3-40 スタンピード・アンデットの日⑬~下級神見習い~
リーファ歴4075年8月16日、聖の日。
トゥーシェが、俺の分の揚げドーナツも奪い、セカンドテーブルに移動し食べ始めると、フォルティーナは指を鳴らした。
≪パチン
さっきまでトゥーシェが座っていたフォルティーナの左隣の席に、マルアスピーの母ミト様が現れた。
「紹介するね。地の魔力陣に詳しい存在の専門家だね」
専門家って、目の前の精霊様は、ミト様ですよね。
「フォルティーナ。ミト様ですよね?」
「当然だね。見ての通りだね。ミトを忘れたのかね?」
前任の大樹の森の聖域の精霊樹の精霊様が専門家?
「ロイクさん。皆さん、お久しぶりぃ~。あらあらぁ~。アスピーちゃんは御寝んねでちゅかぁ~。私に似て可愛い寝顔なんだからもうぉ~」」
深く追求はしない。してはいけない。面倒臭くなるだけだからだ。
「こんにちは、ミト様。そのまま寝かせておいてください。徹夜だったんですよ」
「あらあらぁ~そうなのね。新婚って良いわよねぇ~」
何か勘違いしているみたいだいが、無視しよう。面倒臭くなるだけだから。
「あらぁっ!家の一族の者ですね。名前は何て言うのかしら」
ミト様は、バルタザール王子に視線を止めた。
「私の事でしょうか?」
「そうよ。貴方しかいないでしょう」
ミト様。コーチの中には、こんなにも沢山、人が乗ってますよぉ~。声には出さない。
「私は、ゼルフォーラ王国の王子バルタザール・ルーリンです。ロイク君の奥方マルアスピー殿の御母上様?・・・という事は、貴女も精霊様なのでしょうか?」
バルタザール王子は、ミト様に会った事がなかったんだっけ。
「紹介します。こちらのマルアスピーに良く似た、お姉さんかなって間違えてしまいそうな精霊様は、マルアスピーの母親で、前任の大樹の森の聖域の精霊樹に宿りし大精霊でミト様と言います。今は、アシュランス王国フィーラ州フィーラ市の東に植樹した精霊樹の幼樹の大精霊様です」
見た目が、マルアスピーより少し年上な感じで、多目に妖艶なだけだから、母親って言われてもピンと来ないんですよね。
「ルーリン家の者でしたか」
「ミト様。バルタザール殿は、サラさんの父親です」
「おぉ~何と、サラのかぁっ!・・・サラは母親似で良かったのぉ~」
それ、父親の前で言っちゃいますか・・・。実際、似てなくて良かったとは思いますが。
「いやいや。言っては何ですが、サラは私似です。あの可憐で愛くるしい様は正にルーリン家の血統。ルーリン家の婦女子に多い恵まれた容姿が証拠ですな。ハッハッハッハ」
「そうかそうか。ルーリン家の血統は愛くるしく可憐であるか」
ミト様は、何故か嬉しそうだ。って、違う違う。
「フォルティーナ。それで、結局のところ何がどうなってるんですか?」
「何を言ってるね。だから、ミトを呼んだね」
「ミト様をですか?」
「さっきも言ったがだね。ミトは地の魔力陣に詳しい存在の専門家だね」
「ミト様は、地の魔力陣に詳しいんですか?」
「ロイクさん。私は、地の魔力陣に詳しくありません」
だと思いました。
「フォルティーナ。ミト様はこう言ってますが・・・」
「ミトは、大地の聖域の結束の一枚大岩に宿りし大精霊ロロノクックの娘だね」
一枚大岩の大精霊様の名前って、ロロノクック様って言うのか。ミト様の父親って事は、マルアスピーの祖父って事だよな。
「フォルティーナ。どうして、専門家の大精霊ロロノクック様を呼ばなかったんですか?ミト様は、ロロノクック様に詳しいだけで、地の魔力陣に詳しい訳じゃないんですよね?」
「それはだね。話せないからだね」
「話せない?」
「そうだね」
「どうしてまた」
「ロイクさん。その事については私から説明しましょう。父ロロノクックは、一枚大岩の中で長い眠りに付いているのです」
「長い眠りですか。それだと、地の魔力陣の専門家から話は聞けないですよね」
「それで、フォルティーナ様は、私を呼んだのです」
相変わらず、話が見えないんですけど・・・。
「眠ってるんですよね?」
「はい」
「私が責任を持って起こします」
責任を持って起こす?
