第五話「なぞのフシンシャ」
心を隠した。
なんでもない本音を、ほんの少しの意地や強がりで隠した。
でも、大体は身近な存在に気付かれているもので、どうせバレてしまうならいっそのこと開き直った方がいいのかもしれない。
少年がそう思うのは、遠い遠い先のお話。
すっごいキレイな、ヒューどっかーん!5話、「なぞのフシンシャ」よろしくお願いします。
1日さえ忘れたくないと、ハナは迷いもなく真っ直ぐに言った。
その時の彼女はぼくの方を向いていたけど、その青い目はどこか遠くを見ているように感じた。
一体、ハナには何が見えているんだろう。
気になったけど、なんとなくそれを聞くのは止めた方がいい気がする。
「そうなんだ……なんかすごいね!ぼくなんてさ、昨日の夜ごはんすら思い出せないよ??」
ぼくがそう言うと、ハナは可笑しそうに笑う。
「夜ごはんかぁ!わたしね、3日前まで思い出せるよ!」
「3日前!?ほんとに!?すごいね!教えて教えて!」
そう聞くと、ハナはニヤリと笑って答えた。
「それはね、3日前がカレー。おとといもカレー、昨日もまたカレー!」
思いがけない回答に、ぼくは吹き出してしまった。
「それさぁ、ズルくない??」
「えぇー!ズルくはないでしょ!」
ハナはわざとらしくふくれて言った。
「はいはい、ズルくないズルくない。それにしても、カレーって聞けてよかった」
ぼくがそういうと、ハナは首をかしげた。
「よかった?あっ、もしかしてヒビト君もカレー好きなの??」
それも、あるんだけど……。
「うん、カレー大好きだよ!でもこの前は6日連続カレーだったんだよ!?さすがにキツかった……」
……なんていうか、『ハナにもフツーなとこあるんだ!』って思って、少しだけ安心したんだ。
「えぇ!! 6日連続はすごいね、そんなに毎日食べたことないや!」
「まぁ、6日目はカレーライスじゃなくてカレーうどんだったんだけどね」
「カレーうどん?なにそれ?」
「え、知らない!? 余ったルーを使ったカレースープに、うどんと、おもちと、ゆでたまごとか! 具がたくさん入ってて美味しいんだよ!」
「へぇ~いいなぁ! 今度おかあさんに作ってもらお!!」
ハナはまだ見ぬカレーの新たな姿に、目をキラキラさせている。
「あっ! もうこんな時間だ! ごめんねヒビト君、こんなに時間とらせちゃって」
「ううん、大丈夫! 楽しかったからさ」
「わたしも楽しかった! おかあさん以外の人とこんなに話したのは久々だよ! それじゃ!」
ハナは元気に手をふって歩き出した。
「あ、あのさっ!」
今度はちゃんと、聞きたいことは聞いておこう。次はいつハナに会えるかなんて分からないんだから。
「なぁに?ヒビト君」
息を整えて、ぼくはこう言った。
「また明日、ここで会えるかな……!!」
あぁ、やばい。言ってからなんか、すごい心臓がバクバクする。
少しの間が空いてからハナは応えた。
「うーん、ごめん。それは出来ないかな。あまりたくさん夜に外出ちゃうと、おかあさんが心配するからさ」
その言葉は、ぼくの心をグサッとつらぬいた。
ハナは何もおかしいこと言ってないのに、心が苦しい……この痛みは一体なんなんだろう。
「そ、そうだよね!ごめんね!ムリなこと言って……」
「ううん。こっちこそなんかごめん。でも、大丈夫だよ!」
そう言うと、ハナは白いかみをゆらしながらふり向いてこう続けた。
「わたしたち、またどこかできっと会える気がするからさ。それじゃ、バイバイ!」
そう言った彼女のムジャキな笑顔は、またもぼくの心をつらぬいた。
☆☆☆☆☆
「「おぉ~!」」
ぼくら三人が見上げているのは、どこにでもありそうな、茶色い屋根をしたフツーの家。
「ここがハルヤの家かぁ!なんというか……フツーだね!」
「うん、オレの家。うちの家族にはこれくらいがちょうど良いよ」
ハルヤには兄弟が居ないってこの前言っていた気がするけど、三人でくらすには、ちょっとだけ大きくないかな?
