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すっごいキレイな、ヒューどっかーん!  作者: 健康っていいね
8/23

第八話「だれかさんのおせっかい 後」

ある日の夜のこと。


真っ暗な夜空のキャンバス。

それを照らす、数秒限りの夢幻の花々。

人々は首を揃えて花の夢を見上げる。


その時初めて、少女は自分の願いを知った。


すっごいキレイな、ヒューどっかーん!8話「だれかさんのおせっかい 後」です。よろしくお願いします。

 ナゼかとつぜん始まってしまった、ヒーロー手押し相撲チャンピオンシップファイナル。




 そのアツい(?)戦いは3分ほど続いた。




「ハルヤめ……しぶといわね……ヒーロー傀儡政権!!」




「ぐっ、あぶねっ!!」




 2度同じかけ声を言ってはいけないというルールのせいで、開始2分ほどでハルヤのヒーローっぽいかけ声のネタはなくなってしまっていた。




「ヒーロー神の見えざるハンド!!」




「ぬっ!!」




「さっきからヒカリの一方的なこうげきがハルヤをおそっているー!!このままハルヤは負けてしまうのか~!?」




「その程度かハルヤ!このままじゃわたしがトドメ刺しちまうぜ~??」




 ヒカリのちょうはつに、ハルヤはニヤリと笑って応える。




「言ってろよ。ヒカリ、お前を負かすことなんざ赤子の手をひねるよりカンタンなことなんだぜ?」




「くくく……はーっはっは!!片腹痛いわ!!!やれやれその余裕、ものの10秒後には吹き飛んでいると言うものを…………!!



 これで終わりだァー!!!



 ヒーローパワーハラスメントぉぉおおおお!!!!」




「ヒカリ選手こんしんのいちげきだー!!ハルヤ選手、これをどう受けるのかー!?」




「ヒーロー・ムーディカツヤマ!!」




 ナゾのかけ声で手をかまえるハルヤ。




「これは……!!?」




 二人の間で行われる、最後の業と技のぶつかり合いは速すぎて、目で追うのがやっとだった。




 ヒカリのひっさつわざ、ヒーローパワーハラスメントがハルヤの手にふれようとしたその時。




「おおおおおおおおおぉ!!!!」




 なんとハルヤは手を引き、勢いのあるヒカリの手をそのまま左に受け流した。




「うっ!とっとっ!に"ゃ"ぁぁぁぁぁぁあ!!!」



 そして、そのままネコみたいなさけび声をあげて前に身体をたおしたヒカリは、頭から地面に向かって大てんとう……しかけたところを、見事にハルヤがキャッチした。




「ったく、お前はいつもあぶなっかし過ぎんだよ……」




 ハルヤがあきれた声でそういうと、ヒカリはハルヤの手にささえられたままアバれだした。




「ムキーーー!!!うっさいわね!!大体ハルヤが人の攻撃かわすなんて卑怯極まりないことするせいで~!!!」




「かわしてねぇ、左に受け流しただけだ。にっしっし!何にせよ勝ちはオレのもんだね!」




 ハルヤがヒカリを見下して笑う。




 するとヒカリはサッ!と起き上がり、ビシッ!とハルヤを指差した。




「異議申し立てる!!!今のはわたしが地面に動かした足をつく前にハルヤが動いたからそっちの負けだ!!……と、言いたいとこだが……仕方ねぇ、今日は勝ちを譲ってやるよ」




「え、えぇー!?じごくのオニも泣いて逃げ出すほどヒキョーな手で無理矢理勝ちをもぎとってきたあのぬれがらす様が勝ちをゆずっただって!!???」




「ヒビトはわたしをなんだと思ってる!??

