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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
ーアシュランス王国建国編ー
131/1227

2-49 各国の新体制と、絡み合う思惑。

 旧ヴァルオリティア帝国領の西部【オリティア川】流域に広がる【アンガーレム大平野】の1部と、中部全域と、東部全域を解放し、アシュランス王国に併合してから約1ヶ月が経過した。


 4都市(カトムーイ、ダカイラ、ククイム、ゼンスタード)の攻略後直ぐイレギュラーで【オアシス都市ラクール】も解放し併合した。保護拘束した帝国民や、帝国からの移住亡命希望者を一次的に受け入れる為の都市として、帝国に残った4つの拠点【第二帝都ヴァルク】【魔導都市ミック】【旧帝都アンガーレム】【前帝都ガルガンダ跡地に残された王宮島】を牽制する為、戦略的に必要と判断するに至り急遽実行した。


 1ヶ月が経過した現在。ラクールは、連合国家フィリー(アシュランス王国、ドラゴラルシム王国、ゼルフォーラ王国、ララコバイア王国。南の大陸ベリンノックの【アイゼンタール王国】【ズィルパール王国】【内戦状態のベトギプス王国中央政府】※単独交渉を禁止している※)と【3皇帝ヴァルオリティア帝国】の交渉のテーブルの地として思わぬ役目を負っている。


 因みに、連合国家フィリーは、東の大陸ネコトミサール全土を統治する超大国【ターンビット王国】と、北の大陸フィンベーラの【島国ジャスパッド王国】の加盟も控えている。


 3皇帝ヴァルオリティア帝国とは、ヴァルオリティア帝国が地上から滅亡する最後の5ヶ月間の帝国の呼称で、ヴァルオリティア帝国初代皇帝【ガルガンダ・ルイーズ・ル・オリティア】(ゼルフォーラ王国の正史では大ゼルフォーラ王国アントン男爵領【ラクール】領主【ガルガンダ・アントン男爵】と記録されている)の子孫達が3つの勢力に分離独立し其々が皇帝を擁立。皇位の正統性を巡り、ゼルフォーラ大陸の北西に広がる【アンガーレム大平野】において覇権争いが激化したR4075年8月27日~R4076年1月30日迄の約5ヶ月間の事をいう。


 3つの勢力とは、【コンラート弟帝派】【コンロッド皇帝派】【ケーニッヒ皇帝派】の事で、皇太子率いるヴァルオリティア帝国中央は含まれていない。


 コンラート弟帝派は、第二帝都ヴァルクを拠点にしている。暗殺された前皇帝セザール・ルイーズ・ル・オリティア4世の実弟で皇族公爵【コンラート・ルイーズ・ロート・フック・ル・オリティア】を擁立した。前皇帝とコンラート公爵の実母で前々皇帝【グレゴ・ルイーズ・ル・オリティア11世】の正室【ミザリー・ルイーズ】の実家【ヴィトシュタイン侯爵家】と前皇帝政権下で要職にあった【貴族連合】の勢力。


 コンロッド皇帝派は、魔導都市ミックを拠点にしている。暗殺された前皇帝セザール・ルイーズ・ル・オリティア4世と第3夫人【バルブ・ルイーズ】の息子で第4皇子【デュードネ・ルイーズ】と第9皇子【コンロッド・ルイーズ】を擁立した。前皇帝の第3夫人バルブ・ルイーズの実家【ゾンダーハイム侯爵家】の勢力。(余談、当初は魔導具を用いた戦闘により優勢であったが、第9皇子コンロッドによって第4皇子デュードネが討たれると一転する。デュードネによって組織された魔導具部隊と魔導具研究機関が離反しコンラート弟帝派に寝返った事が大きいと言われている)


 ケーニッヒ皇帝派は、旧帝都アンガーレムを拠点にしている。暗殺された前皇帝セザール・ルイーズ・ル・オリティア4世と第7夫人【マグヌス・ルイーズ】の息子で第8皇子【ケーニッヒ・ルイーズ】を擁立した前皇帝の第7夫人マグヌス・ルイーズの実家【シュカーベン辺境伯爵家】と前皇帝政権下最後の宰相【オットー・アルシュテット・イディアン・フック・ル・オリティア公爵】(有力皇族)の勢力。