「父が長き眠りに付いたのは、私のせいなのです」
「ミト様の?」
「私が人と駆け落ちし、追放精霊に成った事を恥じた父は、一枚大岩の中に御隠れになり、長き眠りに付いてしまったのです」
眠りについた理由が人間との駆け落ちって、今の状況は、・・・非常にまずい気がする。
「大丈夫ですかね?」
「何がだね」
「だって、フォルティーナ良く考えてくださいよ。ミト様が人と駆け落ちしただけで眠りについちゃう精霊様です。もし、孫娘のマルアスピーが駆け落ちを通りこして人と結婚しちゃってるって知ったら、仮に目覚めたとしてですよ。次は気絶しちゃうんじゃ」
「安心するね」
「そうね」
フォルティーナとミト様は、笑顔で即答した。
「ロイク。君とアスピーは創造神の公認だね。それにだね。一応、人なだけで、君は既に神チックな感じで神ポイね。しちゃってる感じだね」
「何より母親の私が反対してないのよ。父が泣こうが喚こうが関係無いわぁ~。だから、DA・I・ZYO・U・BU・よぉっ!」
「そうだと良いんですが」
不安しか感じない。この2人には・・・。
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「創造神様から地属性の魔力陣への干渉許可を貰ってからじゃないと、関わってはいけないのは分かったんですが、何処までが関わった内に入ると思いますか?」
「あらあらぁ~ホントねぇ~。この揚げドーナツ美味しいわぁ~」
「ミト。君は味の分かる女だね。これは、アスピーの御菓子レシピの中でもかなりの上位に入る御菓子だね」
「アスピーちゃんにこんな才能があっただなんて知らなぁったわぁ~」
2人は、マルアスピーの菓子の話で盛り上がり、俺の話等聞いていない。
「そうなのじゃぁ~。この揚げドーナツなら3食これで良いのじゃぁ~。砂糖タップリの甘いやつに、チョコレートタップリの甘いやつに、カスタードクリームとホイップクリームタップリの甘いやつに、メイプルシロップの甘いやつに。ハチミツの甘いやつに、ホワイトチョコレートの甘いやつに、イチゴチョコレートの甘いやつに、ナッツとチョコレートの甘いやつも美味いのじゃぁ~」
トゥーシェの場合、甘いやつなら、何でも良さそうだ。
「アスピーちゃんが、こんなに人が居る場所で、気持ち良さそうに眠っている何て、何だか不思議だわぁ~」
警戒心0ではあるか。・・・気持ち良さそうに寝てるなぁ~。
「ヒューム属の世界に憧れ、本を取り寄せたり、ピエールやサビィ―から外の世界の話を聞いたり、聖域の結界の外の様子を内側から眺めるだけの子だったのに、大人になったのねぇ~」
大人。・・・確か4075歳・・・。
「あのぉ~。ふと疑問に思ったのですが、精霊には寿命ってあるのでしょうか?」
「えっとぉ~、貴女は確か。・・・あらっ?ヒュームだったと・・・精霊だったのねぇ~」
「先日、神授をいただき、風の精霊に高位進化しました」
「あらまぁ~。子孫が先祖返りしたのねぇ~。おめでとう」
子孫?
「ミト様。ありがとうございます。あのぉ~、子孫が先祖返りとはいったい?」
「ミト。コルト下界のハイエルフ族達は、自分達が精霊の子孫だと知らないね」
「私達が精霊様の子孫!?」
「そうだね」
ハイエルフ族って、精霊様の子孫なの?それってヒューム属じゃないって事ですよね。
「フォルティーナ。ハイエルフって人間じゃなかったんですか?」
「はぁ?・・・ロイク。何を言ってるね。ハイエルフが人間ではなかったら、ハイエルフはいったい何だね?」
「それ、俺が聞いてるんですけど・・・」
「ロイクさん。コルト下界のヒュームはどの様に生まれたか。知っていますよねぇ~」
「はい」
「創造神様は、神界や精霊界の存在を参考に、下界の存在を創造しました」
「獣も魔獣も皆他の世界の存在を参考にしたと前に聞きました」
「正解。でもねぇ~、創造神様の創造では無い存在が世界には存在するのよぉ~」
「魔界の悪魔や魍魎ですね」
「それに、ハイエルフ族とハイウィザード族」
ハイウィザード族?