「はぅわわぁ!ここがハルヤの家!? う◯ちみたいな屋根!!」
「ブハッ」
思わず吹き出しちゃったけど、笑ってはいけないとこだった気がする。
「きたないし!ヒカリは何度も来たことあるだろ!家に上げてやんねぇぞ」
「へへっ。サーセンサーセン」
ヒカリは全く反省する気が無さそうだ。
「じゃあ、入るか」
ハルヤが先にドアを開けた。
ともだちの家に入るのって、そういえば初めてだったっけ。
そう思うと、少しだけドキドキしてきた。
「ただいま~!」
「ただいまー!」
ハルヤは分かるけどヒカリまで『ただいま』って言うの!?
この二人、ぼくが思ってる以上にシンミツな関係なのかもしれない。
そんなことを思っていると、
「ヒカリは『オジャマします』だろうがオジャマ虫!」
と、すかさずハルヤがツッコんだ。
うん、思い違いだったみたいだ。
「うわぁぁん!! シショー!シショー!! ハルヤがひでぇこと言いやがるー!!」
よく分からないことを言いながら、ヒカリは先に走っていった。
……シショー?誰それ??
ハルヤとぼくも後に続く。
「お、オジャマしま~す……」
おそるおそる進んでいると、ハルヤに肩をたたかれた。
「そんなガチガチすんなよ。ヒカリぐらいにとは言わないけど、リラックスしていってくれな」
「うん、ありがとうハルヤ。そうするよ」
ぼくはホッとして、いつの間にかこわばっていた肩をゆるめていた。
進んだ先のリビングには、ハルヤのパパらしき人と、その人に泣きついているヒカリがいた。
「シショー!ハルヤがわたしのこと『◯ねゴキ◯リ』とか言うんだよー!ひでぇよー!性根が腐ってやがるよー!」
話しの盛り方がエグい!!!
「なんだって!?ハルヤぁ!女の子にゴキ◯リはないだろ!!虫に例えるならせめてチョウチョウとかにしなさい!!」
虫に例えるまではセーフなの?
「ヘイヘイサーセンサーセン」
ハルヤはもう、どうでもよさそうだった。
なんだろう、変な感じだ。
言ってる内容はひどいけど、三人の空気にはどこか温かさを感じる。
ほんとに、内容はひどいんだけど。
「ところで、そっちのキミがヒビト君かい?初めまして、ハルヤのパパです。今日はゆっくりしていってくれ!」
ハルヤパパはニカッとした笑顔で言った。
おぉ……!
今のすっごいハルヤに似てた!
ハルヤパパは、見た目から話し方まで、ハルヤをそのまんま大人にしたみたいな感じだ。
「はい、ありがとうございます!」
「それじゃ、俺は二階にいるから、なんかあったら呼んでくれ。はしゃいでもいいけど、ケガはするなよ」
「「はーい」」
「りょーかいっす!シショー!」
ハルヤパパはあくびをしながら二階へ上がっていった。
「それじゃ、オレお菓子とか取ってくるわ。二人はジュースかお茶かどっちがいい?」
「ありがとー!わたしジュース!」
「ありがとう、ぼくはお茶で」
「おっけー、ソファとか座ってていいから」
そう言って、ハルヤが立ち上がって台所へ向かった。
ぼくとヒカリは言われた通り、ソファに座る。
もふり。
「おぉ~、ふかふかだぁ~」
ふかふかソファの上で飛びはねたくなる気持ちをグッとこらえる。
他人の家だ。
さすがにそれをやるのはまずい。
「おい、ヒビト、てめぇよぉ……」
気がついたら、なぜか横でヒカリがふくれていた。
「なぁぁにが、『ぼくはお茶で』キリッ!なのよっ!!」
「な、なんだよ!いいだろお茶でも!」
「こいてる。ヒビトそれはちょーしこいてる」
「何がちょーしこいてるんだよ!」
何を思ったのか、ヒカリは急に立ち上がってこっちを向いた。
「わからんか。なら教えてやろう」
「な、何を!?」
「キサマを『ホントはジュースが飲みたかったのに大人ぶりたくて調子こいてお茶にした』罪と『ソファの上で跳ねたくなったのを我慢してる』罪でコチョコチョの刑に処す!!おりゃぁぁあ!!!!」
「ぁぁぁあ!!やめて!えんざいだぁ!!あひゃっ!!そこやめて!!あひゃひゃ!弱いから!ギブです!!ハルヤ!!あひゃ!助けて!!ハルヤァァァ!!」
