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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
ーアシュランス王国建国編ー
126/1227

2-44 サスシャンソール城と、マルモアパーク宮殿。

――― R4075年7月24日(火)15:00


 ジャスト正午(まひる)と同時に、アランギー様はテーブルやチェアーをセッティングし始めた。


「何、やってるんですか?」


「・・・ふぅ~」


 時間を確認し、溜息を付つアランギー。


「おんやおんや。デジュネの時間ですぞ。はい。ルパ、ソメイユ、バニェ、ファミーユ等の時は仕事を忘れ時間を楽しむものですぞ。はい」


「デジュネ!・・・あぁもう昼でしたか。それで、ベッドに囲まれて昼食を取るんですか?」


「そぉ~ですねぇ~」


 王妃の部屋だった場所を見渡し、頷くアランギー。


≪パンパン


 アランギーが手を叩くと、ベッドや床に散乱していた物が跡形も無く消える。


「ベッドが視界から消えるだけでも違います。はい」


「前から思ってたんですが、それってフォルティーナと同じ感じなんですか?」


「それと言いますと?」


 手を休める事無く準備を進めながら俺の質問に答えるアランギー。


「フォルティーナも指を鳴らして、魔法でも魔術でも無い何かを発動させるじゃないですか。アランギー様の手を叩いて鳴らすのも同じ事が出来るのかなと・・・」


「大上神のフォルティーナ様と私では月と鼈ですが、近い事は私にも出来ますぞぉ~。はい。例えばこんな感じです」


≪パンパン


 アランギーが手を叩くと、セッティングが完了したテーブルの上に料理が並んだ。


「おおおぉぉぉ~」


「昼食を済ませたら、そこの通路を調べてみましょう。はい」


「通路?」


「おんや、その為に、ここに来たのでは無いのですか。はい」


「・・・そこに通路があるんですか?」


 アランギーが指差す先を凝視する。普通の壁に見える。


「そこではありませんぞ。壁の下。床の方ですぞ」


 指が僅かに下を向いている。


「気付いていたんですか?」


「この部屋に来た時からですね。はい」


 ・・・そ、そうなんだ。・・・なんだかなぁ~


「済ませたら通路の奥へ行きましょう。はい。何やら絵の様な物が沢山あるようですが。はい」


 ・・・そこまで見えてるんですね。



――― R4075年7月24日(火)16:30


 食事を終え。通路を進み。辿り着いた先は、40㎡程の空間だった。


「王妃が財宝を隠す為に造らせた隠し部屋ってところでしょうか?」


「おんや、それだけではなさそうですぞ。はい・・・」


 アランギーは、黄金で造られたデスクの上に置かれた金銀財宝を動かし、ブラッククリスタルで造られた縦横約42cm30cmの箱を手に取ると、俺の所へ持って来た。


「これは?」


「開封を限定する封印が施されている箱の様ですぞ。この部屋で神クラスで怪しい物です。はい」


 神クラスで怪しいんですね・・・


「パトロン殿は、創造神様より神授スキル【フリーパス】を与えられていましたね。はい」


「確認します」



「これって、トミーサス王国の有力者達のリストみたいです」


「【ENT】【NIC】【NUT】【Köd】何と言いますか。恐ろしいリストですなぁ~はい」


「恐ろしい?」


「人名の前に書かれた文字ですが、一枚目の紙に書かれている事が事実であるなら、名を書かれた人物の運命はこの紙を作成した者に左右されている。左右されていたと過去形でいうべきですかな。はい」


「どういう事ですか?」


「魔族化・・・そうですねぇ~魔界の悪魔種の何れかの種族とコルト下界の魔物の遺伝子をリアレンジさせ変異させた異界の異物をコルト下界の存在に投与していた様ですね。はい。この名前の前の文字は、適合の有無や利用価値の有無。適合検体の餌として活用出来るかの有無を現しているようですぞ。はい」