「ハイエルフは、精霊とエルフ族のハーフ&ハーフなのよぉ~」
「半精霊って事じゃないですかぁっ!」
ハイエルフ族より、ハイウィザード族の方が気になるんですが・・・。
「正解。ハイエルフは半分SE・I・RE・I。でも、それは最初のハイエルフだけなのよぉ~」
ハーフ&ハーフ=ハイエルフ100%と、ハーフ&ハーフ=ハイエルフ100%の間に生まれた子供は、ハイエルフ100%って訳にはいかないか。
「中には、当たり前の事よねぇ~。精霊の血を濃く受け継ぐ子とかぁ~、エルフの血を濃く受け継ぐ子がいるでしょう」
「うんうんだね。マリレナは、精霊の血を濃く受け継いて生まれたね。生まれた時からほとんど精霊だったね」
「私達ハイエルフ族が長命なのは血を受け継いでいるからなのでしょうか?」
「それはどうかしらぁ~。セザールとルイーズは長生きよ。でも、孫達は皆天に召されてしまっているのよねぇ~」
「ミト様。マルアスピーには兄弟がいたんですか?」
「いたじゃ無いわよぉ~。2人とも生きてるものぉ~」
「ロイク君」
「どうしましたバルタザール殿」
「わ・・・私の勘違いでなければなのだが、ミト様の御子息セザール様とルイーズ様は・・・もしかしてですが、ゼルフォーラ王国第2代国王セザール・ルーリン陛下と、ヴァルオリティア帝国初代皇帝ガルガンダ・ルイーズ・ル・オリティア陛下の事ではないでしょうか?」
「えっ?えっ?・・・えぇぇぇ――ー。バルタザール殿、それは無いんじゃ」
「ルーリン家に残されたルーリン家の男子のみに閲覧を許された記録があるのだが、それには第2代国王セザール陛下は双子で、双子の弟ルイーズ殿下は当時の風習もありアントン男爵家に養子として出されたと記されているのだよ」
「風習ですか」
「あぁ。当時、双子は不吉とされ殺されてしまうか里子に出されるのが当たり前だったそうだ」
「あらあらぁ~。まさか記録が残ってた何てぇ~。ルイーズちゃんはねぇ~。養子に出されてガルガンダとかって堅苦しぃ~名前に改名されちゃったのよねぇ~。ゼルーダからは死んだって聞いた時はショックだったわぁ~」
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衝撃的な話が続く中、創造神様からの返信はまだ来ない。
俺達は、雑談、脱線を繰り返し、リビングルームセットのソファーに腰掛け待ち続けていた。
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そして、現在。
まずは、創造神様からの返信を待っている間に話し合った事を、自分なりに整理しておこう。
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≪創造神様の創造ではない存在≫
☆☆☆ ハイエルフ族 ☆☆☆
【精霊】&【エルフ】=【ハイエルフ】
【ハイエルフ】&【ハイエルフ】
=精霊の血が濃い【ハイエルフ】
【ハイエルフ】&【ハイエルフ】
=エルフの血が濃い【ハイエルフ】
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
※ ハイエルフ族間に生まれた子供は、 ※
※ 精霊やエルフの血の濃度に関係なく、 ※
※ ハイエルフ族として数えられて来た。 ※
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
★★★ テネブル族 ★★★
【悪魔】&【エルフ】=【テネブル】
【テネブル】&【テネブル】
=悪魔の血が濃い【テネブル】
【テネブル】&【テネブル】
=エルフの血が濃い【テネブル】
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
※ テネブル族間に生まれた子供は、 ※
※ 悪魔やエルフの血の濃度に関係なく、 ※
※ テネブル族として数えられて来た。 ※
※ ハイエルフ族とテネブル族の間に ※
※ 生まれた子供はテネブル族。 ※
※ テネブル族とエルフ族の間に ※
※ 生まれた子供はエルフ族。 ※
