3-31 スタンピード・アンデットの日④~王宮詞は男の浪漫~
リーファ歴4075年8月14日、火の日。
彼女は、ゼルフォーラ王国の元パレスマージ。そして、ヴァンエルフ族の亡王国エルヴァーリズの王族の血筋。
彼女は、マリレナさんの双子の妹さんの第40世代から第46世代位の子孫に当たり、顔立ちや雰囲気はマリレナさんに良く似ている。つまり、血はかなり薄くなってはいるが、ハイエルフ族の血統のノーマルエルフ。その【INT】【MND】【MP】は、ユマン族とは比にならない程に高い。
エルフ族には、魔術の他に古代魔術に近い古い魔術を扱う者が多い。その中でも、息吹の谷にルーツに持つヴァンエルフ族は風属性の魔術を得意とする。
そして彼女は、風属性を筆頭に地属性と水属性、本人曰く苦手らしいが火属性と無属性の魔術を扱う事が出来る。
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「凄い光け・・・い・・・......
カトリーヌさんは、目の前で繰り広げられる浄化昇天の方法に、思わず息を呑む。
......ですね・・・」
「ですね」
間違い無く凄い光景だ。
メリアさんは、風属性の魔術で、風の刃を幾重にも発生させ、大量のアンデットを一瞬の内に木っ端微塵に粉砕。
風の刃によって粉砕されたアンデットは、粉砕と同時に風の刃が巻き起こす突風によって宙へと飛散する。
そして、火属性の魔術で、風の刃によって宙へと飛散したアンデットを焼却。
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浄化昇天の炎は、まるで粉塵爆発の様に燃焼を維持し続けていた。
「粉砕され飛散したアンデットに飛び火して、爆発が爆発を生み出している様なのですが・・・。ロイク様。これは・・・?」
「切欠は魔術だと思います。ですが、目の前の事象は、自然の力を使用した非魔術みたいです」
・・・この前読んだ1万年以上も昔の非魔術魔導具学の文献に書いてあったシオ反応に似てる。
利便性や汎用性に優れた古代魔術に負け、1万年以上も前に忘れ去られたシオ。そして、現代魔術に負け、4000年以上も前に忘れ去られた古代魔術。俺は、非魔術魔導具学や古代の技術や魔術に興味を持った。そして、タブレットを駆使し調べた結果。シオ反応という面白い研究をまとめた文献を見つけた。その中に記述されていた1つが【粉塵爆発】だった。
・・・次々と粉砕されるアンデットが粉塵雲で、火属性の魔術が着火元で、風属性の魔術は自然の力の循環の維持。
やっぱりそうだよなぁ~。これって、非魔術を利用した魔術。
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カトリーヌさんと俺は、メリアさんと合流した。
「メリアさん。これって、風の刃を維持してるのは魔術ですが、火は自然の力の循環を利用した非魔術ですよね?」
「はい。ロイク様」
火属性の魔術は着火の際に1度だけ。苦手だと言っていた火属性を、得意な風属性で補い、非魔術と組み合わせて威力や範囲を制御。魔術ってこんな事も出来たのか・・・。
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「マリレナさんじゃあおっせんかぁ~?」
じゃあお?・・・うん?
「えっ!?・・・・・・あっ!カトリーヌさんですね。凄いです。何処から見ても弓ですよ」
「えっ?あのぉ~。メリアさん。私はここに・・・」
「あれっ?・・・えぇ?」
「相変わらずありんすなぁ~」
「あっ、えっ?・・・あっ・・・・えええぇぇぇ?」
どうやら、クーランデール・アルクヴァン様を、マリレナさんと勘違いしているみたいだ。
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「風の中精霊様なのですかぁっ!」
「あちきは、息吹の精霊具ありんす」
「息吹の精霊具様で、風の中精霊様なのですね?」
「う~ん・・・。メリアさん。マリレナさんを呼んできろ」
よんできろ?・・・どういう意味だ?
「マリレナ様をですか?」
え?
