3-29 スタンピード・アンデットの日②~鞭の名前は風鳴の弓形~
リーファ歴4075年8月14日、火の日。
フォルティーナは、アンデットの経験値を微々たる物だと言っていた。
だが、エルネスティーネさんは個体レベルが3から99へ、親父は97から98へと上がった。
神授スキル【連携の歓喜】の効果で取得経験値が16倍とはいえ、フィーラ市北東部のアンデット殲滅戦を1度経験しただけで99は凄い。
今回の戦闘で親父が取得した経験値は約390万。嫁許嫁達は約6240万。
アンデットは、その個体がアンデット化する直前、生前の個体レベルの3倍が経験値になるみたいだ。
ゼルフォーラ王国の討伐令対象魔獣オプスキュリテの成獣の経験値は16。微々たるどころか、高過ぎる。
ただ、経験値は高いが、素材、核、魔晶石。売れる物が何も無い。自分自身がアンデット化し彷徨う存在になってしまうリスクを負ってまで、倒したいと考える者は少ないだろう。
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俺は寝室のベッドに横になりながら考えていた。
帰宅してから家族のステータスを確認していたからだろう。珍しくスキルだけでは無く自分のステータスを確認したからだ。
???はて???・・・個体レベル1001っ!
「ねぇロイク。どうかしたの?」
「エルネスティーネさんと親父以外。皆レベルはそのままだったじゃないですか」
「そうね」
「何か俺の個体レベルが999から1000を通り越して1001になってるんです」
「そうっ。おめでとう」
「おめでとう。って、999でカンストしてたはずなんですが・・・」
「忘れたのかしら。私達家族の個体レベルの上限は2000よ」
「あぁ~・・・。そういえばそうでしたね」
「そうよ」
「でも、300台の皆のレベルは据え置きで、俺は2つ上がるっておかしいと思いませんか?」
「おかしくないわ。例えば、通常の取得経験値を≪10000≫として、ロイクの場合、神授スキル【修練の心得】の効果で100分の1の≪100≫。創神具【祝福の靴】の効果で1万倍の≪1000000≫。神授スキル【連携の歓喜】の効果で16倍の≪16000000≫。そして、神授スキル【プロモーション】の効果で、個体レベルの上昇に必要な経験値は1万分の1。仮に、上限に必要な経験値が10億として、プロモーションの効果で≪100000≫。取得経験値は結局のところ何倍かしら?」
「1600倍です」
「個体レベルを上げる為に必要な経験値は何分の1かしら?」
「1万分の1です」
「あの子達は?」
「取得経験値は16倍で、必要な経験値はそのままです」
「今日、ロイクが取得した経験値は約998億4千万」
「そ、そうなりますね・・・」
相変わらず、計算早いなぁ~・・・。
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この日は、個体レベル1001に気を取られ、ステータス値の確認をしなかった。
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これは、復旧復興と発展。趣味趣向を追求した約1ヶ月間の気楽な物語かもしれない・・・。と、いう事で、日と時間をほんの少しだけ遡り・・・日付は......
―――R4075年8月14日(火)
神授スキル【タブレット】『ゲームDX』
R4075年8月6日(聖) :1回分
R4075年8月7日(邪) :2回分
R4075年8月8日(光) :2回分
R4075年8月9日(闇) :2回分
R4075年8月10日(大樹):2回分
R4075年8月11日(無) :2回分
R4075年8月12日(地) :2回分
R4075年8月13日(水) :2回分
R4075年8月14日(火) :2回分
『ゲームGOD』遊べるまで後3回分
『ゲームGOD』遊べる回数1回
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俺は、アシュランス王国カトムーイ州州都カトムーイの西に広がる大樹の森旧ワワイ大森林域南林地域の上空100mにいる。
大樹の森旧ワワイ大森林域南林地域は、南に海。北にワワイ湖。東にカライ川。北西にワワイ川。西に南ワワイ川。海と湖と川に囲まれた旧ワワイ大森林5地域の中で最も面積が広い。
この広い南林地域には、アンデットが151351体も俳諧している。
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「ということで、3日間かけて、ここ大樹の森旧ワワイ大森林域南林地域のアンデットを浄化昇天させましょう」
≪「はい!」
パフさん、サラさん、アリスさん、テレーズさん、バルサさん、メリアさん、カトリーヌさん、バジリアさん、エルネスティーネさん。9人は、気合十分。今すぐにでも戦えそうな勢いだ。
「それと親父。今日は確り頼むぞ」
「・・・あのなぁー。本気で死にかけた親に対してそれはねぇーだろうよぉー」
「バイル。君はだね」
「あん?何だよぉー。神乳」
「もう終わった事だね。終わったを後悔してどうするね。意味が無いね」
「・・・おい。ちょっと待てよぉっ!俺は後悔も反省もしてねぇーぞぉっ!寧ろ神乳俺に言う事があんじゃねぇーのぉー?」