「・・・この、Ködって文字ですが、トミーサス王家の一族だと思われる人達に多い様ですが、意味は?」


「直訳して良いのなら、餌でしょうねぇ~・・・」


「保護拘束した王族は24人。この紙によると、ゼルフォーラ王国から独立したジーチェン・ワーロン伯爵の血を受け継ぐ子孫達は、王族だけでも256人存在し。1名が【ENT】でフェリエラーにより処分済・・・適合実験の結果失敗したって事だとして、他の人達は(・・)。餌って適合した者達の食べ物って事ですよね?」


「おんや。それ以外に考えられませんが、他に何か可能性がありますでしょうか。はい」


 ・・・文字通りに餌は餌って事か。


「餌の適合なんですが、王族や貴族でも上級貴族に集中している様なんですが、偶然ですかね?」


「王族には集中していませんぞ」


「えっ?でも、王族にばかり、Ködが・・・」


「Ködが付いた名前の者達の系譜を両親を見てください」


「えっと」


「このフォンは、ララコバイア王国やトミーサス王国が出来る以前の大ゼルフォーラ王国初期の頃に、カトラシア半島という現在のララコバイア王国の島々がゼルフォーラ大陸と陸続きだった時代の話のようですが、はい。この辺りを治めていた魔人族フォンフォーラ一族のフォンです。はい」


「え?そんな事書いてましたか?」


「見れば分かります」


 読むと書いて無い事まで分かるんですね・・・


「魔人族のフォンフォーラ一族の血統にある貴族達は、名残なのでしょうなぁ~はい。トミーサス王国やララコバイア王国では、貴族ネームとして未だに名乗っているのでしょう。はい」


「なるほど。そうなると、俺が保護したヴァルダー侯爵家やリウス伯爵家は、そのフォンフォーラ一族の子孫って事ですね」


「人間族にしては高い自然魔素(まりょく)を持っていると感じていましたが、パフ殿を始め、サラ殿、テレーズ殿、エルネスティ―ネ殿。皆さん純血の人間族では無いからだったのですねぇ~はい」


「えっと・・・それって、どういう意味でしょうか?」


「おんや。お気付きで無かったのですか。いやいやいやいや・・・ふむふむ。はい」


 納得されても困るんだけど・・・


「そうですねぇ~。パトロン殿やサラ殿やテレーズ殿は、比較的近い先祖にですねぇ~はい。パフ殿はとても近い所に地属性の精霊種。エルネスティーネ殿は少し離れた先祖に魔人族。人間族は少し前までは8種族が平和に暮らしていた訳ですからぁ~・・・ハイブリッド化が進んでも変ではないですね。はい」


「アランギー様。精霊種は、コルト下界の存在では無いですよ」


「おんや。その通りですな。はい。ですが、創造神の代行としてこの世界のあらゆる物に宿り自然の力の循環を見守り続けている精霊種は、人間種達よりも遥かに長い時間、コルト下界に存在していますぞ。はい」


「そうなんですか?」


「パトロンマルアスピー夫人の一族は、この世界では最古参の精霊種ですぞ。はい」


「へぇ~知りませんでした」


「おんや。妻の事はもっと知るべきですぞ。はい。好奇心は円満の秘訣であり修羅場の切欠です。詮索したり調べたりする時は許可を取ってからをお勧めしますぞ。はい」


「はぁ~そうします。ありがとうございます」


「さて、どうやらここトミーサス。私が代行代理で長を務め統治しているトミーサスの国民多くの獣人族達が適合実験で半魔族化させられ、処分されたり戦闘に駆り出されていた事実を知ったからには、これに関わった者達を罰する必要があります。はい」


「えっと、それってダメ何じゃ・・・」


「何を仰います。悪や罪や居直りや言い掛かり前進しない可逆的な思考の者達を、正しく罰せずして善政は敷けません。ようするに法が裁くのであって人が人を裁くのではありません」


