4-10 御神体と、聖鵜獣メーシュカ。
これは・・・いったい。何が起こったんだ?
俺の目の前には、聖邪獣様が2人......
***********************
≪ロイクの神眼による視認情報≫
※意図的に視認レベルを下げている※
※今は少しだけ視認レベルを上げている※
【名前】メーシュカ・ヒーノ
【個体レベル】――
【種族】聖鵜獣
【状態】異常無し
―――
≪体力・生命力≫
【HP】2,150,000
―――
≪魔素・魔力量≫
【MP】 240,000
―――
≪物理攻撃力≫
【STR】 9,800
―――
≪器用さ・応用力≫
【DEX】 150,000
―――
≪物理防御力≫
【VIT】 8,700
―――
≪素早さ・敏捷性≫
【AGI】 19,600
―――
≪知識・智慧・記憶・魔術魔法攻撃力≫
【INT】 4,200
―――
≪魔術魔法防御力・状態異常耐性≫
【MND】 4,200
―――
≪運・悪運・フラグ≫
【LUK】 5,000
―――
*****
【名前】なし
【個体レベル】――
【種族】邪鱓獣
【状態】浸食・闇属性
―――
≪体力・生命力≫
【HP】2,600,000
―――
≪魔素・魔力量≫
【MP】 1,600
―――
≪物理攻撃力≫
【STR】 13,200
―――
≪器用さ・応用力≫
【DEX】 6,377
―――
≪物理防御力≫
【VIT】 15,600
―――
≪素早さ・敏捷性≫
【AGI】 26,209
―――
≪知識・智慧・記憶・魔術魔法攻撃力≫
【INT】 2,400
―――
≪魔術魔法防御力・状態異常耐性≫
【MND】 2,400
―――
≪運・悪運・フラグ≫
【LUK】 1,300
―――
***********************
......いる。
・
・
・
亜神様の神格を消滅させちゃった・・・のか!?これって、かなりやばいんじゃ・・・。
「マ、マル、マルアスピー。ど、どうしましょう。亜神様を低位させちゃった上に聖獣様と邪獣様に分裂させちゃったみたいです。せ、精霊眼で視てください」
「さっき視たわ。unknownだったと言わなかったかしら」
「聞きました。ですが、もう1度お願いします」
「分かったわ・・・」
マルアスピーは、聖獣様と邪獣様を見やる。
・
・
・
「あら。貴方。メーシュカという名前なのね」
あ―――。精霊眼で視えますよねぇ~。問題は名前とかじゃなくてですね。神格をですね・・・。
「はい、大精霊様。麿の名はメーシュカ・ヒーノ。聖鵜獣メーシュカ」
「メーシュカ。元の姿に戻ったのですね。良かった」
水の中精霊キュライレーサは、聖鵜獣メーシュカへと歩み寄り優しく抱きしめた。
「はい。キュライレーサ様。その様でございます」
胴体40m強で尾50m強の亜神様を抱きしめるのは難しい。だが、今は全長90cm弱の普通サイズの鵜である。
鵜の姿が本来の姿なのか。だとすると目の前にいる鱓の姿の邪獣様は何処の何方なんだ!?
邪獣様と視線が合った。
「感動の再会の所、大変恐縮なのですが、神様。大樹の大精霊様。水の中精霊様。聖鵜獣殿。ところで、私は誰で、ここは何処なのでしょうか?お分かりになりますでしょうか?」
「「「「え?」」」」
全長20cm弱の邪鱓獣様がおかしな事を口にした。
「そういえば貴方名前が無いみたいね。自分が邪鱓獣だという事は分かっているのかしら?」
「そうですね。自分が邪獣である事は何となく分かるのですが、それ以外は全く分かりません」
記憶喪失の邪獣様。まさかだけど俺のせいなのか?
