3-45 温泉宿で強化合宿の日⑤~俺はクローズホーニィⅠ~
リーファ歴4075年8月22日、地の日の夜。
2日目の夕食も初日と同様に大地の間で悪戦苦闘中である。
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≪強化合宿2日目の夕食の献立≫
1.白米と八重生の御飯
2.蓴菜の御吸い物(はんぺん入り)
3.ブロッコリーの御漬物
4.蒟蒻、蓮根、凍み豆腐、分葱の煮込み物
5.杏子
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タンパク質は十二分に摂取しているそうだ。
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「食べながら聞いてください」
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って、無理そうだな。
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エリウスと騒がしい方のトゥーシェを除いた強化合宿参加者達と俺は、御箸との戦いを制し、神茶で一息付きながら温泉宿に於ける注意事項報連相を開始した。
俺の周りには、神眼や精霊眼を持つ者が多い。だが、取得経験値が1だと気付いていたのは、マルアスピーとアルさんの2人だけだった。
本人曰く、
「あたしは、途轍もなく優秀な神眼を持っているね」
の、フォルティーナ様は、
「へぇ~、そうだったのかね。気付かなかったね」
と、まるで他人事。
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精霊様に成ったばかりのマリレナさんは、
「ロイク様。申し訳ありません。まだ全体的に靄がかかった感じで、はっきり見えないんです・・・」
と、しゅんとなってしまう始末。
「マ、マリレナさん。謝らないでください。マリレナさんのせいじゃないんですから」
「で、ですがぁ~・・・」
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ミューさんは、
「僕は、マリレナが精霊魔法じゃなく人間の魔術を使うのが面白くてちゃんと見てたぞ」
騒がしい方のトゥーシェは、
「コミックは禁止されていないのじゃぁ~」
この2人に関しては取り合えず自由にやらせておこう。
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女王様な方のトゥーシェは、
「妾の瞳は、悪魔種や魍魎種であればのぉ~・・・残念だとは思わぬか?」
俺に聞かれても困るんですけどぉ~。
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「ねぇロイク」
「はい、何でしょう」
「鞭の精霊はどうなったのかしら?」
鞭の精霊?・・・・・・あっ、忘れてたぁっ!
「あ、明日・・・にでも、・・・試そうと・・・思ってるかなってとか・・・」
「そう。フフフッ」
「は、はい・・・」
人前という事もあり、マルアスピーの表情は僅かに変化した程度だったが、俺には分かる。あれは、気付いていながらの微笑みだった。
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結局、妙案は無し、取得経験値1という現実は俺達にはどうする事も出来ない。個体レベル上げは、強化合宿の目的から削除する事になった。
聖獣の楼閣迷宮の攻略組は19/53階まで攻略。パーティーメンバーのシオさんは、攻略中に創造神様より神授をいただき、神授JOB【セルヴィスメディウム】に転職した。
「魔術が使えない楼閣迷宮で、魔術によるサポートが専門のJOBに転職ですか」
「はい。転職しただけで、まだ何も試せていません」
「強化合宿が終わってから、JOBを確かめるって、何だか矛盾してますよね?フォルティーナ」
「世の中は矛盾だらけだね」
・・・確かに・・・、理不尽極まりなく矛盾だらけだな。
シオさんは、アシュランス王国の法務大臣アストリス・ヴェロニカ伯爵の娘でハイエルフとエルフのハーフエルフである。彼女がどうして俺の眷属に選任されたのか。どうして強化合宿のメンバーに抜擢されたのか。どうして神授JOBを神授されたのか。・・・どうして、転移転位の魔力陣・魔法陣で移動出来ないのか。
疑問ばかりだ。
邪獣の地下迷宮の攻略は地下8/地下108階まで攻略。パーティーメンバーのロマーヌさんは、攻略中に創造神様より神授をいただき、神授JOB【弓聖】に転職した。
「ロマーヌさんは、魔術しか使えない迷宮で、弓聖に転職ですか?」
「はい。陛下」
「陛下って呼ぶのは王の間とか誰かいる時だけでって言ったじゃないですか」
「申し訳ありません。陛下」
う~ん、歳上とはいえバジリアさんの妹な訳で、一応俺の義妹。
「義理の関係とはいえ、義兄と義妹な訳ですから、こういう時位は気楽にお願いします」
「はい」
「ロマーヌ。私と同じ様にロイク殿と呼んでみてはどうだろうか?」
「姉さんは、創造神様より神授をいただき公認された正式な許嫁。アシュランス王のフィアンサイユです。何より、高位進化の神授を待つ身とはいえマリレナ様の様に精霊様となる身です。同じ様に呼ぶ訳にはいきません」
姉妹でテネブル族の戦士を率いていただけあって堅い。
ロマーヌさんは、ゼルフォーラ王国シャロン領領主エゼル・シャロン子爵の婚約者でありバジリアさんの妹である。
無作為迷宮の攻略は昨日の迷宮も今日の迷宮も余裕で攻略達成。パーティーメンバーは、
≪≪≪ フォルティーナよ。真面目にやらないと、・・・分かるわね。
と、攻略中に創造神様より神授をいただいたそうだ。
現時点で、3つの迷宮にBOSSッポイ魔獣はいない。
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「あ”~ぁ~ぁ~。生き返るぅ~ぅ~」
俺は、スルステルマルドゥロイクで、1日の疲れを取っていた。
昨日は、フォルティーナのせいで疲れただけだったからなぁ~。それにしても・・・・・・。
温泉全体を見渡す。
俺専用の温泉なんだよなぁ~。こんなに広い必要ってあるのか?