「うん?・・・法律は人が生み出した物なので、結果的に過去の人間によって現在進行形の人間が裁かれている事になりませんか?」


「ふんむ。なるほどぉ~そんな考え方も出来ますねぇ~・・・実に面白いですねぇ~・・・ですが、それは拡大解釈という物ですぞ。はい」


「線引きしたまでの事です。誰かが線を引かなくては、野生自然界の動物と同じ事をあらゆる存在は行うでしょう。神とて同じです。神は貪欲です。悪魔種以外の存在は神の1面や2面たったそれだけの側面や感情から創造したと創造神様は仰っていました。滅んだ沢山の世界を見て来ました。この世界は創造神様によって創造された世界の他に邪の神様によって生み出された魔界の影響を受けています。なにより精霊界ともう1つの陽の影響を受けています。何度も滅びかけては異界種同士の結束により切り抜けて来た過去を持っています。人間種以外の者によって現状の常識として認識されている道徳性や倫理観。一丸に人間種によって人間種が裁かれていると言い切れ無いのが現実なのです。はい」


「・・・えっと、哲学みたいになってますけど、これって・・・この世界の歴史や価値観が揺らぐとんでもない話じゃ!」


「事実を受け入れ、改竄した歴史や知識に埋もれる事無く、未来を見据え生きる事が人間種に可能になれば、今よりも複雑化した社会や存在。私達神界や神域に近い存在が存在する様になるのでしょうねぇ~はい」


 これは、脱線に近いのか?それとも、大事だから言いました的な重要な情報の1つなのか?


「おんや。パトロン殿は、分かっていませんねぇ~。自分のルーツを知る事は確かに納得という意味では重要かもしれません。ですが、それ以上に大切な事がありますぞ。それは1秒先の未来を紡ぎ遥か先の未来を豊かで環境の良い物にする事です。はい」


「えっと、餌に適合した人達の多くは、魔人族の子孫って事で間違い無いですか?」


「・・・私の話は終わっていませんがぁ~・・・まぁ~良いでしょう。パトロン殿の言う通りです」


「純血の魔人族を餌にした方が早く無いですか?」


「お尋ねしますが、ゼルフォーラ大陸に魔人族はどの位住んでいますか?」


「あぁ~そうですねぇ~・・・」


「それにですね。高位樹人族(ハイエルフ)、獣人族の一部、魔人族。自然魔素の高い種族は餌にしては勿体ないですぞ。はい。死ぬまで【MP】を抽出した方が、この実験においてはメリットが高いようですぞ。はい」


「制御用の自然魔素って事ですね」


「そういう事ですな。1万年程の間に先祖の力が薄まり中途半端な自然魔素統制の能力を持ち合わせてしまったが為に、魔族化に適合した存在達の餌にされてしまった者達と、高い自然魔素を持ち合わせてしまったが為に【MP】を抽出され続けた者達。なにより本人の意思とは関係無く魔族化した存在達。皆被害者です。この罪は非常に重いですぞ。はい」



 資料や書類は全て神授スキル【タブレット】に収納した。これで情報の整理も完了した事になる。


「パトロン殿よ。ここにある金銀財宝ですが・・・」


「金銀財宝がどうかしましたか?」


「1つか2つ神気を秘めた物が紛れ込んでいますぞ。はい」


「ど、どれですか?」


「一度、全て収納しては如何ですかな。はい」


「それもそうですね」


 俺は動画撮影し金銀財宝を回収する。


「書類も宝石も俺に所有権があるみたいですがどうしてだと思いますか?・・・船の時もそうでしたが疑問が尽きなくて・・・」


「武装解除を決断させた過程とその後の責任の所在。そうれとですねぇ~神授スキル【フリーパス】の存在が大きいでしょうなぁ~はい。フリーパスが無ければ侵入出来無かった結界や心の壁。解除や解呪。パトロン殿に所有権があるのは、所謂1つの鍵を開けた存在だからでしょうなぁ~はい」


「しかし、良くもまぁ~こんなに貯め込んだものですね」


「物欲に金銭欲、権力欲に支配欲。あの王妃はヴァルオリティア帝国から嫁ぎ、国民と王国を食い物にした。裁判の結果を思うと心が痛みます。ほんの少しだけですが。はい・・・ふむぅ~・・・」


「もう少しで終わります」


「それは、良いのです。ですが、気付いてしまったのです」


「何にですか?」


「トミーサス王国の王宮として使われていたこのサスシャンソール城ですが、私の自宅に貰っても良いでしょうか?代わりと言っては何ですが、カンベ下界で入手したカンベ下界中の城や宮殿セットを幾つか差し上げます」


