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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
ー1ヶ月の軌跡ー・-強化合宿編ー
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3-49 温泉宿で強化合宿の日⑨のⅠ~2人のトゥーシェ~

リーファ(R)歴4075年8月26日、聖の日。

 強化合宿6日目。


 古代竜の巣窟攻略組を解散した。そして、予定通りカトリーヌさんは聖獣の楼閣迷宮攻略組に、エリウスは邪獣の地下迷宮攻略組に、俺は無作為迷宮攻略組に加わった。



「楼閣なのか地下なのかさっぱり分からないです」


 温泉宿の玄関を出ると、そこは真っ暗な洞窟の中だった。


 神眼のフォルティーナと俺、神獣眼のアルさん、精霊眼のマルアスピーとマリレナさんとミューさん、魔眼の騒がしい方のトゥーシェと女王様な方のトゥーシェには、明るさは関係ない。普通に視認出来てしまう。


「洞窟なのじゃぁ~」


「何も見えないのですが」


「ここは居心地が良いのぉ~。旦那様もそうは思わぬか」


 もとい、マリレナさんの精霊眼は、まだ完全では無いみたいだ。


「まぁ~何だね。個人の価値観はそれぞれだね。だがだね。見えないのは論外だね」


≪パチン パチンパチンパチンパチーンパチ―――ン・・・・・・......



......・・・パチ―――――ン ギィ――――ン


「かなり遠くの方まで響いたみたいです」


「実に不快な残響音だね。もっとこう揺らめきを大切にだねぇ~」


 自分で出した音にキレてるのか?


 フォルティーナはグチグチと呟きながら、眉間に皺を寄せ不快感を露わにしていた。


 これは、長くなりそうだな。


 俺は時間を有効利用する事にした。


 タブレットの機能を確認しておこう。



 ここも、古代竜の巣窟と同じで機能に制限があるみたいだ。


「つまりだね。音は波動その物だね。うんうんだね」


 やれやれ、長い脱線が終わったみたいだな。


「ファルティーナ様。有難うございます。見える様になりました」


 ありがとう?・・・マリレナさんは、フォルティーナの脱線が終わるのを待っていたみたいだ。


「精霊に成りたてのマリレナの精霊眼のピントを合わせただけだね。礼には及ばないね」


 さっきのパチンはマリレナさんの眼用だったのか。・・・あのパチンってもう少し静かにバレずに出来ないのか?


「フォルティーナって意外に万能ですよね」


「何を言ってるね。あたしは万能で当然だね。あたしの為に存在する言葉それが万能だね」


 さいでっか・・・。表情を確認するまでもないな。どうせ、ドヤ顔を決めてるはずだ。


「無視かね」


 はぁ~。


「あのパチンですが、静かに出来ないんですか?」


「パチンってこれの事かね?」


≪パチン パチンパチンパチンパチーンパチ―――ン・・・・・・......



