3-43 温泉宿で強化合宿の日③~君はクローズホーニィ~
リーファ歴4075年8月21日、無の日の夜。
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リーファ歴4075年8月22日、地の日の朝。
「あ”~ぁ~ぁ~。生き返るぅ~ぅ~」
「うんうんだね」
「・・・・・・・・・な、何で、フォルティーナがここにいるんですかぁっ!?」
「何を言ってるね。温泉に入っているからにきまってるね。見て分からないのかね」
何処から湧いて出て来たんだ。
「た、確か、『スルステルマルドゥロイク』って名前の温泉は俺専用だって言ってましたよね?」
「言ったね」
「何で、ここにいるんですか?」
「そこに温泉があったからだね。いやぁ~流石は創造神だね。このお湯はなかなかの物だね。そうは思わないかね」
「そうですね。じゃなくてぇっ!『スルステルマルドゥフォルティーナ』とか『スルステルマルドゥメナージュ』があるんですから、そっちの温泉に入ってくださいよ」
「ロイク。言ってはなんだがだね。もう少し静かに入れないのかね?スルスルスルスル騒々しいね」
「あっすみません。・・・って」
何故に、俺が怒られる?
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フォルティーナは、俺専用の温泉から出て行かない。寧ろ、俺よりもだらしなく寛いでいる。
「それで、カトリーヌとエリウスはどうだね」
仰向けで湯船にプカプカと浮きながら話掛けるなよ。夢と希望・・・目のやり場に、
凝視・・・凝視・・・。
・・・・・・・・・・・・・困るじゃないか。
「・・・どうって、今日の修練の話ですか?」
「当然だね」
フォルティーナは、足をバタつかせ俺の近くに移動して来た。
ち、近い。
「しかしぃ~。良いお湯ですねぇ~」
慌てて瞼を閉じ温泉を楽しむフリをしてみる。
「で、どうなんだね?」
エリウスとカトリーヌさんの事だったっけ。フォルティーナは、これで、こう見えて、こんな感じで残念な人だけど、俺達の事を気に掛け心配しているのだろう。
バチャバチャと湯船を蹴る音だけが響く。
「まぁ~まだ初日だね。焦らずやるね。まぁ~あれだね。エリウスは神格を持ったばかりの神獣だね。本来の力を出し切る事はおろか、ロイク。君の能力の加護を少ししか受け取れていないね。まぁ~何だね・・・聞いてるのかね?」
「聞いてますよ」
「う~んだね。ロイク。言ってはなんだがだね。人と話をする時は、話してる相手の瞳と見つめ合い心と心で語り合うと、教わらなかったのかね?」
目を見て話しをするのは確かだ。だけど、今は・・・。
「まぁ~。これはこれで願ってもないチャンスというものだね」
フォルティーナは、背中から抱き着いて来た。
「・・・なっ・・・」
何、考えてるんだ。こいつはぁっ!
「まぁ~あれだね」
フォルティーナは、語り続けた。
「君は思ったはずだね。目の前に居るからといって必ずしも全てが見えているとは限らないね」
夢と希望が背中にぃ~っ!
「生まれたばかりの瞳には濃い霧がかかっているものだね。瞼を閉じているのと同じで何も見えないね」
エリウスの神獣眼の話をしてるのか?
「正直な心は求めているね」
求めてる?
「さぁ~。素直になるね。さぁ~さぁ~だね」
フォルティーナが背中から離れた。
「フォルティーナ。さっきからいったい何の話をしてるんですか?」
「フッ。これだからお子様は困るね。24歳にもなって、人の煩悩と欲望の違いも分からないのかね。まったくだね」
バチャバチャと湯舟を泳ぐ音が、また響き始めた。
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俺は未だに瞼を閉じたままである。
「人間の眼、獣の眼、魔獣の眼、聖邪獣の眼、竜の眼、精霊の眼、神獣の眼、神の眼。この世には他にも多くの眼が存在しているね」
「エリウスは、ロックドラゴンのステータスを完全な形で視認出来ていませんでした」
「ドラゴン種のステータス程度であればだね。その内視える様になるね。そうそう、そうぉ~だったね。神格が上位の存在は下位の存在のステータスや能力を見放題だね」
神格の高い神獣様は、神様のステータスが分かるって事か?・・・何が違うんだ?
