4-3 老師とペンギンと、大広間は古代の魔導具。
仮装舞踏会の会場フィアテル宮殿に到着した俺達は、男女別々の控室超VIPルームへと通された。
はずなのだが・・・。
「あの空飛ぶ絨毯は、アシュランス王国の工房ロイスピーでしか作れないと言うのですかぁっ!」
「左様ですぞぉ~。あれは、そんじょ其処らの魔導具とは全く違う物なのです。はい」
「むむむむぅ―――・・・神具レベル・・・古代文明レベルの魔導具ですよねぇ~・・・むむむぅ~」
移動の途中で拾った女の子が、ララコバイア王国近衛魔術剣士隊の老師ナディア・フォン・クレーフェルト・カトラが、何故か居る。
フゥファニー公爵ことchefアランギー様と俺は、移動中から今に至るまで質問攻めに合っている。
「老師ナディア殿は、舞踏会の準備はよろしいのですか?」
「準備?・・・はぁ~?そんな面白くもない退屈な物に私が出席するとでもぉっ!?・・・良い私はこの国最強の魔術師なのよ。これでも凄く忙しいのぉっ!それにね。アシュランス王や大きなペンギンならいざしらず、招待もされていない従者レベルに心配される筋合いは無いわ」
「おんや。ナディア・フォン・クレーフェルト・カトラよ。エリウスは神獣ですぞぉ~。即ちここコルト下界で言うところのKA・MIですぞぉ~。はい」
「か、・・・かかか神様ぁっ!?」
「老師ナディア殿。私は聖獣から神獣に成ったばかりの新米。ロイク・ルーリン・シャレット様が眷属が1人エリウスと申します」
「あ、アシュランス王は神様を眷属として従えているのですかぁっ?」
「陛下。私は本当にこの姿で舞踏会に参加しても宜しいのでしょうか?何だか心配になって来ました」
「大丈夫ですぞぉ~。馬の神の本来の姿は馬。ユマン族の姿は仮装そのものですぞぉ~。はい」
「フゥファニー公爵もそう言ってるし、そ、それで問題ないのかな。ハハハ・・・」
人の姿に化現する事は仮装だよな。うん・・・たぶん仮装だ。
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「ところで、ナディア・フォン・クレーフェルト・カトラよ。この私、フゥファニー公爵ことchefアランギーも神ですぞぉ~。はい」
「えっ?」
「え?とは、失敬な。こう見えて一応料理を司る神なのですぞぉ~はい」
こう見えてねぇ~。・・・ペンギン。
「あ、アシュランス王国はいったいどうなっているのですかぁっ?か、か・・・神様だらけではありませんかぁっ!反則です。インチキです......
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・ 老師ナディアは、持論を展開中である。
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......理論も常識もへったくれもこれじゃぁ~・・・・・・空飛ぶ絨毯も神授された物なのでは?きっとそうです。私に作れない魔導具なんて・・・。あれは神具だから」
「おんや。それは違いますぞぉ~。虐げられ踏み躙られそれでも生きる事を諦めず望みを持ち続けたヒューム属達を、ヴァルオリティア帝国の支配から解放する際に、陛下が用いた空飛ぶ帆船。空飛ぶ絨毯はその空飛ぶ帆船の技術を応用し小型化した魔導具ですぞぉ~。陛下は私にこう言いました」
ぇぇえ? 俺、何か言ったっけ?
「アランギーよ。私には何が出来るだろうか?」
え?
「何が出来るか?ですか?」
「左様。陛下は、創造神様より来る日に備えよと神授を啓示を与えられし時から、葛藤し続けておられるのです」
え?
「葛藤と空飛ぶ絨毯は別の話です」
「おんや。それは違いますぞぉ~ナディア・フォン・クレーフェルト・カトラよ」
「違う?」
「左様。空飛ぶ絨毯は、来る日の為、陛下が導き出した答えの1つなのですぞぉ~。はい」
えっ?そうだったのか!
