1-7 コルト大聖堂と、開かずの扉?
作成2018年2月13日
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【タイトル】このKissは、嵐の予感。
【第1章】(仮)このKissは、真実の中。
1-7 コルト大聖堂と、開かずの扉?
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――― コルト町の南10Km程の湿地帯
俺と、マルアスピー様と、コルト貴族領軍私兵隊長アームストロングさんの3人は、俺の神授スキル【フリーパス】で、コルト町から南へ10Km程の地点にある湿地帯へ移動した。
アームストロングさんの部下で貴族領軍所属のチャールズ君とブレア君は、領主一族の我儘に付き合わされた被害者だという事は話の流れから直ぐに理解出来たが、大人の事情やら複雑な責任問題があり、彼等2人は一カ月間の謹慎処分になるそうだ。
事の発端は、セイズマン・パマリ次期侯爵の長男ジョージ・パマリと次男アンガス・パマリ。そして、ステファン・パマリ侯爵の三男トランプ・パマリと次女イザベラ・パマリによる『実戦で魔獣を倒したい』というくだらない理由だった。
パマリ家の4人は、家臣貴族家の子息令嬢を巻き込み、貴族領軍に所属する同世代の兵士に命令し、夜のうちに船でコルト川を下流へ南下して入出通行管理を回避し町を抜け出していた。
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「強制的に、パーティーに君を入れるからちょっと待って」
「・・・はい、あのぉ~士爵様。親には秘密にして貰えませんか?お礼はします・・・」
「俺はマルアスピー村の狩人で、士爵なのは父親だから。それに、秘密って言われても・・・俺は誰かに喋る気は無いけど、アームストロングさんが、皆の親に報告するんじゃないかなって思うよ」
「ですよねぇ~・・・」
えっと、加入申請OKっと・・・
「よし、これで、先に戻った6人と君等5人で救助は終わりだね」
「士爵殿。今回は本当に助かりました」
「・・・ただの狩人です。アームストロングさんが士爵殿って呼ぶせいで、皆に士爵様って呼ばれて・・・どうしてくれるんですか・・・」
「シャレット士爵家のロイクさんと呼ぶのも長いですから短縮して士爵殿で良いじゃないですか」
「はぁ~・・・とりあえず町に戻りますか・・・【転位】発動≫」
本当は、神授スキル【フリーパス】発動・・・
『フフフッ・・・神様からの正体を隠した嘘つきがって助言。ロイクかしら!』
これは、正体じゃなくて、スキルを隠すって言うんですよ。
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――― コルトの町 輓獣車両停車場
俺は11人を2度に分けパーティー編成し【転位】でコルト町まで運んだ。
「侯爵家の御子息御令嬢にも他貴族家の御子息達にも怪我が無くて本当に良かったです」
「そうですね。マルアスピー村の貴族領軍と違って、ここコルトの貴族領軍は兵士の質が高い様ですから、もし複数の魔獣に襲われていたとしても彼等2人で大丈夫だったとは思いますよ」
アームストロングさんをパーティーから脱退させて・・・ん?状態異常【微毒】???あれ・・・パーティーマンバーの誰かが【微毒】状態だったのかな?
「チャールズとブレアの2人でですか?」
「はい、2人とも今年19歳になる様ですが、チャールズ君は個人レベル8。ブレア君はレベル7。普通に考えても高いですよ。彼等は。俺なんか先日まで個体レベルが1だったんですから、そう考える凄い2人です」
「士爵殿は、個人のステータスを全て【Évaluation】出来るのですか?」
「何となくですが分かります」
『何となく?私よりも良い瞳を持ってる人がぁ~?フフフッ』
神授スキル満載だと怪しい人だと思われるかもしれないし・・・
「しかし、【転位】魔術は聞いていた通り、凄いですなぁ~。そしてあの索敵探索スキルにステータスを鑑定出来るスキル。どれか1つだけでも一生食って行けそうです。創造神様に感謝ですな!ハッハッハ」
「ハハハッ。確かにそうですね・・・使える様になってからまだ日は浅いんですが、感謝してます」
「優良スキル。いやぁ~羨ましい限りです」
脱退っと。これで、全員OKだな・・・マルアスピーさ・・・あのですねぇ~、状態異常の【微毒】って分かりますか?