 つーか……ハルヤ。さっきはその~……支えてくれて…………アリガト」




 ヒカリはそっぽを向いてほっぺをかきながら言った。




 その光景を見たぼくとハルヤは思わず目を合わせる。




「ヒソヒソ……なぁ、ヒビト。明日は雷かヤリがふるぞ」




「ヒソヒソ……やばいね、東京タワーとかメルティーキッスがホントにふってきてもおかしくない」




「聞こえてんだぞ糞餓鬼ゴミめらが!!!!!」




 ぼくらがふりかえると、そこにはいつも以上に荒れくるっているヒカリがいた。




「えぇ……今日のヒカリこわいんだけど……あっ、今日『も』か」




「にげるぞ!ヒビト!!」





 とつぜん始まったリアルオニごっこ。




 ぼくとハルヤは命からがら、文字通り全力でにげていたのだが、開始から大体1分でハルヤがヒカリにつかまってしまう。




 そこでハルヤはなんとかヒカリの手から逃れるべく、



「そういえばエアコン切ってないかも!帰らなくちゃ!」



 と、それはそれは心苦しいセリフを最後に残し、ヒカリにオシオキをされ息を止めた。




 その後は、もちろん見逃してもらえたワケもなくオニにねらわれたぼくは、たまたまいつも上級生に使われているブランコにだれもいなかったので、それを利用してにげようと考えた。