 因みに、皇帝最有力候補だった【皇太子派】は、前帝都ガルガンダを襲った18回?の超巨大爆発により【ガルガンダ城・ガルガンダ宮殿】以外全てを失い。挙句の果てに後に【ガルガンダ監獄島】と呼ばれる【ガルガンダ王宮島】に取り残され、島からの脱出が叶わぬまま、コンロッド皇帝派の手によって粛清される。皇太子【フェリックス・ルイーズ・ル・オリティア】、第3皇子【ダンクマール・ルイーズ】、第6皇子【アルガ・ルイーズ】、第7皇子【クレスタ・ルイーズ】、第10皇子【マルク・ルイーズ】と皇位継承権を持ったその他の皇子達は皆処刑され、前皇帝セザール・ルイーズ・ル・オリティア4世の夫人達や皇女達は、旧ヴァルオリティア帝国と同盟関係にあった北の大陸フィンベーラの【カルーダ王国】や【ガルネス神王国】の有力者達や、3皇帝ヴァルオリティア帝国の有力商人や、ミック皇帝派の貴族や騎士達に降嫁を強制された。


 外部勢力としては、暗殺された前皇帝セザール・ルイーズ・ル・オリティア4世の長女で、第1皇女【ジェニファー・ルイーズ】が王太子の第1夫人として嫁いだガルネス神王国。第2皇女【ユリア・ルイーズ】が若き国王の王妃として嫁いだ【マルメット王国】の2ヵ国が介入。


 そして、第2皇子【ラグナ―・ルイーズ】、第5皇子【カルド・ルイーズ】、第11皇子【シモア・ルイーズ】、第6皇女【プリーメル・ルイーズ】、第9皇女【コーゼ・ルイーズ】は、【フィンベーラ王国】に留学していた為、来たる日を無事に乗り越えたロイク達によって保護される事になる。



――― R4075年9月1日(無)10:00


 俺は、ゼルフォーラ王国の御前会議に参加している。御前会議の出席者は......


***出席者***


イヴァン国王陛下(56)

アルセーヌ王太子(18)

ガスパール第2王子(18)


ボードワン天爵(継承権放棄)(87)

バルタザール第5王子(59)

ジャマル第6王子(26)

クレマン第7王子(24)


エンゾ天爵(継承権放棄)(63)

オーレリー第3王子(45)

クレーリー第4王子(25)


国務大臣 兼 宰相

  パトリック・ミィストゥリィー(59)

法務大臣 ディラン・デェイビュー公爵

外務大臣 アラン・トゥージュー公爵(50)

財務大臣 兼 商務大臣

  ダヴィッド・ミィストゥリィー公爵(34)


アヴィル侯爵

ヴィクナン侯爵

トニナス侯爵

農務大臣

  ステファン・パマリ侯爵(71)

ブルーノ・ブオミル侯爵(21)


レオ・スラリス辺境伯爵(65)

デュポン辺境伯爵

軍務大臣

  レイナルド・マーガレット辺境伯爵(50)

フェトロング辺境伯爵


内務大臣 ラカコア伯爵

総務大臣 チューナー伯爵

王国軍長官 ゴドウィン・モンロー伯爵(66)

中央騎士団総括団長

       ジェルマン・パマリ伯爵(44)


街道管理局局長 ラントレ・ボール準男爵


他、ゼルフォーラ王国領主貴族達


***出席者***


 ……と、フルティーナの言動によって、大樹の森の全領域、ゼルフォーラ王国領ルーリン・シャレット天爵副王領、旧ヴァルオリティア帝国領のアンガーレム大平野以外の領土、旧大陸エグルサーラを統治する事に成った新国家アシュランス王国の......


***出席者***


国王代理 アランギー・フゥファニー 新公爵

 ※料理の公爵※(料理の神様)


最高顧問 マリレナ・R・ルーリン・シャレット

          王妃の1人 兼 新公爵 

 ※高位樹人族(ハイエルフ)の大長老だったが、

  創造神様より神気を1神授された事により、

  小精霊と中精霊の間の精霊(普通)と同位の

  存在として生まれ変わる※

 ※息吹の公爵※(風の精霊、元高位樹人族)


主席顧問 マクドナルド・ガリバー 新公爵

 ※賢者の公爵※(高位樹人族)


