8-149 来る日もそうだけど、それよりも御光臨まであと二日 ⑤
中空の離宮本殿の管理責任者室にはまだというかこれからもタブンだけど応接用のテーブルとチェアが置かれることはないだろう。
今日のように数時間も滞在するようなことは今後ないだろうから・・・。
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タブレットの収納から急遽取り出した【空飛ぶ絨毯ver.小規模リビングダイニングルーム】のソファーやチェアを、同じタブレットの収納から取り出した神茶と茶請けを女神様'sにすすめ、何となく相槌を打ちつつ話に耳を傾ける。
あぁーなんだろうな・・・これってあまり宜しくない感じになちゃってる系だ。創造神様からは何も聞いてないんですけどぉー。
「・・・創造神様が育てて収穫した果物とか野菜を食べたあっ野菜はまだ分からないのか、まっようは、果物を食べた理外の民が神様でもないのに神気を内包し始めちゃってしかもその神気の量が神様新参組よりも遥かに大きいから問題になってるってことですよね。・・・ぶっちぇけ何が問題なんですか? ホラッ、ここにも居るじゃないですか神格位を持ってもいないのに意味不明に神気が多いのが」
自らを指差し何度か頷いてみせる。
ズズズズズズズズ。
違和感なく自然な所作で徐に湯呑茶碗を手に取り神茶で喉を潤し女神様'sの顔色を伺う。
「ロイクさん、ロイクさんは勘違いしています。いいですかロイクさんは私達眷属の主、主の神気が私達より高いことは何もおかしなことではありません。ですが、神でもない下界の民を少しばかり逸脱してしまっただけの眷属が、同じ眷属とはいえ神である存在よりも神気が高いことが問題なのです」
「アルさん。この件は由々しき事態と言ってしまっても過言ではない程に厄介な・・・面倒なことになってしまうかと」
「フランはんの言う通りどす。世界創造神様や大上神様等が後ろに控えてるロイクはんであったならまだしも、残念なことに今回は後ろに控えてるのんがロイクはんだ言うことが事態を複雑にしてるんどす。神でもあらへん存在が神でもあらへん存在に神気を与え神ではないままその存在を維持させてる」
「やばいなっ」
「うむ」
「うーん現状何かが大きく変わる訳でもないし何がそんなにやばいのかいまいち良く分からないんですが、そんなにやばい感じなんですか遊狐様。それにロザリークロード様もさっきから芋羊羹を口に運ぶ度にうんうん唸ってますけど、何も言われないことが何か逆に怖いで何か言ってくださいよ」
「うーむ。我は今どうあるべきか悩んでおるのだ」
「悩んでるってのは見て分かります。大好きな芋羊羹を食べてるのに笑みの一つも零してないってところからも、その悩みが何となく少しくらいは深刻な物なんだろうなって察しも付きます」
「であるならばだ。我が眷属ロイクよ、察して余りあるこの状況を何処まで理解するのだ」
「は?」
何言ってるんだこの幼女は。全くもって理解できてないからこうして神茶を啜りながら耳を傾けているんじゃないですか。
「実に愚かしいことだ。我が眷属ロイクよ、我は悲しいこの危機をいかにして乗り越えるかただそのことばかりを考える我等を前にしてどうしてそのような阿呆面を晒し続けていられるのだ」
阿呆面って失礼な。結構前からこの顔なんですけどっ。
「やっぱし来てまうわなあ、めんどいのが」
「調査という大義名分を掲げて無理矢理にでも来てしまうでしょうね」
フラン様とセーラ様は手付かずのまま放置されていた芋羊羹を菓子楊枝で切り分け小さな方を口へ運ぶと残りの大きな方をロザリークロード様へ差し出した。
「我は神である前に竜だ。一度手にした物は天地が引っ繰り返ろうとも」
「賞味期限付きの食べ物を返せなんて流石に言いませんよ。それにロザリークロード貴女神のことですどうせここで食してしまうのではなくて?」
「ウチもやっぱし返して何てそんなん言わしまへんで。・・・しっかぃーこれほんまに美味しい羊羹どすなぁ。ホラホラぎょうさん食べて早う大きなっとぉくれやすな」
「うむ、一理あるこの芋羊羹が絶品であることを疑う余地など微塵もない。だが、絶品であるからにはやはり対価が必要だと我は考える、望はなんだ。幾許かの幸で満足するのであれば叶えてやるのも吝かではない、どうだ?」
勝手に話が進んでるし、この方が助かるし、黙って見てよ。
「ロザリークロード貴女神には余りにも簡単過ぎて退屈に思われてしまうかもしれませんが、一つ頼まれてはくれませんか」
「何だ?」
「ロザリークロードはん、フランはんとウチの望みはおんなじみたいやさかい、ウチ等からの望みってことで頼まれて貰えると助かる」
「だから何だ、さっさと言わぬか」
「理竜憲兵隊」
「彼奴等か。・・・容易くはあるが、何故我に態々望むのだ。フラン、貴様の方が適任であろう」
「彼等は聖の竜族で私の眷属ではありますが、理法律院に出向させるに際し一時的に解放してあります。私の統制から外れ理法律院の指揮下にある手前、素直に命令に従ってはくれないでしょう」
「なるほどの、貴様もそうだが聖の者は些か臨機さに欠けておるからの我等が邪属を少しだけでも見習い、歩み寄ることができれば・・・不可能を口にするは愚か者が故の過ちであったなガッハッハッハうむ委細承知した。徒党を組みノコノココルトまで押し寄せて来た暁には塵一つ残さず消してくれると約束しよう」
「・・・流石に消されては困ります。貸し出しているだけで私の眷属であることに変わりありません。せめて優しく諭す程度に気絶くらいで赦してやってください」
凄いのが神界から調査しに来るってことだよな。
「悪狼神じゃなかったセーラ様。ジャンダルムリって確か憲兵隊のことでしたよね。フラン様が眷属を貸し出してるってことは竜種に騎乗してるとかそんな感じなんですか」
「そうどすなぁ。簡単に説明すると、聖属性の神竜一小隊二万柱程で隊を編成する小規模やのになかなかにえげつない憲兵隊どすなぁ。彼等が通った後には綺麗に整地され豊かさを取り戻した土地と綺麗に洗浄され美しさを取り戻した魂だけが残ってるだけやと恐れられています」
あぁーはい、なるほどね。二万もの神様が浄化しながら行軍する感じなんだろうな。・・・あれ、それでどうして。
「家に来ちゃう理由が分からないんですけど」
「何言うてるんどすか。神でもあらへん存在に神気を与えてもうた神でもあらへん存在、話題のロイクはんを見に来るに決まってますやん」
「え、はぁ?」
俺を見に?
貴重な時間をありがとうございました。




