2-23 初めての救出作戦②~残念な存在と、魔力陣~
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宜しくお願いします。
【マテリアル・クリエイト】『合成加工』濃霧☆10☆2 発動 ≫
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――― R4075年7月18日(光)16:56
ヴァルオリティア帝国森林都市フィーラは、視界10cm以下の非常に濃い霧に覆われている。
上手くいったみたいだな。さて、次はどっちに?・・・何だあれ?
≪アキャァ~ アキャ~ キキィ~
そんまさるの群れがワワイの森を木伝いながらフィーラ市街地へと移動している様だ。神眼を所持する俺には濃霧の中も澄み切った青い空と変わらない。そんまさるの群れは優れた嗅覚と聴覚を駆使し、この濃霧を利用してフィーラ市街地で狩りを行うのだろう。
森の中に造られた森林都市フィーラは、樹人族や妖精族や一部の獣人族にとって、その身体能力を最大限に発揮し生活出来る数少ない場所の1つだ。魔人族にとってはどうなのか知らないが、森に不慣れな人間族や小人族や巨人族や竜人族にとっては間違い無く不便な場所という事になる。
幼い頃より大樹の森を庭の様に駆け回り、物心付く前から父と一緒に狩りに明け暮れていた俺にとって、大樹の森の子供バージョンにしか思えないワワイの森は背丈の高い草木が生い茂る草原と余り変わらない。
帝国民や帝国軍をそんまさるに捕食させるのが目的じゃないし、帝国の人達にはそんまさると一緒に、1日~3日程眠ってて貰うか、半日程麻痺させて気絶してて貰う・・・どっちにしようかな!?
マルアスピー! アルさん! フォルティーナ! トゥーシェ! 聞こえますか?
『えぇ何かしら?』
『どうしましたロイク様?』
『どうしたね?』
『おい、人間の男。なんなのじゃぁ~』
今から、計画通り都市を1つ停止させるんですが、1日~3日眠った状態になるのと、半日麻痺した状態で気絶させるのと、どっちが良いかなって思いまして。
『そうね。目覚めるタイミングにバラつきが生じるのよね。先に目覚めた人間種が何か悪い事を仕出かす様な気がしてなりません。私は気絶の方が良いと思うわ』
なるほど。マルアスピーは気絶に1票!
『私も気絶の方が時間が短く、身体への負担が少なくて良いと思います』
アルさんも気絶に1票とっ!
『人間の事などどうでも良いのじゃぁ~ハッハッハ......
≪パチン
......ギャァ―――ア~↑なのじゃぁ~~~・・・』
『他人の立場に立って、少しは考えたらどうだね』
『分かったのじゃぁ~・・・』
フォルティーナがまともな事を言ってる・・・
『3日も眠ってるなど勿体無いのじゃぁ~』
トゥーシェも気絶に1票か!
気絶が3票なので、麻痺させた上で気絶させます。
『待つね』
どうしました?
『あたしの意見がまだだね』
・・・フォルティーナと俺が睡眠を選んでも2対3で麻痺なんでもう良いですよ。
『何を言ってるね。民主主義とはだね。レームダックの危険性や、指導者として責任ある立場にある存在のミスをだね。選んだ個人個人に責任があるとして、選ばれた者は己のミスの責任を負わず謝罪しない問題を抱えているね』
はっ?みんしゅしゅぎ?・・・いったい何の話をしてるんですか?
『つまりだね。みんな疲れているね。この世知が無い世の中この先何が起こるか分からないね。このまま眠りに付いた方が楽だね。このまま全てを忘れ眠ってしまった方が良いね』
何か言い回しが怖いんですけど・・・
『だがだね。現実から目を背け過去を省みず学ぶ事も出来ない愚か者になってはいけないね』
・・・つまり、気絶って事ですね?
『うんうんだね。ここはビリっと麻痺かーらーのぉ~気絶が良いね。そもそもだね。長過ぎる睡眠は身体に良く無いね。疲れているからと言って3日間も夢の中でランデブーは許されないね。良いかねロイク......
作戦を実行するんで、続きは聞きたくなった時に聞きます。その時は宜しくお願いします。
......分かったね。良いかね他人に意見を求めそれに従い望まぬ結果になったからと言って他人のせいにしてはいけないね。最終的に選択し実行したのは自分自身だね。責任は自分にあるという事を忘れてはいけないね』
肝に銘じておきます。
・・・たまにとっても真面目な事を言い出すんだよなぁ~
『気絶に5票という事かしら?』
そうみたいです。
『あぁ~・・・何だね。適当に気絶を選んでおいて良かったね。あたしだけ除け者になるところだったね』
・・・トゥーシェへの説教は何だったんだこの人は自由過ぎだろう。
『さぁ~ロイク。今だね。5人の心は決まったね。何でも良いからバンバンやるね。あたしが許すね!』
・・・責任は実行した者にあるって今さっき言ってた本人がこれですか!
