4-6 石化の解除と、呪いの解呪。
俺達は、ティータイムの真っ最中である。
とっても落ち着かないティータイムだ。さて、どうしたものか。
「≪『知ってると思いますが、どういう訳か宝物庫の中には、親父がいます』→フォルティーナ≫」
「≪『そうなのかね。知らなかったね』→ロイク≫」
フォルティーナは、ニヤニヤとほくそ笑んでいる。
白々しい。
「ねぇロイク」
「はい、何でしょう」
「メアリーママさんが言っていたわ」
あっ!・・・そういやぁ~母さんの事忘れてた。
「母さんがですか?」
「えぇ。おとうさまは何処に行ったのかしら?見かけたら、メアリーママさんが探している。と、伝えて欲しいそうよ」
えっと・・・母さん。親父なら、宝物庫の中に石化した第1王子と一緒に居ます。
「マルアスピー。母さんはどうしてました?」
「仮装舞踏会を楽しんでいたわ」
「そ、そうですか」
「ロイク様。私、人間のパーティーは初めてだったのですが、仮装舞踏会とは求愛。儀式に近い物なのでしょうか?」
求愛?儀式?
「アルさん。言ってる意味が分からないです」
「神鳥に限らず鳥類にとって求愛は神聖な儀式なのです。個性豊かな住居を調え、着飾り歌や踊りを披露し異性の心を射止める。鳥類は全身全霊をもって愛を表現します。仮装舞踏会はとても似ていると感じました」
フォルティーナの話だと思い思いの姿に変装した者達が音楽に合わせ踊り狂うのが仮装舞踏会だって。あいつまた適当な事を言いやがったなぁ~。
「アル様。きっとそうですよ。一夜限りの熱く激しいLOVEをと私も求愛されました」
「マリレナ殿。それは求愛ではありません」
「え?バジリア。違うのですか?」
「違うと断言します。求愛の名を汚す邪なる者の戯言です。マリレナ殿には無縁の存在です。忘れてください」
この仮装舞踏会はララコバイア王国の国王ヴィルヘルム殿が主催した最上級パーティーだ。見た限り国賓も多く招待されてるし、そうなれば必然的に取り入ろうと近付く者もいるだろう。国家や貴族家レベルの思惑、政治的に様々な思惑がぶつかり合う駆け引きの舞台になっちゃうんだろうな。
「フゥ~ム。妾も色々と楽しませて貰ったがぁ~この国の者は男も女もギラギラと輝きでビチビチと貪欲で良いのぉ~。のう旦那様。そうは思わぬか?」
思いません。・・・と言うか、それの何処を楽しめたんですか?
「おんや。私とした事が忘れておりましたぞぉ~。はい」
「神アランギー様。つ、次は何でございましょうか?」
「あぁ~いやいや。イニャス・フォン・リンプールよ。違いますぞぉ~。忘れていたのはですなぁ~。陛下と陛下の御家族の皆様にですぞぉ~。はい」
「俺達にですか」
「左様。今から大切な事を1つ伝えしますぞぉ~」
「大切な事ですか」
急に改まったりして、いったいどんな事だろう。
「先日知ったのですが、この国は性に対し非常に大らかで野生的。コルト下界に魔導具【身分カード】が普及するまではぁ~、いったい誰が父親なのか分からない。そんな面白可笑しな子供がたっくさ―――んいたそうですぞぉ~。創造されし当時のまま野生の感覚を失わずヒュームでありながらのワイルドライフ。いやはや時には呪いも役に立つ物なのですなぁ~。実に素晴らしいですぞぉ~。種を絶やす事なく未来へと繋ぐ、この世知が無い世の中にあって、多くの存在がこれを率先しているのです。陛下にも少しは見習って欲しい物ですなぁ~。はい」
何て言うか。そ、そうなんですね・・・。あ?今呪いって、そういえばさっきフォルティーナも呪いの解呪がなんたらって言って様なぁ~。気のせいだよな。
「ア・・・アシュランス王国国王陛下。そ、それはですねぇ~・・・あれです。綺麗な女性に声を掛けないのは失礼な事でしてぇ~、セクシィ~な男性に声を掛けないのは恥その物でしてぇ~」
「そ、そうですか・・・」
「何と言いますか。あぁ~、私達は愛を探す。愛を探し求める狩人なのです」
何処かで聞いた様な話だ。・・・何処だっけ?