 しかし、オニはなんとそのブランコを使いこなす。




 オニはブランコに乗り、勢いをつけてから5メートルほど飛んだ。




「やれやれあきらめてブランコで遊び始めたのか……」




 と、ゆだんぶっこいていたぼくはオニが飛んだ先に居たために、必死のていこうを見せるもすぐにつかまってしまいオシオキされ息を引き取った。




 ☆☆☆☆☆




「ふー!!気持ちのいい汗をかいた!」




 服の袖であせをふき取るヒカリのそれは、まるでアクエリアスのCMみたいにさわやかだった。




「ヒカリ、その汗のために二つのたっとい命がぎせいになったことをちゃんと分かってるんだろうな」




「そーだそーだー!」




 ハルヤの意見にテキトーな相づちをうつ。




「いや、お前らの自業自得だろ……」




「そーだそーだー!」




 またオシオキされたくないので、ヒカリにもテキトーな相づちをうっておく。




「お前はそういうとこあるぞヒビト……ってあれは…………もしや!!!」




 ヒカリが自分の話を止めて指を差した方を向くと、そこには遠くからでもお上品に見える、日ガサをさした白い少女がいた。




「ヒメーーーー!!!!!」




「ハナ!!」




 ヒカリはたったったっ!とハナにかけよって行く。




 さっきあんなに動いてたばっかなのに……どんだけ元気なんだ……。




 そんなヒカリの後ろ姿を見てボケーっとしていると、つんつんとハルヤがかたをつついてきた。




「なぁヒビト、あの子だれだ?」




 小声で聞いてくるので、ぼくも小声で答える。




「ほら……この前ぼくが話してた子だよ」




「!!!!!!」




 ぼくが説明をするとハルヤは急に顔を上げ、ハナとぼくを交互に見だした。




「な、なんだ、どうした」




「あれが……!あの子が!!ヒビトの好きな子ングヌンゴフっ!!!!」




 キケンを感じ、とっさにハルヤの口をふさぎにかかる。




「ばっ!!声がでかい!!」





「なーにやってんだ、お前ら」




 ジトっとした目でぼくらをにらむヒカリ。




 その横にいる白い少女はとてもにこやかな笑顔をしていた。




「こんにちは!ヒビトくんは今日も元気がいいね! そっちの君がこの前言ってたハルヤくんかな? わたしはハナ。よろしくね!」




 いつの間にかぼくの手をふりほどいていたハルヤは笑顔でハナに応えた。




「初めまして、ハナちゃん!オレはこの三人で一番まともなハルヤです」




「「はぁ~~?????」」




 ハルヤがそこまで言ってから、ぼくとヒカリは同時に、全く同じ反応をする。




「なぁにバカなこと抜かしてやがる毛も生え揃わない青二才が!!いっちばんまともなのはわたしに決まってんだろぅ!??」




「いーやそれはないね!一番ないね!!いつも二人がアホなこと言ってバカなことしてんのまとめ上げてるぼくが一番まともだ!!」




「何言ってんだ!なんだかんだいつも最初にバカなことしてるのはだれだ!この前わたしたちで行った町中の自販機の下まさぐりツアーの発案者はヒビトだったろうが!!!」




「そ、それはそうだけども!!二人もノリノリだったじゃないかあのツアー!!!」




「ヒカリの言うとおりだ!!あの日けっきょく100円も500円も見つからなかったじゃないか!!!」




「べ、べつにいいじゃないか!!見つけた30円を使ってみんなで食べたチョコバー美味かったろ!?そう思ってたのはぼくだけか!!?」




「はいっ!!そこまで!!!」




「「「へっ?」」」




 ぼくらのしょーもないやり取りを、勇敢にも横からぶった切ってくれたのはハナだった。




「そういうことならみんな、絵のモデルさんになってくれる?描き上げるまで一番動かず、しゃべらず、じっとしてくれた人が、一番まともってことで!どう?」






 ☆☆☆☆☆






「あいつ、コいてるわぁ~腹立つわぁ~」




「ね、コきすぎだよねあいつ……」




 そんなこんなで始まった、ぼくらの"まとも決定戦"。




 最初に絵のモデルとなったのはハルヤだった。




 絵を描く時にハナの両手がふさがってしまうため、ぼくは日がさ持ち係となった。




「ハルヤなんで目を細めてんの。ぼくあんな腹立つキメ顔見たことないよ?」




「わかる。てかどこ向いてんだよ。明後日の方というか……天国の方とか見てるならそのままハルヤも天国に直行してほしいんだけど」




 ハルヤはベンチにもたれかかり、あごに手を当て、目を細めて明後日の方向もとい、天国の方を向いている。




「ちょっとにらめっこしてくるわ」




「行ってら」




 そう言い残し、ヒカリはハルヤの目線の先に立った。




「にーらめっこしーましょ♪わーらうっとまーけよ♪あっぷっぷ♪」




 にらめっこ開始から10秒経過。




「おい!だんだん口動いてきてるぞ!ハルヤにやけてる?にやけてる!にやけてきてるぞ!!」




「うっせぇヒビト!!こらえてんだからそういうこと言うな!!!」




「なにしゃべってんの!!?まともなんだろ??じっとしてろよ!!」




「ヒビトいつからそんなクソ野郎になっちまったんだよ!!」




「あっ!!おいヒビト!ハルヤ今日1000円札なんて持ってきてるぞ!!!」




「おまっ!ヒカリ!!!マジで!!それはマジでやめろ!!!」




 ☆☆☆☆☆




 二人目のモデルとなったのはヒカリだった。




「おぉ……これは描きがいのある……!!」




 描きにくそうなモデルだけど、むしろやる気がわいたのか、ハナはハリきってスケッチブックに向かった。