『神であるあたしが許すね』
神様に諭され実行するんです。何かあったら責任はフォルティーナですからね。俺達4人はフォルティーナの許しを得て他人の自由を少しの時間だけ奪います。
『いや、奪うのはロイクであたしじゃないね。人のせいにされても困るね』
・・・
『フフフッ。頑張ってね』
『ロイク様。頑張ってください』
『おい、人間の男。この神は何を言っておるのじゃぁ~。この神はいつも言っている事の半分も理解出来ん......
≪パチン
......のグギャァ――― ・・・・・・』
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【パァラァラァシィス】☆4(の250000011988分の1)☆1☆2(の250000011988分の1)(フィーラの中心地を中心に半径20Km圏内にいる者全員対象でいいよな?) 発動 ≫
【サルアノルマル】☆10☆1☆2(の250000011988分の1)『気絶』 発動 ≫
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――― R4075年7月18日(光)19:20
【転位召喚・極】『転位』俺の目の前に居る樹人族『場所』ルーリン・シャレット領・聖都スカーレット・ノートルダム大聖堂の敷地内・保護自立支援事務所 発動 ≫
俺は、メイド姿の樹人族を転位移動させると、タブレットの画面を見る。
市街地で強制労働を強いられていた樹人族は、【MP】の高い者は魔導具や魔晶石に自然魔素注入する装填員として、容姿に優れた者はメイドや接客業として、帝国民達に扱われていた様だ。
俺はフリーパスとタブレットで移動を繰り返し、市街地の樹人族達全員の奴隷契約をエスクラリエーヴで新契約書に更新し強制破棄してから召喚転位で移動させた。最初の3人までは、樹人族と帝国民のオーナーが結んだ契約書を1枚1枚見つけ出し破棄していたが時間が掛かり過ぎるので、ステータスでオーナーを確認し、タブレットでオーナを探し樹人族と俺がオーナーの元へ移動。気絶しているオーナと気絶している樹人族に新しい奴隷契約を結んで貰い。それを強制破棄した。
生き物の気配が1つも無い都市ってここまで薄気味悪いなんて思わなかったよ。自然の中に人の生活が溶け込んでいるからなんだろうけど、廃墟とかした森と都市両方を一度に味わうってこんな感じなんだな。
『検索』市街地の樹人族 ≫
≪・・・該当者はいません。
ふぅ~・・・やっと終わった。転位召喚・極とフリーパスをこんなに使ったのって始めてだから、流石にちょっと疲れたな。
≪コキコキ
首や肩や腕を軽く動かす。
奴隷階級民で更に奴隷契約を結ばれ強制労働を強いられていた樹人族は今の人で最後です。
『お疲れ様です』
外交使節団の団長としてフィーラに来た時に見た感じからだと、市街地に樹人族は少ないんだと思っていたんですが、差別し見下していた割には随分と依存した生活を送ってたみたいで驚いてます。
『正創生教会の人達も1000人近い樹人族が送られて来てベッドが足りないとか人手が足りないと騒いでいましたよ』
そうなんですね。ベッドとかどうしました?
『フォルティーナ様が、パチン2回で解決してくれました』
あぁ~パチンですね。
『はい。パチンです』
フォルティーナ。ありがとうございます。
『うん?何がだね?』
ベッドの件です。
『気にする必要は無いね。創造神への信仰を捨ててしまった樹人族は多いね。これはチャンスだね』
チャンスですか?
『当然だね。創造神1柱から多神の考えへとコルト下界がシフトした今なら、あたしの信者を増やす事だって出来るね。気絶している間に、樹人族の精神の中に啓示を与えるね』
・・・洗脳する気みたいだけど関わらないでおこう。
『忘れる所だったね』
何をですか?
『ロイク、フィーラの挙動がおかしくなってるね』
何も感じませんが。
『これからだね。自然魔素を抑えていた魔力陣への自然魔素供給が滞ってから2時間以上経過するね。そろそろ風の迷宮や、森や街に変化が現れるね』
具体的に何が起こるんですか?
『大・・・・・・』
あれ?