「俺が闇属性の循環に干渉したせいかも・・・あれ?邪獣様なんですよね?」
「そうね。どうみても邪獣ね」
「はい。邪獣で間違い無いと思います」
「邪獣様って自然の力の循環の邪属性の自然魔素を源にした存在なんですよね?」
「そのはずです」
記憶が曖昧な状態にある邪鱓獣は強く肯定した。
「ですが、邪獣様からはとても強い闇属性の自然魔素を感じます。源であるはずの邪属性の自然魔素を覆い隠しちゃってますよね?」
「・・・・・・言われてみれば確かにそうですね。私、どうかしちゃったのでしょうか?」
自身の自然魔素を確認する邪鱓獣。
「闇属性の自然魔素が源になってる邪獣様とかって存在したりしませんか?」
「分かりません。自分自身が何者なのかすら分からない有様でしてぇ~ハァ~・・・・・・お手数をお掛けします・・・・・・」
「ねぇロイク。闇を源にする邪獣はいないと思うわ。見た事も聞いた事もないもの」
「ロイク様。私も闇属性の自然魔素を源にする聖邪獣は存在しないと思います」
大精霊様と中精霊様の意見である。
「となるとやっぱり、状態異常【浸食・闇属性】が原因って事に、でも闇属性だしなぁ~」
「邪獣は邪な存在なだけで聖獣と同じ存在なの。それに、聖邪獣が闇属性に浸食される何てありえないわ」
「マルアスピー様の仰る通りです。聖属性や邪属性は属性の理において優位属性にあたります。闇属性で、優位属性にあたる邪属性を浸食するのは不可能です」
「麿も聞いた事がありません」
優位属性だし、そうなるよなぁ~。
・
・
・
「そういえばぁ~」
水の中精霊キュライレーサは、顎に左手の人差し指を当て、語り始めた。
「少し前に大きな地震がありまして、社をバイタリテ広陵からサンガスのコルト川の河口へ遷座しました。遷座当初は社も祭壇も木の板を組んだだけの粗末な物でしたので、水の循環を司る水神玉を御神体をですね粗末な社や祭壇に御祀りする訳にもいかず、完成するまでの予定でバイタリテ広陵の無傷の祭壇に託しました。社と祭壇が完成し奉還する為に水神玉を取りに戻ったのですが、倒壊した祭壇の横でメーシュカが水神玉を抱き抱え可愛い仕草で眠っていたのです。起きたらサンガスに建立した新しい社と祭壇に奉還宜しくね。と、手紙を残し」
「麿に手紙をですか?」
「そうですよ」
「何処にもありませんでしたが・・・」
「おかしいわねぇ~。間違い無く貴方の嘴に挟んだのよ」
・
・(俺達はお決まりの脱線を繰り返す)
・
「キュライレーサ様。社をサンガスに遷座したのっていつ頃ですか?」
「海の循環に中央海流が加わった頃だから、中央大陸が今のゼルフォーラ大陸とフィンベーラ大陸に分かれた頃よ」
・
・
・
中央海流とは、現在のゼルフォーラ大陸を囲む様に流れる海の潮の流れの事らしい。3年かけ一周する流れの穏やかな海流なんだそうだ。
アシュランス王国の王都スカーレットからゼルフォーラ王国のトゥージュー領公都サーフィスを船で往復移動すると、風向きにもよるがスカーレットからサーフィスへ移動する方が20ラフン程速い。その謎が解けた瞬間だった。
中央大陸とは、現在のゼルフォーラ(中央)大陸とは別物の事だった。現在のゼルフォーラ大陸と現在のフィンベーラ(北)大陸は陸続きの1つの巨大な大陸だったそうだ。俺は旧中央大陸を巨大大陸。現中央大陸を中央大陸と覚える事にした。
・
・
・
「大陸って生き物みたいに動いてるんですね。驚きです。地下トンネルで繋がってたって聞いた時も驚きましたが、陸続きで1つの大陸だったなんて」
「13万年程前の話ですからね。覚えている者は少ないと思います」
「じゅ、13万年前の話だったんですかぁっ!?」
