2-35 フィーラを視察しよう①~大賢者と漁色家と、秘術~
宜しくお願いします。
――― R4075年7月21日(無)17:30
昼食を楽しんだ後、フィーラの視察に出かけた。
同行者は、アドベンチャーギルドのギルドマスターより偉い役職に就任したばかりの獣人族獅子族のバルサ、亡国エルフィーローズ王国の王家の末裔樹人族のメリア、高位樹人族の賢者ガリバーの3人だ。
建国を宣言した昨日。創造神様から神授でいただいた家シリーズの中にある三角屋根の聖人教会と、教育と情報共有交換の場として利用して欲しいと思いお城の様に大きく立派な公民館兼学校を旧市街地の中央に設置していた。
俺達は、手始めに旧市街地の聖人教会を拠点にし、規模の1番大きな居住区の視察を開始した。
旧市街地は、小人族、人間族、巨人族、竜人族、魔人族が居住するにはとても不便な環境だ。ヴァルオリティア帝国によって樹人族達が隔離管理された約200年前から昨日までここは無人。放置され廃墟と化していた。
巨木を利用した家や店。蔓や蔦で作られた階段。街が森の中に存在する。自然そのものと言って過言では無い街並みである。
「森の中に街が在る。街が森に飲み込まれた。微妙に違和感を感じるのは放置されていたからでしょうか?」
「でも、メリアさん。森の中に200年間も放置されていた割にはとても綺麗ですよ」
「はい。ロイク様。私も同じ様に感じました。樹人族の伝統的な樹林集落を始めて見ました。私達獣人族の洞窟や巨木の根元に草を敷いただけの伝統的な寝床集落と比べると、とても環境が良く文化の高さを感じます」
「樹人族や魔人族の文化や知識のレベルは人間種の中でTOPクラスです。俺も本でしか知らなかったけど、これなら、獣人族、樹人族、妖精族の身体能力を生かせる居住空間って感じがします」
「樹林集落は2000年それ以上の1万年を視野に森と共存共栄する。大昔は大樹の森との共存共栄も可能だったそうじゃぞ」
「大樹の森ともですか!」
「そうじゃ。我等、大息吹の大陸ネコトミサールの息吹の谷にルーツを持つ風の樹人族の第1世代。初期移住者達の時代9万~10万年前の話じゃがな」
「色んな意味で凄いですね・・・」
「そうですね。バルサさん」
「でも、それだけの文化や能力を持っていた樹人族が、どうやって帝国に支配され滅んでしまったのですか?」
「バルサ殿それは簡単な話なのじゃよ。樹人族のエルヴァーリズ王国。獣人族のカトムーイ獅子王国。小人族のダカイラ王国。我等樹人族が滅ぼし併合した妖精族のワルク王国。全て権力と支配に目が眩んだ同族の裏切りによって滅んだのじゃよ」
「エルフィーローズ王国も裏切りが原因だったんですか?」
「左様。ターンビットに亡命した王家の者達が首謀者じゃよ」
「なるほど。納得です」
≪カツッ
何か、結界に当たった様な・・・
≪カツッ
石?
≪ヒュー カツッ
石の飛んで来る方を確認すると、樹人族の男の子が2人、スリングショットの簡易版パチンコを片手に巨木の陰に隠れながら投石していた。
「子供が2人みたいですが」
「その様じゃのうぉ~・・・親は何をしてる」
賢者ガリバーは、杖を男の子2人に向ける。杖が黄緑色の光を発すると、男の子2人が黄緑色の光に包まれ、俺達の前へゆっくりと移動して来た。
「卑怯者」
「そうだ魔術を使う何て卑怯だぞ」
「戯けが!樹人族が魔術を使わずして何が樹人族か。お前達にはお仕置きが必要じゃな」
「裏切者」
「高位樹人族が裏切ったせいで僕達の国は無く成ったんだ」
「賢者ガリバー。この子達の親に問題があると思いませんか?」
「どうやらその様じゃ。坊主達は何処の系譜の者じゃ?」
「・・・」
「裏切者に誰が言うか」
「ロイク様のスキルで」
「えぇそのつもりです」
俺は神眼で男の子2人を視認し、タブレットで管理している情報と照らし合わせる。
「僕達は仲間を売ら無い」
「売らない」
「えっと、ハンヌとイイナの息子のレス君と、ヘイモとエステルの息子のポール君。監視域15に居住していた様です」
「ハンヌにイイナ、ヘイモにエステル・・・4人とも聞いた事が無い名じゃ」
「300歳以下の比較的若い樹人族みたいなので、知ら無いのかもしれません」
「ど、どうして僕達の名前を・・・」
「卑怯者」