 ヒカリはハルヤのように、ベンチとかにすわるワケではなく、立ったままポーズを取った。




「ねぇ、あれウデとかやばくない?」




「だよな。オレの時は10分くらいだったけど、その間ずっとあのポーズはきついだろ」




 "濡れ鴉様の決めポーズ"。




 それは、足をかたはばより少し開き、右足を少し曲げ、左足はのばす。



 顔は左下に向けて、左うでをまげて左手を顔に。右うでは空に向かってピーンと伸ばすというものだった。








 ~8分経過~





 ヒカリは変なあせをかき始めている。




「ハナ、どれくらいかかりそう?」




 ぼくがそう聞くと、ざんこくな答えが返ってきた。




「少し手とか顔の辺りがむずかしいから、ハルヤ君よりは時間が……15分くらいかな」




「15分くらいだってー!あと7分、がんばれヒカリー!」




 そう言うと、濡れ鴉様の顔はだいぶ苦しそうになった。




「ア"ァ"ーー!!!手がヤバイ!!!!」




 ついに弱音をはきだす、ぬれがらす様であった。




 そんなヒカリを見てハルヤが動き出す。




「オレ、ちょっとちょっかい出してくるわ。サイフのうらみだ……くっくっく……」




「おいハルヤ、やめとけって……行っちゃった」




 ハルヤがポージング中のぬれがらす様に近づくと、今までに聞いたことのないような低い声が聞こえてきた。




「て"め"ぇ"が痛"覚"持"っ"て"産"ま"れ"て"き"た"こ"と"後"悔"さ"せ"て"や"ろ"う"か"?」







 ☆☆☆☆☆







「ハナさん!!あとどれくらいかかりますか!!!!」




「あとちょっとだよー!ヒビト君ー!」




「おいヒビト!!なにフツーにしゃべってやがる!」




「そうだぞ!!わたしがどれだけ辛い思いをしたと思ってる!まとも決定戦だぞ!!!」




「うるさい!!公園の真ん中でこんなカッコしててまとももクソもあるか!!!!」






 さかのぼること数分前。






『ヒビト君はこの前描いたしなぁ……』




 そういって少しなやんでから、ハナはぼくにポージングのリクエストをした。




『自販機をまさぐる時のヒビト君を描きたい!!』




 ハナにフルスマイルでそう言われたぼくに、にげ道はなかった。




 そんなわけで公園のど真ん中、ひざをついて前に倒れ、右手をさらに前に伸ばし、"自販機をまさぐるポーズ"をとった。




「おらぁ!ヒビト!あの日は地面に顔をつけてただろう!」




「ついてます!ヒカリさん!!もうカンベンしてください!」




「ヒビト!この前のお前はもっとエモノを狩るけものの様な目をしていたぞ!!」




「ハルヤさん!!こんなみじめなカッコでエモノを狩るけものの目なんてできないっす!!!」




「よし!描けたー!しあいしゅーりょーー!!ヒビト君もういいよー!ありがとうねー!」




 あぁ……やっと終わった…………。




 ぼくは立ち上がって、顔についた砂をはらった。







 ☆☆☆☆☆







 タイトル「ノンフィクション」その7




 わたしも天使さんに会ったことがある。




 そういうとアヤカさんは、目を丸くしてから、少し悲しそうにほほえみました。




「そうなんだ。ハナちゃんも……ね。ほかにも天使に会った人が居るんじゃないかーとは思ってたけど、まさか最後にこうして会えるなんてびっくりしちゃったなぁ!」




「……!?今アヤカさん……最後って、もしかして……」




「え!?あちゃー、言っちゃってたか」




 アヤカさんは、アハハと笑いながらほっぺたをかきました。




「そう、会ってるならハナちゃんも聞かされたよね、2つのルール。その1つ目、時間制限。あたし、実は今日がぴったし!天使に言われてたタイムリミットの日なんだよね!」




 一体どうして、アヤカさんはそんな大変なことを笑って言えるんだろう。



 わたしはそう思うばかりでした。




「そんな……じゃあ、アヤカさんは…………」




 わたしの目がだんだんあつくなってきました。




「そう。明日にはダメになるんじゃないかなーって!こらこら、泣くな泣くな!」




「だって、アヤカさんが……アヤカさんが……!!」




 目をこすっているとアヤカさんのうでが、わたしをそっとつつみました。




「よしよし。あたしとは今日会ったばかりだってのに泣いてくれるなんて、ハナちゃんはやさしいんだね。ありがとう……ハナちゃん…………」




 やさしくだきしめてくれたアヤカさんが、お母さんみたいに温かかったことと、なぐさめてくれるその声が少しだけふるえていたので、わたしはよけいになみだを流してしまいました。




 しばらくそのままでいた後、アヤカさんが言いました。





「よしよし!いつまでもこうしちゃいられないね。2つ目のルールも、ちゃんとまもらなくちゃ!」




 アヤカさんは元気な声にもどりました。




 ですが、わたしはまだウジウジしたままです。





「わたしは……わたしは、アヤカさんみたいにつよくなれません」





 そういうと、アヤカさんは首を横にふります。




「うんうん。あたしはべつにつよくなんてないよ」





「そうなん……ですか??」





「そっ。つよいんじゃなくて、そんなに辛くないんだ。ほんとだよ?」





「辛くない……ですか」





「そう、ガンで何かをすることさえできなかったあたしが2年間も夢を追うことができたんだ!



 大好きなサッカーをたくさんやれて、パパとも何度かいっしょに練習できた。ホント、すごく楽しかったよ!!



 そして最後にハナちゃんにも会えたしね!