首相(宰相) ルードヴィーダ・ダダ 新侯爵

 ※地の樹人族の一族※


軍務大臣 ヨランダ・ヒース 新伯爵

 ※風の樹人族の一族※


***出席者***


......である。


 ゼルフォーラ王国は兄、アシュランス王国は弟。弟国だからといって従属関係は無くあくまでも対等の国家。俺がゼルフォーラ王国の副王を兼任している事から、同一国として認識する諸外国が多い。


 実際、経済物流分野・軍需軍事分野・魔導研究分野で恒久共同宣言によって国境は存在しているだけ、出入国手続きは不要。身分証の登録地を自由に変更する事が認められている。


 アシュランス王国の閣僚と伯爵位以上の貴族は、ゼルフォーラ王国の御前会議へ出席する権利が与えられ、ゼルフォーラ王国内で同位の爵位貴族として扱われる。勿論、アシュランス王国以外の王国の貴族も爵位相当で扱われるが、それはあくまでも客人としてであり、ゼルフォーラ王国の貴族達と同じ権利が認められる訳ではない。



「副王陛下。領国の復旧復興を進んでおりますか?」


 ゼルフォーラ王国の御前会議では、アシュランス王国はゼルフォーラ王国の副王の領地としての体で話は進む。


 パトリック宰相は、アシュランス王国建国以降、俺が参加する時には必ずこの1言から会議を開始する。


「解放から1ヶ月。帝国からの移民難民申請が凄い事になってます」


「皇位継承争いが激化し治安の悪化が著しいと報告を受けています。評判の良い副王領へ帝国民が殺到するのも分からなくもないが・・・中には帝国の間者も居よう。油断は禁物ですぞ」


「副王陛下の索敵に関する魔術は敵味方の識別が正確で、名や顔の知れている者の居場所程度なら瞬時に認確認する事が出来る。諜報によって出し抜くのは難しいじゃろうな」


「・・・大賢者殿が仰られるのであればそうなのでしょう。ですが、副王陛下の御身体は御1つ広い領国を全て完全に把握するのは難しいと考えます。お困りの際は、ゼルフォーラ王国中央政府に何なりと相談してください」


「それは誠に有難い。副王領の政治の長として感謝申し上げます」


「ダダ侯爵殿は、樹人族(エルフ)でも、ここゼルフォーラ大陸の出身では無いと聞きましたが、ダダ侯爵殿の故郷にも高位樹人族(ハイエルフ)は存在するのですかな?」


「そうですね。風の樹人族(ヴァンのエルフ)程ではありませんが、大地の樹人族(ソルのエルフ)にも高位樹人族(ハイエルフ)はいます。大地と言っても地属性に特化していないのが特徴の一族です」


「呼び名等便宜上に過ぎぬと言う事か。人間種8種族の歴史や文化や風習や習慣を知り正しく助け合う為にも情報を交換し合い、我がゼルフォーラ、連合国家フィリー、世界中の諸国で共有したい物だな」


「はい陛下。誠にそうでございます」



 毎度、このパターンで会議は本題へと移行する。



「フォルティーナ様より許可をいただいております、ゼルフォーラ王国内の森林開拓の件なのですが、数ヶ所切り開いていただきたい場所がございます。それとトミーサス大森林のサス湖に面した100mいや20mで良いので街道としてゼルフォーラ王国に譲渡していただけないでしょうか?」


「森林の開拓は直ぐに取り掛かりたいと思います。トミーサス大森林ですが、街道を敷くのは難しいと思います」


「難しいのですか?」


「大樹の森として復帰しようとしている森らしいので、ただ街道を敷いても飲み込まれてしまいます」


「大樹の森に飲み込まれてしまう訳か・・・ワワイの森は大樹の森へと復帰したと聞きましたが、どの様に対策を立てておられるのですか?」


「大樹の森が市街地に入って来ない様に、最北の市街地に住む闇樹人族(テネブル)達と、最東の市街地に住む高位樹人族(ハイエルフ)達に、精霊樹の幼樹を貸出市街地と大樹の森の境界を一部聖域化する事で森の成長を抑制しています。幼樹の管理には高い【MP】と自然魔素(まりょく)統制の能力が必要です。後、盗みに来る悪い神様達が居るので守り抜く自信が無いのであればお奨めしません」


「パトリックよ。サス湖を一周する街道の整備は諦めた方が良さそうだな」


「はい。陛下」


「サス湖に面した4都市の港の整備を念入りに行うのでそれで許して貰えませんか?」


「許すも何も、サス湖の街道の話は観光がメイン。気にしないでくれ」


 サス湖観光・・・海からも近いしありかもしれないなぁっ!