『微毒?聞いた事は無いわ。猛毒だろうが微毒だろうが毒は毒だもの・・・どうかしたの?』
さっき、パーティーから俺達以外を脱退させてる時に、【微毒】って一瞬見えた気がしたんです。
『後で、タブレットで検索してみたらどうかしら』
そうですね。それとですね。後で、俺の実験に1つ付き合ってください。これ、俺達2人じゃないと出来ない実験なんですよ。
『何かしら・・・楽しみね』
「健康状態を確認する為、詰所の医務室で簡易検査をさせます。詰所でパーティーの確認もする予定ですが、士爵殿・・・士爵殿・・・」
「あ、はい。ちょっと考え事をしていました」
「彼等を、健康状態とパーティー確認する為、詰所に移動させますが【転位】に必要な作業の解除は終わりましたか?」
「はい、終わってます。2回目の転位の時のパーティーメンバーに、微毒とかって聞きなれない状態異常の人がいた様に見えたんですが、見間違いだったのかもしれないです。一応、毒の状態検査だけは注意してみてください」
「分かりました。本日は御協力ありがとうございました。今日はこの町に宿泊される予定なんですよね?」
「そのつもりです」
「本件を片付けたら、少しですが、私兵隊からお礼金が出ると思います。隊長の私が直接持参します。宿が決まりましたら詰所に連絡しておいていただけますか?」
「お礼とかはいらないので、食べ物の美味しい店とか紹介していただければ、それで」
「分かりました。それでは、後ほど・・・。お前達、御子息達を詰所までご案内しろ。士爵殿、奥方殿。一先ず失礼致します」
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数台の馬車と貴族領軍の兵士の姿が見えなくなると、
「ロイク。今、何時?」
「えっと、可視化・・・」
***11:13***
「らしいけど・・・大聖堂に行こうか?」
「11:30に大聖堂で、侯爵第一夫人に会う事になるのよね?」
「そのはずだよ」
≪共鳴認証時の確認方法を設定しますか?
「えっと・・・どういう事?」
≪不可視・可視の移行命令には、共鳴認証確認の命令が含まれていません。音声命令の際の、疑問或いは断定に対し共鳴認証確認の実行優先順位を設定する事を提案します。
「ねぇ・・・マルアスピー様・・・これってどういう意味か分かりますか?」
「う~ん。曖昧な思考や感情では音声指示の時の実行判断が難しとかそういう事かしらね・・・試しに、時間を聞いてみて貰える」
「分かった。今何時?」
≪現在11時です。
「・・・詳細な時間を聞いてみて」
「えっと、今は、何時何ラフン何カウン?」
≪現在11:14:21 22 23 24
「もう良いよ・・・」
「思うに、ロイクと同じなのよ。タブレットは更新って名前で成長するスキルなのよきっと。提案してきた設定っていうのは、共鳴時や動作時の曖昧差や経験不足を補う為に何かする事なんじゃないかしら」
「なるほど・・・大聖堂へ歩きながら試してみようか・・・」
「そうね」
「タブレット。俺が時間は?って、聞いた時は、カウンまでとか、詳細確認する時以外、00:00を教えて」
≪・・・更新しました。
「今、時間は?」
≪現在11:16です。
「良い感じだと思うけど、どうかな?」
「そうね。魔法の無詠唱と魔術の詠唱短縮って考えると良いのかもしれないわ。・・・・・・」
「どうかしましたか?」
「このスキル【タブレット】だけれど、使い方次第で人間種達の常識が様変わりしてしまうかもしれないっわよ」
「ふ~ん。機能が沢山あるから、まずは日常的に使いこなせないと」
「これに似たスキルは存在するのかしらね?」
「どうなんだろう?」
≪同種同位同様のスキルは過去現時点において存在していません。
「・・・この突然反応するのも何とかならないかな?」
「そうね。私達だけに聞こえたり見えたりしている状態で、これだと周りから変に思われるわ」
「えっと・・・って、これどうすれば良いんだ?」
≪確認工程の設定を見直します。認証状態を確認しますか?
