第七話 「だれかさんのおせっかい 前」
少女はあこがれた。
努力し、汗を流し、血を流し、全力で、本気でぶつかって、勝って嬉しい時も、負けてくやしい時も、熱い涙を流すその姿に。
自分もいつか、そうなりたいと。
それが例え100%叶わないことでも、追うことくらいは、どうか、許してください。
すっごいキレイな、ヒューどっかーん!
7話 「だれかさんのおせっかい 前」です。
よろしくお願いします。m(__)m
「最近、世間を騒がす新しい遊びが少年少女たちの間で流行っていた。
その名も『ヒーロー手押し相撲』であるっ!
ルールはかんたんっ!
スタンダードな手押し相撲のルールにくわえ、相手をおす時にヒーローっぽいかけ声を叫ぶだけっ!
ちなみに同じかけ声を二度言ったらレッドカードだっ!!
さぁ!テレビの前のみんなもこのビックウェーブに乗ろうじゃないかっ!!
未来のプロヒーロー手おしずもうプレイヤーたちに幸あれっ!!
……ってこの前テレビのニュースで言ってたから、わたしたちもやろう?」
「それヒカリん家のテレビぶっこわれてるだけだと思う」
「ハルヤに同じく」
☆☆☆☆☆
「さぁいよいよ始まります!
ここ、ひよこ公園で行われるヒーロー手おしずもうチャンピオンシップファイナル!!
実況およびシンパンは私、ヒビトがつとめさせていただきます。
対戦するのはもちろんこの二人!!ヒカリ選手とハルヤ選手だー!!!!
……ねぇぼくこのキャラ続けるのメチャクチャしんどいんだけど?」
「イエーイ!!そんなの知るかー!
1回戦で負けたヒビトが悪いんだー!!!
ヤッホー皆見てるー!!?
最後までヒカリちゃんのおーえんよろしくぅーー!!」
「ソッコーでカタつけるからな~??よく見とけよギャラリーのみんなー!?」
見事に一回戦で二人に負けてしまい、ヒカリに実況役をたのまれて(おしつけられて)しまったぼくを除いて、ヒカリとハルヤはとてもノリノリである。
はぁ……もうこれあきらめるしかないのか…………。
「さて、まずは二人の意気ごみを聞いていきましょう! ハルヤ選手、この戦いどうなるでしょうか??」
「んー……なんも言えねぇ……」
「ずいぶんとザツなコメントありがとうございます! ってかそれ終わった後に言うヤツじゃないんでしょうか!!」
ぼくのツッコミを聞かなかったことにしているハルヤは、とても満足そうな顔をしている。
腹立つ。
「それは置いといて、続いてヒカリ選手! 大会10連覇のかかったこの戦い、どうなるでしょうか?」
「秒。こんなもの、秒」
「カンロクのあるコメントありがとうございます!!
さぁ両選手とも開始位置について下さい!
……つきましたね?それでははりきって行きましょう!