「王妃様方よ。お気を付けくだされ。はい」
絡まれた後みたいだし。正直、ちょっと遅いかな・・・。
「そろそろ。茶にも飽きたね」
「おぉ~。それでは宝物庫の方へ」
「うんうんだね。まぁ~、皆でゾロゾロ行くのも何だね」
皆で行かなきゃ良いだけだと思うんですが。
「ジャック隊長とエリウスと俺の3人で行って来ますよ」
「それは、面白くないね」
でしょうね。面白さを求めた覚えもないし。
「でだね。この国は王族を始め仮装してる者達に大海水の呪いが蔓延してるね」
セアンの呪い?あっ!やっぱりさっきchefアランギー様は呪いって言ってたのか。良かったぁ~。聞き間違いじゃ無くて。
「女神フォルティーナ様。セアンの呪いとはいったい何の話でしょうか?」
「イニャス、お前は知らないのかね?」
フォルティーナ。知ってたらそんなに驚かないと思いますよ。
「は、はぁ~、も、申し訳ございません」
「ジャック、お前はどうだね?」
「私もセアンなる呪いに心当たりはございません」
「フォルティーナ。セアンの呪い?でしたっけ、もしかしてその呪いですが111年前に王城の地下3階に運び込まれた石化した解呪士達と関係していませんか?」
「な、何と。あの呪いに王族の方々まで侵されて。まさか王子殿下はそれでぇっ!!?」
「それとは別の呪いだね」
あぁ~違うんですね。
「ちっ!違うぅぅ。・・・ふぅ~良かった良かった」
イニャス首相の叫びにも似た声を、フォルティーナはいつもの調子で遮る。
「アシュランス王国国王陛下。驚かせないでください。寿命が2~3日縮むところでした」
いやいやイニャス首相。ルーカス第1王子は石化してる訳で、それに皆さん呪いに侵されてるんですよ。安堵してちゃダメでしょう。
「女神フォルティーナ様。では、ルーカス王子殿下は何故石化してしまったのでしょうか?」
「ジャック。それはだね」
「そうです。女神フォルティーナ様。いったいセアンの呪いとは何なのですか?」
「イニャス。あたしはジャックと話してるね」
「はっ!こ、これは、も、申し訳ございません」
やばい。これ、フォルティーナが、・・・・・・丸投げする時のパターンだ。
「あぁ~・・・面倒になって来たね。イニャス、ジャック。皆まとめてにするね」
≪パチン
フォルティーナは、指を鳴らした。
・
・
・
俺達は、謁見の間へと転移移動した。
≪ガヤガヤガヤガヤ
俺達以外にも謁見の間に転移移動或いは強制召喚された者達がいた。彼等は事態を呑み込めず落ち着きを失っていた。
≪ガヤガヤガヤガヤ
「は~い。注目だね」
≪ガヤガヤガヤガヤ
彼等はララコバイア王国の王家カトラ家に名を連ねる者達である。
・
・
・
「煩いね。静かにするね」
≪パチン
フォルティーナが指を鳴らすと、
≪・・・・・・・・・
謁見の間は当然の静寂に包まれる。
フォルティーナは満足したのだろう。満面のドヤ顔。つまり非常に残念な表情で、言い放った。
「うんうんだね。今からお前達の呪いをロイクが解除するね。感謝するね。は~い。ヴィルヘルムから順に並ぶね」
やっぱり、丸投げして来たか。こうなると思ってました。
・
・
・
俺の前にヴィルヘルム殿がやって来た。
「・・・・・・」
うん?