「はっ?」
≪レソンネ。認証状態とは、マスターロイクが私に指示した状態を意味します。
「なるほど」「なるほど」※ハモる※
「今、何時?」
≪ヴォイス。11:19です。
「可視。絵を出して」
≪・・・画面を表示しました。
*******≫版≪*11:19*******
【 道具 】 【 武具 】 【 素材 】
【 音声 】 【 画像 】 【 映像 】
【 記憶 】 【 通信 】 【 情報 】
【 予約 】 【 施設 】 【 通貨 】
【 レシピ&成分 】 【 優待券 】
【 娯楽 】 【 プレゼントBOX 】
【 地図 】 【 各種詳細 】【 設定 】
※共鳴認証作動中※
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≪トン(【道具】を軽く押す)
*******≫版≪*11:19*******
【空飛ぶ海豚のタマゴ】1個
【赤マムシドリンク】12本
【神獣カフェ紹介状】1枚
【ロイヤル赤マムシドリンク】10本
【バイア〇ラ】24錠
【世界創造神様からの手紙】9通
【メアリー・シャレットのメモ】1枚
※個数状況:種類分別不要:全表示中※
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「あれ?」
「どうかしたの?」
「浮かび上がった絵で操作した時も、音声の案内があったと思ったんだけど・・・」
「・・・謎ね・・・」
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・
――― コルトの町 大聖堂
「ここが、大聖堂なの?」
「そ、ここが、世界創造神創生教会のゼルフォーラ王国コルト教区コルト大聖堂。俺が16歳の誕生日の日に神授をいただいた教会だよ」
「メアリーママさんも義理の御父様も皆さんも、コルの大聖堂って言うものだから、物凄く大きな教会を想像していました」
「例えば?」
「お城くらいは欲しかったわね」
「それって、教会じゃなくて、お城だよね・・・・・・さっ、中に入ろうか」
「そうね」
≪ギッ ギギィ ギギギィ―――― ギギギギ
「結構、重いやこの扉」
・
・
・
「ええぇぇぇぇぇ」
「正門がぁっ!」
≪タッタッタッタッタ
≪トコトコトコトコ
神官風な男性と修道女風な女性が、扉を開け大聖堂に踏み込んだ俺に向かって走って来る。
「どうやって・・・・」
「貴方が扉を?・・・・」
物凄い形相でこっちにやって来る。
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・
・
「ねぇ~ロイク。あの2人怒ってるのかしら?」
「大聖堂に入っただけだよ・・・」
「でも、ホラ!」
マルアスピー様の視線の先には確かに恐ろしい形相をした2人が存在していて、俺達に向かって走って来ていた。
「フゥ~ フゥ~ 大聖堂の正門扉を開けたのは貴方ですか? ハァ~ハァ~ハァ~」
「ハッハッハッハァ~・・・君が扉を開けたのですか?」
「は、はぁ~・・・勝手に開けて入ったらまずかったですか?」
「そうではありません。ハァッハァッハァ~」
「驚いた物で・・・フゥ~」
「大丈夫ですか?」
「呼吸を整えます。少し待ちください」
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・
神官風の男性と修道女風の女性が何となく怖かったので、俺達は大聖堂の外で待つ事にした。
「ロイク。人間種って変わった信仰の仕方をしてるのね・・・初めて見たわ」
「あれは、信仰とか関係ないと思うけど・・・驚いてたみたいだし、何だったんだろう?」
「創造神様の教会なのよね?」
「神様って創造神様だけだし、それ以外の教会は無いと思うけど・・・」
・
・
・
修道女風の女性が俺達に近付いて来た
「先程は大変失礼しました。私は、コルト大聖堂で助祭長を務めさせていただいております。ノエリアと申します。大聖堂の大講堂でお二人を待っております先程の神官は、コルト教区の教区長でコルト大聖堂の大神官長様です」
『至って普通みたいね・・・』
だから、さっきのは違うから
「先程は慌てていた様でしたが、正門扉から大聖堂に入っては駄目だったのでしょうか?」
「そんな事はありません。寧ろ正門扉が本来の入り口です」
「そうですよね。良かったです」
「ただ・・・」
「ただ?」
「ただ、開け閉め出来ればの話なのです」
「・・・」
『ホラみなさい。やっぱり変わった信仰方針なのよ』
「この大聖堂は、ここコルトが今の様な街に発展する以前から、この場所に建つコルト町で一番古い歴史ある人工建造物です。その歴史はとても古く5000年以上とも6000年以上とも言われています」
前からあるみたいだけど知ってた?