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
=== ハイウィザード族 ===
【悪魔】&【ユマン】=【ハイウィザード】
【ハイウィザード】&【ハイウィザード】
=悪魔の血が濃い【ハイウィザード】
【ハイウィザード】&【ハイウィザード】
=ユマンの血が濃い【ウィザード】
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
※ 悪魔の血が薄く能力の低い子供は、 ※
※ ハイウィザード族から追放された。 ※
※ 追放されたハイウィザードは、 ※
※ ウィザード族に紛れ込み生活していた。※
※ ウィザード族の中に能力の高い者が ※
※ 存在するのは追放が要因になってる。 ※
※ フォンフォーラ一族は、 ※
※ ハイウィザード族の遠く離れた血統。 ※
※ ハイウィザード族は絶滅したらしい。※
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
創造神様が創造した存在が関わってはいるが、
創造神様が直接創造した存在では無い。
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≪精霊界の序列≫
【精霊王】アピロレイ・フル・ルーゴリア
※アピロレイ帝と呼ばれる事が多い※
※ドゥーミナ・フル・アピロレイの父※
【聖光の精霊】ドゥーミナ・フル・アピロレイ
※精霊界の母精霊※
※アピロレイ・フル・ルーゴリアの娘※
※ミト様の母。マルアスピーの祖母※
【邪闇の精霊】アビニヒスス・ヤ・フルムス
※精霊界の父精霊※
【地の精霊】ヘリフムス・フォン・センペル
※精霊界の地の公王※
※ロロノクック・フォン・センペルの兄※
【水の精霊】アクアリーレ・フォン・アリク
※精霊界の水の公王※
【火の精霊】インフェリムス・フォン・コンク
※精霊界の火の公王※
【風の精霊】マラキリア・フォン・ウェルテ
※精霊界の風の公王※
≪精霊界よりコルト下界へ赴任?≫
【精霊樹の精霊】(大樹の森の聖域)
マルアスピー・R・ルーリン・シャレット
旧マルアスピー・フル・アピロレイ
※精霊界・コルト下界に於いて大精霊※
【大地の精霊】(結束の一枚大岩の聖域)
ロロノクック・フォン・センペル
※コルト下界に於いて大精霊※
※ミト様の父。マルアスピーの祖父※
※ヘリフムス・フォン・センペルの弟※
【水煙の精霊】(明鏡の大瀑布の聖域)
ウェンディーネ
※コルト下界に於いて大精霊※
【火焔の精霊】(憤怒の火山の聖域)
リザラルーネ
※コルト下界に於いて大精霊※
【風穴の精霊】(息吹の谷の聖域)
ヴェルフューネ
※コルト下界に於いて大精霊※
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≪ルーリン家≫
【ゼルフォーラ王国第2代国王】
セザール・ルーリン
※初代国王ゼルーダ陛下とミト様の子供※
※現ルーリン家はミト様の子孫※
※ミト様の話では未だ健在※
【ヴァルオリティア帝国初代皇帝】
ガルガンダ・ルイーズ・ル・オリティア
ガルガンダ・アントン(養子先での名前)
ルイーズ・ルーリン(出生時の名前)
※初代国王ゼルーダ陛下とミト様の子供※
※ヴァルオリティア帝国の皇帝一族の祖※
※皇帝一族はミト様の子孫※
※ミト様の話では未だ健在※
※兄セザールと弟ルイーズは双子の兄弟※
※兄弟は健在だが、孫や曾孫達は既に他界※
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≪寿命≫
神様、精霊様、聖邪獣は寿命の理の外の存在。
悪魔は寿命の理の内外の存在。両方存在する。
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≪ハイエルフ族の血統≫
ソルエルフ族のハイエルフ族
【祖】地の長老精霊様
公王ヘリフムス・フォン・センペル
オーエルフ族のハイエルフ族
【祖】水の長老精霊様
公王アクアリーレ・フォン・アリク