『神界のダーマ鉱石店から商談が来たね。ちょっと行って来るね』
あっ!・・・このタイミングでですか・・・
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マルアスピーとアルさんに、変化について聞いてみたが、2人とも知らないとの事だった。俺は、監視域#3の地下で接触した集団の中にいたプロフェートのメッテの目の前にフリーパスで移動した。宙から突然出現した俺にメッテは驚きと戸惑いの表情を浮かべていた。
「昨日ぶりですね。メッテさん」
「何故、わ、私の・・・」
「それは秘密です。安心してください。メッテさん達が王族の名を騙り何かしている事は誰にも話たりしていませんから」
狼狽するメッテを目の前にし、俺は思った。表情や感情表現が苦手だと言われる樹人族だが、それなりに豊かじゃないかと。
「それで、私に何の用事でしょう?フィーラと周辺が霧に覆われ非常事態なのです。手短に願いします」
「監視域内に暮らす樹人族の責任者或いは発言力のある人を紹介してください?」
「・・・・・・人間族の貴方にですか?」
警戒されて当然か。
「そうです」
「その様な者、この監視域#1~#24におりません」
「知ってますか?」
「何をです」
「ヴァルオリティア帝国の皇帝が暗殺されたんです」
「ほうぉ~それはそれは夢の様なお話ですな。うっかり踊ってしまいです」
「構いませんよ」
「・・・」
「暗殺したのは、樹人族の男性です。ただ、暗殺後に自刃しているそうなので、暗殺者は樹人族では無く、他の人じゃないかと俺達は考えています。それとですね。次の皇帝になる人物の選定基準は、皇帝の無念を晴らした者。樹人族を沢山殺処分した者なんだそうです。皇位継承者が治める地域の樹人族は既に殺されているかもしれません。そして、帝国に住む樹人族の99.9%はここフィーラの監視域の内側にいるんですよね」
「・・・この話を信じろと?」
「信じなくても構いません」
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「・・・分かりました。私に付いて来てください」
「喜んで」
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――― R4075年7月18日(光)19:50
俺が案内されたのは、あの地下だった。メッテが言うには、人間族と会っていた。そんな噂が広まるだけで、監視域内に暮らす樹人族達にとっては死活問題で、指導的な立場にいる者ならそれは尚更なんだそうだ。人目を避けて会える場所はこの地下。俺は、メッテが指導者を連れて来るまでここで待つ事になった。
部屋には椅子が1つと椅子の下に魔法陣もしくは魔力陣が1つ。俺は、魔法陣?に近付き組み込まれた術式を眺めていた。
これって、遊の樹人族が使った魔力陣と同じ物みたいだけど・・・4ヶ所違うか・・・この削り取られた部分は何だ?・・・無くても起動するって事なのか?
以前見た魔力陣と異なる4ヶ所の内の1つは削り取られ、書かれていた文字を認識する事は出来なかった。そして後の3つは、場所を指定する術式の様だ。
「子供が書いた魔法陣に興味がおありかな?」
1人の老人型の樹人族と、良く鍛えられた細マッチョで長身な左の腰に刀、左手に弓を持った2人の青年型の樹人族が扉の無い部屋に入って来た。彼等の後からメッテとシオが入って来た。
「これは、転位の魔力陣ですよね。俺の知っている対の魔力陣と違って、複数箇所に転位出来るみたいです。この削り取られている部分も大方転位場所を指定する術式ってとこでしょうか」
「・・・ほう。樹人族に伝わる魔力陣を知っているとはな」
「そう言えば、遊落ちしていた樹人族が草形文字って言ってたな。俺にはカノン語にしか見えないけど、これって草形文字何ですか?」
「カノン語は、樹人族の草形文字と妖精族の花形文字を声に出した物の事じゃ。カノン語という文字は存在しない」
「あぁ~なるほどね。アンブル語で会話してるけど、手紙にすると通じない人間族と小人族と巨人族みたいなものか、古代語(コルト語を文字にした物)から派生した人間族の【ユマン文字】と小人族の【ナン文字】と巨人族の【ティタン文字】って感じですね」
「若いわりに知識が豊富な様じゃな」
「知識では無く能力のおかげです。この世界に存在する全ての文字を読み解く事が可能なだけですよ」
「ほう」
「この魔力陣の削り取られている部分ですが、相互移動出来無い様にする為の処置ですよね?総督邸として占拠された元王宮とかですか?」
「・・・何をどこまで知っておるのかな?」
