8-165 来る日と奇跡の日と執行の日の前夜 -マルアスピーの隣で小休止-
セーラ様とフレアリース様による神気の正しい使い方セミナーはアリスさんとサンドラさんを中心に盛り上がりを見せ縮地の頂の話の後も姦しくも勇ましく賑やかだ。
注意点、心象、想像力。思考の事象化はそんなに難しいことではない、基本的には慣れ。
フォルティーナのフィンガースナップやchefアランギー様のパルマセコは理への干渉事象のエフェクトやタイミング等を意図的に明瞭化しているだけで下界の民に対する優しさでしかない。それに対し遊狐様の鳴声は練習不足でしかないと一刀両断されていた。
妙な盛り上がりを見せる輪の中心に何故か俺が居る。ここは違うここは俺の場所じゃないと開始直後から感じていた違和感。
ここは素直に離脱あるのみだ。
タイミングを見計らい宙に溶け込むように静かに気配を消して何食わぬ顔でマルアスピーの隣へと移動することに成功した。
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三十分程経過したが、妙な盛り上がりを見せる麗しくも賑やかな女神様の集まりは未だに衰える兆しを見せていない。
うんうん元気で何より。ちょっと元気過ぎるような気がしないでもないけどサンドラさんとアリスさんはあぁーじゃないとね。
新米女神'sのアリスさんサラさんテレーズさんバルサさんメリアさんと新米女神's相当のサンドラさんは、慧眼と智慧も司るセーラ様と炯眼と教養も司るフレアリース様を質問攻めにし。
セーラ様とフレアリース様は、バランス良く質問に答えながら、ずっと前から女神の遊狐様を小言交じりで諭し。
遊狐様はお得意のどこ吹く風で、サンドラさんの首にぶら下がったり抱き着いたり狐の姿になって頭に攀じ登ったり鼻歌や口笛大声で反応したかと思えば突然の黙秘。皆の反応を楽しんでいるようにしか見えない。あのフォルティーナの飲み仲間なだけのことはある。
一方窓際のフラン様とロザリークロード様は、フラン様の正論基本的にコルト下界の理とロザリークロード様の的外れな神竜倫理で例によって盛大な水掛け論をヒートアップさせながら、二柱揃って唯一の趣味となってしまったドラゴンチェスで静かなる戦いを繰り広げていた。
ドラゴンチェスようは只のチェスだ。
二柱揃ってチェスが趣味となった切欠は、昨年の大樹の休息月に入って直ぐの頃、暇を持て余しゴロゴロするか寝てるか喰ってるか概ね普段と変わらない日常を過ごしていたロザリークロード様がちょっとした気の迷いを起こしたからだ。
その日は我が家だけのチェスのグランドマスターを決めるべく家族皆(当時の)でトーナメント方式でチェスを楽しんでいた。
パフさんとマリレナさんの決勝を皆で見守っていると、絨毯の上でゴロゴロしたり昼寝していたはずのロザリークロード様がチェスボードを覗き込みながら粛清のマナーなどお構いなしに大声で。
「ふぅ――――むっ、うむっよかろう。我が眷属ロイクよ、このキスとやらのコマを全てドラゴン仕様のモリオンとクリスタルにし我に献上するのだっ!!」
スタイルとマテリアルを指定して今直ぐ作って寄越せと上から言って来た。
チマチマしたことが大っ嫌いで超絶に面倒臭がりやなのにチェスセットが欲しい?
遊んだこともなければルールすらしないのに欲しい?
名前すらちゃんと覚えていないのにホントに欲しいのだろうか?
まっ何にせよ訂正は必要だ。
「キスじゃなくてチェスですね」
「取るに足らぬことで逐一騒ぐでないわ。・・・但し、同じとあっては興も醒めよう、うぅ~~~むむ、おっ! 我はここに宣する。今この時理において我がチェスはチェスに非ず我がチェスはドラゴンチェスに然りだ。我が眷属ロイクよ我が求めに応じドラゴンチェスなる至宝を献上するのだ」
名前を変えるとか勝手過ぎるけど、気にせずスルーする。
「グランドマスターが決まったら詳しく聞くんでそれまでどんなのが良いか考えててください」
「ホォ~、我を待たせるつもりなのだな? 良いのだな、本当に良いのだな? 我がここで暴れるは我が眷属ロイクの心無き仕打ちからだ。我は心優しくも二度も」
「あぁーはいはいはいはい分かりました。今直ぐ喜んで創造するんでちょいとお待ちをぉ~~~」
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その後、フラン様から。
「あの、お手透きの時で構いませんので私にも同じ物を作ってはいただけませんでしょうか、お願いします」
と、お願いされ。
ロザリークロード様にプレゼントした物と同じ物をフラン様にプレゼントするだなんて矜持が保てない。
ここは踏ん張るところでしょう。と、気合を入れて創造し最終的にドラゴン仕様のアイリスクォーツとローズクォーツのセットをプレゼントするに至った。
フラン様もロザリークロード様もチェスにハマりにハマり。才能があったのか今ではパフさんとマリレナさんと並び我が家のチェス四天王の地位に君臨している。
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「今日はいつにもまして騒がしいのだけれど、ミュー、カトリーヌ、エルエル、パフちゃん、もしかしなくても隣に居るロイクのせいかしら? 」
え? えっとマルアスピーさんやこれを全部俺のせいにするのは流石に無理があり過ぎると言いますか、そうは思いませんかね?
「・・・あぁ貴方達も居たわね。・・・リンゲン、フルハ、リゼッタ、ジオール。ノーミード、ヘリフムス、ロロノクック、アンガーレム、キュライレーサ、リザラルーネ、ラーヴベル、ヴェルフューネ。ルイーズにミトにドゥーミナに精霊王様、それにウェンディーネとタルヒーネ、それとも貴方達のせいかしら」
マルアスピーに悪気は全くない。俺達の社会で暮らしているからといって俺達の常識を押し付けてはいけない。でも、ただ、自己紹介の時間くらいは作って欲しいかな。
さっき失礼にならない程度に神眼で名前と種族だけを確認させて貰ったが、今ここには神々様方が沢山居られるとはいえ、精霊様方も負けず劣らず豪華な顔ぶれだった。
俺の知ってるコルト下界の精霊でここに居ないのには地の中精霊岩石のデェシュネン様と精霊じゃないけど幸さん。同じく地の中精霊巨岩のヴィクフォート様。まだ名前のない子供達小精霊様達くらいななものだ。
マルアスピーはさっき「幸とは連絡が取れなかったわ。彼女達にもおもてなしを手伝って貰いたかったのだけれど残念ね」と言っていたが、まぁ一応本当のことしか話してはいないんだけど・・・毎回不思議に思う、幸さんじゃなくてデェシュネン様に念話すれば良いのに、と。
貴重な時間をありがとうございました。