「坊主達。木の陰に隠れ投石し、無抵抗の人間を傷付ける。お前達の行為は卑怯とは言わぬのか?」
「煩い裏切者」
「僕達の森から出て行けぇ~」
「そうだ出てけぇ~」
「出て行け!」
≪ダァ~ン ァ~ン ~ ~ ~ ~ ン
賢者ガリバーが杖を地面に着くと大きな音が森に鳴り響いた。
「止めんか。騒がしい」
森に鳴り響く音に驚き、樹人族達が集まって来た。
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・
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「陛下よ。この2人の系譜は分かりますかな?」
「人間種樹人族・風母イレネ系譜標準樹人族カトラ・ニンヤ血族であってますか?」
「何と、そこまで詳しく把握出来るとは・・・恐ろしい能力じゃ」
「そうなんですか?」
「我等樹人族の系譜血族は、そのまま扱える属性や第一世代に繋がるからのぉ~」
「今のは、5歳のレス君の方で、7歳のポール君は、風母イレネ系譜混血ラケル標準樹人族カトラ・ラグニ血族みたいです」
「なるほど。ラケルの一族か・・・」
賢者ガリバーは杖を喉に当てると旧市街地全域に響き渡る様にレス君とポール君の両親を呼び出した。
≪高位イレネ系譜・カトラ系譜ハンヌ。高位イレネ系譜・ニンヤ系譜イイナ。高位イレネ混血ラケル系譜・カトラ系譜ヘイモ。高位イレネ系譜・ラグニ系譜エステル!・・・レスとポールを引き取りに来なさい。ラケルおるか。おるなら、旧市街地の聖人教会まで来るのじゃ。
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俺達は、拠点に戻り待機していた。暫くすると、レス君とポール君の両親がやって来た。
「陛下。王妃様。どうか息子を御許しください。英雄大賢者マクドナルド・ガリバー様どうかお許しください」
「のう。ハンヌにイイナ。ヘイモにエステル。子供達よりもお前達の方が問題なのじゃよ」
「「「「私達がですか」」」」
「この子達は、高位樹人族を裏切者と言った。子供達の口から高位樹人族を罵る言葉が普通に出る事は無いはずじゃ。誰かが常日頃よし罵る言葉を使わぬ限りな・・・」
≪カチャ
「ガリバー。偉く成ったものだな」
20代に見える青年の高位樹人族が教会に入って来た。
「来たな。ラケル」
「賢者ガリバー。先程から知り合いみたいですけど、こちらの方は?」
「純血の高位樹人族は少ないからのぉ~皆知己じゃよ」
「ふん。知己だと!笑わせるな。誰がお前の様な一族の面汚しを友と認めると思う」
「思い出しました。ロイク様。高位樹人族の種馬ラケル・カサノヴァ・・・」
「メリア殿はヨーダ辺りからその名を聞いたかな?」
「はい。祖父が樹人族の中にも、獣人族や巨人族や人間族と同じように繁殖力に長けた無類の女好きがいる。気を付けなさい。甘く優しいその場凌ぎの言葉に惑わされるなと良く言われました」
そんな事を祖父から学ぶのか・・・王族ってやっぱり普通じゃ無いなぁ~
「ヨーダ・・・。あぁ~王族のあの坊主か。ゼルフォーラ王国に逃れたと聞いていたが、今はどうしているのだ?」
「7年前に、虚魔症で亡くなりました」
「そ、そうか・・・若いな」
「はい。まだ669歳でした」
「そうだな・・・ヨーダの孫の君が神授の国フィーラの王妃様。なるほどな・・・」
「そうなってしまいました」
「おかしいな。私は女性を見ると身体が疼いてたまらなくなる質なのだが・・・君には何も感じ無い」
「当たり前じゃ。お前とて、幼女には興味が無いじゃろう」
「なるほど。ヨーダの孫は幾つだね」
「24歳です」
「手足が伸びきっただけの赤子ではないか。そんな子供が救国を果したか!」
「高位ラケル様。父ちゃん。母ちゃん。この人達を知ってるの?」
「ごめんなさい。お父さん。お母さん」
「レスとポールと言ったな。ポールお前は私の混血子孫にあたる。そこで老人のふりをしている高位樹人族は私の双子の兄だ」
双子の兄弟だたのか・・・知り合いどころじゃ無いな。
「高位ラケル様のお兄さん。英雄大賢者マクドナルド・ガリバー様ぁ~!」
「大賢者様・・・」
親が謝罪している時、この子達は聞いていなかったのか?