「それで、森林の開拓予定地が数ヶ所と言っていましたが、他の場所は何処ですか?」


「パトリック」


「はい。陛下。・・・副王陛下。森林開拓の予定地ですが、名を持たざる森のモルングレー側とロイ側の出入口と、中間に設けられているキャンプ地と、エルビスの周囲です。主に西側の森を切り開いていただきたいと考えております」


「開拓した際に入手した素材等はいただけますか?」


「勿論です」


「それでは、今日、明日中に済ませてしまう事にします」


「頼んだぞ」


「はい」



「宰相殿。ゼルフォーラ王国建国以来軍務大臣の重責を担って参りましたのは我々辺境伯爵家4家です。来たる日に備え副王陛下に軍務大臣を兼任させるとはどういう事でしょうか?」


「これは、陛下の御意思であり、創造神様より授かりし啓示です。来たる日を無事に乗り越えた暁には元の状態に戻すと言及しているのです。何か問題でもありますかな?」


「「「「・・・」」」」


 辺境伯爵4人は、イヴァン国王、俺、アランギー様の顔色を確認し、これ以上の議論は無駄だと悟った様だ。そして、現時点で軍務大臣を任されているマーガレット辺境伯爵が辺境伯爵家4家を代表し、


「畏まりました。来たる日に備え副王陛下の指揮に従いましょう」


「レイモンドよ。良く言った。世は嬉しく思うぞ」


「ははぁ~」


 レイモンド・マーガレット辺境伯爵とは、解呪の件もあり良好な関係を築いている。何より、彼は、イヴァン国王陛下や、祖父エンゾ天爵とは従弟である。俺の曾祖母で前々国王の王妃クララ国太后の弟の長男に当たる。俺の立場では殆ど他人だと思うが・・・


「副王よ」


「はい。国王陛下」


「この件に関しては、副王に一任する」


「畏まりました。御前会議が終わりましたら、軍事会議の場を設け関係者には説明したいと思います」


「うむ。任せたぞ」


「はい」



「旧トミーサス王国領ランザスとガダムを併合するに伴い、陛下直々による御言葉があります」


≪はっ!


「ジェルマン・パマリ伯爵よ世の前へ」


「はっ!」


「姓にクロシェットを加えたと聞いたが領地替えに応じて貰えないだとうか」


「陛下の仰せのままに・・・」


「そうか。安心したぞ。ジェルマン。その忠義忠誠の精神忘れるで無いぞ」


「はっ!」


「ジェルマン・パマリ伯爵を侯爵へ陸爵する。今日よりジェルマンはゼルフォーラ王国の5侯爵改め6侯爵の1人だ。現在の領地は王都モルングレーに併合し【クロシェットエリア】とする。ジェルマン・パマリ・クロシェット新侯爵には、ゼルフォーラ王国旧ワーロン伯爵領ランザスとサス平野を与える。ランザスの名を改めクロシェットと命名する」