 だから、あたしはしあわせ者だよ。こいつがそれをよく知ってる。大切に使ったモノには心がやどるって言うしね!」




 アヤカさんは、サッカーボールをギュッとだきしめました。




 少しよごれていたそのサッカーボールに、アヤカさんの大切な思い出がつまっていることが分かりました。





「あの、アヤカさん!もしよければ、アヤカさんを描かせてもらってもいいですか?」




「えっ、描く!!?ハナちゃん、絵を描く人だったの!?」




「はい。わたしは天使さんに、何も見えなかったこの目を治してもらいました。だから、わたしはこの目で見たものを忘れないために、わたしが見たこの世界をだれかに知ってもらうために、絵を描いてきたんです」




「へぇーーー!!!ハナちゃんすごいね!!あたしなんかよりぜんぜんエラいじゃない!!」




「エラいなんて、そんなこと……わたしにはもう、それくらいしか出来ることがないので」




「いや、りっぱだよ。ハナちゃんは。こんなに小さいのに……」




 ぽふっ。




 アヤカさんはわたしの白い頭をなでてくれました。




「いいよ!わたしでよければ、描いてほしいな!」




「――っ!!ありがとうございます!」




「じゃー、こんなカンジでいいかな?」




「はい、大丈夫です!」




 アヤカさんはサッカーボールを地面において、その上に右足をのせ、こしに手を当てたポーズをとります。




 わたしは20分ほど使ってアヤカさんとサッカーボールの絵を描き上げました。





「アヤカさん……今日はありがとうございました」




「いやいや、こちらこそ今日はありがとう!話せて楽しかったよ、ハナちゃん。それじゃ!」




 これから、遠いところに行ってしまう人が一体どうして、こんな笑顔なんだろうと、わたしはやっぱりまだふしぎでたまりませんでした。




 それといっしょに、わたしもアヤカさんのようにありたい。そうつよく思いました。




「あっそうだ、ハナちゃん!」




 別れ際、アヤカさんはふりむいてわたしに言いました。




「はい、なんでしょうか!アヤカさん」




「最後にハナちゃんの夢を教えてよ!」





 夢。





 わたしの中にも、ハッキリと。





 1つだけ、それはあった。










 ある日の夜見たあの光景。






 真っ暗な空に咲く花のユメを。同じそのユメを見ていた人たちのことを見て、描いて、1つだけ思ったこと。





 "うらやましい"って気持ち。





 わたしのそばにもだれか、この感動を分かち合える人がいたらもっとよかっただろうなぁ、と。




 その気持ちこそが、わたしのかなえたい夢の姿。







「わたしは……わたしの夢は、だれかと花火を見ることです!!」




 アヤカさんは最後ににっこり笑って、こう言いました。




「いい夢だね。ハナちゃんなら、きっとかなえられるよ!」








 ☆☆☆☆☆








「けっかはっぴょーーー!!!!」




 ハナのその声を合図に、ぼくら三人はピーン!とせすじをのばして横にならぶ。




 この時、三人とも考えていることは同じだった。




 自分こそが、まともな人間であると……!!




