4-2 空飛ぶ絨毯と、魔剣隊の老師ナディア。
仮装舞踏会の会場フィアテル宮殿は、王城アウフマーレライに隣接する王宮内王族聖人教会の正門から約3.3Kmの距離にある。
従来通りの規格の一般的な馬車で、美しく優雅な庭園を楽しみながらのんびり緩歩移動するとして、所要時間は約40ラフン。
40ラフンと言っても通じるのは、時間や時計の概念を持っている俺達くらい。
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俺達は便宜上、この世界の1日を30時間。
光の時間の朝6:00から正午15:00までの9時間を午前。光の時間の正午15:00から闇の時間の晩24:00までの9時間を午後。闇の時間の晩24:00から真夜中30:00=深夜0:00から光の時間の朝6:00までの12時間を夜又は宵。と、共通した認識で統一している。
30ジカンは1800ラフン。1800ラフンは108000カウン。つまり、1ジカンは60ラフン。60ラフンは3600カウン。
「それじゃ、30ラフン後にここに集合ぉ~!」
「それじゃ、16:30にここに集合ぉ~!」
「4カウン数えたら撃ち込んでぇっ!」
等など、今ではこんな会話が余裕で成立する。
ただし、フォルティーナが創造し、俺が大々規模に改良し、創造神様が検品監修した最新型の半神具【モントルアプレ】が必要だ。
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【名称】モントルアプレ(Ver.3)
【分類】高性能な腕時計
【等級】半神具
【創者】フォルティーナ(一応女神様)
【二次創者】ロイク
【検品監修】世界創造神様
≪初期型の機能≫
1.時計
2.念話
3.聖属性下級魔術【天使の輪】☆1☆1☆1
※【MP】消費5で【HP】回復100※
4.位置報告
※後に判明した機能※
5.スキル【リュニックファタリテ】
※本人以外装備不可※
≪最新型の機能≫
1.時計
2.タイマ&カウント
3.聖属性下級魔術【天使の輪】☆1☆1☆1
※【MP】消費5で【HP】回復100※
4.スキル
【イヴァリュエイション・ステータス】
※自身のステータスのみレベル10で可能※
※ステータス値【BONUS】の確認も可能 ※
※視力、肺活量、体重、身長、座高、股下※
※バスト、ヒップ、ウエスト、等々 ※
※詳細情報を確認可能 ※
5.スキル【状態異常耐性】☆3
※☆3までは100%回避※
※人為的な悪意に限定※
※☆10を付与しようとしたが☆3へ※
6.ロイク創造スキル【リラグレイゾン】☆3
※毎時【HP】回復300【MP】回復100※
※☆10を付与しようとしたが☆3へ※
7.ロイク創造スキル【収納管理】☆3
※300Kgまで収納管理可能 ※
※神、精霊、聖邪獣、人間、魔獣、獣、※
※触れられない物は収納不可 ※
※時間の理の外、時間の干渉を受けない※
※☆10を付与しようとしたが☆3へ※
8.スキル【リュニックファタリテ・改】
※管理収納スペース使用率0% ※
※収納管理しているだけで1から7の ※
※機能を全て利用可能 ※
※紛失時(30m離れると)自動回収 ※
※許可無く第三者が触れた場合 ※
※強制麻痺1日。耐性所持の場合 ※
※強制睡眠1日。耐性所持の場合 ※
※強制気絶1日。耐性所持の場合 ※
※強制拘束(神授スキル【時空牢獄】)※
※ロイクへアラームが送られる ※
≪監修後≫
1.旧機能2 → 停止
2.旧機能4 → 停止
3.機能5☆10 → ☆3
4.機能6☆10 → ☆3
5.機能7☆10 → ☆3
6.スキル【リュニックファタリテ・極】
※神とロイクの眷属のみに指定可能※