『人間種達の集落1つ1つを把握していた訳ではないのよ』
それもそうか・・・
「4000年程前のある日、コルト大聖堂に2人の若者が保護を求め身を隠しました。彼等は恋人同士でした。彼等は家を捨て全てを捨て、身体1つで逃げて来たそうです。男性の名前は、ゼルーダ・ルーリン」
「あれ?」
「そうです。お察しの通りです。ゼルフォーラ王国の王族でした」
ルーリンって、ゼルフォーラ王国の王族の苗字でしたよね?前から同じって言ってましたよね?
『そうよ。私の知ってる限りでは、たぶん今の王族は子孫ね』
「後に王位を継承し国王として即位した。大ゼルフォーラ最後の国王です」
「・・・ん?最後の国王なんですか?」
「はい。大ゼルフォーラ王国としては最後の国王です。そして、女性の名前は、ミト。とても美しい女性で、長いラッキーグリーン色の髪。ハッピーデイ色の瞳・・・伝承では・・・・・・貴方。とても印象が似てるわね・・・」
≪コツ コツ コツ コツ
「その2人の恋は、ゼルーダの王位継承という非常に大きな壁に阻まれました」
俺達が話をしていると、さっきの神官風改め大神官長様が、ノエリアさんの話に付け加える様に話をしながら近付いて来た。
「君達がなかなか講堂に入って来ないものだからね。私が来ちゃいました。助祭長挨拶は済んだのでしょう?中に入って貰いましょう。えー・・・失礼ですが、お二人のお名前は?」
「そうでした。俺達はマルアスピー村から来ました。ロイク・シャレットと、マルアスピーと言います」
「妻のマルアスピー・シャレットです」
妻ねぇ~・・・
『そうよ!・・・創造神様の前だもの、嘘を言ったら罰が当たるかもよ』
「村の名前と同じ名前ですか。これはまた縁深いですな。それでは、シャレット御夫妻を講堂へご案内致します。私に着いて来て貰えますかな?」
「はい。講堂で挨拶をする予定でしたので、是非お願いします」
・
・
・
――― 大講堂 祭壇の前
・
・
・
「という訳なのです」
「なるほど」
教会の来客室は使用中との事で、俺達は、祭壇の前で立ち話をしていた。
「結ばれなかった恋人達が引き離され、大聖堂から居なくなると同時に正門扉が動かなくなった訳ですか?」
「と、言われていましたが、4000年近く何をしても閉ざされたままの扉が、今日開いてしまいましたので、観光や巡礼のキャッチコピーを新しく考える必要があります」
「大神官長様・・・集金の話は今しなくても・・・」
「教会の運営もタダではありませんから」
『ホラ。やっぱり、信仰方法が変わってるわ』
観光とか巡礼とか今は宗教も人を呼ぶ努力が必要なのかもよ・・・あっ、巡礼は普通だね。
「正門の扉が開かない原因は分かっていたのですか?」
「シャレット夫人。それが・・・不明だった事もあり、沢山の推測や意見が存在するのです」
「不明だったんですね。大神官長様・・・呪いの類だったとは考えられませんか?」
「呪いであれば、解呪の方法さえ見つかれば何とかなったかもしれませんが、残念ですが呪いの線はかなり薄いのです」
「そこで、上位魔術による封鎖が原因ではないかと、学芸院や学者達の中で考える者も居ました」
「ノエリアさん。その考えも違った訳ですよね?」
「そうです。結果的に原因が分からないまま、4000年以上も正門扉は開かずのままだったのです」
「教会としては、創造神様からの人間への戒めだったのではないかと、当時から言い伝えられ、戒め論を信じている者が多かったのですが・・・」
「ですが?」
「はい、ですが、ロイクさんが、扉を開けてしまいましたので・・・戒め論は終わりました」
≪バターン
大聖堂の左奥の戸が開き、身分の高そうな女性と付き人と修道女が入って来た。
「大神官長殿と助祭長殿の話声が聞こえました。その内容が正門扉が開いたという耳を疑う話だったものですから・・・」
身分の高そうな女性は正門扉の方を見つめている。
「奥様。私が確認して来ます」
≪タッタッタッタッタ
付き人の女性は、小走りで扉に駆け寄る。
≪ギギギィー
「あらま・・・」
「奥様。油をさした方が良いとは思いますが、女性の力でも簡単に開く様でございます」
「その様ね」
「ロイク殿。あちらの御婦人は、ステファン・パマリ侯爵閣下の第一夫人でミント・パマリ様です」
『ロイク。神様の予定表通りみたいね』
そうだね。
「これは、これは、侯爵夫人。本日もお美しいですな」
「お世辞など良い。あの扉を開けたのは、そこの若者か?」
「はい。ここにいます。マルアスピー村のシャレット士爵家のロイク殿が、先程1人で開けました。こちらの女性はロイク殿の奥方様です」
「アンカー男爵領だったわね」
「はい。家は父が士爵位を叙勲された一代貴族家でして、私は狩人です」
「面白い奇妙な偶然ですね。大神官長殿」
「侯爵夫人。偶然とはいったい何の事やら?」
「開かずの扉の伝承の恋人達は、ゼウス色の髪の男性と、ラッキーグリーン色の髪の女性でしたよね?」
「おぉ~確かに、シャレット士爵家のロイク夫妻は伝承通りの容姿ですな・・・」
「ロイクさん」
「どうかしましたか?ノエリアさん」
助祭長のノエリアさんが、小声で話かけて来た。
「コルトでは大聖堂の正門扉の話は、恋愛話の金字塔です。女性であれば身分関係無く持論を語り続けます。タイミングを見て創造神様への挨拶を済ませた方が良いですよ」
「なるほど。ありがとうございます」
『やっぱり、変わった信仰よね』
これって、もはや信仰とかじゃない気がするけど・・・
『ねぇ~』
はい?
