教区教区長が持ち帰り、後日行われた御前会議の際に提出された物だった。
カトゥルールの時の枢機卿院の印が入った聖文が偽物だったのか。それとも、枢機卿院の印が入った聖文が予め用意された本物だったのか。
いや、本物か偽物かはこの際問題では無い。大司教は聖文が宣した瞬間ただの宗教異端者である。差別迫害を受ける対象になってしまった事を意味する。
破門され追放され剥奪されたコンラートさんが、聖なる箱で創造神様に祈りを捧げていた。・・・・・・これは、黒だ。
・・・こんなにも滅茶苦茶な状況にありながら、裁定が下り捜査は終了した。う~ん。
「思う所は沢山ありますが、今は目の前の絵に情報を付け加えるだけにします。2月23日のカトゥルールの時に剥奪された。さて、近衛魔術剣士隊のリストによると、23日の正午頃に王国教区教区長が当時老師だったオスカーさんを訪ねてます。記録には、昼食の為2人で商業区へ向かう。移動手段は馬車。供は御者のみ。カトゥルールの頃にオスカーさんは1人で戻った。と、残されてます。王国教区教区長はオスカーさんと昼食を済ませた後、登城し閣僚達の前で聖文を読み上げた事になります」
「う~ん。王国教区の教区長とランチをのぉ~。名も顔も覚えておらんのぉ~」
「急ぎじゃないんで、焦らずのんびりで構いません」
「アシュラ国王陛下。しゅ、主人はどうなってしまうのでしょうか?」
「どうにもならないと思うけど」
「そ、そんな・・・」
夫コンラートを見つめる妻ジャネット。
「あっ、そういう意味じゃないです。違いますよ。無実なのは明白だし、どうにかなる方がおかしいと思う。って言いたかったんです。ですよね。ヴィルヘルム殿。そうですよね?」
「無実の者を捕らえ裁くなど有り得ん。国王として名誉の回復と最大限の保証を約束する。世界創造神様の名に御誓いしても良い」
「はぁっ?そんな事で、私達の時間が戻って来るとでも?母や妹や私が近所から王都中の者から一族からどんな目で見られどんな思いで生きて来たと・・・」
「アイダ。静かになさい」
「でも、母さん」
「姉さん」
「何?」
「姉さんは、母さんと私を置いて何処に行っていたの?母さんや私がどんな思いでいたか分かるの?」
「い、今その話は・・・」