「そうですよ。中央海流の時でしたので良く覚えています」
「想像以上にスペクタクルなんで何の話をしていたか忘れそうになりましたよ」
「ヒュームにとっては少し時の長い話ですからね」
少し。少しねぇ~・・・。おっと脱線し過ぎだな。話を戻さなくては。
「それで、13万年前に手紙を置いてからどうなったんですか?」
「そうでした。手紙の話でしたね。置手紙をしてから6万年程メーシュカを待ったのですが、待てど暮らせど水神玉を奉還しに来る気配もなく」
「ちょっと待ってください。手紙を置いてから6万年もですか?」
「そうですよ。たぶん6万年は経っていたと思います」
「水の精霊はのんびり屋さんなの。知らなかったの?」
「それ初耳です」
「そう。今日は知識の日ね。良かったわね」
属性石に関しては失念だった。早く帰って色々と試してみたい。楽しみでしょうがない。だが、精霊の気質に関しては正直どうでもいい。興味が無いと言い切ってしまっても良いだろう。おっと、脱線。・・・話を戻さなくては。
「それで、6万年待ってからどうしたんですか?」
「その頃になると水神玉無しで水の循環に干渉するのが限界になっていました。それで、改めて手紙を書きました」
「6万年も待って、また手紙ですか?取りに行った方が・・・」
「そうした方が良いのは分かっていたのですが、水神玉も無しに6万年近く水の循環を管理していたせいか、私が祠から離れると自然の循環に乱れが生じる様になってしまっていたのです。それで、手紙を書く事にしたのです。書いたまでは良かったのですが、届ける手段が無く、考えている内に1万年程経っていました」
は?
「あの、水神玉が無い状況に限界を感じてたんですよね?」
「そうですよ。ですから手紙を書きました」
「書いただけなんですよね?」
「そうですよ」
「平気だったん・・・あぁ~平気だったから自然の循環に大きな乱れはないのか」
「そうですね。祠から離れていられる時間はかなり短くなってしまい最近ではどんなに頑張っても10ラフン程が限界といったところでしょうか。ですが、御安心ください。私が精霊域内に存在している限り循環が乱れる事はありません。創造神様より神授されし海の祠と1部の自然の力の循環は責任を持って守り抜きます!!!」
水の中精霊キュライレーサは、胸を張って宣言した。
「「「「えっ!?」」」」
水の中精霊キュライレーサを除く皆の声がハモる。
ちょっ、ちょっと待て・・・。10ラフンも離れていられない?
「だから、あの時は助かったわぁ~」
水の中精霊キュライレーサは大きく頷きそして話を続ける。マルアスピーと俺はアイコンタクトしそして頷いた。
「大精霊ドゥーミナ様の御使いで聖梟獣のサビィ―ちゃんが遊びに来たのよ。これはチャンスだと直ぐに思い。それで、サビィ―ちゃんにバイタリテ広陵の祠にいるメーシュカって名前の聖鵜獣に届けてって手紙を託しました」
サビィ―さんの名前が出てきた事に驚き、俺達は視線を水の中精霊キュライレーサへと戻した。
・・・なんだろう。この胸騒ぎは、嫌な予感しかしない。嫌な予感しかしないのは、何故だろう。
「サビィ―は祖母の代から家に仕える眷属なのだけれど、そうその頃から家に居たのね。お役に立てて良かったわ」
「その節は、サビィ―ちゃんにはお世話になりました」
「変な事を聞く様で申し訳ないんですが、サビィ―さんは手紙をちゃんと届けたんでしょうか?」
「はい。届けて来たと帰りに寄ってくれました」
怪しいぃ~。
「あのぉ~キュライレーサ様。麿は手紙を受け取った覚えがございません」
「でしょうね。貴方は就寝中だったそうよ。それも気持ち良さそうに、だから起こすのも可哀想って、サビィーちゃんは優しいわよね。嘴に挟んで帰って来たそうよ」
