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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
ー1ヶ月の軌跡ー・-強化合宿編ー
186/1227

3-52 温泉宿で強化合宿の日⑨のⅣ~2人のトゥーシェ~

リーファ(R)歴4075年8月26日、聖の日。

「あ”~ぁ~ぁ~。生き返るぅ~ぅ~」


 やっぱり。温泉は気持ち良いぃ~~~。おう”ぅぃぇ~ぅう”ゥゥゥ~~~。



 いつもより5時間以上も早く温泉宿に帰還した。


 フォルティーナの指パチンで・・・。


 無作為迷宮攻略組は、夕食の時間まで自由時間になった。


 本日の強敵。つまり本日のBOSS(・・・・)の担当は騒がし方のトゥーシェだったそうだ。騒がしい方のトゥーシェは本日のBOSSを屠る事に心躍らせ、とっても楽しみにしていたらしい。


 だが、屠る楽しみは、たった1発の指パチンによって無残にも奪われてしまった。


 きっと、いつもよりも騒がしくなるだろう。大荒れに荒れ暴れまくるだろう。


 そんな俺の予想に反して彼女は静かだった。寧ろ、放心状態。



 俺は、自由時間を利用し騒がしい方のトゥーシェ専用の部屋へと向かっていた。


「おぉ~旦那様よ。偶然じゃ・・・そんな訳はないか。魔界環境区に態々どうしたのか?妾に会いに来たのか?」


 自身の専用部屋から浴衣姿で廊下に出て来た女王様の方のトゥーシェと鉢合わせた。



 魔界環境区とは、魔界つまりメア下界(・・・・)の存在に、快適Lifeを提供する温泉宿の環境サービスの1つである。


 転移門でもあるヴェスティビュール(玄関+ゲート)と常に不在のレセオウシオニスト(受付+カウンター)と簡易休憩応接用のソファーが設置されたホォワイエ(待合+待機所)と朝食専用の息吹の間と夕食専用の大地の間と憩い娯楽専用のゲームの間。そして、他がある温泉宿の【本館】。


 本館の真北に建つ【中央棟】。中央棟は神様専用の棟である。因みに、俺の眷属・神エリウスは神獣神馬つまり神様になったはず。だが、入棟は認められていない。


 本館の真西に建つ【正西棟】(まさにしとう)。正西棟は俺の眷属の中でもヒューム(人間)属専用の棟である。凄い年上だが義妹のロマーヌさん、マクドナルド卿、シオさん、リックさん、ロレスさん、バロスさん、フェオドールさんの部屋がある。温泉宿最大の建物で地上3階地下1階。地下は部屋では無く倉庫や物置になってるそうだ。部屋は全室畳8枚つまり8畳。与えられた部屋と部屋の備品主に敷布団と羽毛布団と枕と神茶専用の湯呑は、俺の眷属である限り支給され続けるそうだ。客室と呼ぶべきか不明な状況にあるが、客室稼働率は2%だ。つまり空き室は343室である。


 本館の真東に建つ【正東棟】(まさひがしとう)。大きな人工池の中央に建つ正東棟は、500mの渡り廊下1本のみで本館と繋がっている。若々女将の話では、ゲスト専用の棟で温泉宿のスタッフの間では【牢池座敷】(ろうち(おくざしき))と呼ばれているそうだ。勿論、強化合宿参加者の中で正東棟に部屋を支給された者はいない。


 中央棟の真西で正西棟の真北には【神界庭園】が整備されている。神界庭園の面積は人工池の湖沼面積の7倍もあるそうだ。広大な神界庭園には離れが13(むね)存在し、13棟全てが立派な御屋敷まるで小さな城だった。13棟には1つ1つ名前が付けられ【安の庵】(あんのあん)【以の庵】(いのあん)【宇の庵】(うのあん)【衣の庵】(えのあん)【於の庵】(おのあん)【加の庵】(かのあん)【幾の庵】(きのあん)【久の庵】(くのあん)【計の庵】(けのあん)【己の庵】(このあん)【左の庵】(さのあん)【之の庵】(しのあん)【寸の庵】(すのあん)と呼ばれているそうだ。因みに、安の庵はパフさんに、以の庵はアリスさんに、宇の庵はサラさんに、衣の庵はテレーズさんに、於の庵はバルサさんに、加の庵はメリアさんに、幾の庵はカトリーヌさんに、久の庵はバジリアさんに、計の庵はエルネスティーネさんに支給されている。