「うんうんだね。分かったね。あたしが言うまでも無いと思っていたのだがね。仕方ないね。バイル」
「おう。なんだぁー」
「弓矢、鞄、短剣は持ったかね」
「おう・・・」
「そうかね。では、頑張るね」
「おいおいおい。じゃなくてだなぁー」
≪パチン
え?今日もこのパターンですか・・・。
俺の目の前には、応援組の大賢者マクドナルド卿、剣聖サンドラ王女、聖騎士バルタザール王子、騎士ジェルマン侯爵、射手マリア侯爵夫人、上級魔術師騎士ロレンスさん、魔獣使い騎士リックさん。他数名が待機している。
パフさん、サラさん、アリスさん、テレーズさん、バルサさん、メリアさん、バジリアさん、エルネスティーネさん、そして親父の姿が突然消え、皆驚きの表情を浮かべ俺を見ていた。
えっと・・・。
「えっと・・・。よ、予定通り、9人は一足先に戦闘を開始しました」
昨日に引き続き、今日も支援魔法一切無しで・・・。
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俺は、応援組で3つのパーティーを編成した。
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≪アンデット殲滅作戦・応援組パーティー≫
【チームアシュ】
リーダー:聖騎士バルタザール王子
魔獣使い騎士リック
他数名
【チームランス】
リーダー:騎士ジェルマン侯爵
上級魔術師騎士ロレス
他数名
【チームワゴン】
リーダー:剣聖サンドラ王女
射手マリア侯爵夫人
大賢者マクドナルド
他数名
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チームアシュには、サラさんとテレーズさんを。チームランスには、アリスさんとバルサさんを。チームワゴンには、パフさんとメリアさんを入れる計画だったのだが・・・。
時既に遅し。俺は、明日の殲滅戦こそは、計画通りに事を進めてみせる。と、そう心に誓った。
バジリアさんは、フィーラ森林警備隊特別実行部隊を指揮。森林戦はエルフ族の十八番。隠れ里の件もあるし期待して良いだろう。
カトリーヌさんは、俺に同行し殲滅戦に参加する全ての人を支援。人間の家族の中で俺の次に支援補助に優れているからだ。
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応援組も戦闘を開始した様だな。
「カトリーヌさん。今日も支援する前に飛ばされてしまったので、皆に支援して回りましょう」
「はい。ロイク様」
「昨日と違って数も多し、深い森の中での戦闘です。皆に支援して来ます。連携の歓喜の効果が欲しいので、マルアスピー、アルさん、フォルティーナ、トゥーシェ、もう1人のトゥーシェ、マリレナさんは、ここに居てください」
「分かったね」
≪パチン
フォルティーナが指を鳴らすと、目の前に俺の最初の眷属神エリウスさんと、俺の拘りが細部にまで行き届いたコーチが現れた。
「はっ?」
周囲を見回すエリウスさん。
「エリウス」
「こ、これは、大上神フォルティーナ様。主殿に奥方様方」
エリウスさんは、臣下の礼をとる。
「エリウス。あたし達はコーチで寛いでるね。何かあったら知らせるね」
「はぁっ!」
「うんうんだね。さぁ~。アスピーもアルもマリレナもついでにトゥーシェ2人も中へ移動するね」
「そうね。ただ宙に浮いていても時間の無駄ね」
「その通りだねアスピー。あたしは時間の無駄が1番許せないね」
・・・ほう・・・。自身を最も許せない存在だって、ちゃんと認識してたのか。・・・一応、成長してたんだな。
「ロイク様。何か手伝える事がありましたら言ってくださいね」
アルさん。貴女こそ本物の女神様だと俺は思います。心の底からそう思います。あれは、手違いか何かじゃないかと・・・。
俺は、フォルティーナの顔を見た。
「な、何だね。行ってらっしゃいのKissが欲しいのかね」
・・・アホか。
「女神の品格適正その他諸々についてふと思うところがありまして・・・」
「おい。私は乗るのじゃぁ~」
「妾も、コーチで待ってて良いのか?」
その方が良いか。お菓子と神茶とゲームを渡しておけば十分だよな。
「コーチの中で待っててください。女神フォルティーナ頼みますよ」
俺は、女神を強調した。
「それと、これ渡しておきます」
「あら御菓子ね」
「さっき、バルタザール王子からいただきました。モルングレーで最近人気の米を使ったチョコレートのお菓子で【パフパフチョコ】っていうそうです」
「お米とチョコレート・・・。ふ~ん、なるほどね。向学の為に試させて貰うわ」
おっ!機嫌が物凄く良い時の顔だ。
「ねぇロイク」
「はい、なんでしょう?」
「工房ロイスピーのチョコレートのおかしも幾つか渡して貰えるかしら」
「そうですね」
比べるのか。
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俺は、マルアスピーに言われた通り、工房ロイスピーのお菓子をタブレットから取り出し、コーチの中に設置してあるテーブルの上に置いた。
「それと、神茶です」
「ロイク様。バルブにしか見えません」
「バルブなので、俺にもバルブにしか見えないですね」
マリレナさんは工房ロイスピーで見た事なかったんだっけ?