「麿が鵜なのは御存じなのですよね?」
「サビィーちゃんも、貴方と同じ鳥類の聖獣なのよ。鵜と梟の区別がつかない訳ないでしょう」
「そうね。私も貴方が鵜の聖獣なのは見て直ぐに分かったわ。海鵜では無く河鵜だとも直ぐに分かったわ」
聖獣様でも、鵜にかわりはない訳で・・・。
「鵜って、咥えた物を飲み込んでしまう習性があったと思うんですが」
「あら、そうなの、ロイク」
「そうなのですか?ロイク様」
「コルト川に生息する河鵜はそうでした。聖鵜獣様本人がいる訳だし、本人に確認した方が早いです。どうなんでしょうか?」
「麿は聖鵜獣。名も無き野生の鵜と一緒にされては困りますが、咥えた物を飲み込むのは概ねあっております」
「「あら、あってるのね」」
「俺が思うに、手紙なんですが2通とも食べちゃったんじゃないかと」
「「「え?」」」
「ロイク様。手紙は紙です。流石の麿も紙は食べませんよ」
「試してみましょう」
俺はタブレットから、この世界の古紙分析済を取り出した。
「メーシュカさん。この紙を咥えて貰えますか」
「はい」
聖鵜獣メーシュカは、紙を咥えるとそのまま、
≪ゴクン
飲み込んだ。
「「「「「あっ」」」」えぇぇ!」
全員の声がハモった。
「飲んじゃいました。麿、紙も食べる聖獣だったのですね・・・」
紙を飲み込んだ本人が一番驚いているようだ。
「何て言ったら良いのか分かりませんが、これで、色々と誤解や謎が解けましたね」
・
・
・
「手紙を届けて来たと態々報告しに寄ってくれたサビィ―ちゃんと、その時こんな話をしました」
まだ続いてたのか。
「水神玉を抱き抱えて眠っていたメーシュカを見た時に思ったそうです。鵜にしては大きいなと」
それって、サビィ―さんが手紙を届けた時点で、聖鵜獣メーシュカ様は既に巨大化していたって事だよな。かなり貴重な情報だ。
6万年前の時点で、巨大化がどこまで進んでいたのか?
眠っていた聖鵜獣メーシュカ様の体内の自然魔素に乱れは生じていたのか?
亜神様から聖獣様と邪獣様にどうして分裂したのか?・・・いや待てよ。合体して亜神様に高位進化してたから低位した時に聖獣様と邪獣様へと元の状態に戻ったと考えるべきだ。聖鵜獣メーシュカ様は鵜の姿が本来の姿だと言っていた。巨大化する時に何かが起こって合体し亜神様へと高位進化した。経緯は不明だがこう考えた方がしっくり来る。
そうなると、やっぱりサビィ―さんが手紙を届けた時点で、巨大化がどこまで進んでいたか。これがキーだ。
「サビィ―さんは、巨大化がどこまで進んでいたと言ってましたか?」
「鵜にしては大きいなと思った。それだけでしたよ」
ハハハ。・・・・・・相変わらず微妙だ。やる事なす事全てが中途半端か裏目に出る。これってある意味才能だな。念の為に、一応聞いておこう。
「他に何か言ってませんでしたか?」
「そうですねぇ~。・・・・・・水神玉についても話をしました。メーシュカが抱き抱えていた3つの水神玉からは水が創造されていなかったそうです。黒緑色の翡翠玉の核に秘められた神気が力を失ってしまっていたと言っていました」
黒緑色の翡翠玉。何か引っ掛かるなぁ~。
「神気を秘め清らかな水を創造していた頃は、綺麗な翡翠色をしていたのですが御神体として力を失い黒緑色に変化してしまったのでしょう」
そうなのか?
「3つの水神玉の内1つは御神体としての力を失っていた様ですが、対の水神玉が水を創造し祠の外へと水の流れを維持していたそうなので問題ないと考えそのまま引き返して来たそうです」
3つの水神玉は水を創造してなかった?・・・あれ?