「構いませんが・・・この城で良いのですか?」


「はい。この水道橋の様な感じ。水の上に浮いた感じが、中空の離宮をコルト下界風にアレンジした様で料理の世界を広げ、そして食す方の心を更に鷲掴みしてくれそうなのです」


「へぇ~」


 全く付いていけ無い世界だが、伝わって来る感じから凄い事みたいだ。


「それでは」


≪パンパン



 俺達は、王宮が在ったはずの人工池の水面に立っていた。


「・・・アランギー様。いきなり建物を回収しないでくださいよ。街の人が驚きますよ」


「おんや。私とした事が・・・はい」


「嬉しそうですね」


「分かりますか。パトロン殿よ」


「美味しいと伝えた時よりも良い顔をしてますよ」


「御冗談を・・・私は料理が恋人ですよ」


 ・・・微妙に返答がずれてる気がするが・・・


「細かい事は気にしない。それが神という存在ですぞぉ~はい」


「良く料理の世界で神様やってますよね・・・」


「おっハッハッハッハ。言われてみればそうかもしれません。繊細さと豪快さ。悩まず悩み。悩み悩まず。楽しむ事を忘れ無い。それが何かを生み出す極意なのです。あくまでも私の話ですけど・・・はい」


「参考になります」


「私の前の自宅と、カンベ下界の建物と、サスシャンソール城の中にあった物は、パトロン殿の神授スキル【タブレット】の中に移しておきました」


「・・・えっ?アランギー様も俺の持ち物に干渉出来るんですか?」


「おんや。違いますぞ。入れるのは自由ですが、出す事は出来ません。自分自身で取り出せない収納スペースにむやみやたらと物を入れる事は有りません。御安心を!気になったのですが、その収納スペースですが、神域と同じ構造の様ですぞぉ~はい」


「神域って、神獣カフェ『ドームココドリーロ』みたいな感じでですか?」


「あそこは、神格を持たざる存在が立ち寄れる様に神気を低く設定しているはずです。パトロン殿の収納スペースは、ゼルフォーラ王国の王都モルングレーのシュベルブ、プリミエールエリアですね。はい」


「物を収納するだけのスペースが、上級貴族の御屋敷が建ち並ぶ一等地ですか・・・」


「フォルティーナ様やアル殿に確認した方が良いと思いますぞ。神格を持った2人と財産が共有になっている事で神域にスペースが拡張しただけなのか、元々神域だったのか条件が変わります。はい。私は食材の管理で詳しいのです。はい」


 料理は食材素材が命だとアランギー様は良く言っている。自分はその食材素材を最高の状態にしているだけで、何か凄い事をしている訳では無い。食材達が導いてくれた結果何だと・・・


 あれ?・・・つられて、俺迄脱線してたよ・・・


「人生無駄に思える事こそ重要なのです。それでですが、本物のアンカー邸は壊れたままなのですよね?私の前の自宅と交換してはどうですか?それとですね」


「まだあるんですか?」


「語り尽くせぬ事ばかりです。私は料理で語るタイプですので、口下手なのです」


 いやいやそれは無いと思うが・・・


「存外そうなのです」


「・・・それで、他には?」


「ここ私の家になったサスシャンソール城跡地にですが、カンベ下界の城を採用してみませんか?」


「素材とか建築とか問題無いですよね?」


「問題ある物は、パトロン殿のタブレットに移す際に、弾かれた様です。今収納されている物は大丈夫という事ですな。はい」


「それで、どれが良いのですか?」



 トミーランの王宮跡地には、カンベ下界と呼ばれる異界のツヴィ〇ガー(・・・・・・)宮殿を設置した。本物と違う点は、外壁にもふんだんに大理石を使い、建物全体を水面より15cm程上に浮かばせた事位だろう。


 名前は、トミーランマルモアパーク(大理石公園広場)宮殿と名付けた。


「やっぱり、対外的な意味合いと象徴って意味合いで、目立つ建物って必要ですか?」


「おんや、当然ですぞ。はい」


 フィーラにも、何か設置した方が良いか・・・

ありがとうございました。

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