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時間を知りたい時は、知りたいと思うだけで、時間を認識する事が出来る。慣れるまでは声に出すとスムーズらしい。
たとえば、時間を知りたければ「ウール」。時間をカウントしたければ「コンテ」。UPやDOWNは心象で操作。天使の輪を使いたければ「ヒール」。ステータスを確認したければ「イヴァリュエイション・ステータス」。収納管理取り出したければ「ストレージ」みたいな感じだ。
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従来通りの規格の一般的な馬車が常歩1時間で、ゼルフォーラ王国の規格の正街道を進める距離は約14Km。常歩よりものんびりな馬にとっては苦痛とも言われる緩歩で進める距離は1時間で約5Km。
パレスエリア内の道は、ゼルフォーラ王国の準街道の規格より若干劣っている様だ。もしかしたら40ラフンでは無理かもしれない。
馬車や輓獣車で移動したらの話だけど・・・。
今、俺達は空飛ぶ絨毯で移動している。
ララコバイア王国側からは、案内役のレッカー・キューネル司祭と教会騎士10名の11人。アシュランス王国側からは、神様精霊様を含め36人。
47人全員が空飛ぶ絨毯で移動している。
俺は、リビングセットを固定した空飛ぶ絨毯のソファーから身を乗り出し、周囲を確認する。
空飛ぶ絨毯が地上3mの地点まで浮かび上がり前進を開始すると、驚き不安げな表情を浮かべ立ち竦んだり、腰を抜かし絨毯にしがみついたり、良く分からない奇声を上げたりしていた教会騎士達やアシュランス王国から連れて来た世話係達。
そんな彼等も、飛行時間が20ラフンを過ぎた今では、1人乗りの空飛ぶ絨毯の快適さを理解し、空飛ぶ感覚や地上3mからの景色を楽しむ余裕が出て来た様だ。
うん。良い感じだ。
俺は小さく頷くと、眼で合図を送った。
「おんや。そろそろですかな」
「神アランギー様。そろそろと申しますと?」
「正創生教ララコバイア王国王都ラワルトンク王宮内王族聖人教会司祭レッカー・キューネル。ふ~む・・・些か長過ぎますねぇ~。そうですねぇ~・・・司祭と呼ぶ事にしましょう。はい。それで司祭」
「はい。神アランギー様」
「空飛ぶ絨毯で移動する際に役立つ【サポート】JOB......
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・ 説明中
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......ロイク・ルーリン一族付与JOB【タピショフール】。そして、適正を持つ者であればセンススキルに所持可能な【タピジャンティー】と【タピファヴール】。タピジャンティーは、絨毯での移動時に消費する【MP】を抑え、タピファヴールは【MP】の最大値が上昇します。まぁ~何と言いますかぁ~。適正が無くてもライフスキルにレベル3までは所持可能な訳ですので問題はありませんね。はい。因みにですがぁ~、タピジャンティーのレベル3は消費【MP】20%カット。タピファヴールのレベル3は【MP】の最大値が12%アップしますぞぉ~。はい」
「空飛ぶ絨毯の操縦にはサポートJOBのタピショフールが必要なのですか?」
「おんや。違いますぞぉ~。サポートJOBタピショフールがあると操縦が楽になり移動が快適になるだけで、無くても操縦は出来ますぞぉ~。はい」
任せておいても良いだろう。
俺は、テーブルの上に置かれたティーカップを手に取り、紅茶の香りを・・・
「キューネル司祭様ぁっ!」
2人の会話に、教会騎士の1人が良く響く大きな声で割って入った。
「急にどうしたのですか。私は今とても貴重で光栄な時間を・・・」
「砂煙が近付いて来ますぅっ!」
ティーカップを左手に持ったまま前方を確認する。
・・・え、女の子?