「おかしいですよ。マルアスピーと俺がさっき見た時には3つとも水を創造していました」
「ほ、本当ですかぁっ!?・・・あぁ~何て素晴らしい事でしょう。御神体として力を取り戻したのですね。御神体が3つあるなら。フッフッフッフッフ。これで、これで、前みたいに羽を伸ばせる様になるわ。10ラフンと離れていられない何て息が詰って死にそうだったのです。サビィ―ちゃんから聞いた時に、あぁ~水神玉終わっちゃったんだぁ~。世代交代するまで頑張るしかないのかぁ~。と、渋々自分自身を納得させて考えないように努力する事にしたのですが。でもまさかここまで自由を奪われ拘束されるブラックな宿り場になるとは・・・ハァ~・・・・・・。ロイク様。マルアスピ―様。今日は強制召喚していただきありがとうございます」
水の中精霊キュライレーサは、屈託の無い満面の笑みを浮かべお辞儀した。
「そう。良かったわね」
「はい。マルアスピー様」
ブラックから解放されるのは良い事だと思う。けど、何かが・・・何かが違う・・・何かが・・・。
「ちょ、ちょっと待てください」
キュライレーサ様は、さっき「最近はどんなに頑張っても10ラフン以上離れていられない感じね」確か、「10ラフンと離れていられない何て息が詰まって死にそう」だって言ったなかったか?
「どうかしたのかしら?」
「こ、この、こ、この今の状況。かなりやばいです」
「あら、ロイク偶然ね。私も同じ事を考えていたわ。御神体も無しにいったい誰が水の循環を管理しているのかしらね」
「何のんきな事言ってるんですかぁっ!キュライレーサ様。召喚したのは俺なんで俺が聞くのもおかしな話なんですけど」
「のんきって何を言ってるのかしら全く。いいかしら」
マルアスピーは、何か語っている。今は申し訳ないけど無視だ。
「私にですか?」
「はい。海の祠から離れてもう1時間以上経ってます。・・・こ、これって平気じゃないです・よ・・ね?」
「地の精霊は重厚謹厳な桃源洞裡、水の精霊は悠悠閑閑な合水和泥、火の精霊は軽佻浮薄な燎原之火、風の精霊は天真爛漫な疾風迅雷なのよ......」
「そうですよ。1時間も離・・・ぎゃぁ~~~大変。どうしましょう。どうしましょう。どうしましょう。神様ロイク様大精霊様ロイク様お......」
「......私は」
「......だずげぐだざい”ぃ~~~」
「同時に話さないでください。聞き取れないです」
「私に言われても困るわ。もう精霊樹に宿ってないもの」
「ぞ、ぞんなぁ~~~。そ、そ、そうですよ。前々任で現職のミト様なら」
って、どうして今ので会話が成立してるんだよ。
「無理ね。家のあれは大樹の森の聖域の精霊樹に宿っていた時間が短か過ぎて、まだこの世界の自然の循環全体を統制する程の能力も経験も無いわ」
「そ、そうよ。水神玉よ。水神玉があればぁっ!!!メーシュカっ!!!水神玉を」
「麿は持っておりません」
「な”、なんでよ」
「自然の循環の理を逸脱し宙へ昇る闇属性を帯びた水を創造する宝玉には目覚めて以降近付く事はままならない状況にありました。無理に近付こうとすると強い干渉を受け麿が麿でいられない状態に陥ってしまうのです。ですので、離れた場所から尾を使い見守るのが精一杯でした」
「今、何と言いました?・・・闇・・・堕ち・・・な、何て事に・・・。水神玉が闇堕ちした事をどうして黙っていたのですかぁっ!!!」
「闇堕ちとはいったい何の事でしょうか。それに、伝える手段がありませんでした。戻って来る。必ず戻って来ると信じ、祠を守るだけで精一杯でした」
「闇・・・闇堕ちは・・・・・・はぁ~。堕ちてしまった物はしょうがありません。創造神様より神授されし水神玉ですが闇堕ちした以上最早ただの汚水を生み出す水神玉だった玉。預かる者として責任を持って破壊します。それで、闇玉は何処にあるのですかぁっ!?」
へぇ~、水神玉って、遊みたいに闇堕ちするんだ。
「キュライレーサ様。危険です。あれはもうキュライレーサ様の手に負える代物ではありません」
「なんでよ」
「水神玉だった頃は2cm程の宝玉でした。ですが、闇属性の水を創造する様になってからは、みるみる大きくなり10cm台の宝玉へと成長し、それぞれがそれぞれに干渉し合い理を乱す程になっています」
「闇堕ちした水神玉よりも、水の......