「英雄か。笑わせるな。私が狙った女性は必ずマクドナルドお前に近付いた。私の初恋の女もお前に取られた。母に至ってはお前を称える愚かな集団の一員となりお前を褒め一族の誇りだと歓喜した」
世界中の人間に英雄。大賢者。と、称賛され尊敬される息子を持ったら喜ぶと思うけど・・・
「お前のせいで、私は、生活を改めろ。遊んでばかりいないでお前も何かやたらどうだ。お前も少しは魔術が扱えるんだ人の為に成ったらどうだ。どうして私がこんな事を言われる。全部お前がいるからだろう」
賢者の双子の弟はとても残念な人だったか。
「賢者ガリバー様。弟様はどうして、苗字が違うのですか?」
「バルサ殿。あ奴は両親に勘当され、一族から追放され、ガリバーの名を失ったのじゃよ」
「でも、カサノヴァって苗字がありますよ」
「高位樹人族の者に苗字が無い等、高位樹人族にとっての恥じゃ。マリレナ殿が見かねて相応しい名をあ奴に与えたのじゃ」
「マリレナさんは優しいですね」
「優しいというか世間体じゃな」
「なるほど・・・」
「ロイク様。どうしたのですか?」
「メリアさん、ふと思っただけで何て事は無いんです・・・賢者ガリバー。世界中でカサノヴァって名前が嫌煙されるのって、まさか・・・」
「そのまさかじゃよ。29971歳。約3万年も女遊びを続ける種馬の名じゃ。大賢者マクドナルド・ガリバー以上に轟いておるわ」
「何と言いますか。残念ですね・・・」
「もう慣れたわ」
3万年も子孫繁栄に貢献する高位樹人族の男か。この人の事は来たる日以降に解決して貰うとして、まずは今のこれだよねぇ~・・・
「弟さんの事は後にして、まずはこの子達の件を片付けてしまいましょう」
「おぉ~そうじゃったな。ここは、私に任せて、陛下とメリア殿とバルサ殿は、次の目的地港の視察をお続けください」
「大丈夫ですか?」
「これでも世間では大賢者。返上し賢者を自称しておるがな。フォホッホッホッ」
「分かりました。終わった合流しましょう。ここはお任せします」
「畏まりました。陛下」
賢者ガリバーは、わざと大袈裟に傅いた。
「不敬罪とか無いから安心してください。ハンヌさんイイナさんヘイモさんエステルさん。ただし、4人には学校で200年分の歴史を子供達と一緒に学んで貰います」
「「「「はい。ありがとうございます」」」」
「皆さんの国です。住み易い国を作りましょう」
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俺達は、フィーラの港湾地区へ移動した。
「人間族の英雄よ。君はどうやって風の一族(風の樹人族の事)の至宝とまで称される高位樹人族のマリレナ様を落としたのだ?教えてくれ」
「どうして着いて来るんですか?」
「人間族の英雄よ。君はどうやって風の一族の戦乙女巫女と称される闇樹人族のバジリアちゃんを落としたのだ?教えてくれ」
何、この人・・・
「賢者ガリバー様の弟様。私達は公務で来ているのです。邪魔しないでいただけますか?」
「女性の事で悩んでいる樹人族を、獣人族は見殺しにしろと教わるのか?嘆かわしい」
「見殺しにしても、死にませんよね?」
「獣人族の娘よ。君は何も分かって無い様だね。死とは肉体の死だけではないのだよ。心の死こそ本当の死なのだ」
・・・大丈夫かこの人・・・
「賢者ガリバー様の弟様。まだ考えている段階にあるのでしたら、まずは御一人で悩まれた方が宜しいのではないでしょうか」
「確かに、ヨーダの孫の発言には一理ある。・・・私は3万年近くこの事だけに時間を費やして来た。つまり、答えは出揃っているのだよ。新風を感じたい。次々に美少女、美女を落とし手籠めにする手腕の良さ。人間族の英雄殿のには私以上の才能があると睨んでいます」
・・・何言ってんだこの人。
「そんな物才能でも何でも無いです。残念ですが、俺は何もしてません。俺の知らない所で勝手に決まってる事が多いんです」
「な、なんと羨ましい。黙っていても寄って来る。種族の壁を乗り越え女の方から寄って来るのですね」
「ロイク様。この人、気持ち悪いです。行きましょう」
「同じ樹人族として恥ずかしいです」
「子供には私の魅力は分から無いのでしょう。私も子供達の良さが分かりません。なので、君達に何を言われても私は気にしません」
凄い前向きだ・・・
「決めました。兄が国の為に協力するのです。弟の私も1つ協力しましょう」
「いえ、間に合ってるんです。大丈夫です」
「人間族の英雄殿よ。何を言う。考えずとも分かる事ですぞ」
「何をですか」
「貴殿には、世継ぎ後継者の問題がこの先必ず起こります。世界中に子孫の居る私が、私生活をサポートしましょう。その代わり!」
「その代わり何ですか?」
「何もし無くても女達が集まって来るその秘術を教えていただきたい」
「さっきも言いましたよね。そんな秘術ありません」
「そこを何とか。分かりました。親しみを込めて私の事は種馬と罵ってくれて構いません」
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≪そこの君達。何をしている。ここは警戒区域に指定されている。
ありがとうございました。