「メリアさん。クーランデール・アルクヴァン様の言葉が分かるんですか?」
「分かると言いますか。そうですねぇ~・・・。何となくこうかなって感じです」
・・・通訳で同行して貰った方が良くないか?・・・うん。
「メリアさん。今日は、カテリーナさんと俺に同行して貰えませんか?」
「この辺りのアンデットの殲滅はどうしましょう?」
「それは親父にでもやらせましょう」
「バイル様にですか?」
「昨日、走り回ってるだけで1体も倒してないし」
フォルティーナのせいだけど・・・。
「アンデットを集めて、一気に浄化昇天させるものなのだとばかり思っていたのですが、まさか逃げ回っていただけだった何て」
あの数の中を良く無事でいられたなとは俺も思うけど・・・。
「エルネさんやカトリーヌさんは直ぐに戻したのですよね?」
「レベル3のエルネスティーネさんと、支援専門のカトリーヌさんじゃ、アンデットの仲間入りをするか、食べられて終わりですからね。親父に関しては危険になったら助けるつもりだったんですが、器用に走り回って皆の殲滅に協力してる様に見えたんで、フォルティーナが好きにやらせてみようって・・・」
それに親父は、邪狼獣の誰かと大樹の森の中を毎日の様に走り回ってる。人工の草原なら1日中だって走り回れる。って、思ったんですが・・・。
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メリアさんとカトリーヌさんと俺は、俺の父バイルと合流した。
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「おっ!何だ何だぁー。両手に花束抱えてぇっ!冷やかしなら帰んなぁっ!」
「今日は順調そうだな」
「あったりめぇーだろうがぁっ!・・・弓矢さえあればって言いてぇーところなんだがよぉー」
「どうしたんだ?」
「見てくれよ」
≪ヒュッ ドゥブ
親父は、アンデットの頭部を矢で射抜いた。
「ロイク様。あれをぉっ!」
カトリーヌさんが、親父が射抜いたアンデットとは別の方角を指さした。
「額から首にかけて矢が刺さってますよね?」
「そうなんだよぉー。メリアっちぃー」
メリアっち!?・・・メリアっちねぇ~・・・。
「どうなんてるんだ?」
あれって、どう見ても脳を貫通してる。確かアンデット種のゾンビ族は、脳に損傷を受けると動けなくなるはず。
「それ、俺が聞いぃーてんのぉっ!・・いったいどうなんてんだよぉっ!」
「主さん。あの人さんの矢ありんすが、アンデット化した存在に即死攻撃ありんすかぁ~?無駄をしなんすなぁ~」
「ロイク様。クーランデール・アルクヴァン様は、アンデット化した対象に即死攻撃の矢を射っても意味が無いと」
「あっ!なるほどねぇー。そういう事かぁっ!原因が分かれば何とかなるなぁっ!」
いや、何ともならない様な気が・・・。親父は、地属性と風属性の特化耐性型で、邪属性の魔術魔法特化耐性型。その存在は極めて邪な訳で、浄化とは程遠いどちらかといえば、無縁そのもの。
「あぁ――ー・・・無理じゃねぇー」
気付いたみたいだな。
「なぁロイクぅー。俺ってさぁー。火属性とか聖属性とか光属性とか無属性とかねぇーだろうぉー」
「だな」
「これどぉーすんのよぉー」
「属性無しでの攻撃は出来なくなったんだよな?」
「その通りだぁっ!何をやっても邪属性だぁっ。地属性と風属性を付加すりゃー。地か風にはなるがなぁっ!」
「風属性を付加した矢でアンデットをバラバラにするとか、地属性を付加した矢でアンデットを押し潰すとか出来ないか?」
「あぁ――ー。おめぇー何言ってくれてんのよぉー。矢がんな事できるかっつぅーのぉっ!」
それもそうか・・・。・・・うん!!あれ?
「ロイク様。クーランデール・アルクヴァン様で射られたアンデットは浄化昇天していませんでしたか?」
「あっ!そっか・・・清澄風属性」
「あん?・・・つぅーかぁっ!面白れぇー弓だなぁっ、それっ!」
「あぁ。この弓はっていうか、鞭は、息吹の精霊具で風の中精霊様で、クーランデール・アルクヴァン様って名前で」
「プゥッ」
「どうしたんだ?」
「ロイク。おめぇーさぁー。24歳にもなって、弓に名前とか付けちゃってる訳ぇー・・・。それ超いてぇーぞぉっ!プププ。ハッハッハッハ」
「主さん?・・・あの人さんはよたろうありんすか?」
え?