......・・・パチ―――――ン ギィ――――ン


 フォルティーナは指を鳴らした。


「あぁ―――耳障りだね不快だね」


 学習能力低過ぎだろう・・・。


「指は気分だね。音もだがだね。無くても問題無いね」


 へぇ~。


「何もやってない感じはだね。ありがたみに欠ける感じがするね。神は慈善事業や奉仕活動はしないね」


 なるほど・・・。良く言えば個性的な神様が多いのはそれでかぁっ!納得だ。



「何かが近付いて来るぞ」


 ミューさんが叫んだ。


≪クルゾ クルゾ クルゾ クルゾ クルゾ ・・・・・・


 ミューさんの声が洞窟に響き渡る。


「ミュー。君は、あたしの話を聞いていなかったのかね。ここの残響音は横広がりで不快だね。何より魔獣に気付かれたらどうするね。良いかね次は気を付けるね」


 次ねぇ~・・・。痴女女神様、貴女のパチンで気付かれたと考えるべきですね。面倒なんで言及はしませんけどね。


≪ブンブンガサガサ ブンブンガサガサ


「この音は不快だね五月蠅いね。いったい、何だねぇっ(・・・・・)!!」


 フォルティーナが耳を押さえながら発した言葉の語尾は絶叫に近いものだった。


≪ナンダネ ナンダネ ナンダネ ナンダネ ナンダネ ・・・・・・


 ・・・馬鹿も司ってるし・・・仕方ないか。うん。


 超高音なブンブンと、重低音なガサガサと、そして良く通る意外に美声なフォルティーナの絶叫が洞窟内でこの上なく不快なアンサンブルを奏でていた。



「僕達に向かって2足歩行なら600匹位、2枚羽なら300匹位が近付いて来るぞ」


 索敵だよな?・・・精度が凄い。


「ミューさんはそんな事まで分かるんですか」


「僕は地の精霊だぞ。地面の中の事なら任せて良いぞ」


 地面の中?・・・ここって地下迷宮だったのかぁっ!。


「ほうぉ~。ミュー殿と妾は相性が良さそうだのぉ~。旦那様もそうは思わぬか」


 相性ねぇ~。地の精霊様と悪魔種って地中が好きなのか?


「僕は土竜じゃないぞ。陽の光を浴びて大きくなる予定なんだぞ」


 でもないみたいだな。それに、植物じゃあるまいし陽の光を浴びて成長って・・・。


「ミュー様。精霊は陽の光を浴びると成長するのですか?」


「そうだぞ」


 まっ、まじですか・・・。


 俺はミューさんへと視線を移す。


「マリレナ。精霊は陽の光では成長しないわ。ミュー、貴方精霊になってどのくらいになるのかしら?」


 なんだ。マルアスピー。そうですよね。びっくりした。


「僕はたぶん14011歳だぞ。マルアスピー様は知らないのか?。僕の前任母上様が言っていたぞ。子供は陽の下で大きくなるんだぞ」


 ・・・そういう意味でしたか。なるほど納得しました。


 マリレナさんと目が合った。彼女も納得した様だ。


「ミュー。その話には続きがあるの」


「続き?」


 マルアスピー。ここは大人な対応で頼みますよ。


「子供は闇の時間にも成長するの」


「そんな話、僕は聞いた事がないぞ」


≪ブンブンガサガサ ブンブンガサガサ ナンダネ


 何かがこっちに向かって来てるって時に俺達はいったい何をやっているのだろうか。


「そうね。今日から試してみると良いわ」


 ・・・精霊様の身体の秘密。身体の成長について知りたい事は色々ある。だが、今はこの状況を先に何とかしないとぉっ!


「皆さ~ん。確認なんですが、たぶん魔獣が近付いて来てる訳でしてぇ~」


「そうなのじゃっ、倒すのじゃぁ~」


 騒がしい方のトゥーシェだけが俺の声に応えてくれた。


 ・・・・・・騒がしい方とかって勝手に区別してごめんなさい。


「ミュー。良く聞くね。アスピーの知識が正解だね。子供は陽の時間に肉体を動かし、そして闇の時間に肉体を回復させ精神を安定させるね。動かして休める。これを繰り返す事で成長するね。まぁ~ただ何だね。これはあくまでも人間属の子供の話だと思うね」


 俺の声は無視され、成長の話はまだ続く。


≪ブンブンガサガサ ブンブンガサガサ ナンダネ


「おかしいぞ。僕は毎日朝起きて身体を動かして夜になったら寝ているぞ」


 大抵のヒューム(人間)属がそうだと思います。あぁ~でも、ミューさんは精霊様か。


「ギャハッハッハッハァ~なのじゃぁ~。地の精霊。お前の姿は既に完成形態なのじゃぁ~。永遠にお子様なのじゃぁ~。ハッハッハァ~のハァ~なのじゃぁ~」


≪ブンブンガサガサ ブンブンガサガサ ナンダネ ギャハッハッハッハァ~・・・ハッハッハァ~のハァ~なのじゃぁ~......



