2-39 ドラゴラルシム王国の英雄ドラコと、トミーサス王国の逃亡船団。
宜しくお願いします。
――― R4075年7月22日(地)15:00
連合国家フィリー。第1回首脳会議が始まった。
「第1回首脳会議の議長は、代表のロイク・ルーリン・シャレットが務めます。異議は認めません」
自己紹介が始まった。
「ララコバイア王国の国王ヴィルヘルム・カトラだ。宜しく頼む」
「フィーラ王国のロイク・ルーリン・シャレットです。宜しくお願いします。スタシオンエスティバルクリュの中空の離宮創神殿の管理者でもあります」
「我は、ドラゴラルシム王国の竜王クロージャ・ルードラゴ・ルーバーンだ。大樹の英雄よ。ずっと手合わせをしてみたかった。この後一戦交えようぞ」
「ゼルフォーラ王国第228代国王そして初代聖王イヴァン・ルーリン。竜王クロージャ殿。ヴィルヘルム殿。4年ぶりですかな?」
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簡単な挨拶の後、連合国家フィリーの方針を確認し合った。
人間種8種族とヴァルオリティア帝国に対する対応は大筋で合意。竜人族の国ドラゴラルシム王国が足並みを揃えて動いてくれるかは不透明なままでの一応の合意だ。
挨拶が主の第1回会議は、トミーサス王国に圧倒的完全勝利を収めたゼルフォーラ王国がどの様に戦後処理を進めるのか、その方針確認が話の中心になっていた。
「大樹の英雄殿の私兵が参戦した事で、ゼルフォーラ王国は圧勝したと聞いた。連合国家フィリーの代表殿は、どれだけの手勢をお持ちなのかな?」
「竜王様。俺はスタシオンエスティバルクリュとフィーラ王国には軍隊を持っておりません。ゼルフォーラ王国領ルーリン・シャレットに、33000人の貴族領軍私兵隊を組織しています。私兵隊と名は付いていますが、あくまでもゼルフォーラ王国軍の中の貴族領軍です。貴族領軍に王国軍の指揮官が命令しても命令系統が違う為指示に従う事はありませんが、ゼルフォーラ王国の兵士に代わりはありません」
「貴族達に私兵を組織させ領地の治安維持を任せていると聞いた事があったがなるほどな。聖王殿よっ!」
「何ですかな竜王殿」
「トミーサス王国は獣人族の王国だった。それをゼルフォーラ王国の伯爵が奪い独立した経緯がある。領主達に武力を持たせるからそうなるのではないのか?」
「竜王様。我がララコバイア王国も貴殿のドラゴラルシム王国も島国で国土が小さい。そして大樹の森に面していない。ゼルフォーラ王国が今の様な態勢で国土防衛治安維持をするのは理に適っておると考えるが」
「人間族の能力を大きく越え管理しきれぬから、帝国だトミーサスだやれ奴隷だと人間族は数千年も騒ぎ続ける。少しは学習して貰いたいものだ」
「竜王様。今は、人間族の国だとゼルフォーラだとかララコバイアだとかは忘れてください。連合国家フィリーは加盟各国の政治体制や軍事態勢に口を出す組織ではありません」
「大樹の英雄よ。協力し人間種8種族の為の国家をと創造神様より啓示をいただき参加した。政治体制や軍事態勢。交易の在り方に改善を要求出来ぬ様では帝国に対し我々は軍事同盟を締結しただけになりますぞ」
「ゼルフォーラの聖王としては、森林都市国家フィーラ王国の国王の考えに、現時点では賛成する。内政に干渉するよりも先に解決しなくてはいけない事がある」
「聖王殿よ。確か聖王の名は創造神様よりいただいたのだったな」
「そうです」
「あの小僧が我と同じく創造神様より名を神授されるとはな」
「竜王様の竜王も神授でいただいた物なんですか?」
「なんと、そうなると私だけですね。ララコバイア王国の自称国王・・・創造神様から神授で名をいただけるように頑張りますぞ。ハッハッハッハ」
「大樹の英雄よ。我は875年前に竜王の名をいただいた。以降、ドラゴラルシム王国の国王である我は竜王を名乗っておる。聖王は名乗って数ヶ月の若い名だ。意味は分かるなぁっ!」
「残念ですが、先着順で優劣はありません」
「まあ良いわ。我がドラゴラルシム王国は、陸海空全ての戦いにおいて、他族の命令に従う気は無い。だが、連合王国としての支援協力は約束しよう。ゼルフォーラ王国の軍隊の様な物だ。ガッハッハッハ」
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その後、各国の重臣達を交え食事会を催した。料理の神chefアランギー様の超絶至極の料理は参加した者の胃袋を鷲掴みにした。マルアスピーが準備したデザートも殊の外好評だった。
聖都スカーレットのロイスピーのデザートやスィーツや軽食の宣伝効果としては抜群だった。【MP】の回復量が優れた食料だ。売れない訳が無い。一般向けの実店舗販売の他に、連合加盟各国への安定卸の契約も成立した。
食事会の後は、各国の王城に聖都の大神殿と繋がる転位陣を設置した。常時許可は国王のみ。
そして、俺は竜王と腕試しの為、トミーサス王国の王都トミーランの大聖堂で発見された迷宮へ行く事になった。証人として連れは1人と指定されたので、マルアスピーに同行をお願いした。
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――― R4075年7月22日(地)19:00
≪ギィギィギィギィ ギィ――― バタ――ン
俺は、マルアスピーと、竜王クロージャと、竜人族の騎士ドラコ。4人でトミーランの大聖堂の迷宮を探索をしている。そして、竜人族の騎士ドラコが罠に嵌り今し方部屋に閉じ込められた。
「竜王様。魔獣が沢山いる様ですが本当に手伝わなくても良いのですか?」
「大樹の英雄よ。我とドラゴラルシム王国の英雄竜騎士ドラコ・ブルグスミュラーの力を侮るで無い」
「我がパイクは無敵。見ているが良い」
この迷宮は比較的通路が狭い・・・さっきからその槍生かし切れてませんよね?・・・突くしか出来ない槍ってほとんど意味無いと思うんですけど・・・
『ねぇロイク』
はい。何でしょうか?