身振り手振りで何かを訴えるヴィルヘルム殿。
「アヒル?」
首を振るヴィルヘルム殿。
違うのか。
喉を指差し、アヒルの真似をするヴィルヘルム殿。
「・・・・・・・、・・・・・・・・・」
「喉が渇いたから、ガァーガァーガァー」
首を振られた。
違うのか。何なんだ急に。
「ヴィルヘルム殿。申し訳ありませんが遊んでる暇はありません。呪いについて確認しなくてはいけない事があるんで、伝言ゲーム。あぁ~ジェスチャーゲームでしたっけ。取り合えずまた後でお願いします」
「・・・」
喉を力強く指差すヴィルヘルム殿。
ララコバイア王国は近くて遠い国だ。ゼルフォーラ王国やアシュランス王国とは違うって理解しないとな。
「ヴィルヘルム殿。ちょっと待っててください。フォルティーナ。大海水の呪っていったい何ですか?」
俺は、正面で激しく腕を動かす国王ヴィルヘルムから、左隣に立つドヤ顔を決めたフォルティーナへと視線を移す。
「何を言ってるね。もう少し詳しく視てみるね」
詳しくって神眼でって意味だよな。
俺はいつもより神眼を強く意識し、正面に立つ国王ヴィルヘルムへと視線を戻し、そして少し奥にある玉座の前に置かれた第1王子の見事な石像を見やる。
・
・
・
***********************
≪ロイクの神眼による視認情報≫
※意図的に視認レベルを下げている※
※今は少しだけ視認レベルを上げている※
【名前】ヴィルヘルム・カトラ
【性別】男
【年齢】52
【身分】国王
【状態】沈黙
≪役職≫
1.国家元首
2.王国軍司令部最高司令官
3.王国軍統合参謀本部最高顧問
4.王族霊廟守
★警戒レベル2★
【状態】大海水の呪い
※大地石の呪いに酷似※
≪大海水の呪い≫
年を追う毎に異性への関心が強くなる。
興奮と満足が比例する様になる。
≪原因≫
1.大海水の祠に不適切な存在が宿る。
2.大海水の祠に宿りし水の精霊の怒り。
3.1か2いずれかの状態におかれた
大海水の祠の水を摂取した。
4.原因不明。
―――
【名前】ルーカス・カトラ
【性別】男
【年齢】20
【身分】第1王子
【状態】石化
※解呪返し※
≪役職≫
1.国王名代(公務の1部のみ)
★警戒レベル1★
【状態】大海水の呪い
≪大海水の呪い≫
年を追う毎に異性への関心が強くなる。
興奮と満足が比例する様になる。
≪原因≫
1.大海水の祠に不適切な存在が宿る。
2.大海水の祠に宿りし水の精霊の怒り。
3.1か2いずれかの状態におかれた
大海水の祠の水を摂取した。
4.原因不明。
***********************
性に対し大らかなのって、呪い?
「ルーカス第1王子の石化の原因は呪いを解呪しようとした際の解呪返しで。でもって、大海水の呪いは石化とは無関係な訳か」
そうだなぁ~。大海水の呪いは何も言わずに解呪しておこう。それがこの国の為になる気がする。
「それでは、始めます」
神授スキル【オペレーション】発動 ≫
大海水の呪いを、あ?沈黙の状態異常・・・。ま、2つとも切り取っちゃえ【レッシェン】 ≫
あっ。この呪いは持って無いし【シュナイデン】して【ゲーベン】するべきだったな。沈黙と一緒に【レッシェン】しちゃったよ。次の解呪の時に回収回収っと。
これで終わると何もしてない様に思われるかもしれないから。精霊聖属性下級魔法【ベネディクシヨン】☆1☆1☆1それぞれの☆1を1万分の1で発動 ≫
国王ヴィルヘルムの身体が、柔らかな金色の光に包まれる。
おかしいなぁ~。かなり抑えて発動したのに、これって、聖母の繭【ノートルダム】だよな。・・・まぁ~今は良いや。
「終わりました」
「ん?も、もう終わったのかね?・・・あれ、声が、声が出る」
「はい。解除し、いえ、呪いは解呪しました。もう大丈夫です」
「そ、そうか。ロイク殿。感謝する」
フォルティーナぁ~。さっきのパチンは・・・。いや、今は黙っていよう。呪いって事にしておこう。その方が良い事もある。そう思う。
・
・
・
「さぁ~次はルーカス・カトラだね。ホラ、さっさとするね」
・・・何言ってるんだこいつ。
「フォルティーナ」
「何だね」
「あれが何か分かるりますか?」
「ルーカスの石像だね」
「だな」
分かるみたいで何よりだ。
「・・・さぁ~ロイク。石化を解除してからだね。呪いを解呪するね。さぁ~今だね」
こ、こいつは・・・。まぁ~良い。サクッと終わらせてゆっくりしよう。
俺は、ルーカス第1王子の前へ移動した。
「石化を解除します。少し離れて貰えますか?」
「エステル。こっちへ来なさい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
王妃エステルは、パクパクと口を動かし、何かを訴えている。
「分かった分かった」
え?ヴィルヘルム殿。今のが分かったんですか?
「・・・・・・・・・・・・・・」
「そうだな。女神フォルティーナ様とロイク殿に全てを委ねて間違いはない」
「・・・・・」
王妃エステルは、首を振る。
反対してる様に見えるけど。違うのか?
「ロイク殿。頼む」
「・・・・・・・・・・・・」
王妃エステルは、石像と俺の間に立ちはだかる。その表情は俺を威嚇していた。
「ヴィルヘルム殿」
「エステル。感謝の気持ちを抑えきれず、抱擁したい気持ちも分からなくもないが今は我慢しなさい。まずは、呪いの解呪が先であろう」
え?・・・感謝の表情?