 中央棟の北西で神界庭園の真北に建つ【主棟】(あるじのとう)。創造神様公認の俺の嫁’sや俺専用の部屋がある。部屋は全室畳8枚つまり8畳である。因みに、神界庭園に庵を支給されている許嫁’sは、創造神様公認の嫁になるまで、立派な御屋敷での生活を余儀なくされる。


 主棟の真東で中央棟の真北に建つ【正北棟】(まさきたとう)。俺の眷属の中でも精霊様専用の棟である。マルアスピー、マリレナさん、ミューさんには、主棟の専用部屋の他に正北棟にも専用部屋が支給されている。


 正北棟の真東。正東棟を囲む池の真北に建つ【鬼門棟】(きもんとう)。魔界つまりメア下界の悪魔種魍魎種専用の棟である。鬼門棟は建物内のみ魔界環境区に指定されている。騒がしい方のトゥーシェと、女王様な方のトゥーシェには、主棟の専用部屋の他に鬼門棟にも専用部屋が支給されている。


 中央棟を囲む様に建ち並ぶ、本館、正西棟、神界庭園の13の庵、主棟、正北棟、鬼門棟、人工池の中央に建つ正東棟。そして、それらを囲む様に建てられた10(むね)の小屋。10棟の小屋にも1つ1つ名前が存在する。本館、中央棟、正北棟の真北に設置された【大樹小屋】(たいじゅごや)又は【樹小屋】(じゅごや)。時計まわりに【地小屋】(ちごや)【聖小屋】(せいごや)【水小屋】(みずごや)【邪小屋】(じゃごや)。真南に設置された【無小屋】(むごや)。時計まわりに【闇小屋】(やみごや)【火小屋】(ひごや)【光小屋】(ひかりごや)【風小屋】(かぜごや)。ただし、この10棟は現在使われていないそうだ。



「もう1人の方のトゥーシェはどうですか?」


「ふぅ~む。・・・なぁ~旦那様よ。妾が前々から思っておった事を聞いてくれるか?」


 女王様な方のトゥーシェは、改まった顔で俺の瞳をジッと見つめる。


 意外に照れ臭い。


「幼き頃の妾も妾もトゥーシェじゃ。2人ともトゥーシェじゃ」


「ですね」


「今のままで良い訳が無い。分かるか?」


 確かに、


「呼ぶ時とか不便です」


「それもあるがそれ以上に問題があると思わぬか?」


 何だろう?・・・・・・う~ん。


 俺は考えた。だが、思い当たる事はそれといって特にない。


 あっ!あった!!!


「見た目がソックリなのも不便です」


 トゥーシェは2人共ソックリだ。ソックリなのに衣服も同じ。見分ける方法は、聞く事のみ。声は似ている。同じ存在なのだから当然と言えば当然か。だが、喋り方や雰囲気、声の音域が違う。


