4-5 トップ・トップ・シークレットと、セアンの呪い。
「神アランギー様。神獣エリウス様。アシュランス王国国王陛下。我が国のトップ・トップ・シークレットで盛り上がっておられる様ですなぁ~」
舞踏会が始まる寸前に、シャンデリアの事を教えてくれた神官ことララコバイア王国の首相イニャス公爵が、気になる言葉と共に割って入って来た。
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≪ロイクの神眼による視認情報≫
※意図的に視認レベルを下げている※
【名前】イニャス・フォン・リンプール
【性別】男
【年齢】62
【身分】公爵家当主
≪役職≫
1.首相
2.王国軍統合参謀本部顧問
★警告レベル3★
【状態】大海水オの呪い
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顔がそのまま見えている為、神眼を意識するまでもなく、首相のイニャス公爵だと分かる。
ララコバイア王国のトップ・トップ・シークレット?・・・chefアランギー様の話の内容は国家機密って事か?
「こ、これは、首相閣下」
王城警備隊南組隊長ジャックは、強く握りしめた右手の拳を左の胸の前に構え軽く会釈した。
「仮装舞踏会の最中に、略式とはいえ騎士の礼は無粋です」
「はぁっ!も、申し訳ありません。つい癖で・・・」
「ところで、ジャック殿。ブレス卿の姿が見えぬのだが、心当たりはありませんかな?」
「ど、どうして私がジャックだと・・・」
「仕草や声で分かります。それで、ブレス卿の件なのですが」
「仮装の意味がぁ~・・・。あぁ~・・・」
「ゴホン」
挙動不審な王城警備隊南組隊長ジャックを見ながら、イニャス首相は咳払いをした。
「あっ!・・・わ、私とした事がと、飛んだ御無礼を」
「幼き頃のままですなジャック殿。それで、ブレス卿は?」
「首相閣下。父ブレスは急な公務の為、本日の舞踏会には出席しておりません」
ちち・・・父・・・・・・父。あれ?そういえば、家の親父は何処に行ったんだ?
「エリウス」
「はい」
「今、気付いたんだけど、家の親父は何処かな?」
「存じません」
「おんや。陛下の愚父殿でしたら、控室への移動の途中トイレに向かわれましたぞぉ~。はい」
それってかなり前の事じゃないか。嫌な予感しかしない。
俺はタブレットの表示画面を眷属に切り替え、親父の居場所を確認する。
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「げっ!」
「陛下?」
「おんや。如何なされましたかなぁ~。はい」
どうして宝物庫の中にいるんだよ。親父・・・。ララコバイア王国の首相と王城の警備隊の隊長の目の前で宝物庫の話はまずいよなぁ~。
「≪『chefアランギー様。どうしてなのかは分かりません。親父の奴、この宮殿の宝物庫の中にいるみたいなんです』→chefアランギー様≫」
「≪『おんや。どれどれぇ~・・・・・・・・・おんやまぁ~。ルーカス・カトラと一緒の様ですぞぉ~。はい』→ロイク≫」
「≪『ルーカス・カトラ?』→chefアランギー様≫」
「≪『この国の第1王子の様ですぞぉ~。はい』→ロイク≫」
親父の奴、宝物庫の中で王子と何やってるんだ?って、あそこにいるビーバー!!!
俺の視界に、ビーバーこと第1王子に仮装したベンが入る。
紹介された時から王子ではなかった。ビーバーこと第1王子に仮装したベンという男。そして、宝物庫の中に親父と一緒にいるという本物の第1王子ルーカス。・・・親父。・・・確実に、・・・問題起こしてるだろう。
「≪『ビーバーと、宝物庫にいる第1王子。どう考えますか?』→chefアランギー様≫」
「≪『ふむふむ。ここは1つ正攻法と行きましょう。はい』→ロイク≫」
正攻法って、まさかぁっ!
「イニャス・フォン・リンプールよ」
普通に聞くとか言わないよな。
「は、はい。神アランギー様」
「ルーカス・カトラの件で話があるのではありませんかなぁ~。はい。それとですなぁ~。アウフマーレライ城の地下には些か複雑な事情がある様ですなぁ~」
直球ではない。直球ではないが・・・。
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俺達は、フィアテル宮殿内にあるフォン・リンプール公爵家の当主の部屋へと移動した。
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舞踏会の会場大広間には、耳が多い。
「そ、その話なのですが、・・・・・・ここでは好ましくありません。・・・・・・あぁ―――会場の熱気にあてられてしまった様です。私の部屋で少し休みませんか?ティータイムというのは如何でしょうか?」
「おんや。やはりそうでしたかぁ~。そうではないかと思いましたぞぉ~。はい」
白々しいが、正攻法?は、成功したらしい。
「ねぇロイク。私もティータイムにしたいわ」
「はい、何でしょう。って、うわぁっ!!!」
俺の右横にマルアスピーが立っていた。
「どうしたの?突然大きな声を出して」
「いきなりだったんで、驚いたんです」
「そう。大変ね」
・・・・・・はい。大変です・・・本当に・・・。
「これはこれは王妃マルアスピー様。聞きしに勝る御美しさ、御伽噺に登場する麗しのヴァンパイア。吸血姫は恐怖と死の象徴のはずなのですが、心奪われ虜になってしまいそうです。美し過ぎるとは罪でございます」
イニャス首相が何か語り出したが意味が良く分からない。
「今日の私は神官。御伽噺では敵対する関係にあります。ですが、甘美な誘惑もまた・・・・・・あぁ・・・・お・・・・・・ついついいつもの・・・・・・申し訳ございません。先程の話の続きですが私の部屋でティータイムに致しましょう。王妃マルアスピー様。こちらです」
イニャス首相は、マルアスピーをエスコートし歩き出す。俺達は?