「はっ!」


「旧トミーサス王国領ガダムをオーレリー王子領に併合する。オーレリー王子領領都【プロキオン】の開発が落ち着くまでの間は、第2王子ガスパールを執政官として派遣する」


「父上じゃ無かった・・・陛下。私が執政官ですか?」


「オーレリーの下で学んで来い。サス山脈のミスリル鉱石以外はガダムに一度集められるはずだ。ロイのブルーノ・ブオミル侯爵と協力し王国の鉱石産業を発展させてみよ」


「は、はい」


「ブルーノ・ブオミル侯爵よ。父アーマンドに負けぬ様、善政に励めよ」


「この命に替え精進致します」


 ブルーノさん。何か応答がおかしな事に成ってる様な・・・


「そうか・・・精進するように。ハッハッハッハ」


「副王よ」


「はい?」


「領主館や城壁や外壁や聖人教会。世が資金を個人的に出そう新市街地クロシェットエリアと、ガダムの再整備を頼むぞ」


「はい・・・」


 何か次々仕事が増えてるんですけど・・・



 その後、領主貴族の子爵と男爵が加わり、集落を合併させる必要は無いが、領都を設置し領国の生産体制を強化せよと勅令が下った。


 俺は快く、街道の整備、外壁と聖人教会の設置を快諾した。勿論タダでは無い。・・・本当に沢山やる事が増えた。自分の国の復興もまだまだこれからだと言うのに・・・



――― R4075年9月1日(無)16:00


 昼食を挟み、王宮の小会議に移動した。


 俺は副王兼軍務大臣として、ジェルマン新侯爵、スラリス辺境伯爵、デュポン辺境伯爵、マーガレット辺境伯爵、フェトロング辺境伯爵、モンロー伯爵を召集していた。


「まずは、ジェルマン侯爵。陸爵おめでとうございます」


「ああぁ~ありがとう。突然だったので、どう反応して良いのやら・・・これもロイク君のおかげかな。ハッハッハッハ」


「クロシェットエリアになる旧領の領主館は新クロシェットに移動させます。屋敷に人が1人も居ない様に手配してください」


「いつも済まないね」


「陛下に頼まれた新街道何ですが、トミーサス大森林は大樹の森に復帰しかけているので、街道の為だけに開拓するのは難しいです。新クロシェットとダリウス伯爵領領都シリウスを街道で繋ぐのは諦めてください。その代わりサス湖の港と、南海の港湾整備は任せてください。湖軍と海軍を貴族領軍私兵隊で編成する必要があります。船が入用だったら言ってください。直ぐに準備します」


「あぁ~助かるよ」


「その海軍の件というか王国海軍の件なんですが、ゼルフォーラ王国4辺境伯爵家には、来たる日が終わるまでの間。其々に海軍を指揮して貰いたいと考えています」


「今迄と余り変わらない様ですが具体的に説明願えますか?」


 マーガレット辺境伯爵は、軍務大臣ではなくなったが副大臣に就任している。任期は本来の大臣職の任期と同じ9月いっぱい。


「そうですね。現状の王国海軍を7つに分けます。ゼルフォーラ王国海軍第1師団は......



......第7師団は、王兄エンゾ天爵領領都リヤンを拠点にし、サス湖全域と湖畔の都市の湾岸を警備防衛します」


「最早、従来の辺境は辺境では無いと言う事か・・・」


「なるほど、公爵領では無く天爵領や王子領を拠点にする事で、王国海軍と領国海軍に正式な線引きをする訳ですな」


「湖を警備する為に、海軍が軍を割く必要はあるのか?」


「・・・」


 スラリス辺境伯爵、デュポン辺境伯爵、フェトロング辺境伯爵は順に発言をし、マーガレット辺境伯爵は何かを言いたそうにしたが飲み込んだ。ジェルマン新侯爵、モンロー伯爵は沈黙したままだ。


「今の時代、辺境何て実際は存在しませんからね。あったとしてもそれは大樹、水煙、火焔、結束、息吹の聖域や聖域を覆う地でしょうね」


「「「「確かに」」」」


「王国軍と貴族領軍私兵隊に線引きするというよりは、海軍力は可能な限り王国が握っておいた方が良いと思ったんです。貴族領軍私兵隊がするべき事は基本的には拝領された領国の治安維持や発展です。大規模な海軍や大規模な騎士団を所有する必要は無いと思うんですよね」


「ロイク君。その話は以前から良く上がった事でね・・・」


「ロイク殿も薄々気付いていると思うのですが」


「気付く?・・・モンロー伯爵殿。えっとどの件にでしょう?」


「各ギルドの利権やギルド所属者達のレベルにです。聖都スカーレットに限らず旧ルーリン・シャレット天爵副王領は貴族領軍私兵隊の質が王国軍に匹敵するかそれ以上の次元にあります。領内に留まらず隣接する他領や他国への遠征も通常任務の様に熟しています」


「王国で例えるなら中央騎士団と同じ感じと言って良いだろうね」


「街道も整備したし、機動用の輓獣にも強化魔術や強化魔導具を施して従来より高速移動を可能にしましたからね」


「問題は、貴族領軍私兵隊の質が高い事なのです」


「え?」


「ロイク殿は、スカーレットのアドベンチャーギルド(冒険者探検家協会)がゼルフォーラ王国内で最弱だと言われていた事を御存じですか?」


「知らないです」


「所属する冒険者にとってスカーレットのアドベンチャーギルド(冒険者探検家協会)は超初心者専用なのです。理由は簡単です。魔獣討伐クエストがほぼ無い。盗賊や海賊の討伐殲滅クエストが全く無い。貴族領軍私兵隊への緊急徴集クエストが全く無い。あるのは、薬草採集や荷物運搬や荷物運搬警備や街の清掃や改修修繕等冒険者で無くても出来る仕事ばかりです」