燈芯草と呼ばれる独特な香りを持つ神界の植物で作られた畳。この畳は床に敷いた枚数で部屋の広さを把握する事が出来る。
神界では畳1枚を1畳と表現する。ただし、1畳と表現して良いのは、床に畳が敷かれた部屋と定められていて、床に畳が敷かれていない部屋の広さを畳の枚数で表現する際は帖で表現しなくてはいけないそうだ。言葉の響きとしては同じじょうという事もあって、基本的には気にする必要はないそうだ。
畳1枚の面積は、コルト下界の単位にすると約1.9㎡。神界って、呼称や採寸に至るまで、多くの存在が想像以上に適当で大雑把に管理されている気がしてならない。
話を戻すが、俺専用の湯船は、そんな畳32枚分もの広さで、脱衣所は畳8枚分、樹木と草と岩と小石を主とした庭は畳108枚分、身体を洗う場所は畳12枚分、水風呂は畳2枚分、ミストサウナルームは畳4.5枚分、シャワーの数は6個、鏡の数は6枚。
つまり、スルステルマルドゥロイクは、畳166.5枚分という事になる。俺1人に対して広過ぎる。
ぶっちゃけ、何となく怖いというか、虚しいというか、寂しい。
「≪『ロイク様』→ロイク」
マリレナさんから神授スキル【レソンネ】が届いた。
「≪『どうしました?』→マリレナ」
「≪『フォルティーナ様からお聞きしたのですが、スルステルマルドゥロイクはとても広いそうですね』→ロイク」
「≪『広いと思います。あっ、でも、夫婦専用のスルステルマルドゥメナージュの方が広いじゃないですかね?』→マリレナ」
「≪『ここはですねぇ~・・・・・・。湯船の広さが畳24枚分だそうです。私専用のスルステルマルドゥマリレナや、マルアスピー様専用のスルステルマルドゥマルアスピーや、スルステルマルドゥアル、スルステルマルドゥパフ、スルステルマルドゥサラ、スルステルマルドゥアリス、スルステルマルドゥテレーズ、スルステルマルドゥバルサ、スルステルマルドゥメリア、スルステルマルドゥカトリーヌ、スルステルマルドゥバジリア、スルステルマルドゥミュー、スルステルマルドゥエルネスティーネは、そっくりな造りで湯船の広さが畳8枚分もあるのですが、昨日は1人で寂しかったので、今日は皆でスルステルマルドゥメナージュに入ってます。皆で入っていますが、畳24枚分もあると、やっぱり広いですね。フフッ』→ロイク」
何となく寂しいと感じたのは強ち間違いでは無かった様だ。しかし、湯船の広さの基準が分からない。
「≪『俺の方は、畳166.5枚分らしいです。脱衣所が8枚分で庭が108枚分なんで、実際は50.5枚分が風呂場で湯船は32枚分もあります』→マリレナ」
「≪『こちらよりかなり広いんですね。寂しくはありませんか?』→ロイク」
「≪『広過ぎるせいか正直、虚しさを感じています。それでも、昨日みたいな感じよりはましですね』→マリレナ」
「≪『フォルティーナ様ですね。・・・災難でしたね』→ロイク」
「≪『全くですよ。それで、今日はおとなしくしてますか?』→マリレナ」
「≪『そうですね。先程からお話を聞かせていただいていますが、いつもと同じ感じです』→ロイク」
やば、話題に出したのは間違いだ......
「≪『ロイク。呼んだかね?こっそり繋がるのは宜しくないね』→ロイク」
......った。げっ!!・・・要らぬフラグを立ててしまったかぁっ!?
「≪『藪を突いてしまいました』→マリレナ」
「≪『藪をですか?』→ロイク」
「≪『はい・・・はぁ~・・・』→マリレナ」
俺は覚悟を決め、フォルティーナにレソンネで返答する。
「≪『マリレナさんと温泉の広さについてはな......
「≪『何だね。興味があったのかね。だったら話は早いね。≪パチン』→ロイク」
......し・・・・・・て、い・・・』→フォルティーナ」
はっ?・・・!?
