4-4 フィアテル宮殿の謎と、古代の王国カトラシア。
トドことララコバイア王国国王ヴィルヘルムの開始宣言から、1時間程経過した頃だ。
謁見の間へと案内してくれた王城警備隊南組隊長ジャックが本日の正装仮装姿で挨拶にやって来た。
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≪ロイクの神眼による視認情報≫
※意図的に視認レベルを下げている※
【名前】ジャック・フォン・ブレス
【性別】男
【年齢】28
【身分】公爵家次期当主
≪役職≫
1.警備隊本部議員
2.王城警備隊南組隊長
★警告レベル1★
【状態】大海水の呪い
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「アドミン殿」
アドミンとは、俺がたまにかたる偽名の1つだ。
「ジャック隊長。先程はどうも」
「あれ?・・・どうして私だと・・・」
あっ、やっちゃったよ。
所持するスキルを馬鹿正直に開示し説明する必要は無い。それは、この世界において常識である。
「歩き方と声で、そうじゃないかと思ったんですよ」
「歩き方ですか。気が付きませんでした。・・・歩き方かぁ~警備隊での癖が染み付いちゃってたのかぁ~。あぁぁ~~~」
王城警備隊南組隊長ジャックは、アシュランス王国大樹の森旧トミーサス大森林域の森林警備隊の警備隊員達に支給している武具に似せた姿に仮装していた。似てるのは形状と色合いだけで、性能や効果は全く違う物みたいである。
歩き方で正体がバレてしまった事がショックだったのか、顔が隠れているにも関わらずその程が伝わって来る。
「ジャック隊長。先程の話の続きの為に態々仮装して来たんじゃないんですか?」
「あぁぁ~~。・・・そ、そうですよ。歩き方は直せば良いだけです。そんなに落ち込む事じゃ無いです。ですよね。アシュラン・・・・・・アドミン殿」
どうやら、微妙なテンションを持っている人の様だ。
「ハハハ。そうだと思います・・・」
さっきの話の続き。それは、謁見の間へ向かっている時の事である。
―――R4075年9月7日25:55頃
「時に陛下。知っておりますかな。このフィアテル宮殿は、王城アウフマーレライ城より遥かに古い建物なのですぞぉ~。はい」
「この宮殿がですか」
俺は、周囲を見回す。
廊下には無駄に高そうなフカフカの赤い絨毯が敷かれ。間隔を空け飾られた無駄に高そうな装飾品や調度品。壁には落書きの様な絵画。天井は夜空の星空を意識したと思われるデザインになっている。
今は輝いていないが、これは暗くなると星が輝く系だ。それにしても、古い建物には思えないや。
「やはり、神様は全てを御存じなのですね」
「おんや。私は料理以外の事には興味ありませんぞぉ~。何かの序に知り得ただけの知識に過ぎません。はい」
・・・神様って凄い。こういう時にだけ特にそう思う。
「そんなに古さを感じませんが、どの位前の建物なんですか?」
「アシュランス王国国王陛下。フィアテル宮殿は建国以前からこの場所に存在していたと文献に残されております」
へぇ~。大ゼルフォーラ王国から旧ヴァルオリティア帝国が独立した後に、ララコバイア王国とか各種族国家って樹立したはずだから、あっ、でも建国時期が定かじゃない国だってマクドナルド卿が言って様な。
「文献に残された記述の存在が厄介でして」
4000年以上も前の事だ。大ゼルフォーラ時代や移行期の研究は余り進んでいないのが現状である。
「厄介な記述ですか」
「はい。この件は、ララコバイア王国に暮らす者なら誰もが疑問に思っている事なのです」
「皆って事ですよね?」
「そうです。学校に通った事の無い者もです」
学校に通った事の無い人までか。いったいどんな疑問なんだろう。
「アシュランス王国国王陛下は我が国の年号を御存じでしょうか?」
「いえ」
ゼルフォーラ王国の聖王歴みたいな物だとは思うんだけど聞いた事がないや。
「我が国の年号はカトラ王家の名をいただきカトラと言います。そして、カトラ元年は王都を現在のラワルトンクに遷都した年だと言われております。今日はルーリン歴4075年9月7日。我が国の年号カトラでは、カトラ4711年9月7日になります」
「遷都って4711年も前なんですか?って、あれ?」
