8-119 甘くないひと時・マルアスピー編 ①
―――来る日まであと三日。
夕食の時間まであと約三時間。
国王執務室に戻った俺は両開きの大きな扉の前に『来る日、二月二十三日の午前の公務開始まで王は不在です。緊急の際の連絡先はマクドナルド卿またはダダ卿まで、以上』と書いた紙を貼り、自宅ことエルドラドブランシュ宮殿の就寝することのなくなった俺の寝室現状では本の少ない書斎に移動した。
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マルアスピーと二人っきりになるのは久しぶりだ。
冥下界の冥の深淵や神域の隠蔽の楽園や抜け道のせいで軽く見積もっても九千八百七十六万五千四百三十二年とプラス約三ヶ月くらいぶりだろうか。
「ねぇ聞いているのかしら?」
しっかしぃーまつ毛長いなぁ~・・・。
「ロイク・・・」
あれ、精霊様の髪って・・・長くなってきたとか切ったとか聞いた覚えがないようなぁ~・・・。
「えっ? な、何? ・・・私の髪がどうかしたのかしら?」
うんうんうんうん。指先も髪の毛も何となく輝いて見える
けど、しょうがないよねだってホントに何となく輝いてるんだから・・・。
・・・
・・
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久々のマルアスピー鑑賞を心行くまで堪能してから、まっいっかで流した教会跡地で言えなかったことを語ることにした。
表情だけだと分かり難いところはあるけど、マジでそろそろヤバそうだ。・・・そろそろ本気で怒り出しそうな気配がする。
「本当に怒るわよっ!!」
ホラネッ、ってことで。
「それはそうとマルアスピー」
「・・・何かしら・・・言いたいことがあるのならハッキリ言ってくれないかしら」
「言いたいことは結構それなりに沢山あるんですが、今は何故教会跡地に聖人教会を建てようとしていたかについて説明したいと思っています」
「・・・・・・」
あれれ? 何か急に機嫌が悪くなったような。イヤもとから悪かったから気のせいだな、うん。・・・しっかしぃーおっかしぃーな。マルアスピーもそうだけど何故に今教会って皆気にしてると思ってたんだけど。
凝視。
視線が何となく冷たいというかチクチク刺してくるというか、いやそれよりもだ。実にけしからん浪漫だ。そんなところで腕を組んだら潰れて。
凝視。
「・・・ねぇロイク」
「・・・あっ、はいっ、何でしょうか」
ヤベッバレた? ちょっと漢の浪漫に集中し過ぎたかも・・・。
「私達は家族よね」
「・・・そうですね」
「私達は夫婦よね」
「・・・そうですね」
「久方振りの夫婦水入らずのはずなのだけれど、私の気のせいかしら?」
「・・・久方振りの夫婦水入らずであっていると思います」
「思います?」
「久方振りの夫婦水入らずです」
「ここは何処かしら?」
「コルト下界です」
「はぁっ!?」
・・・マルアスピーが怖いんですけど。・・・もしかして違うのか?
「あの、二人しか居ませんがこれってジャストワンですよね?」
「ジャストワン?」
あれれ? ・・・これってこの前ミト様が食後のお茶の時間に「最近プリフェストで流行ってる皆で遊べるゲームがあるのよねぇ~♪こういう時に限ってアスピーちゃんっていっつもいないのよねぇ~あっでもぉー今日は折角だから皆でやってみない」って・・・。
「えぇ、先日ミト様から教えて貰ったパーティーゲームなんですが、プリフェスト下界で滅茶苦茶流行ってるって。ミト様がヒントを一つ言う度に回答者に選ばれた人がこれだって思うものを答えるだけなんですが・・・これが意外に難しくてフォルティーナ以外誰も正解しなかったんですよ。俺何か三十ちょっとヒントを貰ったのに全くダメで、「ごめんなさいねぇーロイクさん♪ ヒントの在庫がぁ~・・・これで分からなかったら諦めてぇ~♪ これは・・・この精霊はロイクさんにとってとっても近しい存在でぇ~、少し前まで大樹の精霊の精霊樹の大精霊をやってました。はい、この精霊の名前はいったい何でしょうか?」ってミト様にハハハまさかのマルアスピー落ちってね・・・」
「・・・・・・・・・それで?」
貴重な時間をありがとうございました。