「ロイク。血は争えないねだね」
「はぁっ?」
「バイルもそうだがだね。ふざけて良い時と悪い時の判断能力にどうやら欠けているようだね。良いかね。今はアンデットを浄化昇天させる為、皆が必死に戦っているね。・・・冗談は顔だけにするね」
・・・おいっ!貴女にだけは言われたくないのですがぁっ!・・・我慢だ。我慢。
「こっちの青色で印を付けたバルブからは冷たい神茶が出てきます。で、こっちの赤色で印を付けたバルブからは温かい神茶が出てきます。原理はマルアスピーに聞いてください」
「家族専用の瑠璃のグラスと陶器のカップは、コーチに設置した食器棚の中に置いてあります」
「うほっ!おおぉ~なのじゃぁ~」
コーチの中に既に乗り込んでいたトゥーシェが変な声を上げた。
「どうしたんですか?トゥーシェ」
「グ、グラスに私の名前とペンギンの絵がぁ~・・・うほ、可愛いのじゃぁ~♪」
気に入ってくれただけか。びっくりした。てっきり、猿か猛狒の真似でも始めたのかと思った。
「あと、トゥーシェと」
騒がしい方の・・・。
「フォルティーナと、皆の為にゲームを1つ用意しました」
フォルティーナの名前も呼んでおく。
「何だね」
「おぉ~なんなのじゃぁ~」
「俺が考えた【クルールキューブ】というゲームです」
「どんなゲームだね」
「これはですね......
***********************
≪クルールキューブ≫
2人~6人で遊ぶボードゲーム
キューブと呼ばれる立方体をボードのマス目に
交互に置いていく。
キューブは、赤・青・黄・緑・茶・黒色の6面
同じ色に挟まれたキューブは挟んだキューブと
同じ色になる。
マス目が全て埋まった時点で、
一番多い色のキューブが勝ち。
一番少ない色のキューブが負け。
ゲーム途中にボード上からキューブを
失った時点で失った人は負け。
中央は、トゥークルール。すべての色として
認識するが、キューブとしては数えない。
中央の、トゥークルールの色を固定するには、
縦横斜め中央を囲む16マス全てを自身の
色のキューブで埋めなくてはいけない。
他
***********************
......こんな感じのゲームです」
≪なるほどぉ~
「それじゃぁ~。カトリーヌさんと俺は行って来ます」
「任せるね」
「ロイク様。待ってください」
「あ、はい」
「これをバジリアに渡していただけますか?」
マリレナさんは、弓形状にした鞭を持っていた。
「弓?・・・鞭かな?」
「これは、ゼルフォーラ大陸の風の樹人族一族に伝わる【風鳴の弓形】という鞭です」
弓の形をした鞭な訳か。神眼を意識するまでもないかな・・・。
「バジリアに渡そうと持って来たのですが、渡す前に行ってしまったので・・・」
フォルティーナのせいですね。
「ロイク。何をしているね。サッサと渡しに行くね」
・・・怒らない怒らない。冷静に冷静に。相手は話が通じないのだから。
俺は、マリレナさんから鞭を受け取った。
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「カトリーヌさん。武器を預かったし、バジリアさんの支援から始めましょう」
「そうですね」
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カトリーヌさんと俺は、俺の神授スキル【フリーパス】で、バジリアさんの上空5mの地点に移動した。
「≪『バジリアさん。マリレナさんから鞭を預かって来ました』→バジリア≫」
「≪『ロイク殿!?・・・これは、念話ですよね?』→ロイク≫」
「≪『大樹の加護』だった【レソンネ】ってスキルが、神授スキルにグレードアップしたんです。精霊様や神様限定だったスキルに家族や眷属が加わったんですよ』→バジリア≫」
「≪『そうでしたか。フォルティーナ様のモントルアプレよりも、透明感のある優し音なので私はこちらの方が好きです』→ロイク≫」
「≪『ハハハ。詳しい話は後でという事で、今から横に移動します。いきなり攻撃しないでくださいね』→バジリア≫」
「≪『気を付けます』→ロイク≫」
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俺は、巨樹の太い枝の上に、バジリアさんとカトリーヌさんといる。
周囲では、フィーラ森林警備隊特別実行部隊の隊員達が、アンデットを圧倒していた。
木の上からの狙撃が有効なのか。
「驚かれましたか?」
「そんまさるはアンデット化すると木に登らないんですか?」
「はい。昨日の戦闘の際に気付いたのですが、そんまさるに限らずアンデット化した存在は俳諧し喰うだけを繰り返すようなのです」
「そうなんですね」
なるほどぉ~・・・。噛まれたり引っ掛かれたりするリスクなしで、こんな簡単に経験値を得る方法があったのか。
俺は、バジリアさんにマリレナさんから預かった鞭を渡した。
「間違い無く受け取りました。これが、我等風の樹人族一族に伝わる息吹の神具の1つ風鳴の弓形」
息吹の神具?へぇ~、後でマリレナさんに詳しく聞いてみようっと。
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俺は、バジリアさんと警備隊の隊員全員にフル支援を施し、風鳴の弓形の弓と鞭と槍それぞれのヴァージョンを確認した。
ありがとうございました。