『名乗り合った訳ですし、贈物を渡す機会って今だと思うのだけれど・・・どうなのかしら?』
贈物か・・・忘れてたよ・・・さっきのパマリ家4人にも忘れてたし・・・言ってくれてありがとう。
「ミント・パマリ侯爵夫人へ、シャレット士爵家から贈物があります」
「うん?大神官長殿と伝承について語っていたので、名を呼ばれた様な?」
「はい。ミント・パマリ侯爵夫人へ、シャレット士爵家から挨拶と贈物があります」
「シャレット士爵家・・・何処かで聞いた事がある名前なのですが、其方の両親の名前を聞いても良いか?」
「はい、侯爵夫人。父の名は、バイル・シャレット。母の名はメアリー・シャレットです」
「・・・」
「侯爵夫人。どうかなさいましたか?」
「・・・いや。何でも無い。気にするな。其方の名前は何と申したかな?」
「ロイク・シャレットと申します」
「そうか。ロイクか・・・パマリ領へようこそおいでくださいました。奥方殿もようこそおいでくださいました」
「後ほど、侯爵邸へ御挨拶に伺わせていただく予定ですが、教会でお会いしたのも何かの縁ですし、創造神様の前でお渡ししても宜しいでしょうか?」
「ふむ。私は領主館ではなく、貴族街の一軒家に住んでいるゆえ。ここで会えたのは素晴らしい縁だと思います」
「そうでしたか・・・それでは・・・」
【タブレット】可視化・・・マルアスピー様と俺。【武具】【神話の外套】引き出しっと。
≪フワッ
「ん?其方・・・今、そのコートを何処から出したのだ?」
「私のスキルで、しまってあった場所からです」
「魔導具のファルダ―ガパオの様な物ですかな?」
「はい、大神官長様」
って、ファルダ―ガパオって何だろう?
『知らないで返事したの?』
知ってるの?