......循環の方が」
「近付いても平気な距離は分かってるのよね?」
俺の声は、誰にも届かない。空しく宙を漂うだけだった。
「はい。尾が蛇になっていた時に確認しています」
「そうですか。それでは旧海の祠の祭壇まで急ぎましょう。移動しながら状況について詳しく話て貰うわよ」
「はい。ここから走って2ラフン程です。2ラフンで詳細を説明します」
「今、なんて?・・・ここから2ラフンの距離にあるのですか?」
「そうです。キュライレーサ様が強制召喚された先程の水没した場所は海の社や祭壇があった場所です。ここはその真上です。正確にはこの先にあります黒い水を湛えた貯水池が真上です」
その貯水池は底が抜けてもうありませんけどね。
「強制召喚された場所が社と祭壇があった場所だったのですかぁっ!?・・・そうなるとここはどういう事なのかしら?」
「と、言いますと?」
「ここには祭壇だった頃の記憶が残っているようなのですが」
「分かりかねます。麿が目覚めた時には、ここは今の状態でした」
聖鵜獣メーシュカ様って、いったいどれだけ寝てたんだ? と、言うか、海の祠の水の管理の件や闇堕ちしたっている水神玉の件はどうなったんだ?
「あのぉ~。水の循環の管理とか、闇堕ちした水神玉の破壊とか、やらなければいけない事が山積してますし、そろそ......」
......ろ、先へ・・・」
「ここは、大海水の祠の祭壇跡地なの。祠は、この建物全体よ。旧海の祠はバイタリテの丘の内側洞窟に建立されていたのね。海の祠がサンガスに建立されてから暫くしてバイタリテの丘の上にバイタリテ宮殿が建てられたみたいなの。宮殿は大海水の祠として建立されたみたいなのだけれど、霊廟として使われ最後は封印されてしまったの。大海水の祠は、地下に海の祠がある事を知らないヒューム達によって、海の祠の上に建立されてしまったの。遷座していて良かったわよね。御神体の上に別の御神体を祀っていたら大惨事だったわ」
マルアスピーは俺の話を遮ると、淡々と状況を説明した。
俺の声を聞いてくれる人は誰もいない。空しく宙を漂うだけだった。さっきマルアスピーの話を無視した罰が当たったに違いない。
「遷座してから、13万年以上も経っています。バイタリテの丘も随分と様変わりしたのですね」
「えぇ。ヒューム属は凄いの。100年程で新たな文化や形式様式美を作り上げるの」
「大繁栄を極めたヒューム属の国々が次々と滅び出した時には、これからどうなってしまうのかと心配したものです」
何だ。精霊様トークが始まったのか?