「そうですね。どちらかと言うと知らない事の方が多くて困ってます。例えばですね。シオさんがクレフィーレ・カーフィリアと何故名乗ったのかとかでしょうか。カーフィリア家は、北家と中家は王族狩りにあって残念ですが生き残った人はいないみたいだし、南家のヴァルター・カーフィリアさんはヴァルオリティア帝国の帝都ガルガンダに居るみたいだし、東家のクレトさん、アラセリスさん、カルロータさん、カルメンさん、ブルニルダさん、カリストさんはターンビット王国の王都ネコトミに居るみたいだし・・・」
「ヴァルター殿の所在を知っておるのか?」
「そうですね。それも含めて話をした方が良いと思います。樹人族の未来の為にも」
「・・・皇帝が死んだのは本当なのか?」
「ゼルフォーラ王国が帝都に放っている密偵や間者からの情報です。間違いありません。王国の御前会議で対策も決定したくらいです」
「・・・樹人族が暗殺者で、その者は自殺したそうじゃな」
「皇帝を樹人族が1人で暗殺出来ると思えませんし、何より樹人族が自殺したという話も信じられません。暗殺者と黒幕は別でしょうね」
「ま、まさか?ヴァルター殿が・・・」
「あぁ彼はガルガンダで生きてるみたいです。王都に連絡鳩が皇帝暗殺の報告を届け、王都から俺の所に連絡が来る少し前に所在を確認したので、暗殺者は別の樹人族です」
「お主の話は大きな矛盾があるのぉ~」
「矛盾ですか」
「ガルガンダからモルングレーに連絡鳩が飛び、モルングレーからフィーラに居るお主の元に連絡が届いたとして、連絡鳩なら半日~1日。高速連絡鳩ならその半分。ゼルフォーラ王国に低速な鳩がいたとしても2日やそこらだろう。お主が帝都でヴァルター殿の所在を確認しフィーラまで移動するとして最速でも3日~4日」
「俺が手紙を受け取ったのは、昨日の夜、俺の領地でです。ヴァルオリティア帝国の帝都ガルガンダからフィーラまで好き好んで移動何てしませんよ」
「ほうぉ~お主は、フォーラムの領主だと申すのか?昨日の夜に自身の領地で手紙を受け取り、現時点でフィーラの監視域に居るとして、可能なのはフォーラムの領主くらいじゃろう」
「フォーラムは、デェイビュー公爵領です。俺の領地は王都モルングレーの北にある湖ルーリン湖から流れるルーリン川の下流にあるトゥージュー公爵領の隣ルーリン・シャレット領です」
「そこで手紙を受け取り、今ここに居ると?この戯け者が!」
「怒鳴らないでくださいよ。普通は無理でしょうけど、俺は創造神様から沢山神授で能力をいただいているので可能なんです」
「世界創造神か!・・・神に見放された樹人族にその様な話が通じると思っておるのか」
「通じなくても構いません。俺は大量に殺されるかもしれない樹人族を助けた方が良いって思っただけで、神とか信仰を布教しに来た訳じゃないんで」
「サキン。ウキン。この愚か者を始末しておけ」
「人間族を殺して後から騒ぎになりませんか?」
「帝国兵に言い掛かりを付けられるのでは?」
「そんまさるがフィーラに群れで向かったと報告が来ている。霧が晴れる前にフィーラの傍にでも捨てておけ」
「長老様。傷痕が・・・」
「どうやら、樹人族の国が滅んだ原因は、人間族の帝国に占領され併合された以外にもありそうです。ヨーダ・ワワイバーン・ノイリアさん達とかがゼルフォーラに定住した理由が分かった気がします」
「ヨーダ王子を・・・嘘を言うで無い。ヨーダ王子はワワイ湾に船と一緒に沈み戦死した」
「ヨーダさんは7年前に669歳で亡くなってます。息子のアルフさんは18年前に299歳で亡くなってます。これ、秘密にしておいてください。王様とか重臣達にもまだ話て無い事なんで」
「亡くなった王子の話を今更して何になる」
「メリアって名前のヨーダ・ワワイバーン・ノイリアさんの孫娘がいまして、まさかフィーラに縁のある人だって知らないで、ゼルフォーラ王国から外交使節団の一員として、フィーラに先日来てたんですよ」
「王族・・・王家の血を受け継ぐ者がまだ生きておると言うのか!?」
「俺と同じ24歳なので、樹人族だと2歳位だとか・・・」
「・・・長老様・・・やってしまって良いのですよね?」
「長老様!」
「わ、私は、私の名前はシオ。クレフィーレ・カーフィリアではありません。私は」
「メッテ。黙らせなさい」
「は、はい。長老様・・・」
「メッテさん。その必要はありません。王族ではないと知ってる俺の前で真実を口にしたところで、貴方達に害は無いはずです」
「それは・・・メッテ。愚かな人間族の小僧の言葉に耳を貸す必要は無い。長老である儂の命令に従いなさい」
「シオさん。気になってた事があるんだけど、メリアさんって樹人族は24歳なんですが、子供には見えないんです。でも、シオさんは98歳ですが、子供に見えます。何故ですか?」
「分かりません」
これにも何か秘密があるって事か!