フーエルフ族のハイエルフ族
【祖】火の長老精霊様
公王インフェリムス・フォン・コンク
ヴァンエルフ族のハイエルフ族
【祖】風の長老精霊様
公王マラキリア・フォン・ウェルテ
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聞きたい事は多い。だが、俺が脱線させる訳にはいかない。今は諦めて重要な事だけに集中しよう。
「ソルエルフ族、オーエルフ族、フーエルフ族、ヴァンエルフ族に残された古代魔術の時代の魔力陣は、当時の地水火風の大精霊様に創造神様が神授した物で、その術式は神界の神気スキル【神聖文字】を精霊界の言葉【ナンフ語】に変換し書かれていて、術式や法式の管理は地水火風の長老精霊様が創造神様より任された。だから、長老精霊様は創造神様の許可が無くても魔力陣を使える。これって、管理を任されてるだけで、コルト下界への干渉制限が緩和されたって事にはならないんじゃないですか?」
「残念だがね。管理を任されるという事はだね。その魔力陣に関する全権を有しているという事だね」
「その理屈が成立するなら、俺はコルト下界の管理を任されている訳ですから、コルト下界に関する全権を有してる事になりませんか?なのに、人間達の戦争に関与してはいけないとか、人間の文明や文化に影響を与えるからって魔力陣への干渉は許可待ちだったり、干渉制限に引っ掛かって放置するしかなかったり、何が違うんですか?」
「何を言ってるね。精霊は何処まで行っても精霊だね。精霊の能力が与える影響は何処まで行っても精霊のそれでしかないね。魔力陣の管理程度全権を与えたところで何の問題も無いね。だがだね。ロイク。君は、ほぼ神だね。ほぼ神は何処まで行ってもほぼ神だね。ほぼ神の能力が与える影響はほぼ神のそれと同じだね。コルト下界の管理を任せたからといって全権を与えるはずがないね。コルト下界の全権を与えるという事はだね。コルト下界の権利を創造神がロイクにプレゼントするという事と同じだね」
「流石に欲しくないですね・・・」
なるほど、精霊様と俺だと与える影響が違うから、俺には管理者として干渉制限が掛けられてるのか。・・・これって干渉制限に引っ掛かるのかな?
「フォルティーナ。ロロノクック様に地属性の魔力陣の件で接触したら、干渉制限に引っ掛かりませんか?」
「引っ掛かるね」
引っ掛かるのか。・・・ミト様を何で呼んだんだ?
「地属性の魔力陣で召喚され契約したと思われる。魔界の下級ヴァンパイアの隷属達に俺が関わるのってありなんですかね?」
「駄目だね」
「駄目なんですかぁっ!?・・・絶賛拘束中なんですけど・・・」
「それは構わないね」
「どういう事ですか?」
「向こうから来たね。拒むのは失礼だね」
失礼って・・・。
「俺からじゃなければ、干渉制限に引っ掛かったりしないって事ですか?」
「来る者拒まず去る者は理由次第だね。まぁ~あれだね。多少なら何ともなるね」
多少って、また曖昧な・・・。
「ロイクさん。ですから私が父を起こすのです。起きた時にロイクさんが偶然居合わせたんです」
「偶然?・・・偶然の使い方がおかしくありません?」
「何を言ってるね。偶然とは神によって与えられた必然だね」
また始まったよ・・・。無視して次に行こう。
「それで、拘束した下級ヴァンパイアの隷属達から情報を聞き出す事はOKですか?」
「構わないね。聞き出すだけなら問題ないね」
中途半端な制限だよなぁ~。聞き出すだけで動けないんじゃ意味ないし。
「制限は、過ちを繰り返さない為に、創造神様が各世界に布いた新しい理の1つなんですよぉ~」
ミト様は、マルアスピーが徹夜で考案した新作のチョコレート菓子を頬張り、俺が提供しアルさんが煎れた神茶でそれを流し込みながら、またまた新しい情報を口にした。
「干渉制限は創造神が存在各々に課す理、力の強い存在程強いられる制限は多くなるね。あたしがここコルト下界に於いて無力極まりない女である様にだね」
無力な女ねぇ~・・・。
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何だぁっ!?・・・急に感覚がぁっ!