「神眼と神獣眼って、何が違うんですか?」
「それはだねぇ~」
≪ザバァ――ー ピタピタピタ
フォルティーナは、立ち上がると、湯船からあがり、シャワーと鏡の前に置かれた湯椅子に腰掛けた。
俺は、研ぎ澄まされた聴覚のみで、一連の動作を理解した。
フォルティーナも言っていた。人は眼に頼る事を止めた時、真実が視える物だと。
浪漫の追及を俺の耳は必死にアシストしている。夢と希望が奏でるハーモニー。いつもよりもクリアでダイナミックな臨場感。
心地の良い鮮やか響きは、妄想の世界、浪漫の扉をいとも簡単に抉じ開ける。
「ロイク・・・ロイク。・・・ロイク」
「あっ、はいはい。な何ですかぁっ!」
「神の世界では夫婦は背中を流し合うと相場が決まっているね」
俺は驚愕の事実を突き付けられ眼を見開いてしまった。
「それ、・・・本当何でしょうね」
「当然だね。呼んだのは他でもないね。さぁ~あたしの背中を洗うね」
創造神様。神様の世界って素晴らしい世界だったんですね。フォルティーナみたいなのばっかり居るんじゃないかって心配してました。人間風情で心配して申し訳ありませんでした。
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俺は、フォルティーナの背中を洗っている。
「前はそんな話してませんでしたよね?」
「あ、あれはだね・・・。ま・・・まだ早いと思ったね。そうだね。まだ早かったね」
「へぇ~」
ニヤニヤとほくそ笑む顔が何とも怪しい。物凄く怪しい・・・。
「うんうんだね。ふぅ~気持ち良いね」
フォルティーナの背中はとても美しかった。不覚にもそう思う。
「ほら、腰の方もだね。もっと力を入れて尚且つ繊細に優しくだね。女の子の身体は壊れやすくて繊細なのよぉ~。だね」
「気持ち悪い声出さないでください」
「・・・気持ち悪いとは何だね」
女の子ねぇ~・・・良く言うよ。
「ホラ、もっと、力を入れて擦るね」
優しく壊れない様に力を入れろって無理ありますよぉ~。そんなに言うなら自分でやれば良いのに・・・。
「は、はい。こんな感じで良いでしょうか?」
「うんうんだね。気持ち良いね。・・・・・・次は前を洗って貰おうかね」
「え?」
本気で・・・す・・・かぁっ!
「冗談だね。あたしとしては構わないのだがね。前は自分の手が届くね。ハッハッハッハッハだね」
・・・ふぅ~・・・。疲れる。色んな意味で・・・。
「それでは、いよいよ本日のメインディッシュあたしが洗ってやるね。こっちを向て座るね」
「はぁっ?」
「何を言ってるね。常識を知らないのかね」
「俺は自分で洗うんでいらないです」
「今更、遠慮する仲でもないね。遠慮は要らないね」
「間に合ってま」
≪パチン
「・・・」
・・・す。って、あれ?パチンここでは有効なの?
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俺の瞳には決して映らない。だが確実に存在する何か。俺はその何かに押さえ付けられ、フォルティーナに全身くまなく綺麗に・・・。
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「何をそんなに怒ってるね。身体を洗ってやっただけだね。うんうんだね」
「俺は子供じゃないんです」
「当然だね。そんな子供がいたら怖いね」
フォルティーナは視線を落とし、ニヤニヤといやらしいくほくそ笑む。
「ど、何処見てるんですかぁっ!」
「いまさらだね。減るものでもあるまいし気にする事はないね」
「仁王立ちしながら偉そうに言わないでください」
「フッ。それにだね。やられたらやり返すのがあたしの礼儀だね。まぁ~、何だね。あたしは女の胸や男の股間に浪漫を感じないがねだね。ハッハッハッハッハだね」
たまに、ほんの少しだけ、ほんの気持ち多目に凝視したのがバレてたのか・・・。
「しかしおかしいね。身体の洗いっこは、大人だったら皆喜ぶはずだね」
「はぁっ?んな訳ありません」
「バイルに聞いてみるね」
「何で、親父何ですか?」
「聞けば分かるね」
親父は、・・・確かにおかしい。間違いなくおかしな人間の1人だ。それでも、子供みたいに身体を洗って貰い喜ぶだろうか?
若干欠いてはいるが羞恥心位持ち合わせているはずだ。たぶん・・・。
「しかし、あれだね。バイルは君の父親だね」
恥ずかしいって思う時がとっても多いですが、
「そうですね」
「似て無いね」
最上級の誉め言葉に聞こえるのは・・・気のせい・・・ですよね。
「だと思います」
「バイルは、ストレートなオープンホーニィだね。ロイク、君は、クローズホーニィ。ホント似て無いね。
「ホーニィ?何ですかそれ?」
「おかしいね。良いかね。あたし達は裸だね」
無視ですか。って言うか、入浴中なんだから、裸で当たり前だろうが。
「良く考えるね」
考えなくても分かります。
「あたしの胸や尻を見て何とも思わないのかね」
なっ、夢や希望を見て俺が何も思わないとでもぉっ!