『私、帰っても良いかしら。飽きたわ』
竜王様が納得するまで付き合ってください。お願いします。戻ったら何でも言う事聞きます。お願いします。
『・・・う~ん。仕方ないわね・・・分かったわ』
マルアスピーに限らず、実際の所俺もかなり飽きていた。迷宮に入ってから1時間程経過する。現在1階。しかも迷宮に踏み込み真っ直ぐの道を400m程進んだだけだ。
400m程進んだ所にあった扉を開け入って行く竜王と騎士。俺達は慌てて後ろに従い部屋へ入った。
部屋に入ると、照明が点灯し、魔獣達が50匹~60匹でお出迎えしてくれた。この罠部屋に来るまでに倒した魔獣はたったの2匹。所要時間1時間。低レベルな決死の戦闘を傍観する苦痛。
マルアスピー。付き合ってくれて、本当に、ありがとうございます。
『フフフッ』
俺は、マルアスピーの表情を確認し安堵する。機嫌が悪い時の笑顔では無い。あれは大丈夫の時だ。良かった・・・
「大樹の英雄よ。何を呆けておる。我等竜人族は攻撃に長けた民族。己の身は己で護られよ」
長けたかぁっ!それならサクッと倒して終わらせてくださいよ・・・
「俺達2人の事は気にせず続けてください。大丈夫ですから」
≪カーン
おっ!魔獣が4匹こっちに来ちゃったけどどうしたら良いかな?
『ロイクが倒したら、あの人間種2人は怒りそうね』
ですよねぇ~・・・手の空いてる方に聞いてみます。
『えぇ。それが良いわ』
俺は、竜王と騎士の状況を確認する。
「英雄ドラコさん。こっちに魔獣が数匹来ちゃってます。倒しちゃいますよ」
「それには及ばん。スキル【劫炎のジャベリン】」
火で出来た槍?矢?みたいな物が4本。俺とマルアスピーに向かって飛んで来た。
技の名前は強そうなのに、拍子抜けした攻撃ですね。
『そうね』
4本の火は、4匹の魔獣達にそれぞれ突き刺さる事無く着弾し、俺達から英雄ドラコへ魔獣達のターゲットを移行させた。
「劫炎のジャベリンってターゲットを取る技だったんですね」
「私の必殺技の1つだ」
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「竜王陛下。こいつ等、属性攻撃を吸収しているのか攻撃すると回復している様です」
「我の槍は火属性を帯びた火竜槍。攻撃が効いていないはずだ」
吸収というか、2人の攻撃力が低すぎてダメージを与えるに至っていないだけです。この戦闘終わるのかなぁ~・・・
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――― R4075年7月22日(地)20:30
竜王と騎士。2人の表情には余裕が無い。戦い始めてからそれなりの時間が経ったが未だに1匹も仕留めていない。魔獣側も竜王側もノーダメージで互いに健闘し合っていた。
俺とマルアスピーは、レソンネでロイスピーの事、色んな事を話し時間を潰していた。
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「竜騎士ドラコよ。我の武器が馬鹿になってしまった」
「竜王陛下。私のパイクも同じでございます」
そろそろ、武具取り分け武器に限界が出始めた様だ。
「属性攻撃も直接物理攻撃も効かぬ。・・・何と言う防御力の高さだ」
「この様な魔獣と私は戦った事がございません。こいつらは飛竜以上です」
飛竜と戦っていたら、竜王様も竜騎士ドラコさんも瞬殺されてると思います。
「そこまでか・・・」
「残念ですがこの魔獣達は、我等がドラゴラルシム王国に生息するどの魔獣よりも強敵です」
やっと、力量を理解してくれたのか。ドラゴラルシム王国の魔獣ってゼルフォーラ大陸よりも弱いのかな?
『強い弱いで表現するのなら限りなく弱いと思うわよ』
どうしてですか?
『自然の力の循環が弱いからよ』
あぁ~なるほどね。魔獣の中の核や魔晶石に自然魔素がどれだけ蓄積しているかで魔獣の強さってある程度決まってるんでしたっけ?