「第一回まとも決定戦、ゆうしょうは~!ヒカリちゃんです!!おめでとうーー!!!」




「まぁ、当然だな。一番頑張ったしな」




「くっ……! やってられるかこんなクソゲー!!」




 ハルヤはこぶしに力をこめてくやしがっていた。




「そう荒れるなハルヤ!見苦しいぞ!!」




 そして、ハナの口から悲しい現実をたたきつけられる。




「ちなみにそういうヒビト君がビリだよ。ふつうにしゃべっちゃダメじゃない!」




「マジか……こんな……こんなざんこくなことが…………」




 ぼくは思わず地面になだれこんだ。




「そうだ、ヒメ!描いた絵を見せてほしいな!!」




「そうだね、じゃあみんなこっち来て!こんな絵が出来上がりましたー!!」




 ベンチの真ん中にすわってスケッチブックを広げたハナをかこむようにして、ぼくらは近くに集まった。





「「「おぉーーー!!!」」」




 ハナの絵は相変わらずとても上手くて、それぞれ表情などの細かい部分がきちんと描かれていた。




「ハナちゃんって、こんなに絵が上手かったのか……!!」




 ハナの絵を初めて見たハルヤは口をぽかーんと開けている。




「そうだぞ~!ヒメはすげぇんだぞ~!!にしてもマジで、ハルヤのこの顔腹立つわぁ」




「ヒカリも、よくこんなポーズ15分続いたね。ぼくにはムリだ……」




「あのポーズね!かっこいいよねー描いてて楽しかったよ!」




 シャキーン!とハナは濡れ鴉様のポーズをする。




 あぁ……これは……かわいいな…………。




「カッコいいでしょー!!ヒーロージャー、こんどヒメにも見せてあげるよ!!」




「見せてあげるよって、ヒカリはなぜいつもオレの家を自分のもののように……まぁ、ハナちゃんも今度うちにおいでよ!みんなでなんかしよーぜ!」




「てか、このヒビトの絵は……あれだなヒカリ」




「そうねハルヤ。これは……」




「なんだよ、お前ら」




「「こっけいだ……」」




「そんなことでハモってんなぁぁあ!!!」




 なぜこいつらは、こういう時だけ息がぴったりなんだろう?




「なぁハナちゃん!オレたち以外にはいつもどんな絵書いてんの??」




 おもむろに、ハルヤがハナに聞いた。




「あっ、それぼくも見たいかも!」




「いいよ!他のスケッチブックが家にもあるんだけど、今持ってるこれもけっこう描いてるからねー」




 ハナは自分が持っているスケッチブックの最初のページを開いて、パラパラと一枚ずつ紙をめくっていった。




「「「おぉ~!」」」




 思わず三人で声をもらしてしまう。




 スケッチブックに描いてあったのは、ふだんよく見るような道や商店街。虫、鳥とかの生き物。桜の木、カラフルなお花畑、かれてしまったタンポポなど。




 いろーーーんな種類の、たっっくさんの絵が描いてあって……これはまるで…………。




「なんだか、ハナの人生をたどっているみたいだ」




「!!」




 とつぜん、ハナがおどろいたようにぼくの方を見た。




「ん?どうしたの、ハナ」




「ううん、なんでもないよ、ヒビト君」




 そう言ったハナは、とてもうれしそうな顔をしていた。




 それがなんでかわからなかったけど、ハナのまんぞくそうな顔を見て、ぼくの心もほんのり温かくなった。




「ちょっと待って、ヒメ。今のページ……」




 スケッチブックをまじまじと見ていたヒカリが口を開いた。




「今のっていうのは、このページかな」




 ハナがめくっていたスケッチブックのページをまきもどして、改めて開いたページに描いてあったものは――――




「サッカーボールだな……これオレん家にもあるよ」




 ――――ひとつの、地面に転がっているサッカーボールの絵だった。




「うん!この絵!なんか気になるんだよな……」




 たった1つ、転がっているだけのサッカーボールの絵を見て、ぼくは変なところがあることに気がついた。




「この絵さ、まるまる1ページ使ってるのに、小さいサッカーボールだけが描いてあるの変じゃない?」




 ぼくがそのギモンを口にすると、ハルヤとヒカリは『たしかに!』とうなずいていた。




 ハナは自分がかつて描いたであろうサッカーボールの絵を、じーっとながめてから言った。




「うん、そうだね。この絵は……ね。




 ねぇヒカリちゃん、この絵を見て、どう思った?」




「うぇ!?えーーーっとねぇ…………」




 とつぜん話をふられたヒカリはびっくりしたみたいで、少し考えてからこう言った。





「なんていうか……やさしい…………かな?」





 ただのボールの絵を見ていったい何を言っているんだ。と言いたいところだったけど、なんとぼくとハルヤもナゼか同じことを思っていたのだ。




「オレも、そんな感じするよ」




「ぼくもだ。ただのサッカーボールの絵なのに、なんでだろう?」




 ぼくらがふしぎそうにしていると、ハナは自分の絵を見たまま小声でつぶやいた。




「モノに心がやどる……絵の中で感動が生き続ける……ホントだったんだ…………」




「え、ヒメ今なんて……?」




「あのねみんな。この絵はね――――」




 ハナはそのページの中にある、サッカーボールの少し上の空白をなでるようにしながらこう続けた。








「――――わたしにとって、一番大切な絵なの」





 その時のハナの横顔は、とてもやさしい笑顔をしていた。





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