「君の本能は何処に行ったね。あたしも、そろそろ御年頃だね」
そろそろ年頃?はぁっ?はぁ~!?
「はぁ~~~。だね」
フォルティーナは溜息を洩らした。
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暫しの静寂が流れ
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「まぁ~特に気にしてないね。それでだがね」
こ、こいつはぁっ!・・・落ち着け、落ち着け俺。深呼吸深呼吸。
「誇ると良いね。その舐め回す様な熱視線はバイル譲りだね」
・・・。
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「良いことを教えてやるね」
相変わらず、全力でマイペースだな。正直ちょっと羨ましい。
「良い事?・・・何ですか?」
「103、59、88だね」
「はぁっ?」
何の話をしてるんだ?
「だからだね。あたしのスリーサイズだね」
・・・・・・こっそり凝視。
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解放され、俺は自室の畳の上に敷かれた布団と呼ばれる脚の無いベッドに横になりながら、今日の修練修行訓練の事とフォルティーナの話を思い出しながら、タブレットの画面で情報を整理していた。
神眼と神獣眼には大きな差は無いらしい。強いていうなら神獣眼は各神獣としての性質や能力が気持ち影響するらしい。
神鳥種の猛禽類の神獣様の眼なら、普通の神眼や神獣眼より遠くが視えるとかそんな感じだそうだ。
エリウスは神馬だ。馬はどうなのかと聞いたが、知らないね。と、言われて終わってしまった。
因みにフォルティーナの眼は、コルト下界に居ながら別の下界の様子も視えるそうだ。距離や光闇の理の外に存在する眼だと自慢していた。
時間の理の外にも存在している眼なんだそうで、過去も現在も未来も全部それなりだいたい分かると言っていた。
俺としては、フォルティーナを当てにしていないので、どうでも良い話だ。
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ロックドラゴン。明日こそは倒して、次の扉の先に進まないと・・・。
初日の今日は、時間切れで強制離脱し温泉宿に召喚され終了した。明日は、初日の反省を踏まえ修練を始める前に皆のスキルやステータスの調整からだな。
それにしても、何とかならないものか。
自分の眷属隷属に限りで良いから、神様だろうが精霊様だろうが、ステータス値を把握出来る様になりたいものだ。今のままでは戦い難くてしょうがない。
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1人でゆっくり考えられるって、実に素晴らしい。そんな事を思いながら俺は眠りに落ちた。
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「ねぇロイク。朝よ。起きなさい」
「え・・・は・・・あ・・・はい・・・」
「もう朝よ。起きなくても良いのかしら?」
「あぁ~。・・・・・・マルアスピーおはようございます」
俺は、目を擦りながら体を起こした。
「陽が差し込まないから起きれなかったのね」
「そ、そうみたいです・・・ふわぁ~」
ここは何処だ?
周囲を見回し、マルアスピーへと視線を戻す。
「何をしているのかしら?服を着て朝食専用の大広間『息吹の間』へ行くわよ」
「は、はい・・・」
寝ぼけながら、着替えを開始する。
あれ?・・・俺、裸で寝てたんだっけ?・・・マルアスピーはピジャマを着てるし。暑くて寝ながら脱いじゃったのか?
「どうかしたのかしら?」
「何でもありません・・・」
マルアスピーは、着替えの手を止めた思考する俺が気になったのか、脱いだ浴衣というピジャマをたたみながら、
「この浴衣という服は便利よね」
・・・凝視・・・凝視。
「フフフッ」
あれ?
「マルアスピー」
「何かしら?」
「ここ俺の部屋ですよね?」
「そうね」
「ですよね・・・」
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≪強化合宿2日目の朝食の献立≫
1.十六穀米の御飯
2.葱と滑子の御味噌汁(赤)
3.胡瓜と大根の御漬物(ぬか漬け)
4.納豆(発酵した大豆)
5.海苔(味が付いてた)
6.鰺の干物
7.人参と牛蒡のきんぴら
8.ミニトマト3粒
9.牛乳200cc
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朝から御箸に悩まされました。
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朝食後、神茶で一息付きながら、昨日寝る前に考えたスキル付与を皆に実行し、そして、修練修行訓練を開始した。
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温泉宿の玄関を出ると、そこはロックドラゴンの目の前だった。
「うおっと・・・」
「え?・・・ロイク様」
「主殿これは?」
昨日の強制終了した場所からですか。至れり尽くせりで有り難い限りです。・・・まずは、
「昨日と同じです。エリウス、ロックドラゴンを抑えてください」
「はぁっ!ヒヒィーン」
ありがとうございます。