「そうなのです。数字が合わないのです。我が国が王都を現在の場所に遷都する為には、王国が存在している必要があります」
「ですね」
国が王都が無いと遷都出来ないのは当たり前だ。
「建国時期が定かでは無い我が国ではありますが、ヴァルオリティア帝国が大ゼルフォーラ王国より独立した後に誕生した国だということは誰もが知っています。遷都以前から年号カトラが使われていたのではないかと考える学者もいますが・・・」
「今年は、カトラ4711年なんですよね?」
「大ゼルフォーラ王国がゼルフォーラ大陸を統治していた頃から、年号カトラを使っていた。・・・これは流石に無理が有り過ぎます。話が通じません」
「ですね」
「フィアテル宮殿が建国以前からここに存在していたという文献。遷都を機に始まった年号カトラ。残された文献によってフィアテル宮殿は謎だらけの旧王城と言う訳です。ですが、はっきりしている事が1つだけあります。フィアテル宮殿が王城だったのは111年前までで、現王城アウフマーレライ城は築111年だと言う事です」
フィアテル宮殿については何も分かってないって訳ですか・・・。
「陛下。ここが半島だった頃に栄えていたウィザード族の国の話を覚えておりますかなぁ~。はい」
例の話か。この話もおかしなところばかりなんだよなぁ~。
「その話なんですが、おかしいんですよね」
「おかしいと言いますと?」
「半島が500以上の群島になったのって、例のあれのせいなんですよね?」
「エグルサーラの件ですかなぁ~。はい」
「それって、凄い昔の話なんですよね?」
「そうですぞぉ~。スタシオンエスティバルクリュが神々の避暑地だった頃の話ですねっ!懐かしいですなぁ~。はい」
「そんな昔に国があったんですよね?」
「おんや。ありませんぞ。はい」
「え?」
「現在の配置に、サス山脈やトミーサス大森林や西コルト川やサラン川やエグルサーラ島が成ったのは、その頃ですがぁ~・・・・・・。カトラシア半島が500以上の島々に成ったのは、1万年。いえ、3万年程前の話」
「諸島になったのって、つい最近の話だったんですかぁっ!?」
「そうですぞぉ~。はい」
「あのぉ~・・・アシュランス王国国王陛下。今の話はいったい・・・?」
「やっぱり気になります。仮装し身分を隠してる訳だし、俺の事はアドミンって呼んでください」
何に仮装してるのかはサッパリな訳だが。
「か、畏まりました!」
これ、権力を使って話を終わらせちゃった系かも・・・。
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「エリウス。さっきから静かですがどうかしたんですか?」
「主殿おっと、陛下でした。それが、床に敷いてある絨毯が柔らか過ぎて、感覚が変なのです。どうも馴染めないのです」
「硬い地面より歩き安いと思うけど」
「人間にはこれが歩き安いのですね。なるほど・・・」
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「そ、それで、神アランギー様が御話になられておりました。カトラシア諸島が、半島だった頃の国と言うのは・・・、ララコバイア王国は半島だったのですか?」
「むふむふ。違いますぞぉ~。この地が半島だった頃、その頃にはまだララコバイア王国は存在しておりませんですぞぉ~。はい。そうですなぁ~。その頃の事を知りたいのであればぁ~。あぁ~・・・・・・おっ、幸いな事に海に沈んでいない様子ですし、王国の王都フォルヘルルの図書館に行って調べてみては如何ですかなぁっ!はい」
「王都フォルヘルルの図書館?」
「おっと、訂正いたしますぞぉ~。当時の王都のフォルヘルルの図書館ですぞぉ~。はい」
「王都フォルヘルル・・・まさかとは思いますが、フォルヘルル島に王都があったのですか?」
「大部分は沈んでしまった様ですが、その通りですぞぉ~」
chefアランギー様の話を聞き、王城警備隊南組隊長ジャックの動きが止まった。
先頭を歩き案内する者が立ち止まれば、当然のことながら後方を歩き案内される者は立ち止まる。
思案してる様だしそっとしておくことにしよう。急いで無いし。
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「フゥファニー公爵。王都フォルヘルルって、ラワルトンクに遷都する前の王都ですか?」