「陛下が空飛ぶ絨毯を開発した事により、創造神様はここコルト下界に新たなJOBとスキルを創造なされました。そのJOBとスキルはヒューム属の底上げその物です」
「た、確かに・・・JOB【タピショフール】は従来のJOBをサポートする為のJOBの様ですし、スキル【タピジャンティー】【タピファヴァール】は【MP】に影響を与える素晴らしいスキルです。で、ですが、空飛ぶ絨毯の理論方式とは別の話です」
「おんやおんや。良いですかなぁ~。空飛ぶ絨毯を開発したのは陛下。空飛ぶ絨毯を作ったのも陛下。まぁ~他にも空飛ぶ箒に棒に板に鍋の蓋に靴等もありますがぁ~・・・今は絨毯の話ですからぁ~。はい。つまり、空飛ぶ絨毯は神具では無く工房ロイスピーの新商品魔導具【空飛ぶ絨毯】なのです」
フォルティーナもそうだけど、chefアランギー様も説明したり説得するのが凄く・・・下手だよな。
「・・・アシュランス王は私と同じユマンのはず。アシュランス王に出来て私には出来ないという根拠は何ですかぁっ?」
「ですから無理なのです。はい」
「無理無理って、さっきから同じ事ばかり。せめて宙に浮く方式。理論だけでも御教授をぉっ!お願いします。・・・えっと、・・・あっ・・・アシュランス王!!大きなペンギン様!!」
あっ、アシュランス王とペンギンですか・・・。
深々と頭を下げる老師ナディア。
先程からこれの繰り返しだ。力強く「御教授!」。ペコリと深々とお辞儀。何時もの調子で「無理ですぞぉ~複製する事は叶いませんぞぉ~」終了。力強く「何故ですか!」・・・ループである。
「おんや。それは構いませんぞぉ~」
おっ!エンドレスループが終了した?
「・・・ですが実におしいですなぁ~。はい」
おしい?
「おしい?」
「何故なら?」
≪トントントン
大きなペンギンことフゥファニー公爵は、大きなドアの方へ左の羽?を伸ばし、ホラねっとジェスチャーした。
≪ララコバイア王国王城警備隊南組隊長ジャック・フォン・ブレスと申します。謁見の間へ御案内致します。
老師ナディアの質問攻めは強制的に終了した。
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俺こと何かに仮装中と、フゥファニー公爵こと大きなペンギンと、エリウスことユマンに化現中は、王城警備隊南組隊長ジャックに案内され、フィアテル宮殿の謁見の間へと移動した。
謁見の間では、オットセイに仮装したララコバイア王国の国王ヴィルヘルムと、そのハーレムもとい家族が俺達を待っていた。
「ペンギンは、アランギー様でしょうか?」
「左様。今宵の私はただのペンギン。皇帝ペンギンでも王様ペンギンでもありません。ただのペンギンですぞぉ~。はい」
「それで、えっと・・・そちらのふ・・・たり・・・は・・・ロイク殿とゆ、ユマン・・・ですか?」
「お久しぶりです。ヴィルヘルム国王陛下。ユマンに仮装しているのは私の眷属。エリウスです」
「神獣様のエリウス様でしたか!」
「本日の招待いたみいります」
「神様に神獣様に精霊様。錚々たる皆様に出席していただき。ララコバイア王国の王として感謝感激しております」
「そうですか。ところで、陛下や私のこの格好はおかしくありませんか?」
「な、・・・何と言いますか、な、なかなかお似合いだとお、思います。ロイク殿もエリウス様も・・・」
エリウスは人だとして、・・・俺はいったい?・・・凄く気になるんですけど。
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「ロイク殿。私の家族を紹介します。仮装しているので分かり難いと思いますが、エステル。こ、こちら・・・・・・の、・・・アシュランス王国の国王ロイク・ルーリン・シャレット陛下だ」
「始めまして、陛下。私は、ララコバイア王国が国王ヴィルヘルム・カトラ8世が妻エステル・カトラと申します」
カバに変装してるのが国王ヴィルヘルムの奥様ですか・・・。トドとカバねぇ~。
紹介と挨拶が続く。
「陛下。ルーカスと申します。御会い出来て光栄です」
ビーバーは第1王子?あれっ・・・ルーカス?