「皆、落ち着くね。この中だけだね。創造神が直接返事だけをよこしたね」
「ロイク様。窓の外を!」
マリレナさんの言葉で、フォルティーナ以外の皆が外を確認した。
「止まってるみたいだが」
「止まってます」
「はい、動いていませんね」
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「おぉ~なのじゃ~。止まってるのじゃぁ~」
バルタザール王子と、俺、アルさんは、時間が止まったかの様に動かない窓の外を見て、一瞬時間が止まった。
トゥーシェの声で我に返ると、
「外も創造神様が?」
≪≪≪ 神授を与える。
俺達は、コーチの中に響く声を全身で受け止める。
≪≪≪ バルタザールよ。
「はぁっ!はい。創造神様ぁっ!」
「バルタザール。返事は良いね」
「はっ!フォルティーナ様」
「返事は良いね」
「は、はい」
バルタザール王子は、名指しされ、緊張した面持ちで額に汗を浮かばせている。
≪≪≪ 神の任は人の子には過ぎた物。命を代償とし彷徨いし器を導くは誉。神授を与える。今より汝を下級神見習いとする。神の力を1与える。九級下級神へと昇格した暁には、ロイク・ルーリン・シャレットの眷属神として励むが良い。下級神見習い期間中は、料理を司りし神アランギー・フゥファニーを頼るが良い。
「あ、ありがとうございます」
「バルタザール。返事は良いね」
「は、はい」
≪≪≪ 期間中は、人としての整理に励むが良い。
「はぁっ!ははぁ~~~・・・・・・」
バルタザール王子は、そのまま意識を失い。ソファーにもたれ掛かってしまった。
「フォルティーナ」
「安心するね。生身の身体で創造神の神気を直接受けたね。疲れて眠っただけだね。理由は他にもあるが今は良いね」
≪≪≪ ミトよ。今より汝はコルト下界に根を下ろす全ての精霊樹の精霊。神の力を新たに3与える。励むが良い。
「えっ?・・・フォルティーナ。マルアスピーはどうなるんですかぁっ!?」
「黙って、神授を聞くね」
「あっ・・・そ、そうですね・・・」
ミト様が、大樹の精霊様に戻るって事だよね。マルアスピーは大樹の精霊様じゃなくなるって事なのか?
≪≪≪ アル、フォルティーナ、マリレナ、トゥーシェよ。ロイク・ルーリン・シャレットの嫁として励むが良い。
嫁として励めって、マルアスピーは?
「それだけかね?」
フォルティーナは、創造神様に不満を漏らした。
≪≪≪ 神界の恥と成らぬ様。励め。
「ギャハハハハハハなのじゃぁ~。ざまぁ~見ろぉ~なのじゃぁ~。ハッハッハッハノーハァーなのじゃぁ~」
「トゥーシェ。うるさいね」
≪パチン
「ギャァ――ー・・・なのじゃぁ~」
トゥーシェ。いい加減学習しないと身が持ちませんよ。
「酷いのじゃぁ~」
自業自得だな。
・
・
・
創造神様とフォルティーナの会話が暫く続いたが、ミト様、アルさん、マリレナさんは、フォルティーナから視線を外し、決して合わせようとはしなかった・・・。
≪≪≪ トゥーシェよ。
「おっ!何か貰えるのじゃぁ~」
≪≪≪ パチン
大人な方のトゥーシェが、俺の膝の上に現れた。
「うわぁっ!」
「おや、旦那様よ。妾をこんなところに呼ぶとは、気が早くはないか」
「呼んだの俺じゃないです・・・」
大人な方のトゥーシェは、コーチの中を見回した。
「旦那様しかいないと思うが、そうではないのか」
創造神様から何も貰えなかった強欲なフォルティーナは、失意の中だ。
≪≪≪ トゥーシェよ。
「邪神様に御会いした事も無いというのに、どうしてこう創造神にばかり遭遇してしまうのか。妾の運の悪さか・・・」
限りなく良い方だと思います。
≪≪≪ 夢魔の女王トゥーシェよ。
「あっちの妾ではなさそうか。創造神よ妾か」
≪≪≪ 良き妻として励め。分離し無となりし汝の空白に、悪気を新たに120与える。
「失った悪気が戻るのか」
≪≪≪ トゥーシェよ。汝に
「私は、甘い御菓子か、漫画本が良いのじゃぁ~」
トゥーシェ・・・。
騒がしい方のトゥーシェは、創造神様を都合の良い親戚のおじさんおばさんとでも思っているのだろうか。
≪≪≪ 神気・・・。ロイク・ルーリン・シャレットとマルアスピーに菓子の材料を託す。タブレットに収納しておこう。
まじか・・・。
「おぉ~なのじゃぁ~」
≪≪≪ 良い子であれ。
「おぉなのじゃぁ~」
≪≪≪ パチン
フォルティーナと俺以外全員が眠りに落ちた。
≪≪≪ ロイクよ。
ありがとうございました。