第六話「それは、すごくキレイで鮮やかな」
キレイなものを見た。
興味を惹かれて目を見開く。
美しいモノのカタチは人それぞれ。
しかして誰もがこう思う。
できることならもっと長く、ずっと見ていたいと。
だがそういうものに限り、気がついたら無くなってしまうのが世の常なのだ。
なぜなら、人は何かを失った時に初めてモノの真価を問い質す生き物なのだから。
すっごいキレイな、ヒューどっかーん!6話「それは、すごくキレイで鮮やかな」です。よろしくお願いします。
聞きまちがいじゃなければ、ハナは『わたしと同じ』って言ったのか?
足をケガしてるチビに向かって。
「あれ?ハナもどこかケガしてるの?」
そう聞いてみたけど、チビみたいにハナがどこかケガをしているとは思えなかった。
ハナは少しビクッとしてこっちを向いた。
「あぁ……ええっと……」
なにやら、ハナは口をもごもごさせている。
すると、めずらしくマジメな顔をしているヒカリが口を開いた。
「待ったヒビト。そういうことは、あまり言いたくない子だっているんだからさ。気ぃ使いなよ」
!!!!!???????
あ、あのヒカリがめっちゃマトモなこと言ってる!!!??
……じゃなかった。たしかに、ヒカリの言う通りかもしれないな。
「ごめん、ハナ。言いたくなかったらいいんだ」
「そうだそうだ。"デリカシーがない"って言うんだぞ。そういうの」
うんうん、とヒカリは自分でうなずいている。
"デリカシーがない"か。
それ、一番ヒカリには言われたくなかったな……。
「いや、いいの!ヒビト君。えっとね、ケガとかじゃなくて……ほら、色が同じだなって!」
あぁ、たしかに。ハナはチビとおなじで真っ白けだ。
『かわいそうに』ってことはハナ、自分でその白い色が好きじゃないのかな。
「ぼくは、すっごいキレイだと思うんだけどなぁ」
「えっ……?」
ハナがキョトンとしている。
やっちゃった……声に出てたか………。
「色? キレイ? なんの話よ二人とも。ん?んー?」
ヒカリは何かに気づいたようにハナに近づいてから、目を見開いた。
「し、白い!!?め、めめめ、めめめめ目が青い!!!!!!??」
「あ、気づいてなかったんだ」
「しょうがないだろヒビト! さっきはまだ、ちょっとこわかったんだから!そんなことよりも……は、ハナさん、近くで見てもいいかい……?ふへへっへへへっへへへへへ」
うわぁ。
フシンシャって、本当はこいつのことを言うんじゃないだろうか。
ヒカリはあやしい手つきでハナの白いほっぺたにふれた。
「吸い込まれるような青空色の瞳……絹のように艶やかな白い髪………今にも消えてしまいそうな、美しく白い肌………ほのかに赤く柔そうな唇はより一層色っぽくて…………」
今さらだけど、ヒカリは誰からそんなワケのわからない言葉使いを教わったんだろう?
見たことがないくらい目をキラキラさせているヒカリが、何を考えているのかぼくには全く分からなかった。
「ひ、ヒカリちゃん……?近いよぅ……」
ハナが助けてほしそうな目をぼくに向けている。
りょーかい、とうなずいてからヒカリを羽交い締めにする。
「げんこーはんタイホだこのヘンタイ! ハナを困らせるな!!」
「ぐぅうう! はなせヒビト!! わたしとハナさんの……いやヒメ様とのスキンシップを邪魔すんじゃねぇ!!!」
「何ヒメ様って!!?じゃなくて、初めましての相手にスキンシップとかワケわかんないから!」
ぐぬぬケモノめ……!!あばれるんじゃない!!
「うっさいわね!!第一、こんな美しい子はあんたには勿体ないのよ!!この悪役面め~!!」
「うっさいのはそっちだ!!そんなんでよくぼくにデリカシーないとか言えたな!!」
「黙れ負債者! 滞納者!!そんなんだから嫁さんと娘に逃げられるのよ!!!!」
「何の話だよ!!?このばかっ!あほ!!」
「できたー!!!」
「「えっ?」」
なんともしょーもないぼくらの口ゲンカは、ハナの声によって止められた。
「できたって何が……あっ」
一体いつどこから取り出したのか、ハナの手にはあのスケッチブックがあった。
「じゃじゃーん!見てみて二人とも!」
ハナがにんまりとして見せてきたスケッチブックには、思った通りぼくとヒカリの絵が描かれていた。
「絵……?うっま!!!!なんとヒメ様!美しいだけでなく絵画までこんなお上手とは!!!ワタクシ、ただただ感服しております……!!」
「えへへ……ってヒメ様??まあいいや!ありがとうヒカリちゃん!!って、泣くほど!?」
ヒカリは自分を描いてくれたことがよほどうれしかったのか、泣きだしている。
……いや、泣くフリか。
それを見たハナは、さすがにオーバーだよ、とあたふたしだした。
「たしかに上手いんだけども……」
スケッチブックの中の絵は、ぼくがヒカリを"羽交い締め"にして何か言い合っている様子だった。
それを見られていただけならまだしも、絵に描かれるとは、これはなかなか……
「はっず……」
熱くなる顔を手でかくした。
「それじゃ、私そろそろ行くね!チビちゃんもバイバイね」
「にゃーう!」
気がついたらハナは帰ろうとしていた。
もう、お別れか。
本当はもっと一緒にいたかったなぁ。
次はいつハナに会えるのかなぁ。
チビに向かって笑顔で手を振るハナを見ていると、さびしいような、切ないような気持ちになった。
次会うやくそくをしたい……けど、この前断られちゃったからな。
「2人とも、じゃあね」
「バイバイ、ハナ」
さびしい気持ちをおさえて、ぼくが作り笑顔で手を振ったその時だった。
「あっ!待ってくださいヒメ!!」
ヒカリは、商店街へ戻ろうとするハナを呼び止めた。
「なぁに?ヒカリちゃん」
流れる静かな空気。
ヒカリの考えを探っていたその時、
「ほら」
背中を押され、ぼくはヒカリの前に立たされた。
えっ??????
