4-12 温度差。
chefアランギー様と妖精のおしごと達が織りなす超絶技巧なプティデジュネを済ませた俺は、ロビーに皆を集めた。
「今から、アウフマーレライ城に移動します」
「私達もですか?」
「その予定ですが何か問題でも?」
「問題・・・と、言いますか。私達は世界創造神創生教会の関係者ですよ・・・」
≪ガヤガヤガヤガヤ
旧教の関係者達は動揺している様だ。
「世界創造神様より世界中の人々が神授を戴いた日。その瞬間、世界創造神創生教の世界創造神創生教会の権威威光は地に落ち、偽りの教義と汚れた経典から世界は解放された。世界は世界創造神様の御意思御意向により正創生教の正創生教会を中心に偽りと過ちから回復しつつあると聞きました」
旧教の関係者を代表し元大司教のコンラート・ジーメンスが俺に話し掛けてきた。
「概ねそんな感じです」
「ですが、世界創造神様より神授を戴いたにも関わらず過ちを認めず罪を認めず改宗と更生を拒み、あろうことか教王の名の下に犯罪紛いな行為を繰り返す輩まで出没しているとか。それは騙りではなく事実であると推測します。ガルネス大寺院やガルネス神王国が裏で糸を引いている。これは疑いようも無い事実だと断言出来ます」
騙りじゃないのは皆知ってると思う。
創生教会の信者や聖職者達が聖人教会の信者や正宣者・宣導者に対し、創造神様の名を騙り、教王庁や枢機卿院の名で堂々と違法行為犯罪行為を繰り返し騎士団や警備隊に逮捕拘束され続けている。
知らない人を探し出す方が難しいと思う。でもこれは知らなかった。まさか旧教の陰で暗躍している国があったなんて。
「ガルネス神王国が旧教にですか?」
「はい。・・・・・・今からお話する事は、世界創造神創生教会の神官院に所属する者なら皆知っている事です。はぁ~・・・。世界創造神創生教会、世界創造神創生教と名を呼ぶ事すら馬鹿馬鹿しいです。皆さんに習い偽教、愚教、汚教、騙教。この際、好きな様に呼ばせて戴きます」
「それは構いませんが・・・」
お教、へん教。新しい呼び方が2つ増えてるし。
「汚教には、様々な派閥会派が存在していました」
「いました?」
「はい。衰退した今も尚、愚かにも派閥争いを繰り返している可能性はありますが、流石に教王庁もそこまで阿呆の集まりでは無いと多少なりか期待したいところもあり過去形で話ました」
旧教だし気持ち良い位に期待を裏切ってくれると思う。
「騙教には......
・
・
・
***********************
≪世界創造神創生教≫
現在の【旧教・邪教・悪教・偽教・愚教】
+【汚教・騙教・他】
旧教の元大司教コンラート・ジーメンスの説明
≪世界創造神創生教会≫
☆☆☆教王庁☆☆☆ 総本山・ガルネス大寺院
所在地:ガルネス神王国・王都ガルネス
≪組織構成≫
〇―――教王庁―――〇〇〇―――教王院―――〇
〇 〇
〇【教王】 〇
〇 ※全教区の管理者※ 〇
〇 条件1:ガルネス神王国の神王家 〇
〇 ホノクレマ家の一族の中から 〇
〇 選任される。 〇
〇 条件2:条件1を満たした枢機卿から 〇
〇 選任される。 〇
〇 条件3:選任時55歳以上65歳以下。 〇
〇 ※終身教王制※ 〇
〇 〇
×―――枢機卿院―――×△―――司教院―――△
× △
×【枢機卿】19人~23人 △
× ※各大教区の管理者※ △
× 条件1:大司教から選任される。 △
× 条件2:大教区の教区長であること。 △
× △
□―――神官院―――□ △
□ △
□【大司教】66人~69人 △
神 ※各国教区の管理者※ △
官 △
□【司教】いっぱい △
□ ※各小中教区の管理者※ △
神 △
官 ●―――司祭院―――●
□ ●
□【大司祭】いっぱい ●
神 ※大聖堂・大教会の責任者※ ●
官 ●
□【司祭】いっぱい ●
□ ※聖堂・教会・大公会堂等の責任者※ ●
□ ●
▲―――修道院―――▲ ●
▲ ●
神【助祭】いっぱい ●