「えっと・・・」
メリアさんは、俺の耳に顔を近付けると囁いた。
「・・・えっとですね。たぶんですが、クーランデール・アルクヴァン様は、バイル様の事を、頭のおかしな人なのではないかと・・・」
なるほど。
「若干そんな感じですってどう言えば、そのまま通じると思いますか?」
「え?・・・こちらの言葉は通じてる様ですし、そのまま伝えて良いと思いますが・・・」
なるほど。
「クーランデール・アルクヴァン様。その通りです。見た感じのままで、えっと・・・よたろうありんす何です」
「何だぁっロイク。おめぇー頭大丈夫かぁっ!」
親父にだけは言われたくないんですけど。
「あん?・・・」
親父は、自身の両耳の穴を穿る。
「どうした?」
「あ、いや何だぁっ!・・・最近行ってねぇーからよぉっ!」
何を言い出したんだ?
「何処にだよ」
「あぁ――ー。あれだあれぇっ!・・・大人の遊園地だぁっ!」
「大人の遊園地?何だそれ?」
「乗ったり乗られたり、叩かれたり踏まれたり責められたりする遊園地だよぉっ!」
・・・遊園地?・・・拷問の間違いじゃ?
「はぁ~?それ拷問だろうが」
「まぁ~確かに尻の穴とか・・・って、何言わせんだよぉっ!」
「ロイク様。バイル様は大人が通う宿を遊園地と表現している様です」
「はぁ~↑?・・・カトリーヌさん!!そんな拷問を強いる宿があるんですかぁっ!」
「えっと・・・」
「ロイクぅー。そっちはよぉー。E・SU・E・MUってなぁっ!女王様と下僕の楽園だぁっ!」
「えっ?・・・・・・......
宿に女王様と下僕がいて、拷問を強いてるのに楽園で遊園地・・・。まさか、昨日の殲滅戦の後遺症か何かで、片足だけじゃなく本物の馬鹿か何かに!!!
......親父・・・」
俺は、親父の顔を凝視する。
「ん?あのよたろうさんは、主さんの御父上ありんすか?」
「まじかぁっ!?」
あれ?・・・親父もクーランデール・アルクヴァン様と会話出来てないか?
親父は、もう1度、自身の両耳を穿ると、
「なぁロイク。その弓俺にも貸してくれぇっ!」
にもって・・・。その前は誰だよ。
「すかや。あちきは、主さん一筋ありんす。あの人さんはすかや」
「あん?・・・すげぇーマジでスゲェーッ!・・・幻聴っか!って思ったがぁー。理想の浪漫語を話す弓かよぁっ。マジスゲェ――ー」
浪漫語?
「ロイク。その弓。誕生日プレゼントで俺にくれぇっ!」
「はぁっ?親父の誕生日って10月だろう」
「もう直ぐだぁっ!前祝でくれぇっ!」
「息吹の精霊具で中精霊様だって言っただろう。物みたいに贈るとか無理だから」
「いや。その理想の浪漫語を話す弓は、ぜってぇー美人だぁっ!」
いやって、何に対しての否定だよ。それに美人って・・・。
「あのさぁ~。クーランデール・アルクヴァン様は鞭だからな」
「おおぅ。そっか。わぁーったよぉっ!」
何なんだ。・・・親父に関わると本当に疲れる。
「だったら、誕生日プレゼントにその鞭くれぇっ!」
だから・・・。
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父バイルにフル支援を施し、弓には聖属性を付加した。親父が属性の上掛けをしない限り、番えた矢で射ればアンデットを浄化昇天出来る。
クーランデール・アルクヴァン様の代わりに、メリアさんが受け持っていた殲滅範囲を親父にはプレゼントした。
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メリアさんとカトリーヌさんと俺は、俺の親父から逃げる様に、サラさんと合流した。
「主さん、あの人さんは?」
「ロイク様。その弓?・・・いえ、鞭かしら?・・・古式のパレスパローレを喋っていませんでしか?」
「サラさん、パレスパローレって何ですか?」
「王宮や王族の宮殿邸宅内で遣われたいた王宮詞の事です」
「へぇ~」
ありんす。ありんす。言ってる様にしか聞こえなかったけど、止ん事無き御詞だったのかぁ~。
「キャンディダの令嬢達が遣い始めたのが最初なのだそうですよ」
「キャンディダ?」
キャンディダって何だ?・・・知らない言葉が多過ぎるんですけど・・・。
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「風の中精霊様なのですかぁっ!・・・武具なのですよね?」
「息吹の精霊具ありんす。サラさんは、ルーリン家の人ありんすか?」
「はい。ロイク様と私はルーリン家の者です」
「主さんも・・・ありんすか?」
「そうですよ」
ありがとうございました。