「魔獣討伐は領軍で片付くし、盗賊や海賊が領国に出たって聞いた事が無いし、他領や他国には領軍の兵士達だけで事足りるし・・・」


「そこが、従来と根底が異なるのです。元来軍や行政関連施設で働く者達は言っては何ですが・・・その・・・各ギルド(協会)に所属する事も出来無い有能では無い者達なのです。国はそんな彼等の受け皿としての意味もあり有能では無い者達を突然解雇出来ません。この弱者救済の制度に近い法律の結果、王国軍の大半と行政サービスはどうしても質が落ちてしまうのです。ですが、スカーレットは真逆です」


「ロイク君つまりだね。モンロー伯爵殿が言いたいのは、ロイク君の所の私兵隊の質が冒険者の上級者よりも高い。しかも公共の存在。アドベンチャーギルド(冒険者探検家協会)に討伐を依頼するよりも行政に討伐の要請をした方が金がかから無い。しかも必ず討伐してくれる。そうなればアフェールギルド(商人商家協会)は金がかからず同じ成果を出す方に依存する。とどのつまり、アドベンチャーギルド(冒険者探検家協会)やその傘下ギルドへの依頼が激減する」


「それだけなら良いのですが、ロイク殿の領国やトゥージュー公爵領サーフィス。新領シャロン子爵領シェリーベル。ヴィクナン侯爵領リッツ。この街道は開通以来1度も盗賊や夜盗が出た事がありません。商人達や旅人達が冒険者や傭兵達を護衛に雇っていないと噂が広がってもです。しかも、それはスカーレットから王都。サーフィスから王都でも一様に同じ状況になりつつあります。王国内の移動が安全になる事は喜ばしい事なのですが、冒険者達にとっては死活問題です」


「数Km単位で警備隊の出張所を設置してるし、サーフィスからリッツまで家の騎士団の軽装騎兵隊なら休憩を挟んでも早朝出て昼には余裕で往復出来る様にしてます。それに、出張所からなら誰かが通報したら直ぐに駆け付ける事が可能ですからね・・・」


 冒険者達は能力が高い人達が多い。まずは弱い立場にある人達の安全を第一に考えていたら、決して強い立場にある訳でも無い冒険者達の仕事を奪う結果になっていたなんて何て皮肉だ。でも、それって王国が各ギルド(協会)に依存していたともいえるのでないだろうか。


「まぁ~何と言いますか。国が整備され、冒険者家業には厳しい時代の幕開けというところでしょうか」


「拠点を持たない冒険者が増えるだけで、能力のある者達が国中を動き回るのは良い事の様に思うのですが・・・」


「必要なタイミングで高レベルの冒険者を王都や3公爵様方が指名出来ないという事態にも繋がり兼ねません」


「それって、A級とかS級の話ですよね?」


「そうです」


「俺も、アドベンチャーギルド(冒険者探検家協会)の最高ランクを持っている冒険者ですが、S級ランクになると金銭に余裕がある人が多いので、拠点を王都や公都(領都)に置いて、遠征する人達ばかりなのでその心配は無いと思います」


「そういう見方も出来る訳ですなっ!」


「それに、その為の転位陣です。緊急の時は、ルールとか無視したって良いと思います」


「まぁ~なんだろうね。緊急の時だからこそ、ルールや決まりに従い慌てずにという考えの方が上級貴族達のスタンスなんだよ。なかなか臨機応変にとはならないの現状だね」


「なるほど」


 理想は自分の国で進めると良いね。って、フォルティーナが言っていたのはこの事だったのか。


「それはそうと、貴族領軍私兵隊の件だけどね。もう1つ言える事があるんだよ。さっきまでの話は、ロイク君の様に質の高い私兵隊を組織出来る場合であって、ほぼ誰も達成出来ない組織編制だと思って貰って良いと思う。中途半端な組織では初期投資や維持費だけが嵩み、折角組織しても大事の時はアドベンチャーギルド(冒険者探検家協会)に依頼を出すか、王都に騎士団の派遣を要請するか、近隣の比較的組織力のある領国に私兵隊の派兵を依頼する事になる。それならいっそ、市街地の警備や防衛がギリギリ出来る程度に私兵隊の経費を抑え、大事の時用に蓄えておいた方が税金の無駄遣いにならい。そう考えるのが普通かもしれないだろう」