「あのぉ~」
・
・(ガヤガヤガヤ)
・
「あのぉ~~」
・
・(ガヤガヤガヤ)
・
「あのぉ~俺の話を聞いてください」
「何かしら。聞こえているわ。ロイク」
「ちゃんと聞こえています。ロイク様」
「雑談は後にしてですねぇ~。循環の管理とか闇堕ちした水神玉の破壊を急ぎませんか?それに、御神体の上に別の御神体を祀ると大惨事だったって、状況から察するにこの状況って今正に大惨事だと思うんですが」
「ロイク様。海の御神体を蔑ろにし別の御神体を祀っていたら大惨事になっていましたが・・・いましたが・・・・・・ってぇ!?×〇△□※◇△×××〇・・・・・・闇堕ちしたのはそれが原因じゃないですかぁっ!!!」
「おぉ~。流石はキュライレーサ様。早速原因を究明されてしまうとわ。麿は眷属として嬉しゅうございます」
「ねぇキュライレーサ。貴女、精霊域に戻らなくても平気なのかしら?」
「戻る?」
「闇堕ちした3つの水神玉は翡翠玉の御神体だったのでしょう」
「そうですよ」
「良かったわね。それならもう大丈夫よ。貴方は責任を果たしたわ。後は戻って循環の正常化ね」
「まだ闇玉の破壊を済ませいませんが・・・」
「それならもう大丈夫よ。さっき言わなかったかしら。闇堕ちした御神体なら、この世界の管理者であるロイクがさっき回収したわ」
「闇堕ちした御神体をですか?触れる事も近付く事もままならない状況なのですよね?我が一族に伝わる自壊の詞がないと無理なはずなのですが・・・」
「そうね。新しい御神体をロイクから貰うと良いわ」
話が噛み合ってませんよぉ~~~。
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・
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・
・
俺達は、サンガスの海の祠の社の中の精霊域へと移動した。
「これ試供品ですよ。本当にこんなので大丈夫なんですか?」
「えぇ。でも、1つでは無理。そうねぇ~。10個位あれば十分ね。ロイク。試供品の水神玉を10個出して、1つの水神玉にして貰えるかしら」
「はっ?」
「神授スキル【マテリアルクリエイト】で出来るでしょう?」
「あぁ~そういう事ですか。なるほどね」
「ロイク様?マルアスピー様?いったい何を?」
「キュライレーサ様。まぁ~見ていてください」
「ロイク様。マルアスピー様。小さいながらもここは聖域の中の精霊域です。どうして邪獣殿が中に入って?」
「メーシュカ様。それについては後で説明します」
「そうね。後でロイクが説明するわ」
「あのぉ~。身体の中の闇属性と邪属性が身体の周に張られた聖属性の結界に反発し、沸騰したみたいに熱くて苦しいのですがぁ~」
「後で説明するわ。静かに見ていられないのかしら」
マルアスピー。それは流石に酷というか鬼です。
「邪獣様。今、解除します」
俺は、邪獣様の身体の周りに展開させた聖属性の結界を解除した。
・
・
・
俺は、水神玉の創造を開始した。
「見てると分かります。マルアスピーの案でも良いと思いますが、10個を1つにするとかって創造とは違うんで、実験序に自然の力の循環の水属性の自然魔素を創造する水神玉を創造してみます。大きさは2cm台の物を3つが良いですか?それとも大きな物を1つにしますか?」
「仰ってる意味が分からないのですが」
「麿もです」
「私は今、聖域の中の精霊域内に居るのですよね・・・」
3人とも、現状を上手く理解出来ていない様だ。
≪フワッ パチン
≪スゥ―――
「あたしも、ロイクとアスピーが何をやってるのか、分からないね。これはいったい何だね。あたしは、バイタリテ宮殿の中に召喚しろと言ったね」
「おんや。・・・はてさて何とも珍妙なぁ~。邪獣が闇属性を帯びた神気に当てられ浸食ですかぁ~。ありゃりゃ。貴女亜神ですなぁっ!・・・はてさて、貴女は神格をどちらにぃ~?はい」
リビングルームセットを設置した空飛ぶ大きな絨毯のソファーに寛ぐ、フォルティーナ、chefアランギー様、マリレナさん、ミューさん、ヴィルヘルム殿、イニャス首相、ルーク財務大臣が、俺達の後方に現れた。
神茶と菓子と談笑。実に楽しそうだ。
「おや、ここはいったい・・・?おっ!ロイク殿。ロイク殿っ!ここは、いったい何処ですかな?・・・バイタリテ宮殿にこの様な場所は無かったはずですが」
「陛下。大海水の祠は祭壇のみです。この様に立派な社はぁ~・・・しかし美しい社ですなぁ~」
「はて、見覚えがぁ~・・・何処かで見たよぉ~な・・・・・・あぁ~・・・そ、そうです。ここは海です。陛下。ここは海の祠です」
「何だと。ルーク」
「ルーク財務大臣。ここは海の祠なのか?」
「間違いありません」
ありがとうございました。