「それもあると思うが他にも問題がある。・・・ふぅ~む」


「どうしたんですか?」


普段着(一張羅)に拘る必要もないか・・・・・・。と、思ってな。現に今は浴衣なるこの上なく快適な生地の服を着衣しておる。明日から妾はこの浴衣なる物を常用するか」


「若々女将の話だと温泉宿の浴衣は温泉宿専用で、外出着としては不向きらしいですよ」


「そうなのか?」


「みたいですよ。神界の服で、『シック浴衣』『ネオ浴衣』『呉服(くれはとり)』っていう御着物(おきもの)とかいう衣類に似せた物らしいです」


「なるほどのぉ~。これは神達の服であったのか・・・悩むのぉ~・・・そうは思わぬか」


 本気で悩みだしたみたいだ。どうしよう・・・。


「もう1人のトゥーシェの所に一緒に行きませんか?」


「・・・そうじゃのぉ~・・・」



「あのぉ~俺、行きますね」


「・・・おぉ~そうか。・・・あぁ~・・・あ?・・・おっ!そうであったわ。妾の思っておった事であった。旦那様よ。妾に新たな名を付けてくれぬか」


「名って名前の事ですよね?・・・トゥーシェって名前があるじゃないですか」


「幼き頃の妾もその名故に呼ぶ時に不便だと旦那様も言ったではないか。名を改める事で幾つか解決するのではないかと妾は考えた。分かるか?」


「解決ですか・・・」


「そうじゃ。タブレットの共有財産を見てくれるか」


「えぇ」


 神授スキル【タブレット】の画面を女王様な方のトゥーシェと俺の前に表示した。


「トゥーシェが並んでますね」


「そして、両方とも妾の財産であり幼い頃の妾の財産でもあるようでのぉ~。困っておる。分かるか」


「もう1人の方のトゥーシェと俺って共有してる財産は無いはずですが・・・」


「幼き頃の妾と旦那様には共有財産は無いかもしれぬが、幼き頃の妾と妾は強制的に財産を共有化されておる故、先日も妾の大切な物が紛失した。犯人は幼き頃の妾しかおらぬ・・・分かるか」


 だろうな。・・・・・・不便な訳だし、


「それじゃぁ~改名しましょう」


「嬉しいぞ。新しい名は誰にも被らぬ様に付けて貰えるか?」


 当然だ。被ったら新しく付ける意味が全く無い。


「いきなりは無理なんで、考える時間をください」


「それもそうか。・・・では、幼き頃の妾の部屋へ行くとするか」


「ですね」



「ギャッハッハッハッハッハッハァーのハァーなのじゃぁ~」


 騒がしい方のトゥーシェは、心の底から暴れている。唯只管に暴れている。


 掴んでは引き千切り、掴んでは毟り取り、腕を突き刺し引き千切り、たまに新鮮な魂を呑み込む。


 やりたい放題に暴れている。


 騒がしい方のトゥーシェと女王様な方のトゥーシェと俺は、特別に許可を貰い。温泉宿がある中央広場の西に建つ【力の英雄の試練の館】の力の英雄の試練を受けている。


 試練を受けているのは、騒がしい方のトゥーシェだけで、女王様な方のトゥーシェと俺は試練の間の手前にある控室のソファーに腰掛け、試練の間の中の様子をタブレットの画面に良く似たモニターという壁に備え付けられた神界の魔導具で優雅に見ていた。


 優雅。・・・それはモニターという魔導具の画面の正面に設置された13人掛けのソファーの前に設置された長い長いミィーティングテーブルの上に置かれたフランボワーズ、ミュール、フレーズ、ミルティユ、グロゼイユのタルト。つまり菓子(・・)神珈琲(かみカフェ)を楽しみながら、力の試練の間の中の様子を見守る時間。


 何故か出された菓子。・・・それは強化合宿中は禁止されていたはずの間食。



 満面の笑みを浮かべ菓子を口に運ぶ女王様な方のトゥーシェ。クールを決め込み日頃はポーカーフェイスで表情を崩さない彼女の可愛いらしい一面。


 俺も1口。菓子を口に運んだ。


 ・・・うん。甘い!!!


 神珈琲を慌てて口に含み。備え付けのモニター画面を見る。


 騒がしい方のトゥーシェは楽しそうに暴れていた。



「もう1人の方のトゥーシェですが、さっきから引き裂いたり千切ったり毟り取ったり噛み付いたり。悪気(あっき)スキルを使わないんですかね?」


「ここは、コルト下界でいうところの闇属性と邪属性の自然魔素(まりょく)が弱い故、発動に必要な悪気の集積が難しい。幼き頃の妾が幼いのは精神だけで肉体は大人故、悪気スキルを使わずとも問題はない。そうは思わぬか?」


 精神年齢だけが幼いのは発言や行動からも分かる。力はそのままなんだ。・・・そう言えば、トゥーシェってどうして分裂したんだ?


 そんなに気にする事でもなかったし、あっ2人いる。って、程度にしか考えてなかったけど、・・・何で2人いるんだ?