『私も知らないわ』
・・・
「侯爵夫人。お受け取りください」
「素晴らしいコートではないか」
侯爵夫人は喜んでくれた様だ。
「おや?そのコートですが、魔力付与がとても強い様ですね。侯爵夫人【Évaluation】しても宜しいでしょうか?」
「うん?かまわないが、何かあるのか?」
「はい・・・【Évaluation・付与】・・・・・・」
・
・
・
『ねぇ~。鑑定してるみたいだけれど、良いの?』
贈物を渡した時点で、渡した相手がどう扱うか、こっちの都合は関係ないからね
『それもそうね』
・
・
・
「これは、素晴らしい武具です」
「ほう。大神官長殿。毛並みからも希少なコートだとは思ったが、そうなのか?」
「はい。地・水・火・風・邪・光・闇属性への耐性値が50%以上も上がるようです。しかも聖属性魔術の影響効果も上がるようです。清められた空間に保管するだけでメンテナンスの必要が無い神具に勝るとも劣らない素晴らしい一品の様です」
「ロイク殿・・・この様な素晴らしいコートをいただいてしまっても良いのか?」
「はい。是非、受け取ってください。このコートの名は【神話の外套】と言います。ミント・パマリ侯爵夫人限定の武具として加工してあります」
「私を指定した武具ですか・・・装備者を指定する武具の存在は知っていましたが、始めて見ました・・・ロイク殿。礼を言います」
「勿体ないお言葉です。こちらこそ受け取っていただけて恐縮です」
「奥様。このコートはそんなに素晴らしい物なのですか?」
「うん?どうしたのだ?」
侯爵夫人と一緒に入って来た付き人と修道女も興味を持った様で、修道女は感触を確かめる様に、神話の外套を触っていた。
「この外套の素材は何でしょうか?」
修道女が俺に話かけて来た。
「あ、はい。地水大牙狼と闇炎牙狼と大樹髭大陸亀と精霊の絹糸と小物を少々って感じです」
「おやおや・・・古代種にS級魔獣に、討伐令対象魔獣ですか・・・これだけの武具ですからね。いやいや、素材の元を聞いただけでも希少だと分かりますな」
「侯爵夫人殿。パマリ家は随分と慕われておるのだな」
「これ、言葉遣いに気をつけないさい」
「・・・申し訳ございません。助祭長様。侯爵夫人殿」
「えっと、それで、修道女さんは、触ってみて何か分かりましたか?」
「わ、私か?・・・この外套を作った者の心はとても清らかです」
タブレットが作ったのかな?神様が作ったなら清らかで当然だと思うけど・・・
『清らかか・・・この修道女なかなか鋭い感をしているではないか』
そうなの?
『この外套は闇炎牙狼の毛皮を使っているのにも関わらず、驚く事に聖属性の魔素に包まれ邪気を微塵も感じない』
凄いって事ですね
『・・・確かに、凄い・・・創造神様の作品なのだから凄くて当然なのですが・・・』
「俺のスキル【加工】で作成したんですよ」
嘘ではないよね?【タブレット】【加工・全】【マテリアル・クリエイト】で作成したって神様も言っていたし・・・
『本当の事だが、話てしまって良かったのか?ロイクの噂を聞いて自分にも作ってくれと人が来たらどうする?』
何処で手に入れたと聞かれたり、場所の嘘を言うよりは良いかなって思ったんだけど・・・
「この聖属性の魔力に包まれた武具をですか?」
「えっとですね・・・見て貰った方が早いと思いますので・・・」
ここは創造神様の教会だし大丈夫だよね・・・
「聖属性魔術【ベネディクシヨン】発動≫」
『精霊魔法を魔術発動させたのですか?』
いえ、言葉だけで、実際はただの魔法です。
『フフフッ。ロイク、本当に面白いな・・・』
≪パァ~
神話の外套の真上の神々しい光が出現し大聖堂内は柔らかく優しい光に包まれた。すると、修道女は突然自らの指に小型ナイフを押し付け傷を付けた。血が微かに滲む程度だ・・・
「え?何をしてるんですか?これは、HPを回復するだけの魔術で傷の治癒では無いです」
ところが、傷は見事に消えた。
「あれ?」
「本当に聖属性の回復魔術なのですね・・・。この小型ナイフは邪属性を付加した物なので、このナイフでで付けた傷は同レベルの聖属性で無効化されます」
「そうなんですか」
どういう意味?
『属性相関の相殺の事とも微妙に違う様に聞こえますが・・・』
「このナイフの邪属性付加はレベル5です。貴方が発動させた聖属性の魔術はレベル5以上という事です」
「威力の問題なんでしょうか?俺はレベル1を発動させただなのですが・・・」
『ん?あ・な・た・・・それは、人間種の認識による魔力量の話であって、精霊魔法や神気使いの次元での話ではないと説明しませんでしたか?」
ああ・・・つまり俺ってレベル1で発動しているつもりで、いくらで発動しているの?
『単純には分からないですが・・・先程神様から神授していただいたコートを無視しても、貴方は聖属性の魔法レベルが226。精霊王様の聖属性魔法レベルは通常で30なのよ。精霊王様より7倍も強い状態が今の貴方な訳ね。それで、精霊王様は私より2倍程の聖属性魔素量なのよ・・・』
つまり、俺はマルアスピーさ・・・よりも、聖属性魔法が14倍も強いって事ですか?