「女の子ね」
マルアスピーは、確認した瞬間興味を失った様だ。
「うんうんだね」
フォルティーナは、テーブルの上に置かれたエクレアに集中している。女の子には最初から興味は無い様だ。
「何だか。とっても速くありませんか?」
「私もそう思います」
アルさんとマリレナさんは、砂煙を上げ近付いて来る女の子の速度が気になっている様だ。
「おぉ~なのじゃぁ~」
騒がしい方のトゥーシェに至っては、シュークリームにエクレアにチョコレートたっぷりのレアチーズケーキにチョコレートケーキにチョコレート菓子にチョコレートたっぷりのマフィンにチョコレートのロールケーキにチョコレート他色々にしか興味が無い様だ。
「おや?あれは、パフパフよりも若いのぉ~そうは思わぬか?」
「私より若いという事は子供という事でしょうか?」
「だと思いますよ」
俺は、女王様な方のトゥーシェの意見に同意しパフさんの質問に答えた。
「神々様や精霊様方や夢魔族の女王トゥーシェ殿と同様にロイク殿にも見えるのですか?」
「1Km位しか離れてませんからね」
バジリアさんは、俺の視力が気になる様だ。
「高い魔力を持った者が近付いて来てると思っていましたが、砂煙を上げながら近付いて来る女の子がそうなのでしょうか?」
「サラさん。高い魔力ですか?」
「はい。レベル478のアリスの【INT】には流石に及びませんが、レベル99のエルネスティーネの【INT】より少し高い様な気がします」
【INT】が高い?
「サラさん。魔力って、【MP】値の事ですよね?」
「ロイクぅー。あれさぁー馬より走るの速くねぇ?」
俺の声は、親父の声に掻き消されてしまった。
後で、誰かに聞く事にしよう。
「私も余裕で見えるわよ」
弓矢の専門神授JOB武弓聖のアリスさんや、神授スキル【遠望】を所持する親父には余裕で見えるみたいだ。
「アリス。女の子なのよね?・・・・・・」
「そうよテレーズ」
「おう。女の子だなぁっ!」
テレーズさんは、獲物を狙う猛禽類の如く鋭い視線で前方を睨み付けている。
「・・・・・・ダメね」
凄い集中力だったが、無理な物は無理みたいだ。猛禽類の如く睨み付けたからといって視力に劇的な何かが起こる事は無い。
フォルティーナは、ニヤニヤとほくそ笑みながら
「ロイク。ついに気付いたのかね」
のん気に話し掛けて来た。
「何の話ですか?」
「魔力の事だね」
おっ!珍しい事もある物だ。会話のキャッチボールが若干の時間差はあるが成立してる。この状況じゃなかったらフォルティーナの場合は100点だった。
こんな状況では、ゆっくりフォルティーナの説明を聞いてる時間何て無い。
「あっ!薄っすらとですが顔が見えて来ました」
ほらね。
「パフさん。本当に女の子ですね」
「はい」
おっと、もうパフさんやエルネスティーネさんに見える距離まで近付いたのか。
「本当に女の子ですねぇ~」
バルサさんは、お気に入りのクッションを抱きしめながら興味無さ気に反応している。
「サラさんの言われた通りとても魔力が高い人みたいです」
「メリアさん。サラさん。あの女の子ですが私より魔力が高くありませんか?」
「それは無いと思いますよ」
「そうよ。間違い無くアリスよりは魔力が低いわ。アリスより魔力の高いカトリーヌさんよりあの女の子の魔力が高い何てありえないわ」
「ですが・・・・・・普通のユマン族は、こんなに魔力って高かったでしたっけ?」
「当然だね。あたし達も近付いてるね。向こうも近付いてるね。その内ばったりだね」
ほらね。誘惑だらけのこの状況で、フォルティーナが脱線しない訳が無い。というか、既に会話が噛み合って無いな。
「つい先程まで1Km先だったのですよね?」
「テレーズ。その通りだ。あのブロンドヘアーの女の子はこの先に見える宮殿から双眼鏡を片手に走ってこちらに向かって来ていたのだが、道を外れた1Km先あたりから更に加速した様に見えた」
「この先の宮殿から走ってですか?」
「その通りだ」
「僕も砂煙が上がる前から見えてたぞ」
「ミュー様にも見えていましたか」
「そうだぞ。僕達に気付いたのか、大きな建物2階のバルコニーから飛び降りると走り出したぞ」
親父なら兎も角、サンドラさんは普通の人間だぞ。魔剣聖って視力が強化されるのか?
「俺は何かさっきチラッと見えたんだけどよぉー。女の子が走ってるだけだしぃー。まぁーいっかぁってなっ!なぁーメアリー」
「そうね。女の子が元気に走る姿は普通よね」
「だっろうぉー」
母さん。あれ・・・・・・元気過ぎやしませんか?