「おんや、違いますぞぉ~。フォルヘルルは、カトラシア王国の王都ですぞぉ~。はい」
「それって、フォンフォーラ一族が治めていたって国ですよね?」
「その通りですぞぉ~。ハンマーの様な形をした細長い半島を治める王国でしたぞぉ~。私などよりも、生き証人王妃マリレナ様やマクドナルドの方が詳しいのではないでしょうか。はい」
当時の半島の形は兎も角。前時代よりも前の古代文明時代よりも更に前の時代には興味がある。調べてみる価値はありそうだ。
「我が国以前にこの地をウィザード族が支配していたとは・・・ハッハッハ考えもしませんでした。まさかウィザード族が・・・・・・」
「この辺りに、当時のえっと・・・カトラシア王国に関係する何かって残ってないんですか?」
「はて?言いませんでしたかなぁ~。この宮殿がその1つですぞぉ~。はい」
「えっ?・・・ええええぇぇぇぇ――――。神アランギー様。それは誠でしょうかぁっ!?」
ほう。そうなると、この宮殿は1万年以上も前から存在してるって事になるのか。世界最古の建造物って言われてるコルト大聖堂が色褪せて見えそうだ。新しいのに。ハハハ・・・。
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―――R4075年9月7日27:40現在
「先程の話の続きなのですが、このフィアテル宮殿はカトラシア王国時代の建造物なのですよね。同時期に存在していたと文献に残されている建物もその頃の建物なのでしょうか?」
ふーむ。俺に聞かれてもサッパリだ。
「フゥファニー公爵。カトラシア王国時代の物ってこの宮殿の他にありますか?」
「そうですなぁ~。・・・はい。この近くに3つ残っておりますぞぉ~。はい」
「3つもですかぁっ!?」
「ここの他に3つか。結構前の物なのに意外に残ってるもんですね」
「アドミン殿。1万年以上も前の建物が残っているのですよ。どうしてそんなに冷静でいられるのですか?」
冷静?・・・というか、慌てる様な事でも無いと思うが・・・。
「おんや。ジャック・フォン・ブレスよ。面白い事になっておりますぞぉ~。はい」
「面白い?・・・ですか・・・」
「左様。その1つは、フォン・ブレス公爵家の王都邸の様ですぞぉ~」
「フォン・ブレス公爵家の王都邸・・・・・・・・・・・・って、僕の家じゃないですかぁっ!!!!!」
「面白い事もある物ですなぁ~。はい」
「ぼ、僕の家がここと同じ。ここと同じ。うはっ・・・こ、これ凄い事だよ。凄い事じゃないかぁっ!」
「あとの2つはですなぁ~。バイタリテ宮殿おんや今は墓地みたいですぞぉ~。海の祠だったと記憶していたのですがぁ~墓地ですか・・・。まぁ~似た様な物ですし次に行きましょう。もう1つは、王城アウフマーレライ城の下にあります。はい」
えっと、1つずつ聞くしかないか。
「フ」
「神アランギー様っ!」
俺が話し掛けようとした時だ。王城警備隊南組隊長ジャックが大きな声で、chefアランギー様の名を呼んだ。
「は、はい。如何なされたのですかな。些か驚きましたぞぉ~。はい」
俺もビックリしました。
「バイタリテ宮殿で墓地とは、王族の霊廟バイタリテの事でしょうか?」
「おんや。墓地に見えたのは霊廟でしたか。海の祠の痕跡が残っておりますし、バイタリテ宮殿で間違いありませんぞぉ~。はい」
海の祠って、サンガスにあるんじゃ?
「それに、王城の下ってどういう意味ですか?」
「そのままの意味ですぞぉ~。牢屋でしょうかぁ~・・・・・・当時の牢屋の上に、王城を建てたのでしょうなぁ~。なかなか良い立地条件の様ですからなぁ~。はい」
好条件な土地ねぇ~。牢屋だった場所がねぇ~。
「牢屋!?・・・王城アウフマーレライ城は、バスプリト地下公会堂跡地に建てられたはずです」
「おんや。跡地ですかぁ~・・・不思議ですねぇ~。跡地にしては原形を留めた立派な牢屋の様ですがぁ。はい」
「フゥファニー公爵。牢屋であってるんですよね?」
「ですぞぉ~。どこからどうやって見ても立派な牢屋ですなぁ~。はい」
牢屋の場所や存在を隠すのは国にとって普通だとしても、これは何かありそうだ。
「アウフマーレライ城にも当然の事ながら牢屋は存在します。ですが、地下に牢屋があるとは聞いた事がありません」
王城警備隊南組隊長ジャックは、牢屋の存在を強く否定した。
ありがとうございました。