俺は、周囲を見回す。
「たん・・・でえぇ~~~っ!?」
「あら、ロイク。1人の時間はもう良いのかしら?フフフッ」
何?何事?・・・・・・・・・目の前にいるのはマルアスピーにぃ~・・・アルさんにぃ~・・・騒がしい方の|トゥーシェ・・・・・・。
「ロイク様も、夫婦の温泉にいらしたのですね」
「なぁ~アスピー。【MP】回復の為なのじゃぁ~。チョコの御菓子が欲しいのじゃぁ~」
「ダメよ。トゥーシェ、貴方の【MP】は減っていないのだから」
「うぅぅぅぅなのじゃぁ~」
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少しだけ視線を右へ動かし、その奥。心躍る情熱的なサウンドを奏でる場所、そこは、シャッワァーの斜め下でありミッラァーの前。
洗髪中の女王様な方のトゥーシェは、ミッラァーを背にスタンディング。愛と希望が優雅な輪舞を披露している。
うおぉぉぉ――ー
凝視・・・凝視・・・
その隣、洗体中のバジリアさんは、湯船に背を向け湯椅子にシッティング。俺には分かる。背中越しにだが分かる。艶やかな項を右手がきめ細やかな泡でそっと優しくなぞるその度に、愛と希望が何をしているのかが・・・。
そっと瞼を閉じる。
・・・何て事だぁ~・・・素晴らしい・・・
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湯船に戻って更に、右へと視線を動かし・・・、
右から真後ろにかけて、サラさん、テレーズさん、アリスさん、サンドラさん。
あっ!テレーズさんと目が合った。
・・・。
・・・。
「「「「ろ、ロイク様っ!?・・・キャァ~~~」」」」
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で、真後ろに浮いてる阿呆が1人・・・ほくそ笑んでいて・・・。
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左後ろにメリアさん、お風呂の妖精もといカトリーヌさん。
肩まで温泉に浸かり、恥ずかしそうにこっちを見つめている。
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最後は、左隣だ。さっきまで神授スキル【レソンネ】で話をしていたマリレナさん。
「フフッ、普通にお話出来る距離ですね。ロイク様ぁっ♪」
「そ、そうなりますか・・・ね・・・」
マリレナさんは、恥ずかしがる訳でも照れる訳でも無く、楽しそうに話掛けて来た。
そう。俺は、嫁許嫁’s皆がいるスルステルマルドゥメナージュの湯船のド真ん中に何故か突っ立って居た。
嫌、何故かではないな。何故なら犯人はあいつだからだ。湯船に浮かんでいる阿呆だからだ。
まずは冷静になろうじゃないか。
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大きく1度だけ深呼吸する。
「フォルティーナァ――ーッ!!!」
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痴女女神様の辞書に反省謝罪感謝という言葉は存在しない。
「言っておくがだね。話の内容は分からなくてもだね。誰が誰と繋がっているか位は分かるね。ヒソヒソ、コソコソと価値を下げる行為は止めるね。ロイク、マリレナ。女に限らず男も胸を張って堂々と生きてなんぼだね」
腰に手を当て、威風堂々と仁王立ちしながら、痴女女神は持論を長々と展開してくれました。
俺達はいつもの様に楽し・・・もとい、全てを諦めていた。
終わったのか?
「・・・隠してください」
・・・凝視・・・凝視。
言葉と眼は別の生き物らしい。何処かの凄く偉い学者が言ってたらしい。きっと、今の俺と同じような状況下で、その言葉の意味を悟ったに違いない。
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フォルティーナ専用の温泉は、スタシオンエスティバルクリュの中空の離宮にある神宮殿のフォルティーナの居住区にある温泉に繋がっていたそうだ。
トゥーシェ専用の温泉も、フォルティーナの居住区に準備されたトゥーシェ専用の温泉に繋がっていたそうだ。
フォルティーナの居住区の温泉も、フォルティーナの居住区にあるトゥーシェ専用の温泉も狭いらしく、折角広い温泉があるのだからと、3人はスルステルマルドゥメナージュを選択。痴女女神様は、スルステルマルドゥロイクへ嫌がらせに来た訳だ。過ぎた事だ忘れる事にしようと思う。
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俺は、スルステルマルドゥメナージュの湯船から諸事情あって上がれずにいた。
目のやり場に困る。周りに視線が多過ぎる。夢と希望を追及しようものなら直ぐにバレてしまうだろう。凝視しただけで変態のレッテルを貼られるのは不本意極まりない。
ここは、やはり残念だが、もう暫く薄目でいよう・・・。
「どうされたのですか?目にゴミでも入ったのですか?」
ブッ!・・・いきなりバレたぁっ・・・。
「ま、マリレナさん。そ、そうなんですよ・・・何か突然両目にゴミが・・・」
「見せてください」
ブッ――ー!・・・こ、こっちに来ないでください。マリレナさん。み、見えてますよぉ~。
・・・凝視・・・凝視。
こ、こら俺の眼。言う事を聞け。・・・いやこの場合は瞼の方かぁっ!
「ロイク。何をやってるね。そんなに目が痛いのかね?あたしにも見せるね」
こ、こらぁっ!ニヤニヤしながらこっちに来るなよ。痴女女神・・・。
俺の瞼は激しく葛藤と決断を繰り返していた。理性が男の名誉を死守しようと抵抗し、煩悩が男の欲望を解放する。
魂は間違い無く浪漫を追及し求めている。だがしかし、だがしかし、だがしかし、だがしかしだ・・・。
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ありがとうございました。
良いお年を・・・。
来年もどうぞ宜しくお願い致します。