「ヒビトくんどうしたの?」
ハナは不思議そうに首をかしげている。
まさかと思いヒカリの方を見ると、彼女はぼくにウィンクをした。
「あ……えーっと……」
言わなくちゃ。 言いたいことを。
昨日失敗したとか、関係ない。
なんとしても……ハナともっと遊びたい!!!!
「あのさ……ぼくたち、よくお昼とかにこの前の公園で遊んでるんだ。気が向いたらでいいくっ……ぃいからさ……おいでよ!! 今度いっしょにあそぼ!」
ど、どうかな。途中かんじゃったけど。
なんか、変な汗がでてきた。
……なんでもいいから返事をくれ!!
ハナは、笑顔で答える。
「うん! いいよ。じゃあ今度行くね。ヒビト君、ヒカリちゃん!あまり運動はできないけど」
「えっやった!!!!ありがとう!!!!マジで!!!!? いいの!!?やったわ!!!!」
興奮して思わず腕を上げるぼくを見て、ハナは苦笑いをした。
「そんなに……? な、なんか逆に申し訳ないなぁ……」
やべぇ! 引かれたかな!???
「いやいや、大歓迎だよヒメ!!あ、そうだ。ハルヤって真面目馬鹿もいっしょなんだけど、その時しょうかいするよ!」
……ごめんハルヤ、ちょっと笑っちゃった。
「ま、まじめばか……?うん、よろしくね!」
「マジメなフリしたバカなのがいるんだ!でもいいヤツだから、安心して!」
「うん、いいヤツなのは間違いないね!!」
ちゃんとフォローしたから、さっき笑ったのは無しってことにしてもらおう。そうしよう。
本人、ここにいないけど。
「それじゃ、またね!二人とも!チビちゃんも」
ハナは最後にチビをなでなでして行ってしまった。
「あぁ…………なんて美しい子なんだ……。ねぇチビちゃんっ!!こらっ!逃げるな!!」
ヒカリがフェイントをしかけても、チビは見事に魔の手をよける。
「そうだ。ヒカリありがとうね。背中押してくれて」
もしもあれがなかったなら、ぼくはまた何も出来なかったし、そのイヤな気持ちを家まで持ち帰ってウジウジ悩んでいただろう。
それを考えると、ヒカリには頭が上がらない思いだ。
「えっ? あぁ、どういたしまして。 っていうかヒビトお前……」
「ん? なに?」
「なんで告白しなかったんだ????」
「スーッ…………帰ろうかヒカリ。もう夜になる」
「ねぇ、スルーはよくないと思うよヒビトねぇねぇねぇねぇねぇねぇえええええええ!!!」
「うるせぇ!!!! ヒカリ難しい言葉使いまくるクセに"じゅんばん"って言葉しらないの??」
「知ってっしー!! 『順序に従って代わる代わるそのことに当たること。また、その順序』に決まってんだろ!!」
「えっなにその……辞書みたいな……」
「そして順番なんて守ってたらヒメは売り切れちゃうからなヒビト」
「ハナを売り物みたいに言うんじゃねぇ失礼な!!!!」
「例えだよ例え。あんなに美しい娘なら狙う人だってたくさんいるだろうに」
「そ、それは確かに……」
「そして、ヒビトがちまちましてるとどうなるかわかるか……?」
「どうなるの??」
「わたしがヒメと結婚することになる」
「…………スーッ…………………よし、帰ろうか!」
☆☆☆☆☆
タイトル【ノンフィクション】その5
「ママー!あの子おかしいよ!」
「コラ!人のこと指差しちゃいけません!」
「ねえおかあさん、なんであの子はあんな暑そうなカッコしてるのー?」
「さぁねぇ、寒がりさんなのかねぇ?」
あの子はなんで――――。
あの人なんで暑そうなカッコ――――。
どうしてサングラスを――――。
ねぇあの子アタマ白い――――。
ねぇ、ねぇ、なんで、どうして?どうして?なんで?