「国王陛下。私はシーナと申します。こんな格好で失礼致します」
「ロイク殿。シーナは私の妻の1人で、我が国では公妃と呼ばれている」
あっ、はいはい。
「公妃ですか?」
「我が国では、エステルを王妃。シーナを公妃。リディアを貴妃。エデンを優妃。ここにはいませんが、美妃。愛妃。華妃。あと何だったかな。多すぎて忘れたわ。ワッハッハッハ」
奥さんがいっぱいいるのか。凄いな。って、他人の事言えないや・・・。
「なるほど」
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公妃シーナ レッサーパンダ
第2王子フレルク 骸骨でロングコート
第5王子グリシャ アヒル
貴妃リディアーヌ 黒猫
第1王女エリーゼ 御伽噺に出て来る精霊
第3王子ミッターはゼルフォーラ王国の
聖都モルングレーに留学中との事だ。
優妃エデン 魔獣ラビットウルフ
第4王子ライナルト 騎士
※鋼色のフルプレートを着込んでるだけ※
第6王子ホレス アースドラゴン風
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神眼を使えば、誰なのかは直ぐに分かるので、簡単に聞き流した。
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俺達3人は、舞踏会の会場大広間へと移動した。
キラキラと光輝く真っ白な大理石の床。大きなシャンデリアが10個も飾られた天井。柱は1つも無い。
まさに大広間。
「驚かれましたか?」
キョロキョロと天井を見回していると、声を掛けられた。俺は、視線を声の主へと動かす。
神官?あっ仮装中かぁっ!・・・。
神眼を意識する。
イニャス・フ
「私は、この国の公爵で首相のイニャス・フォン・リンプール。この広い空間を柱も無しに支えているのは、古代遺跡から出土した、あのシャンデリアなのです」
神官は公爵で首相。あのシャンデリアは古代遺跡からの出土品な訳かぁ~。へぇ~~~。
「ぶら下がってるのに支えてる。不思議な話に聞こえるかもしれませんが、天井にぶら下っているシャンデリアは全て古代文明時代の魔導具なのです」
空飛ぶ絨毯みたいな物なのかもしれないな。
≪♪~♪~♪~~~
大広間の一角に待機していたオーケストラが音楽を奏で始める。
≪ターン ターン ターン
猿が床に敷かれた木の板に、長い木の棒の先端を打ち付けた。
「国王陛下。王妃陛下。王族の皆々様がお入りになられます」
≪♪♪~♪♪~~~♪―――
入場の音楽があるのか。凄いな。
音楽が、力強く速いテンポに変わった。それと同時に、天井や壁や床を重低音が駆け巡り、大広間の空気が揺れる。
≪シャラシャラシャラシャンシャンシャン
天井を飾るシャンデリアが小刻みに揺れオーケストラが奏でる音楽とは別の音楽を奏で始めた。
王族の入場にここまでやるのか。・・・うん?
シャンデリアから自然魔素が発生してるみたいだけど、あれって何だ?
「≪『パトロン殿よ。あれは、ソルダイヤモンドですぞぉ~。はい』→ロイク≫」
「≪『あぁ~なるほど。古代遺跡から出土したって言ってし、魔晶石が普及する以前の魔導具って事ですね』→アランギー≫」
「≪『古い魔導具なのは確かですなぁ~。はい。ですが、それ以前の問題でしょうなぁ~。会場全体が魔導具に限りなく近い物と言ったら良いと言いますかぁ~そんな感じですなぁ~。はい』→ロイク≫」
「え?」
≪♪~♪♪・・・・・・・・・
音楽が鳴りやむ。
大広間に集まった。ゼルフォーラ王国、ドラゴラルシム王国、アイゼンタール王国、ズィスパール王国の大使や貴族。そして主催国ララコバイア王国の貴族や上流階級と思われる者達が一斉に、玉座に向かって膝を付き頭を下げた。
えっと・・・確か、俺は付いちゃいけない場面だったはず。
≪ターン ターン ターン
「国王陛下の御前であるぞ。頭が高ぁ~い」
長い木の棒を持った猿がこっちを睨み付けている。
俺達?
「内務卿。あちらの方々は世等が頭を下げるべき方々ぞ」
「すると・・・」
長い木の棒を持った猿は、ダニエル・ピーター伯爵。どうやらララコバイア王国の内務大臣みたいだ。
内務大臣ダニエルは、ゆっくり唾を飲み込むと、俺達から視線を外す。
「今宵は仮装舞踏会。身分に関係無く楽しもうぞ。音楽を」
「畏まりました」
≪ターン ターン ターン
猿こと内務大臣ダニエルが長い木の棒の先端を床に敷いた木の板に打ち付けると、オーケストラが再び音楽を奏で始めた。
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「ロイク。こっちだね」
フォルティーナが俺を呼ぶ声が聞こえる。こっち?・・・こっちってどっちだ?
大広間は既に賑やか過ぎる状況にあった。
ありがとうございました。