ハッケヨイ……………………ピピッ!ヒカリ選手フライングはいけません!!!!」
「シンパン!タメが長いです!お前はミリオネアのみのもんたじゃないんだぞ!!」
「シンパンに文句を言わないでください。次やったらレッドカードですからね、気をつけて下さい。
では気を取り直して、ハッケヨイ…………………………」
「ウッ……!!ウッ……!!」
「シンパンッ!」
「何ですか?ヒカリ選手」
「ハルヤ選手がビクビクしながら変なうめき声を上げています!!」
「シンパンのタメがやたら長いせいだ!!」
「どうやらハルヤ選手、ムシャブルイをしてたようですね。気合いがあるのはいいことですねぇ、さぁ気を取り直して!」
「アイツ聞かなかったことにしやがった!!」
「ハッケヨイ…………ノコッタ!!!!」
「ヒーローパンチ!」
「ヒーロー輪廻転生!」
☆☆☆☆☆
タイトル【ノンフィクション】その6
「うーん……なんだったんだろう…………」
何度思い返しても、あの日のタンポポに"は羽と輪っか"がついていたようにわたしは思います。
この絵を描いた後、お母さんに
『もしかしたら、あなたにだけ見えるものなのかもしれないわ』
と言われ、もう1度その花を見返すと、なんとそこにはただのタンポポしかありませんでした。
あれ、おかしいなぁ。
と思いましたが、わたしがあのタンポポを描いていた時はちゃんと"羽と輪っか"を着けていて、それが見まちがいだったとはとても思えません。
なぜならわたしは、自分の目で見た物以外を描いたことがなかったからです。
その日から、わたしはいろんな物をじっくりちゃんと見るようにしました。
……しかし、しばらく経っても"羽と輪っか"が着いているモノが見つかることはありませんでした。
やっぱり、あの日見たモノは気のせいだったのかなぁ。
そう、思い始めていたころのこと。
わたしがよく散歩をしている、こども自然公園のベンチに座っていると、足元にサッカーボールがころがって来ました。
「ごめんなさーい!!ボールとってくださーい!!」
声をした方を見て、わたしは目を丸くしました。
そこにいた、わたしより一回り大きいポニーテールの女の子にはなんと、あの"羽と輪っか"がついていたのです。
「すみませーん!ボール取ってくれませんかー!!」
その声でわたしはハッ!と、我にかえりました。
「あっすみません!どうぞ!」
わたしは言われた通りに、女の子の方にボールをころがしました。
しかし、彼女はそれに目もくれず、今度はわたしの方を見て何かおどろいているようでした。
わたしと女の子の間に、なんともいえない空気が流れます。
なんで、あの人に……"羽と輪っか"が……?
そして、その彼女本人は何をそんなにおどろいているのかはよくわかりませんでしたが、わたしは勇気を出して声をかけてみることにしました。
「あの、よければお話しませんか!?」
そういうと彼女はびっくりしたみたいで、ピョンッ! と後ろにハネました。
「うぇっ!? あ、あぁー!いいですよ!あたしもちょうど休もうと思ってたところなんで!!」
急なことですし、ムリをお願いしてしまったかなぁ。
と、わたしは少し不安でしたが、女の子はOKを出してくれました。
わたしから50センチメートルくらいの間を空けて、女の子は座りました。
「…………」
「………………」
なさけない話です。
わたしからお話にさそったと言うのに、いざとなったとき、一体何をどう話せばいいんだろうと、困ってしまいました。
さすがにいきなり、
『どうしてあなたに羽が生えているのですか?』
と聞くワケにはいきません。
そう見えているのはわたしだけかもしれないですし、もし気のせいだとしたら、とても失礼なことになってしまいます。
そんなことを考えていると、女の子の方から口を開いてくれました。
「あの、さっきはすみませんでした……!」
ペコリ、と女の子は頭を下げます。
「え?どうしてですか??」
わたしは何か彼女に悪いことをされた覚えはありません。
なんのことだろうと考えていると、女の子はこう言いました。
「あの……さっき遠くから見てたとき、おばあちゃんかなって思ってたんです。そしていざ近づいてみたら、めっちゃかわいい子の声がきこえてきて。あたしったらびっくりしちゃって、さっきそれで固まっちゃったんです…………」
「ぶっ!!」
何を言われるかとビクビクしていたわたしは、思わず吹き出してしまいました。