「おんや。イニャス・フォン・リンプール。ララコバイア王国の常識は内々に留めた方が良いですぞぉ~。はい」
イニャス首相は、4歩目で足を止めた。
「・・・こ、これは失礼致しました。王妃マルアスピー様の余りの美しさに魅了されておりました。神アランギー様。アシュランス王国国王陛下。御案内致します。それと、フォン・ブレス家のジャック殿も一緒に参られよ」
「はぁっ!首相閣下」
「陛下。私はどうしたら宜しいでしょうか?」
そういや、エリウスは呼ばれて無かったな。
「エリウスも一緒に行きましょう」
「はい」
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ララコバイア王国の六大公爵家の当主には、王城アウフマーレライ城と旧王城フィアテル宮殿に専用の部屋が与えられるそうだ。
公爵家、侯爵家、伯爵家の当主には王城アウフマーレライ城にのみ部屋が与えられ、子爵家、男爵家の当主や、名誉爵位、士爵位、騎士爵位を授爵された者には、アリストクラットエリアからパレスエリアへと続くカトラ門を潜り最初に見えるワイレス宮殿に部屋が与えられるそうだ。
この当主に与えられる部屋の存在が、ララコバイア王国に独自の文化を齎す事になったらしい。
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俺達は、ソファーに腰掛け。
・・・雑談に興じていた。
「ララコバイア王国では、王城や王宮に貴族専用の居住区があるのですね」
「はい。王妃サラ様」
サラさんの質問に笑顔で答えるイニャス首相。
―――
「エリーゼ王女様から聞いた事があります。ララコバイア王国はカトラ王家と六大公爵家によって成立していると」
「王妃テレーズ様は、エリーゼ第1王女殿下様と御学友でございましたね。エリーゼ第1王女殿下様は、孫娘でして王妃テレーズ様との学園でのお話は色々と聞いております」
「エリーゼが話してた御爺様というのは」
「前国王カール陛下か私どちらかの事でしょうな」
「へ、変な事、聞いてませんよね?」
「変な事と言いますと?」
「な、何でもありません」
あの慌て様から察するに、あったんだろうな。何か色々と。・・・まぁ~、どうせ若気の至りだ。
―――
興じていた・・・。
「ところで、どうして皆がいるのかな?」
アルさん、フォルティーナ、トゥーシェ2人、マリレナさん、ミューさん、パフさん、アリスさん、サラさん、テレーズさん、バルサさん、メリアさん、カトリーヌさん、バジリアさん、エルネスティーネさん、サンドラさん。
15人は、舞踏会の会場大広間からゾロゾロと付いて来たのである。
「こっちの方が面白そうだからに決まってるね」
「そうなのじゃぁ~」
この2人に関しては無視で良いだろう。寧ろ無視という選択しか無い。
「ねぇロイク。御菓子を出して貰えるかしら」
「もう遅いし太りますよ」
「問題ないわ」
問題しか無いと思うけど・・・・・・。
少しだけ思考を巡らせ、結論に至る。
「そうですね。ティータイムに菓子は常識です」
これで、少しは静かになるだろう。
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嫁許嫁’sが茶と菓子に集中している間に、俺達は話を進めた。
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「呪いを解呪しようとする者を石化させる呪いですか。そんな呪い聞いた事がありません」
ララコバイア王国でも、111年前に石化の呪いが発生していたのか。
「当主と成ったあの日。前国王カール陛下に連れられ王城の地下3階へと足を踏み入れた。当初は私も信じられなかった。精巧に彫られた、ただの石像。人物を描写しただけのただの石像だと思った」
「何故、アウフマーレライ城の地下に運び入れたのですか?」
「資料にはこう書いてあった。解呪出来ぬ呪いと失敗を公には出来ない。魔術に長けた我がララコバイア王国に解呪出来ぬ呪いは存在してはいけない。全てを秘密裏に進める為、呪われし者達に命じ、バスプリト牢獄に石化した解呪士達を運ばせ、その後地下3階から2階へと続く全ての階段を埋めた」
地下3階への階段を全部埋めたのに、地下3階に行ける訳か。なるほど、実に面白い。
「まさか、生き埋めにしたのですかぁっ!?」
「話は終わっておらぬ。まずは聞きなさい」
「はぁっ!も、申し訳ありません」
「地下3階への階段を隠す為、改築を行った。地下2階は旧教の祭事専用の施設として、地下1階は貴族専用の公会堂として、そして地上には王城アウフマーレライ城が建てられた」