官 ※大公会堂・公会堂の責任者※ ●
見 ●
習【修道助祭】(主に元神官)いっぱい ●
い ※公会堂・修道院の責任者※ ●
▲ ●
神 ◇―――神学院―――◇
官 ◇
見【修道士】いっぱい ◇
習 ※神官巫女の見習い※ ◇
い ※助祭見習い※ ◇
▲ ◇
◎―――教学院―――◎ ◇
◎ ◇
教【教学生】いっぱい ◇
学 ※神官巫女になる者も極稀に存在 ◇
生 教学生の多くは学位取得が目的※ ◇
◎ ◇
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【信者or信徒】カモ(いっぱい)
※衰退するまでは・・・※
≪派閥・会派≫
神王派 フィンベーラ・ガルネス派
※全体の約50%を占める最大派閥※
※ガルネス神王国の神王に仕え
世界創造神創生教会の教王を
崇拝し汚職に塗れた強権派閥※
※ガルネス大寺院を中心とする※
※フィンベーラ神王国のみ三権掌握※
※立法司法は旧教が管理するべき※
改革派 フィンベーラ・アプトリプ派
※全体の約20%を占める派閥※
※コルト大聖堂が中心だった※
※旧教は国家より独立した存在であるべき※
保守派 ストラディス派
※全体の約20%を占める派閥※
※カルーダ王国王都セラワンリンネイにある
セララワントン大寺院が中心だった※
※全ては旧教に管理されるべき※
※神官は世界創造神によって選ばれた使徒※
無所属派 ※3派閥以外の派閥は無所属※
※全体の約10%を占める※
※多様※
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......この無所属派の中には猊下おっと、猊下とは教王の事ですが、その教王の密命を受け少数派を装い暗躍している集団があるとか」
シュヴァルツとかっだりして。まさかな。
「旧教にも色々あったんですね。これって話しちゃって大丈夫なんですか?」
「はい。私達は汚教より破門され追放処分となった元聖職者です。今更庇い立てする義理もありません」
≪そのお通りです。
旧教の元神官巫女達は、元大司教コンラート・ジーメンスの意見に賛同している様だ。
変だなぁ~。破門され追放処分になったのってコンラートさんだけじゃなかったっけ。
「何より愚者なる私達は昨晩、この世界が世界創造神様1柱様ではない事を、慈悲深き神々様より神託を戴き理解するに至りました」
どうせフォルティーナあたりがいらん事でもやったんだろう。うん?慈悲深き神々様?・・・そうなると、フォルティーナの線は無いな。
「昨晩。畏れ多くも衣食住の食を司る神アランギー様。畏れ多くも葛藤を司る神イエレミーヤ様。神獣神竜の邪神竜様。神獣神狐の悪狐神様。4柱様より慈悲深き神託を戴きました」
chefアランギー様達の方だったか。・・・邪神竜様ってユマンの姿に化現すると何故か幼女姿なんだよなぁ~。
「料理を司る神chefアランギー様は、うちの国で国王代理をやってるフゥファニー公爵だって知ってますよね?」
「はい。存じております。他にも多くを学ばせて戴きました。31年前の悲劇を知ったロイク様が神すらをも拒む封印の結界を破り王妃マルアスピー様と御2人で私達を救い出してくれた事や、ララコバイア王国の王都や周辺集落の住民を苦しめていた忌まわしいセアンの呪いを解呪してくれた事、そして建国期より続く凶悪なるバイタリテの呪いの解呪にも挑まれるお考えであると神託を戴きました。また、ロイク様の下には私達よりも長い、100年以上の長き時より解放さし者達が沢山いると伺いました」
メディウムの呪いで石化した人達の事だよな。というか、chefアランギー様達、話盛り過ぎだろうぉ~・・・。
「神々様より戴きました神託の意味を今ようやく理解する事が出来ました」
他にも何か言ったのか。次は何だぁ~?
旧教の元神官巫女達は、頭を下げ、胸に右手を背に左腕を回し、そして左膝を床に付く。ララコバイ王国に於ける最上級の畏礼の姿勢である。
≪ロイク様!!!