一体なんで?って。
「わたしが……一番聞きたいよ……」
わたしは、この白い身体のせいでたくさん大変な思いをしていました。
お医者さんから告げられた病名は、『先天性白皮症』。『アルビノ』とも呼ばれている病気で、生まれつきわたしはこの真っ白な身体だったそうです。
アルビノという病気は、色以外に何が違うのかというと、この身体はふつうの人より太陽さんの光に弱い、ということがあります。
なので、晴れている日は長い時間外に出ることはできませんし、出るには火やけ止めクリームをたくさんぬったり、暑くてもハダを出す格好をしてはいけません。
――そしてわたしは、それ自体を特に気にしては居ませんでした。
本当に大変なのは、そのことではありません。
わたしが辛かったのは、やはりこのカミの毛や、肌が白いという点でした。
わたしの目がまだ見えなかったころは『どうせなにも見えないから』と、特に気にしてはいなかったのですが、目が見えるようになってからは気になって仕方がないのです。
そもそもわたしはカラフルな色が好きでした。
赤や、黄、青。オレンジに、緑や、むらさきなどなど。
初めてこれらの色を見たときに、
『この世界は、こんなにもキレイなモノがあるんだ!!』
と、一人で感動しては泣いていたことをよくおぼえています。
しかしその分、自分の色はどうしても気に入りませんでした。
白い色は、わたしの目が見えないときにずっと見てきた、というよりは感じてきた、黒い色と同じように思えたからです。
反対なようで、ホントは同じ。
明るいか暗いかというだけで、わたしにとってはどっちもキレイじゃなく、あざやかでもなく、ただただつまらないのです。
そして何より、他の人に見られることがイヤでした。
お母さんのためにも、わたし自身がこの色を好きになろうとガンバってはいました。
ですが、ヒソヒソと遠くでこちらを見ながら話している人や、かわいそう、大変そうだねと気をつかってくれる人を見るたびに、わたしはこの色のことをキライになって行ったのです。
それでも、わたしのことを産んでくれたお母さんや、目を見えるようにしてくれた天使さんには、ありがとうという気持ちしかありません。
「ねぇ、今度はどこに行きたい?何か見たいものはある??」
病院からの帰り道、お母さんはわたしに聞きました。
「うーん、お花畑は行ったし、お花見もしたし、お寺もフジ山も見たからなぁ……」
「言われてみれば、たくさんの物を見てきたわねぇ。この前は、花火にも行ったし!」
そう、少し前にわたしとお母さんは花火を見てきたのです。
「そうだね! 花火、すっごくキレイだった!! 赤とか、黄色とか、オレンジに青や緑も! たくさんの色があって、しかもいろんな形をしててすっっごいキレイだった!」
海岸から打ち上がる、いくつもの火の玉のつぼみ。
それが空高くまでのびて、おっきな花を開く。
真っ暗な夜空をいろどる、カラフルでキレイなお花畑。
「また見たいなぁ。できれば、わたしとだれかともだちと……ちゃんと花火も描きたいし!」
わたしがそういうと、お母さんはすごくびっくりしたみたいでした。
「え??あの時花火を描いてたんじゃなかったの!?」
「うん、あの時はね――」
――――"花火を見ている人たち"のことを描いてたんだよ。
花火は、もちろんキレイでした。
でもそれより、今まで見たことが無いくらいたくさんの人たちが同じ場所に集まって、そのみんなが顔を上げて、みんなでいっしょに花火をみて、みんなで同じように感動している。
わたしにとってはそれが、花火よりもキレイだなぁと思ったのです。
「ん?お母さん、あれはなに?」
道ばたに咲く、いちりんのお花を見つけました。
「あぁ、あれはタンポポね。すごいわねぇ、こんなアスファルトでたったの一人で、ここまで頑張って成長してきたのね」
「お母さん!あれ描いていい??」
どんなところでも、気になるものがあればそのたびに足を止めて、持ち歩いているスケッチブックに描き写す。
それはわたしがいつもしていることでした。
「うん、いいわよ。待ってるから、じっくり描きなさい」
わたしはタンポポの横にすわってそれを描き始めました。
「えーっと、アスファルトが灰色で、ここは緑で、輪っかが浮いてて羽も見えて、ちゃんとかげもつけてっと。できた!」
10分くらいかけて描き上げたタンポポの絵を、ワクワクしながらお母さんに見せに行きます。
というのも、お母さんはわたしが描いた絵を見せると笑顔になって、
『あなたは絵が上手ねぇ!』
とか、
『しょうらいは画家さんになるわ!!』
なんて言って、頭をなでなでしてくれるのです。
わたしはそれが好きで好きでたまりませんでした。
「あら、かわいいタンポポね!」
「でしょー!! えへへ……」
そして、お母さんは不思議そうな表情でわたしに聞きました。
「でもハナ。この羽と輪っかはどうして書いたの? まるで天使みたいね……」
そしてわたしも、不思議がってお母さんに聞き返しました。
「どうしてって?付いてるじゃん!ほら、羽と輪っか!」
……その時のわたしには、どうしてお母さんが困ったような顔をしていたのか、全く分かりませんでした。
タンポポに付いていた、天使さんみたいな"羽と輪っか"。
それは、なんとわたしの目にしか映らないモノだったのです。