「現実と理想の違いですね・・・」


「そう言う事だね」


 俺が居なくなった後のゼルフォーラ王国、アシュランス王国は大丈夫だろうかと考える様になった。でも、俺が居なくてもやっていけるだけの力がある事を痛感する事が何度もあった。考え過ぎるとハゲる。そうかもしれないな。ハハハ・・・



「そして、先程の勅令です。中級から上級手前の多くの冒険者達が大移動を始めるでしょう。我がモンロー領も大移動先の1つになるでしょう。大樹の森に囲まれ魔獣には事欠きませんからな」


「そこ喜んではいけない場所ですよ。モンロー伯爵殿!」


「そうなのだがね・・・領国における私兵隊の負担を今から考えると、魔獣の危険が少ない領国の領主達と比べ自分は恵まれていると思えてしまって」


「ロイク君のおかげで、魔獣と冒険者。盗賊と冒険者。安定と貴族領軍私兵隊。領国経営をこれから始める領主達にはまずは分かり易い線引きが出来た感じかな。どのタイミングで何を強化すれば良いのか住んでいれば、領民の生活に密着していれば馬鹿でも分かる。それに、地下迷宮や楼閣迷宮や良い狩場に恵まれた領国にも冒険者は流れる」


「地の祠の迷宮。火の祠の迷宮。水の祠の迷宮。信仰の祠の迷宮。嘆きの迷宮。ランダムではありますが闇の迷宮。他国ですが、愛と憎しみの館の2つの塔。トミーランの聖人教会の迷宮。アシュランス王国の風の迷宮。・・・冒険者にとって厳しい時代にはなっていないようですな。寧ろ得意な迷宮の近くに拠点を置き自らを鍛えながら素材で稼ぐ事が可能になった訳ですから。一定の力量がある者であれば今迄以上に生活が豊かになるのではないでしょうか?」


「冒険者、傭兵、正規軍。これからは住み訳の時代なのかもしれませんね」



 ジェルマン・パマリ・クロシェット新侯爵と、ゴドウィン・モンロー伯爵の自問自答に近い会話を暫く聞かされることになった。



 そして、会話の終盤。


「私は辺境伯爵。領地を持た無い点では法衣貴族や一代貴族達と同じだが、世襲貴族家です。実は領都を設置しろと勅命が下った際に、ホッとしたのです」


「俺もだ。スラリス殿もやはり同じであったか」


「スラリス殿もフェトロング殿もマーガレット殿の所も家と同じだと思うが、我等辺境伯爵家には政治に長けた家臣等おりませんからな。ゥワッハッハッハッハ」


「家臣は皆、先祖代々武門の誉れ。戦いに関する知恵は付けても・・・剣より筆を上手く扱える者が何人いるか・・・ガッハッハッハ。軍人貴族。軍人主従。傭兵にもなれない能無しが、爵位や騎士爵を持ってるとも言えるかぁっ!ガッハッハッハッハ」


 スラリス辺境伯爵。マーガレット辺境伯爵。デュポン辺境伯爵。フェトロング辺境伯爵。それって、戦うしか能が無いって領主が直々に言ってるようで・・・何か悲しいです。


 軍の有り方を抜本的に改革する必要がりそうだ。でも、一度壊す必要があるゼルフォーラ王国でやるのは難しいだろうな。アシュランス王国で前例を作り諸国に採用させ方法が手っ取り早いって感じだろうな。腕力や握力だけで勝ち負けを決める時代ではない。魔法・・・魔術がある時点で既に腕力勝負ではないが頭脳プレイは大切だと思う。数で押し切る時代は終わったんだ。・・・たぶん。



 このタイミングで何を決意したのかは別として、やっとイヴァン国王に頼まれた説明責任を果たした。



 その()、森を切り開き。領主館を移築し。外壁や城壁や聖人教会を設置して周り。それに伴い街道、準街道、道を敷いた。この日1日だけで、ゼルフォーラ王国は全領国に領都が存在するという新時代を迎える事になった。


 この(のち)、R4075年9月1日(無)を、ゼルフォーラ王国では、独自の年号【聖王歴】元年と呼ぶ事になる。

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