いきなり始まったそのおしおきは、ハルヤが戻ってくるまでの間ずっと続いた。
「お菓子持ってきたぞーって、なにしてたんだよおまえら、遠くまで叫び声が聞こえてきたぞ。ヒビトぶったおれてるし」
ハルヤのあきれきった声が聞こえてきた。
「ハルヤ……助けに来るのが……おそいわ……ガクッ」
「いやなに?コイツを二度と調子こけない身体にしてやってただけよ」
もうヒカリやだ……こわい……。
「ふむふむ、なるほどなぁ。全くもってよくわかんないけど、助けられなくて悪かったなヒビト。生き返ってお菓子でも食ってくれ」
「リフジンだ。まったく。ポテチうめぇ。ぼくは悪くない。ポテチうまいけど、ぼくはなにも悪いことはしてない」
「ほぉんまだ処されたいかあぁん!??やっぱりポテチはのりしおに限るよなぁ!!」
ヒカリがエモノを狩るような目でにらみつけてきた。
「すみませんごめんなさい調子こいてました! ポテチはのりしおが一番ですとも!!」
ホントはコンソメダブルパンチが好きだけど、ここは話を合わせておこう。
「あ、そういえば今日はヒーロージャー見るんだったっけ。DVDさがしてくるから、あんまり暴れるなよ二人とも」
「ぼくは暴れてないよ!!」
「わたしは暴れてないよ!!」
ぼくとヒカリは、「こいつが悪いんです」とお互いを指差す。
ハルヤはジト目でぼくらをにらみつけ、また立ち去って行った。
そういえば、気になっていたことがあるんだった。
「ところでさヒカリ、なんでハルヤのパパさんがシショーなの??てか、なんのシショーだよ」
そう聞くと、ヒカリはすっとんきょうな顔をした。
「へっ??そりゃあ、決まってるよ、ヒーローのシショー!!」
「あぁ……?なるほど……?」
うん、よくわからん。
そんな、
『知っててトーゼンでしょ!』
みたいな顔されましても。
そもそもヒーローって、弟子とかとるのかな?
「うん! シショーはわたしを救ってくれただけじゃなく、正義とはなんたるかを教えてくれた偉大なお方さ。ヒビトも敬意を払えよ! 次会った時はクツをなめて差し上げろ?」
「いやだよ!!!」
大人だし、失礼が無いようにはするけどさ。
それにしても、こいつの絶対悪的ヒーロー感はハルヤパパのせいだったのか?
……いや、多分ヒカリがロクな教わり方をしてないだけだ。きっと。
「持ってきたぞおまえら~!」
そうこうしているうちに、ハルヤがDVDの入った箱を持ってきた。
「あぁー!なつかしいね!!いつぶりだろう?」
ヒカリが目をキラキラさせてDVDに食いつく。
「オレたちが最後にこれ見たの、たしか3年くらい前じゃないかな?ちょっとホコリかぶってたけど、再生できんのかな……」
ハルヤは軽くホコリをはらって、ヒーロージャーの一巻を取り出した。
3年前かぁ。
やっぱり二人は以外とつきあいが長いんだなぁ。
いわゆる、オサナナジミってやつか。
ぼくにはそういう人が居なかったから、ちょっとうらやましいな。
「あぁー、なんでだー?再生されない」
ハルヤはヒーロージャーのDVDに苦戦してるようだった。
「いやぁ、つかないなら大丈夫だよ。ぼく実際そんなにヒーロージャー見たかったわけじゃ」
「なんだぁなんつった今オォン!?」
気づいたらヒカリがえげつない顔をしていた。
「なんでもねぇっす、ヒーロージャーめっちゃ見たいっす」
「おー、ついたついた!待たせたな二人とも。それじゃ鑑賞会開始ぃ!」
ハルヤの声で、ヒーロージャーかんしょー会が始まった。
☆☆☆☆☆
職はねぇ!家事もしねぇ!彼女も居ねぇ!
最近ハゲが気になり始めた社会のゴミこと赤色 疲労(38)は今日もまた、電脳世界で今をときめくバーチャルアイドルを演じつつ、リアルで親の脛をかじっていた!
そんな彼には誰にも言えない秘密があった!
そう!なんと!彼は国家秘密戦士ヒーロージャーレッドなのだ!
さぁ、心を放てヒーロージャー!誰かの笑顔と平和のために!!