≪......ブンブンガサガサ ブンブンガサガサ ナンダネ・・・・・・ハッハッハァ~のハァ~なのじゃぁ~


 不快なアンサンブルに無遠慮な高笑いが加わった。


 ・・・・・・前言撤回。騒がしい方(・・・・・)で、間違いないや。


 騒がしい方のトゥーシェは、ミューさんの頭をポンポンと優しく触り、腰に手を当て勝ち誇っていた。


「僕は子供ではないぞ。悪魔種。お前こそ精神(おつむ)が子供だと思うぞ」


「戯言なのじゃぁ~。私やもう1人の私を良く見るのじゃぁ~」


 騒がしい方のトゥーシェは、腰に手を当て、胸を張る。


 凝視・・・凝視・・・。


 おぉ・・・っと、いかんいかん。今はこんな事をしている時では・・・。


 思考とは裏腹に、俺の目は自然な流れで、騒がしい方のトゥーシェの次に女王様な方のトゥーシェを捉えていた。


 興味なさそうだ。


 ・・・妖艶で美しいのは認める。でも、何かが違う。何かが・・・。


「足りないね」


 そうそう・・・って、フォルティーナ。それ、ストレート過ぎません?


「あたしの様な極上を上回る神様チックなNice Bodyに成る為にはだね。あと2倍。う~ん3倍は必要だね」


 何だ頭のことじゃなかったのか・・・。ビックリした。


「・・・32000歳から48000歳かぁっ!!!・・・・・・そうか、そうか分かった気がするぞぉ~。僕もその頃にはフォルティーナ様の様にボンボンボンだぞ」


 ボンボンボン?


「ミュー。ボンキュッボンだね。つまり、神バスト、神ウエスト、神ヒップを持つあたしは神だね(・・・)


 フォルティーナは、意味不明なポーズを決めながら力強く宣言した。≪≪神≫≫だと・・・・。


「流石はフォルティーナ様だぞ」


≪パチパチパチパチ


 ミューさんから注がれる羨望の眼差しと、鳴りやまない拍手。あくまでも誇張表現な訳で・・・・・・。洞窟の中は凄まじい事になっていた。


≪ブンブンガサガサ ブンブンガサガサ ナンダネ・・・・・・ハッハッハァ~のハァ~なのじゃぁ~ ボンボンボン ボンキュッボン パチパチパチパチ......



≪......ブンブンガサガサ ブンブンガサガサ ナンダネ・・・・・・ハッハッハァ~のハァ~なのじゃぁ~ ボンボンボン ボンキュッボン パチパチパチパチ


 拷問だ。


「うんうんだね」


 残響音だ。不快だ。と、言ってたフォルティーナは平気そうだ。満面の笑みを浮かべ喜んでいる。


「僕頑張るぞ」


 ミューさんはフォルティーナの話を信じちゃったみたいだけど、


「まぁ~何だね。頑張るね」


 後でどうなっても知りませんからね。


「旦那様よ。後方からもブーンという音が聞こえないか?」


 女王様の方のトゥーシェに言われ、俺は耳を澄ました。


「前からも後ろからもカサカサブンブンナンダネ他が響いてますね」


 かなり近い。


「あら、終わったのね。それにしても随分と騒がしい洞窟に成ったわね」


 マルアスピー・・・・・・、違う所に行ってましたね。


「ロイク様。あれは【フライングリーチ】(吸血飛魔蛭)です」


「アルさん。あれって、(ヒル)ですよね?」


「はい。空飛ぶ魔蛭です」


 アルさんと俺は、飛行移動で近付いて来る前方のフライングリーチを視界に捉えたまま会話を続け、戦闘態勢に入る。


「皆っ、来るぞ!」


 ミューさんの言葉に反応する様に、騒がしい方のトゥーシェが飛び出した。


「地中を飛んで移動する魔獣なのじゃぁ~見たいのじゃぁ~フンフンフン♪」


「えっ!トゥーシェ」


 楽しそうに鼻歌交じりにスキップをしながら前方へと猛スピードで移動する。トゥーシェ。


「待ってください・・・って」


 スキップ、はやっ!