彼等は畏礼の姿勢を崩さず、一糸乱れる事無く声を合わせ俺の名を呼んだ。
「あぁ、はい」
って、何だぁ~?・・・ビックリしたんですけど・・・。
「世界創造神様よりこの世界の守護者として聖人として管理者として来年の2月23日の正午にゼルフォーラの大地に訪れるであろう悪に対峙せよと神授を賜り、世界の為来る日に備え粉骨砕身の日々の中、悲劇に見舞われた私達をお救いくださり有難うございました。心より感謝の言葉を申し上げます。そして」
≪ロイク様の手伝を私達にさせてください。
すげぇ~。この数で揃ってるよ。
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―――R4075年9月9日(闇)10:30
俺の神授スキル【転位召喚・極】で、ララコバイア王国の王都ラワルトンクにある王城アウフマーレライ城の謁見の間へと移動した俺達は、国王ヴィルヘルムに謁見中である。
「アシュランス王よ。連合国家フィリーの代表殿に頭を下げられては余の立つ瀬が無い。リンプール。余の隣に余の物と同じ椅子を」
公式の場では、俺の事をロイク殿では無くアシュランス王と呼ぶヴィルヘルム殿。
「はぁっ!・・・はぁ?そ、それは・・・」
「どうした。ララコバイア王国は恩を仇で返す様な何処ぞの恥晒しな国と同じなのかぁっ!?」
「い、いえ。ですが・・・玉座の隣にもう1つ玉座を置くは2君のぉ~・・・」
イニャス首相無茶振りされてるなぁ~。
「お前は頭が固くていかん。・・・ではこうしようでは無いか。余がアシュランス王の隣に移動するとしよう・・・それが良い」
国王ヴィルヘルム殿は、玉座から立ち上がると3段ある階段を降り、俺の横を通り過ぎ、王太孫セリムを抱く宝妃ティルアの前へと歩を進めた。
あぁ~なるほどね。俺を出汁に使ったな。立場があるのは分かるけど、素直じゃないよなぁ~。
・
・ 割愛
・
「ティルア」
「ヴィルヘルム様ですよ・・・ね?」
・
・
・
・ 2人のプライバシー保護の為
・ 割愛させていただきました。
・
・・・国王ヴィルヘルム殿に比べ宝妃ティルア殿の反応は薄かった。
それもそのはずである。時間の理の中、31年もの歳月が流れた側と、被害に合った日から2~3日しか経っていない側では、温度差があって当然である。
時間の流れ、時の流れって、こういう時だけ残酷だなって思う。
・
・
・
悲劇の被害者の家族達が謁見の間に通された。
「どうしたのロイク」
マルアスピーは、俺の表情を見て疑問に思ったんだろう。
「何て言うか。少ない無いなって思って」
「少ない?」
「はい。被害者はこんなに沢山居るのに、来たのはティルア殿やセリム君の家族。警護の騎士の家族が少しです」
「ユマン族の寿命は短いわ」
「短いって言ってもユマンの平均寿命は75歳ですよ」
「そうね」
あぁ~駄目だ。マルアスピーはこの手の話題に興味が無いみたいだ。話が続かないや。
・
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・
「ララコバイ王。うちのフゥファニーから事前に聞いてると思うんですが、元大司教の家族はどうしました?」
「例の娘は神馬獣エリウス様が保護しているはずです」
そっか、エリウスが保護してるのか。それなら、
「≪『エリウス』→エリウス≫」
「≪『主殿。如何なされました』→ロイク≫」
「≪『アイダさんは居ますか?』→エリウス≫」
「≪『フォルティーナ様の御指示通り責任を持って保護しております』→ロイク≫」
「ですが、妻やもう1人の娘は王都には住んでいないらしく。ここに呼ぶ事は叶いませんでした。悲劇の遺族の大半は地方都市か衛星集落に住んでいます。中には国外で暮らす者もいるそうです」
「≪『あっ、ヴィルヘルム殿に話掛けられちゃったんで、また後で連絡します』→エリウス≫」
「≪『かしこまりました』→ロイク≫」
「それで、家族の姿がこんなに少なかったんですね。安心しました」
「陛下」
「どうした」
「アシュランス王国国王陛下」
「俺ですか?」
「余ではないのか。紛らわしいぞリンプール」
「も、申し訳ございません」
「まあ良い」
「で、俺に何か用事ですか?」
「貴族・騎士階級が合同で主催するパーティーの用意が整い家族達が被害者様方を待っていると連絡がありました」
「パーティーですか?」
「宝妃ティルア様の御実家。プレス卿の屋敷にて行われるそうです」
「プレス卿?」
「ルーク財務大臣です」
「あぁ~。ルーク財務大臣ってティルア殿の父親だったんですね」
「いえ。プレス卿は宝妃ティルア様の実兄です」
31年ルールを忘れてた。
「アシュランス王よ。我が国では王城王宮で余や余の家族に仕える上級召使いと、上級召使いに仕える中級召使い下級召使い。召使い達にも身分制度がある」
「へぇ~」
「上級召使いには貴族家出身の者が多くてな。悲劇の被害者になってしまった付き人達の遺族には貴族達が多い」
なるほどね。
「アシュランス王国国王陛下。陛下」
「なんだ」
「あっと、もう移動した方が良いですか?」
「ふむ」
国王ヴィルヘルムは、軽く頷くだけだった。
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・
ありがとうございました。