「トゥーシェ。どうして2人になったんですか?」


「何を異な事を。2人になるのは当たり前の事。分からぬか?」


 へぇ~、分裂するのは当たり前の事なんだ。だったらもしかして、


「名付け親から分裂後の名前とか貰ってませんか?」


「分裂後の名前?意味が分からぬが、どういう意味か?」


「悪魔種は分裂するんですよね?だったら、分裂後の名前も決まってるんじゃないかと思って、もしそうなら名付け親に悪いと思うんですよね」


「・・・旦那様よ。幼き頃の妾と妾が何故2つの存在になってしまったのかは分からぬが、通常悪魔種は分裂しない故、名は1つのみ。知らなかったのか?」


 あれ?おかしいな・・・。


「さっき、2人になるのは当たり前だって言ってましたよね」


「・・・なるほどのぉ~旦那様よ。夫婦故2人きりになるのは当然だと答えたつもりであった。妾の勘違いであったか。幼き頃の妾と妾が2つになったのは言った通りでのぉ~。分からぬ故、その答えは不明じゃ。幼き頃の妾に聞いても分からぬと思うが、聞いてみるか?」


 まぁ~そんなに気にする事でも無いし、思い出した時に時間があって気が向いたら聞く程度で問題ないか。


「知識は同じなんですよね?」


「精神年齢以外は同じだと思うがぁ~・・・試した事が無い故、断言は出来ぬか」


 なるほど。


≪ガチャ


 重い密閉ハンドルのローラーが回転しロックが解除される。


 騒がしい方のトゥーシェの気分転換が終わったみたいだ。耐久性に優れた防音のドアが開き、騒がしい方のトゥーシェが戻って来た。


「おっ!おっ!おぉぉぉ―――なのじゃぁ~」


「トゥーシェ?」


「ケーキなのじゃぁ~。ずるいのじゃぁ~。よこすのじゃぁ~」


「1口食べちゃいましたが、それでも良いならどうぞ」


 ぶっちゃけ、甘過ぎて俺の好みじゃないし。


「おぉ~~~。ロイク。お前、良い人間属だったんだな、知らなかったのじゃぁ~。うまぁっ!甘くてうまうまなのじゃぁ~♪」


 女王様な方のトゥーシェと同じだ。精神年齢が異なるだけで本質は一緒な訳で、当然ちゃぁ~当然か。


「今日は最高の日なのじゃぁ~♪うっゲホッゲホッゲホォ・・・ゴクゴクゴク」


 騒がしい方のトゥーシェは、俺の神珈琲をがぶ飲みした。


 そして、


「ブブブゥ――――――。な、なんなのじゃぁ~これは、苦いのじゃぁ~。毒なのじゃぁ~ペッペッ、ペッ・・・ペッペッ。ウゲェ~なのじゃぁ~・・・甘くてうまいのじゃぁ~」


 神珈琲を吹き出し、菓子を食べ直ぐに機嫌を取り戻した。


 単純で幸せな(・・)だ。羨ましい限りである。


「トゥーシェが食べ終わったら戻りましょう」


「妾は温泉に入ろうと思っておった故、この格好よ。知っておったか?」


「おっ!私も汗を流すのじゃぁ~♪今日は良い夢が見れそうなのじゃぁ~♪」


 俺は、タブレットの画面で時間を確認した。


 まだ、ランチ前。つまり15時(正午)前だった。



「あ”~ぁ~ぁ~」


 まだ昼前なのに、今日は色々合って疲れたなぁ~。


「い”~ぃ~ぃ~~」


「旦那様よ。老人の真似事か?」


「いやいや、自然に漏れた。身体が喜んでる時の音ですよ」


「ほう。人間属にとって風呂とは快感であったか」


「まぁ~そんなところです」


「かけ湯も済ませた故、妾も入るとするか」


≪チャポン


 うん?・・・・・・・・・・・・あれ?


「のぉ~、旦那様よ。名前の件で考えたのじゃが、呼び易く短めで頼めるか」


 ・・・?・・・?・・・凝視・・・。


「う~む。確かに気持ちが良いのぉ~。ここの湯は」



「暖簾を潜ったら、スルステルマルドゥロイクの脱衣所だったんですか?」


「やはりここは旦那様専用の温泉であったか。随分と広々と殺風景な湯ではないか。寂しくはないのか?」


「それなりに楽しめてます」


 そう。それなりに、色々と・・・。

ありがとうございました。

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