8-125 責任と義務と尊重と理解。夫婦になる以前の問題 ③
「うん? あれ?? テレーズとサラとサンドラ様は?」
アリスは順位勝敗優劣疑問に良くも悪くも拘る。
真先に戦場に駆け付けるは義務。
虚勢を張らず礼節を重んじ自然体であることが礼儀。
憂いを断つ、不名誉を晴らす、危惧を払拭する、不確かをそのままで終わらせない勇気。
王国心を守り、人を愛し、常に誠実であること。
ジェルマン譲りの貴族精神?・・・騎士道精神を受け継ぐ侯爵家の令嬢は最早誰もが認める立派な騎士。
確信が持てない疑問、ふと気になったことを何事もなかったかのように聞き流すことなど有り得ない。
一つの油断、たった一つの判断ミスで隊は全滅する。人は簡単に死んでしまう。上に立つとは責任が伴うこと。
場の最高責任者を務めるのが自分自身であるならば決断を下すのは当然自分自身。だが、場に自分自身よりも上席の者が居るのであれば話は変わって来る。
疑問や懸念を残したまま作戦を遂行するなど言語道断。成功させる為にも、命を無駄にしない為にも、聞ける立場にあるからには迷わず聞く。一度の恥など勇気でしかない。
人は皆、勇気一つで訓練以上の結果を予想以上の成果を掴み取ることができる。
そう学びそう信じた結果が今に繋がっている。と、そう思い込んでしまっている。
「テレーズさんとサラさんとサンドラお姉様はミト様の系譜かつ進化に関わる色々な何かが濃いらしく通常の進化ではなく四分の一程精霊寄りの高位人朧気精霊族に進化するそうです。個体レベルが千に到達した時点で中精霊へと回帰と言いますか昇華することが運命付けられてもいるそうです」
どちらかと言うと直感派、直感に従って即行動に移してしまうアリスの対応にも慣れて来たパフは何事も無かったかのように説明を続けた。
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「私達が精霊様に・・・叔」
「オホン、サラ」
「じゃなかったサンドラお姉様、テレーズ・・・」
「精霊に昇華・・・ですか・・・」
サンドラとテレーズとサラは顔を見合わせると、自然と視線を純精霊のウェンディーネとマルアスピーへと動かしていた。
「種族進化に関する詳細報告は以上です。サラさん・・・」
精霊に昇華すると知ってしまった三人は目の前の精霊二人に視線を固定したままピクリとも動かない。衝撃が強過ぎて声が届いていないと判断したパフは話を続けることにした。
「あぁーえっと・・・そうだ、それとサラさんの先程の発言に一つだけ付け加えさせていただきます。公認移行の儀式に臨む必要があるのは世界創造神様公認の許嫁アリスさんサラさんテレーズさんバルサさんメリアさんカトリーヌさんエルネスティーネさんと私、そして神々様方公認世界創造神様追認の非理外の民で許嫁のサンドラお姉様の九人です。バジリアさんとミュー様はマリレナ様と同様に神へと昇華した際自動的に公認の嫁へと移行しているそうです。フラン様と悪狼神様と理媛神様とタルヒーネ様とフレアリース様とウェンディーネ様は世界創造神様によって納得の行く処置が既に施されているそうです。一つだけ問題があるとすれば、それはロイク様が公認の許嫁と嫁を把握していないと言いますか覆すことのできない現実を受け止め切れていないことです。ですがこれに関しては、時間が解決してくれるだろうから余り気にせず私達は今まで通りの距離を保ちつつで良いかもしれないとchefアランギー様と祖神様方より貴重なアドバイスをいただいております」
パフは、理外の民になってしまったがコルトの理では一応人間種族のままの公認の許嫁達の表情を神々様方精霊様方の様子を一人ずつ確かめ、最後にサンドラで視線を止めた。
マルアスピーを見つめたまま未だにピクリとも動かないサンドラだけがフォルティーナをはじめとする神々様方の御心のままに非理外の民なのは何故なのか。立場的にサラでもテレーズでも同じようなものなのにどうしてなのか。パフはずっと疑問に思っていた。
chefアランギーが種族進化の序とばかりに語った真意を耳にするまでは・・・。
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―――数日前日差しが眩しいとある日の午後
「...... ~ ......なのですぞぉ~はいっ。それはそうとパトロン殿は清々しいまでのぉー実に実に奥手で困ったものですなっ。今のように周囲を気にせず下界を自由に闊歩できるのもあと数千万年のこと、パトロン殿をはじめとする理外の民や非人間種は・・・少しくらいは成長するでしょうが現状のまま大きく変わらないのですぞぉー」
「chefアランギー様、それは私達の容姿のことですよね?」
「その通りですぞぉー、そうそう滅多に老いることもなく何事もなければ基本的に命を落とすことのない下界コルトの理の外側に存在する神気に絡まってしまった内側だった存在。パトロン殿との紐付けもなかなかに頑強で実に羨ましい限りですなぁーはい」
「頑強ですか。・・・まるでロイク様の神気には意思があるかのような」
「ありますですぞぉー。古今東西意味なき意思など存在しえないもの、例えばの話・・・ふーむ実話でも構いませんですかな、はいっ」
「あ、はい。御教示いただけるのであれば是非お願い致します」
パフは即決した。心の中では、副王陛下のサインが必要な書類が紛れ込んでいたから届けに来ただけなのに・・・あっでもこんな機会はそうそうないこれは貴重な情報を得られるチャンス、だと思いながら。
貴重な時間をありがとうございました。