「あはははは!! いえいえ大丈夫ですよ! たしかにこういうカッコしたおばあちゃん居ますよね!」
そう、この時のわたしは"カンペキ日差し対策装備"をしていたのです。
厚着をして、ぼうしをかぶり、サングラスをかけ、マスクをして、さらに白いかみの毛をしているので、たしかに遠くから見ればおばあちゃんにも見えるのかも知れません。
「わたしの身体、ちょっと日差しに弱いんです。だからどの季節でもこんなカッコしてるんですよ」
「そうなんですね、日に弱いってなんだかヴァンパイアみた…………はっ!!すみません!あたしってばまたシツレイなことを!!」
くぅぅー!!と、女の子は自分で頭をかかえていて、なんか面白い人だなぁと思いました。
「いえいえ、かっこいいじゃないですか!ヴァンパイア!」
ヴァンパイアはたしか、大きな館に住みついて、夜にヒトの血をすって生きるカイブツだったハズです。
わたしもヒトじゃなくてヴァンパイアとかだったら、この白い身体もサマになるのになぁ、と少しざんねんに思いました。
「あっそうだ!あなた名前はなんていうの?あたしはアヤカ!よろしくね!」
アヤカさんは笑顔で手を差し出します。
わたしはその手をにぎって、こちらも笑顔で答えました。
「わたしはハナっていいます。よろしくお願いします、アヤカさん!」
「んん~!なんかいいひびき~!かわいい妹ができたみたい!」
えへへ……と、アヤカさんは頭をかきました。
「そ、そういってもらえるとうれしいです! そんなことより、アヤカさんはサッカーがお好きなんですか?」
そう聞くと、アヤカさんは大事そうにかかえているサッカーボールを見て言いました。
「うん!大好きだよ!あたしのパパはプロのサッカー選手なの!!」
「プロ!!?スゴいですね!!」
アヤカさんは目をキラキラさせて続けます。
「でしょー!ディフェンスって言うポジションで、相手からこう、ボールをシュッ!ってうばっちゃうの!それがカッコよくてさー!!」
わたしはサッカーのことはあまりわからなかったのですが、ウキウキ話しているアヤカさんを見ていると、こっちまでうれしくなります。
「それで、サッカーやってるんですね」
「そーなの!それであたしもプロのサッカー選手になりたいっ!!……って思ったこともあったけど、それはムリなんだよね」
前向きそうなアヤカさんが、急にこんなネガティブなことを言い出すので、わたしはびっくりしました。
「えっ……?なんでですか?」
わたしがそう聞くと、アヤカさんは少し何かを考えてからこう言いました。
「あー、えーっと、それはちょっと暗い話になっちゃうんだけどいいかな?」
わたしは息をのみこんで答えます。
「はい、よければ聞かせてください」
そう言うと、アヤカさんは苦笑いして答えました。
「末期のガンでさ、ずっと病院にいたんだよ、あたし」
「――っ!?」
おどろきのあまり、わたしは口を開けたまま、声がでなくなりました。
「それでさー、悪せいのシュヨウ?みたいなのがあって、カンゾー?とかいろんなとこに悪いヤツがテンイしちゃったとかなんとかで……それで、かみの毛とかもぜーんぶぬけちゃったの!つるっぱげよ!つるっぱげ!!あたし女子なのに!」
「そんな……じゃあ…………」
「あぁー、ごめんね。急にこんな話されても信じないわよねぇ、フツー。あははは」
わたしは首を横にふりました。
「そんなことないです!なんだか、ウソとは思えません……!」
わたしは自分の手をグッとにぎりました。
するととつぜん、アヤカさんはわたしの顔をのぞきこんできて、なぜか少し笑いました。
「ありがとう。じゃあ、続きを話すね。 それでね、あたしもう死んだわぁ~!これアカンやつだ~!って思って、でもガンだし、そう思っただけでなんもできないのね。 あぁーこんなんじゃサッカーどころか生きることも出来ないじゃんかーっ!!って。そんである日、ユメを見たの」
「ユメ……?」
「そう。これがさ、自分のことながらうさんくさいなぁ! って思うんだけどね?」
アヤカさんは、苦笑いをしてこう続けました。
「その夢の中に"天使"ってヤツが出てきてさ、それで起きたらなんとキレイさっぱりガンが治ってたんだよ!って、そんなこと信じてくれるわけないよね~…………あれどうしたの?立ち上がっちゃって」
気づいたらわたしは立ち上がっていて、ぼうしをとり、マスクとサングラスを外して、アヤカさんと向き合っていました。
「信じます、その話。わたしも、ユメの中で天使さんに会ったことがあるんです」