『えぇ』
人間種も、ドラゴラルシム王国に住んで居たら弱くなったりしないんですか?
『人間種が核を持つ種族だったのなら弱くなるでしょうね』
なるほど・・・
≪キキキ カーン
うん?・・・こっちに集まってるけど、どうしてだ?
レベル50台中心の魔獣達を、武器を失った個人レベル16の竜王様と、武器を失った個人レベル31の英雄竜騎士は、竜人族としての身体能力の高さだけで抑え込む事が出来なくなっていた。
「こっちに来たのだけじゃなく、この部屋の魔獣を倒しちゃいますが、もう良いですよね?」
「倒す?この魔獣達をか・・・フン。好きにするが良い。やれればの話だがな」
「それでは、動かないでください。それと、絶対に渦に触れないでくださいよ」
一番威力が小さい攻撃魔法は、・・・風属性下級魔法【ブロウ】☆1☆3 ≫
「風属性下級魔術ブロウ ≫」
「風属性の下級魔術で何を......
≪ゴゴズザズザゴゴザシュザザザザザゴゴゴザゴゴゴゴザズザズザズザゴゴゴゴ
細い竜巻が超高速で渦を巻きながら、接触する魔獣達を次々に無数の刃で体液事粉砕し消滅さる。
......こ、これが下級魔術だと・・・」
「さて、片付きましたね。このまま進みますか?それとも戻りますか?」
「大樹の英雄殿よ。今の魔術の消費【MP】は幾つでしょうか?」
「今のは下級で最も威力を落とした状態(通常発動状態での最弱)なので、消費したの2です。(実際は魔法なので【MP】は消費してませんが・・・)」
「たった2だけの消費で、50匹以上を殲滅したのですか・・・」
「そうなりますね」
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力試しは竜王様を英雄が説得し敗北を認めさせた事で終了した。
納得していなかった竜王様は後日(R4076年5月5日)。ドラゴラルシム王国の王都ドルガで、世界中から冒険者や軍人や英雄を招待し武道会を開催する。来たる日以降の話だ・・・
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――― R4075年7月22日(地)21:00
エルドラドブランシュの研究所。ロイスピー食品の量産の為に規模を拡張した一画。
神授スキル【マテリアル・クリエイト】【マテリアル・クリエイト】【マテリアル・クリエイト】【マテリアル・クリエイト】・・・
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「マルアスピー。これで良いですか?」
「えぇ」
「自然の力の循環から自然魔素が必要だからって、天球を5つも稼働させる必要ってありますかね?」
「あるわ」
「そうですかね?」
「えぇ。ゼルフォーラ王国とドラゴラルシム王国とララコバイア王国とフィーラ王国。それにトミーサス王国にも卸すのよ。生産ラインの拡大は破棄の状況に応じてで良いとしても、自然魔素は多過ぎるという事は無いわ。循環している限り、必要な時に必要な分だけ使用するだけなのだから」
「そうですしょうが・・・これ気を付けてくださいよ」
「そうね。私と助手、それに一部の人間種だけに入室の許可を与える事にするわ」
「助手?」
「えぇ。ロイクでしょう。パフちゃんでしょう。フォルティーナでしょう。アランギーでしょう。アルね」
「俺って共同経営者ですよね?」
「そうね。でも助手でも構わないわ」
「俺はどっちでも良いですけど・・・神様3人を助手っていいのかなぁ~?」
「形式上は助手。それ意外に適切な言葉が見つからないわ」
「そ、そうですか・・・まぁ~呼び方に拘る人達じゃないし良いか・・・」
微妙だとは思うが。
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「破損して、自然の力がこの世界に漏れるだけでも大惨事です。本当に気を付けてくださいよ」
「えぇ」
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――― R4075年7月22日(地)22:00
『ロイク。聞こえるか』
はい。御祖父様。どうしました?
『トミーサス王国の王家ワーロン家の一族が4隻の船団に護衛され、ヘイト海峡を抜けヴァルオリティア帝国を目指しているという情報を、降伏したトミーサス王国の貴族達や軍関係者から入手した』
亡命の為の国外脱出って事ですか?
『ワーロン家の者達を全員拘束する事は可能か?』
やろうと思えば可能ですが、トミーサス王国は降伏したんですよね?
『軍は降伏した。だが、国として正式に降伏していない状態だ』
王族や偉い人達は帝国に亡命を図り逃亡中なんですよね?それじゃダメなんですか?
『王家の者や国の高官達が逃亡した国に自治権を認めたとして、政治や政府や国や法律が機能しない麻痺状態の国が、自分達だけで戦後の復興を進め独立性を維持出来ると思うか?』
無理でしょうね。
『傀儡するにも、時期を見て独立させるにしても、王家の者達の身柄はゼルフォーラ王国にあった方が良い。帝国に亡命政府を樹立された場合それこそ厄介な事になる』
なるほど。・・・分かりました。王族を全員拘束したら、モルングレーの王宮で良いですか?
『戦争を売られ勝利したのはゼルフォーラ王国だからな。申し訳無いが頼んだぞ』
サクッと片付けます。
ありがとうございます。