「王国の威信を保つ為に、アウフマーレライ城は築城されたのですか」
城や宮殿みたいに大きな建物は国の威光や威信の誇示には都合が良い。
「それとな。呪われし者達は生き埋めにはなっておらん。彼等はネットハルト島に身柄を移され」
「監獄島にですか?」
ララコバイア王国では、カトラ王家の直轄領ネットハルト島を監獄島と呼ぶ者が多いそうだ。
自然豊かな常夏の島は、鉱山資源に恵まれ、王国内の罪人達に強制労働という償いの場を提供する懺悔の地の1つになっているそうだ。
「厳重な監視管理体制の下、一定量の自由が与えられたそうだ」
「彼等は犯罪者では・・・」
「その通り。彼等は犯罪者では無い。この事は、陛下と王弟君。そして六大公爵家の当主にしか知らされていない。ジャック殿。この件はトップ・トップ・シークレット。六大公爵家の1角フォン・プレス家の次期当主のお主なら分かるな」
「・・・は・・・はぁ~」
王城警備隊南組隊長ジャックは、肩を落とした。
「六大公爵家の責務を忘れてはならぬのぞ」
王城の地下3階に石化した解呪士達が運び込まれた事と、監獄島ってところに流された解呪出来ない呪い状態にあった人達の事は分かった。
地下3階へ通じる階段が埋められて、地下2階と1階が改築され、地上には王城が建った。
トップ・トップ・シークレトは、解呪出来ない呪いと石化した解呪士達の事で、地下が牢屋だって事じゃないよな。
「イニャス首相。王城の地下は牢屋だったんですよね?」
「はい。地下1階から地下8階まである監獄だったと聞いております」
「トップ・トップ・シークレットはどのあたりですか?」
「王城アウフマーレライ城の地下に関する全てです」
なるほど。この件は一先ずこの辺りにして、問題の親父の件に移らせて貰おう。
「分かりました。話を変えたいと思います」
「はい。アシュランス王国国王陛下」
「第1王子ルーカス殿の件です」
「アドミン殿。・・・ど、何処まで御存じなのでしょうか?」
姿勢を正した王城警備隊南組隊長ジャックからは緊張感が漂っていた。
「ベンという名に心当たりはありますか?」
「・・・やはり気付いておられたのですね。そうです。第1王子ルーカス様は」
「ジャック殿。それは勅令による緘口令」
「本物のルーカス王子殿下は今朝フィアテル宮殿の宝物庫の中で石化した状態で発見されました。ビーバーに仮装したベンなる男は、王妃エステル様の国王公認の愛人コナン殿が、声が似ている者を見つけたと急遽代役を任せた者です。幸いな事に背丈恰好も近く王妃エステル様を初め王族の方々にも気付かれる事無く事態収拾を図っていたのですが・・・。アドミン殿には全てお見通しだったのですね」
えっと・・・。
「アシュランス王国国王陛下。ゼルフォーラ王国聖王陛下の御前でミラクルを数多く起こされた事は存じております。大樹の英雄としての御力を我が国に。ララコバイア王国に御貸願えませんでしょうか」
「アドミン殿。私からもお願い致します。何卒、御力を御貸くださいませ」
えっと・・・。王子様石化してたんですね・・・。
「陛下。如何致しましょう。はい」
「石化の呪いについては、たぶん直ぐに解決すると思うんですけどぉ~」
「おぉ~~~。流石は稀代の大英雄様。アシュランス王国国王陛下には石化の呪い。いえ、全てがお見通しだったのですな。なるほどぉ~、何と素晴らしい御力。緘口令等何の意味も無かったという事ですな。ハッハッハッハッハ」
えっと、えぇ~・・・。
「首相閣下。アドミン殿を宝物庫へルーカス王子殿下のもとへ御案内しても宜しいでしょうか?」
「うむ。陛下には私から話を通しておく。ルーカス王子殿下の事任せたぞ」
イニャス首相は、立ち上がると、ドアへと向かった。
「はぁっ!首相閣下。アドミン殿。その御力で、ルーカス王子殿下を御救い下さいませ」
えっと・・・。助けるのは構わないんだけど、宝物庫の中にはどういう訳か親父がですねぇ~。
「どうしたね。ロイク。君の大好きな人助けだね。今がその時だね」
フォルティーナはニヤニヤとほくそ笑んでいる。
無視だ。無視。
「あ―――。思い出したね。イニャス。お前に言っておきたい事があるね」
「は、はい。女神フォルティーナ様」
イニャス首相は、ドアの前で立ち止まり、フォルティーナへと身体の向きを変え、直立不動の姿勢で立ち竦む。
「ティータイムは優雅にと決めてるね。慌ただしいのは嫌いだね」
「は、はい・・・」
「分かったかね」
「は、はい。女神フォルティーナ様」
「それでだね。大海水オの呪いの解呪は、ティータイムの後でロイクに頼むと良いね」
ありがとうございました。