「しっかしはぇーなぁーまじでぇっ!」
「バイル様は、私と余りレベルが変わらないのに凄いです」
「エルエルは99だろうぉー?俺は108プラスだぞぉっ!」
108プラスとかって、また適当な事を。
「エルネスティーネさん。親父には神授スキル【遠望】があるんで、レベルとか関係なく見えるんです」
「当然よ。バイル様はあのトミーサスの英雄なのよ。このくらい目を瞑ってたって可能よ。余裕過ぎるわ♪」
親父凄いな。まっ、流石に無理だろうけど。・・・というかアリスさんにとって親父ってまだ憧れの存在だったんだな。意外だ。
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「聞きたい事がある。質問して良いか?」
俺達は3m上空を飛行移動している。女の子は俺達の進路を妨害する様に前方に立ちはだかっている。
空飛ぶ絨毯は、女の子の頭上を通り過ぎて行く・・・。
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通り過ぎて行く・・・。
通り過ぎて・・・。
「おい。こらぁっ!ま、待ってぇ―――」
女の子は、俺達の後方から前方へと絨毯の真下を走り回り込み、改めて立ちはだかった。
「聞きたい事があると言ったではないかぁっ!聞こえなかったのかぁっ!」
女の子は、両手を腰に当て、偉可愛く言い放った。
「おんや。陛下の愚父殿の仰る通り運動中・・・ではなかった様ですなぁ~。はい」
それでも、空飛ぶ絨毯は止まらない。
「こう言う時はだね」
≪パチン
フォルティーナが指を鳴らすと、
「聞きたい事が・・・えっ?」
俺達が寛ぐ大きな空飛ぶ絨毯のテーブルの上に女の子が現れた。
「ホラだね。これなら話がし易いね」
「こ、これは・・・・・・ここは?・・・えっ?えぇ?」
テーブルの上に立つ女の子には、現状が理解出来ていない様だ。
「何をやってるね。質問は短めでだね。常識だね」
常識ねぇ~・・・。
俺は、目の前の女の子からフォルティーナへと視線を動かす。
予想通り。・・・残念な顔をしていた。
「し・つ・も・・・ん。しつもん、質問?・・・そ、そうでした。き、聞きたい事がありますっ!」
そんな残念な顔のフォルティーナに、女の子は堂々と言い放った。
「何だね」
「こ、これは何ですか?」
「これとは何だね?」
「この宙に浮きながら移動している物の事です」
フォルティーナは残念な顔を続け、大きな空飛ぶ絨毯の上を暫しの沈黙と緊張感の欠如した時間が支配した。
「おんや。良い質問ですぞぉ~。然らば私が答えましょう。はい。この宙に浮きながら移動している物は、端的に言いますと空飛ぶ絨毯です。はい」
端的過ぎません?
「空飛ぶ絨毯?」
「その通りですぞぉ~。空飛ぶ絨毯です」
「何故浮いているのですか?」
「私からも、1つ宜しいですかなぁ~。はい」
「質問しているのは私です」
「おんや。ナディア・フォン・クレーフェルト・カトラよ。世の中ウィンウィンが基本ですぞぉ~。欲しがるだけでは駄目々々ですぞぉ~。はい」
「ナディア・フォン・クレーフェルト・カトラ?・・・何処かで聞いた事がある様なぁ~」
「キューネル司祭様。六大公爵家です」
「六大公爵家なのは分かっています。そうでは無くて」
大きな空飛ぶ絨毯の客人用ソファーに腰掛ける司祭キューネルと、近くを飛行移動する教会騎士が話し込んでいる。
六大公爵家。聞いた事の無い言葉だ。
「あっ!・・・これはとんだ失礼を致しました。宙に浮く物に気を取られ、名乗るのを忘れておりました。私はララコバイア王国近衛魔術剣士隊の老師ナディア・フォン・クレーフェルト・カトラ。この国で1番強い魔術師よ」
ナディアと名乗った女の子は、胸を張り偉そうに名乗りを上げた後、深々と丁寧にお辞儀をした。
うん。偉可愛いで間違いない。ただ、やっぱり1つだけ気になる。
「何て言うか。その、まずテーブルから降りません?」
スカートの中が・・・。
ありがとうございました。