「フンフンフンフン♪ ギャハッハッハッハなのじゃぁ~♪」


 騒がしい方のトゥーシェは、とっても楽しそうに空飛ぶ蛭フライングリーチに飛び掛かり、羽翼を毟り取っていく。


「ギャッハッハッハッハァ~なのじゃぁ~」



 羽翼(・・)があってもフライングリーチに連帯意識仲間意識は無い。羽翼を毟り取られ地面に落下したフライングリーチ改め飛べない蛭(ただのヒル)は、洞窟の中を飛び回る同種に頭上や背後から飛び付かれ次々と捕食されていた。


 共喰い?・・・体液を吸ってるみたいだし共吸血か。


「ロイク様。凄い光景ですね・・・」


「えぇ」


山蛭(ヤマビル)とは生態系がかなり異なるみたいです」


「飛んじゃってますからね」


 蛭の多くは水生だったはず。大樹の森旧ワワイ大森林域に広く生息する山蛭は陸生。というか、・・・目の前のは魔獣だし根本的にぃ~違う。


「何匹かサンプルで持って帰っても良いですよね?」


 マリレナさんもマルアスピーと同じで探究心が非常に旺盛だ。家では数少ない貴重な学者タイプの1人。


「素材なんですが、タブレットで回収した超激レア以上の素材以外はハーフゴッドマネーに自動換金されちゃうみたいなんで、必要な分は」


「生きたまま2~3匹捕獲して持ち帰ります」


「自分・・・の方が良いと思います」


 マリレナさんは、フライングリーチでいったい何をする気なんだろう。気になる。



 飛べない蛭(ただのヒル)の体液を吸血し腹の膨れたフライングリーチは、羽翼を毟り取られたフライングリーチと同じ状況に陥っていた。


 宙を飛び回るはフライングリーチはそれを見逃さない。


 激しい共吸血の連鎖。



 見ていて気持ちの良い光景では無い。だが、勝手に数を減らしてくれる分には、実に有り難い。


 経験値が1の17倍ってのもあるが、蛭だし率先して触りたくないってのが正直本音である。


「フンフンフンフン♪ ギャッハッハッハッハァ~なのじゃぁ~♪」


 若干1名例外が存在している様だが・・・。



「マルアスピー。いつもこんな感じで修練修行訓練を?」


「そうね。トゥーシェが狩りを楽しむ姿を見るのは初めてね」


 そういえば・・・俺も初めてだ。


「うんうんだね」


 フォルティーナは頷いていた。痴女女神様に対しても思うところはあるが、


「それで、これからどうしますか?」


「飽きたらフォルティーナが指を鳴らして終わりね」


「指を鳴らして終わり?」


「えぇ」


「皆、後方組も到着したみたいだぞ」


 飛行系魔獣の機動力様様だな。


「地上組と連携される前に倒しちゃいましょう」


「そうね。空飛ぶ蛭はロイクに任せるわ」


 え?マルアスピー・・・。


「ロイク様なら確実ですね」


 アルさんまで・・・。


「お願いします。ロイク様」


 マリレナさんも一緒に・・・。


「さぁ~行って来るね」


 何も言うまい。


「旦那様よ。妾が狩ってしまっても良いか?」


 トゥーシェ。貴女だけが俺の・・・俺の・・・。うん?狩ってしまっても良いか。


「・・・1人でですか?」


「闇は妾の力を高める。妾の力を見たくわないか?」


 前に見た悪気(あっき)スキル【焔立つ悪寒】は凄かったし他のも是非見たい。


「見たいです」


「そうか」


 女王様な方のトゥーシェは、ほんの一瞬だけ笑みを浮かべ、後方へと向き直った。


 今の表情、良いかも。何かゾクゾクして良い。


「そこで見ているが良いぞ。さぁ~いくか」


 女王様の方のトゥーシェは、後方に手を翳した。すると、後方の空間に亀裂が走り宙が幾重にもスライドし始める。隆起?沈下?いや違う。宙が裂けるズレる様な状況をどう表現すれば良いだろう。


 宙はフライングリーチごと幾重にもヒビ割れ、後方の空間が元の状態に戻った頃には、夥しい数の素材が地面に転がっていた。


 ここも魔晶石や核は出ないみたいだ。それよりも、


「トゥーシェ、今のは何ですか?」


「悪気で闇を切り裂いて見せただけでは物足りなかったのか?」


 知らなかった。


「闇って切れるんですね」


「幼子の頃より闇を広げ切り裂く事が好きでな。毎日の様に窘められたのぉ~。今にして思えば良い思い出の1つよ。そうは思わぬか?」

ありがとうございました。

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