アンロックハート!!ヒーロージャァァァ!!
☆☆☆☆☆
「それじゃまたな!ヒビト!ヒカリ!帰り道気を付けろよー!」
「ばいばーい!!」
「また来るぜー!」
気がつけば、青かった空はすっかりオレンジ色になっていた。
「それじゃあ、ヒビトもまたねーって、ヒビトん家こっち方面だっけ??」
「いや、今日はちょっと商店街に用があってさ」
そう、今日はチビの様子を見に行く予定だったのだ。
「そっか!じゃあ途中までいっしょだな!」
ヒカリはいつもよりキゲンがよさそうだった。
ヒーロージャー見た後だからかな?
「いやーやっぱり、ヒーロージャー、面白かったよな??」
「そうだね!思ってた話とは全く違ったけど、カッコいいキャラ多かったし面白かった!」
「だろだろー!やっぱり、最後にぬれがらす様が赤色たちを助けるところなんてもう何度見ても熱いわ……」
ヒーロージャーはたしかに面白かったけど、気になることがひとつあった。
「わかる、あそこよかったねー!ところでさ、アイツは一体なんだったったの?」
「アイツ?」
ヒカリはきょとんとしている。
「ほら、いたじゃん。あのフシンシャみたいなカッコしてた、めっちゃ怪しいやつ」
それは、主人公が町を歩いている時や、組織に初めて捕まったシーン、ぬれがらす城に乗り込んだ場面や、ネカマ魔王との最後の戦いの時などなどあらゆる場面に現れ、画面のはじっこでたたずんでいた"ヤツ"のことである。
"ヤツ"はどの場面でも季節外れの厚着で、その上サングラスとマスクにぼうしをつけていた。
さらに、会話するシーンもなければ動くこともなく、『ただそこに居るだけ』というのがよけいににブキミだった。
「フシンシャ?あやしいやつ?そんなヤツ、居なかったと思うけどなぁ……」
ヒーロージャーを何度か見ているヒカリがそういうのなら、気のせいだったかもしれない。
けれど、あんな変なヤツ見間違えることなんてあるか??
「勘違いだったのかな。えぇー、怖いなぁなんか」
『怖い』と言ったところで、ヒカリがビクッとした。
「こ、怖いとか言うなよ! ホントに怖くなってくるだろ!! んで、そいつどんなカッコだったんだ……?」
少し意外だった。ヒカリはいかにも、怖いモノ知らずってイメージだったけど、そういうのは苦手みたいだ。
「うーんと、まず季節外れの厚着で、ジャンパーとか着てた」
「なるほどジャンパーね」
「うん、あとはサングラスとか?」
「サングラス?太陽がキライなのか?」
「それとマスクに、ぼうし。たしか、ニット帽だった気がする」
「マスク、ニット帽。それって、あんな感じ?」
ヒカリが遠くを指差した。
「そうそう、あんな感じ!フシンシャみたいな!……えっ?」
季節外れの厚着、マスク、サングラス、ニット帽。
ヒカリが指差した先にいたのは、まごうことなき"ヤツ"の姿だった。
「な、なななんで"ヤツ"が居るんだよ!!!」
「知らんわ!!ってかヒビト、なんかアイツこっち来てないか?」
「しかも走ってきてない……?」
こっちに向かってがむしゃらに走って来る"ヤツ"を見て、ぼくらは目を合わせてうなずいた。
「「にげろおおおおおおおお!!!!!」」
それはもう、全速力で商店街に逃げ込んだ。
「なんでアイツわたしたちを追ってきてるんだよ!!!??」
「ぼくが知るかぁぁ!!ってかこういう道を走るの危ないよ!!!周りに気を付けろってママに言われたばっかだわ!!!今走ってるけどさぁぁ!!!」
「うるせぇええ!!!今はママより自分の命を守ることだけ考えろヒビトぉぉ!!アイツまだ追ってきとるうううう!!!」
「ここを曲がれええええ!!!」
急ブレーキをかけ、たばこ屋さんのある角を曲がって裏道に入った。
「なんだよこの道!?てかヒビトもっと急げ!!」
「うっさい!せまいんだからおすなよ!!」
ぼくらは先へ進み、いつものスペースに出た。
「初めて来た……こんな場所があったのか……」