『端的に言うならそうなるわね。人間種の魔力量に置き換えると、人間種達の魔術レベル10は精霊魔法のレベル1と比べると3割~5割程の威力しかないのよ・・・仮に5割だとして、精霊魔法のレベル1で聖属性魔法を発動させたら、人間種の邪属性魔術で対等相殺されるレベルは約20。レベル21でやっと属性相関から劣位条件を少しだけクリアした事になる感じね』
あぁ~・・・修道女のレベル5の邪属性では、精霊魔法レベル1は、普通に相殺されるって事ですね。
『魔術の邪属性5がどの程度なのか良く分かりませんが、精霊魔法より強い魔術は存在しませんから・・・』
「侯爵夫人殿。今一度、来客室でお話を・・・」
「おぉ、そうか。大神官長殿。私は話忘れた事があった。修道女と助祭長殿を同席させたい。良いか?」
「侯爵夫人。どうぞお使いください」
「そうか・・・。ロイク殿。神話の外套。素晴らしい武具をありがとう。また、お会いしましょう」
「ロイクさん。それでは、私も侯爵夫人とお話がありますので、失礼します。大聖堂に顔を出す機会がありましたら、助祭長のノエリアを呼んでください」
「はぁ~・・・。侯爵夫人も、助祭長さんも、修道女さんも、また機会がありましたら宜しくお願いします」
・
・
・
『人間種達は慌ただしい生き物ですね』
俺達が来る前から何か話をしていたみたいだし、侯爵夫人は立場上色々あるんだろうね・・・ま、まずは1人クリアだから、次もサクサクっと渡しちゃいたいね。
『神様の作品を、悩むことなく渡す旦那様を見ていると、私はとても嬉しい気持ちになる』
限定だしね。持ってても意味無いし・・・
『それを言っては・・・フフフッ』
「しかし、あんなに素晴らしい武具を見たのは初めてでしたよ」
「神話の外套の事ですか?」
「失礼ですが、あれは普通に加工して作成できる代物ではないと思うのですが」
「何度も作成し成功したのがあれです」
「・・・素材だけでも数億NL・・・侯爵家への贈物でこの状況ですか?公爵家や王族へは何を贈るおつもりですかな。ハッハッハッハ・・・流石はアンカー領魔獣襲撃闇炎牙狼討伐の英雄ですね」
「・・・」
『あら、ロイク。コルトの町でも有名人かもしれないわね・・・』
うーん
『嬉しそうじゃないわね』
・・・
「マルアスピー村の、シャレット士爵家のロイクとマルアスピー村と同名の美少女の事を知らないモグリはこの辺りには1人もいないと思いますよ。あの連日続いた悪夢の夜襲を1人で解決した英雄。国王陛下から勅令で王宮に呼ばれた狩人。初代アンカー男爵の英雄談より遥かに華がありますからね」
「止めてください。俺は襲撃初日に戦線を離脱し、意識を失ったまま眠り続けて、目覚めた日に村に戻ったら襲撃が終わっただけで、特に何もしてないです」
「噂通りの方の様ですね。扉の事と言い、貴方には何かを感じます。創造神様に愛された存在なのかもしれないですよ・・・」
『・・・鋭いわね』
きまぐれの犠牲者って話ですか?
『神のきまぐれは愛そのものなのよ』
・・・
「大神官長様。私達は教区登録をしにコルトの町に来ました。登録の手続きをお願いします」
「あぁ~。マルアスピー村には教会がありませんからね。世帯の教区固定がまだでしたか・・・処理しておきますのでご安心ください」
「ん?それだけ?」
「誓いや宣誓書の提出は必要ないのですか?」
「はい。教会に登録するだけですから」
『人間種の創造神様信仰って、随分緩いのね・・・』
勝手にやってくれるなら、特に教会に立ち寄る必要ない気がするんだけど・・・
『開かない扉を開けに来たと思えば楽しいじゃない』
・・・楽しいですか?
『楽しいわよ。だって、王様になった男性と恋に落ちたのって、精霊樹の大精霊なんだもの』
え?
『私じゃ無いわよ・・・前任の大精霊。私の母精霊よ。ミトって伝承されているのでしょう』
あっ!マルアスピー様・・・マルアスピーが大精霊を継いだのって・・・まさか?
『思うに、少し前に駆け落ちしたっていう・・・この話でしょうね』
少し?少し前ね・・・
『何よ』
彼女は胸の前で腕を組み抗議の視線を俺に向ける。
凝視・・・
・
・
・
あぁ~俺って・・・凝視・・・
『フフフッ』