「ロイク。さぁ~今だね」
怒ってる様に見えるんですけど・・・・・・・・・近くて遠い国か。
俺は第1王子ルーカスの頭の上に手を置いた。
神授スキル【オペレーション】発動 ≫
ステータスから石化を【レッシェン】発動 ≫
俺は、石化を切り捨てると同時に、
精霊聖属性下級魔法【ベネディクシヨン】☆1☆1☆1それぞれの☆1を3万分の1で発動 ≫
カムフラージュの魔術を発動させた。
第1王子ルーカスの身体が、淡く白い光に包まれた。
あれ、次は弱過ぎたのかな?・・・まぁ~光ったし良いか。
「あれ?僕は・・・確か・・・」
「ルーカス」
「ち父・・・陛下。こ、これは違うのです」
「ルーカス。全てを話すのだ」
「い、いったい何の事やら」
「ルーカス。咎めはせぬ。お前を石化させた者は何処の誰だ?その者の名を言いなさい」
「陛下。・・・それは出来ません。陛下は御存じのはずです。この国が過去に何をしたのか。申し訳ありませんが、父・・・陛下であってもその者の名を申し上げる事は出来ません」
「当時と同じ事をするとでも?」
「王国の威信の為、誰かがそうするかもしれません」
「あぁ~。ちょっと良いかね。ルーカス。少し黙ってるね」
≪パチン
「・・・・・・・・・・・・・・」
「え?・・・これは」
ヴィルヘルム殿と俺の視線が合う。
「あぁ~何て事だ。まだ解呪してない呪いが進行しちゃったみたいです」
「そうだねロイク。石化の解除の次は呪いの解呪だね。サッサとやるね」
・・・お前なぁ~。
≪パチン
フォルティーナは、再び指を鳴らした。
「ちょっとフォルティーナ。今のは、いったい何ですか?」
「指を鳴らしただけだね」
ニヤニヤとほくそ笑む。残念な女神様が俺の目の前にいる。
「違いますよね?」
「何を言ってるね。夫は妻を信じる物だと相場が決まってるね」
次は何をやらかしたんだぁ~。
「サクッと終わらせたいんです。邪魔しないでください」
・
・
・
「陛下。怪しい女が謁見の間に突然現れましたので取り押さえました。如何致しましょう」
王城警備隊南組隊長ジャックが、1人の女性を取り押さえ、俺達の前に連れて来た。
「ち、違う。私は違う」
「何が違う。その腰の得物は殺傷力の高い暗殺用の短刀ではないか」
「違う。これは護身用だぁっ!」
「謁見の間に暗殺用の短刀を装備し侵入しておいて何が護身用だ。ふざけるのもいい加減にしろ」
「違う。私はラルフへ向かう馬車に・・・」
「何を白々しい。ここはフィアテル宮殿の謁見の間だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ルーカス第1王子は、ジャック隊長に捕まった女性を見て、口をパクパクと動かしていた。
「ルーカス。この者を知ってるいるのか?」
国王ヴィルヘルムは、息子ルーカスに問いかけた。
「・・・・・・・・・」
パクパクと口を動かすルーカス第1王子。
「何を黙っておる」
えっと、それ、フォルティーナのせいです。済みません。
「その女の件は後にするね。さぁ~ロイクやっておしまいだね」
・・・もう慣れたはずなんだが。・・・我慢だ。何も言うまい。
「・・・解呪を再開します」
神授スキル【オペレーション】発動 ≫
「待つね」
「何ですか?」
「良い事を思いついたね」
「それ、後でお願いします」
「良いから聞くね」
あぁぁぁ~。長くなるパターン来ましたぁ~。来ちゃいましたぁっ!
「まずは、ここに居る者の呪いは解呪するね」
今まさにその予定で動いてるんですけど。
「この呪いに侵された者を1人1人解呪するのは無理だね。それで思ったね。大海水の祠の湧き水をラワルトンクの者は飲料水にしてるね。飲料水を解呪の水にするね」
「はぁ~?」
「だからだね。大海水の祠の湧き水を解呪の水に変えるね」
「過去に飲んだ人で、今はもう住んで無い人とかはどうするんですか?」
「仕方ないね。継承する訳でも無いし諦めて貰うね。運が無かったね」
おい。貴女は、
「運の女神ですよね?」
「何が言いたね」
言ったら長くなるな。黙ってよ。
「と、特に意味はないです。はい・・・」
「・・・分かったね。暫くの間だけだがだね。幸運の神殿の湧き水も解呪の水にするね。あたしも随分と甘ちゃんになったものだね。まったくだね」
「そんな水ありましたっけ?」
「何を言ってるね。夢見る信者達の活力の源を忘れたのかね」
・・・・・・それ御酒ですよね。
ありがとうございました。