ヒカリはキョロキョロと辺りを見わたしている。
「でも、ここまで来れば大丈夫だろ。でかしたぞ、ヒビト!ってお前、何やってんだ?」
ぼくはここに来てすぐに、手作り段ボールハウスの中をのぞきに行った。
「チビ様!助けて下さい!!ぼくたち変なヤツに追われてるんです!!!」
「な"ぁ"ぁ"ぁあ」
段ボールハウスの中にいたチビは、いつもながら知らん顔で大あくびをし、ストレッチを始めた。
「チビ様って誰だよ。ってなんだソイツ!!かわいいな!!!」
様子を見に来たヒカリはやはりチビに食い付いた。
「コイツはチビ。ちょっと前から、ぼくがここでめんどう見てるんだよ」
「へぇー、ヒビトがそういうことするってなんか意外だな。ぐへへぇチビちゃんきゃわいいなぁ♥️♥️」
「えっ、意外なの??」
「なぁう!」
ヒカリがなでなでしようとする手を、チビは見事にかわしている。
「おぉ!?逃げるなよぉチビちゃあん♥️♥️」
「おいヒカリ、そんな下心むき出しにしてると嫌われるぞ?」
「バカたれ!下心じゃないわ!"愛"だわ!!!」
そんなの知ったことか!! と、ヒカリの"愛"をよけ続けるチビの目は、何故かぼくらの後ろに向けられていた。
「ところでチビ様?なんでぼくらの後ろを見てるんですか……??」
「みゃーう」
「え……?ぁ、ぁぁぁぁあ、ヒビト……うしろうしろ…………!!」
イヤな予感がする。
ぼくは息を整えて、おそるおそる後ろを振り向いた。
「「ぎゃぁぁぁぁぁあフシンシャぁぁぁぁあ!!!!!!!!」」
思った通り、いつの間に"ヤツ"がぼくらの後ろにいた。
「もー!誰がフシンシャよ!」
「へっ…………??」
"ヤツ"がサングラスをずらすと、そこにはどこかで見た青空色の目があった。
「うふふ、こんにちは。ヒビト君!」
「は……ハナ……なの??」
「正解、わたしはハナちゃんです!」
ハナはナゼかうれしそうにピースをした。
「なんだぁぁ……ハナかぁ……ブッコロされるかと思った」
「……誰この子、ヒビトの知り合い?」
ヒカリがぼくに耳打ちしてくる。
「ほら、ぼくがこの前言ってた子だよ!ハナって言うんだ」
「あ?ああぁ!!この子が!!なるほど!」
そう言うとヒカリは立ち上がり、ハナの手をにぎった。
「先ほどは失礼いたしました。わたくし、ヒカリという者でございます。どうぞお見知りおきを……」
おいヒカリ、なんだそのキャラは。
「うん!よろしくねヒカリちゃん!二人は姉弟なの??」
へっ??
思わずぼくとヒカリは目を合わせた。
「いやいやいやいや違うよハナ!ヒカリとぼくはともだちだよ」
「えぇ。いつも弟がお世話になっております!」
「ややこしくなること言うな!!そしてせめてぼくを兄にしろ!!!」
ほら、ヒカリのせいでハナがこまっているじゃないか。
「えぇっと、二人はともだちでいいのかな?なんだか似てるから、かんちがいしちゃった!」
「似てない似てない。ぼくたちが似てるなんてありえない。だよな、ヒカリ」
「あぁ、ありえない。絶対わたしの方が姉だ」
「なんでそこにそんなこだわるの!!?」
まぁ、最初に言ったのはぼくだけど。
「そっか。それじゃあそこの、かわいい白ネコちゃんは?」
「なあぁ?」
ハナはそう言ってチビに近づいた。
「あれ。この子の足……」
ハナはひょいっとチビのことを持ち上げる。
「えぇ!?わたしの時はマトリックスみたいにかわされたのに……!!」
ヒカリはそれを見てしょんぼりしている。
あのチビが初対面の相手にされるがままなんて。さすがハナだ、ヒカリとはちがうぜ!
「その子はチビ。その足ね、ぼくが初めて会った時からケガをしてたんだよ。だからハンカチを巻いてあげてるんだけど、なんだか全然治んなくてさ」
「そうなんだ。チビちゃん、かわいそうに」
ハナは本当に悲しそうな顔をしてる。
そして彼女は、聞こえるか聞こえないかくらいの小さい声で、つぶやいた。
「――――わたしと、同じなんだね」