最終話「みんなへ~変わらない約束~」
「ありがとうね」
ピピピピピ!! ピピピピピ!!!
ピピッ!
「うるせぇ……まだねかせてよ……」
ピピピピピ!! ピピピピピ!!
ガゴンっ!
「あぁやっちまったぁ……落とした……」
ピピピピピ!
ピピピピピ!
ピピピッ!!
「うるせぇよ~このクソめざましめ」
ねむたい目をこすって、床に落ちためざましをにらみつけた。
「8時か……えっと、今日は……ん?」
変な感じがして、落ちた目覚ましを持ち上げて、近くで見てみる。
「日付、バグってる」
『時間 8:02:42 月― 日― 曜日―』
「なんだこれ……まあいいや」
たしか、今日はみんなと9時に待ち合わせだったよな……?
☆☆☆☆☆
「おはよ~、ふぁあ~~」
リビングにくると、朝ごはんをテーブルに並べるママがいた。
「あら。めずらしくちゃんと自分で起きたのね!」
「え~? ぼくいつもちゃんと起きてるよ?」
「寝言は寝て言いなさいって! 目覚まし鳴っても何度呼んでも起きない上に、毎日毎日起こしに行っても何分もしぶとーーく枕にしがみついてるのはどこの誰かしら~???」
「……うるさいなぁ。 仕方ないじゃん。まだ眠いのに寝かせてくれない太陽がわるいんだ」
「寝起きが悪いのを恒星のせいにするんじゃありません。 さぁ顔洗ってきなさい!」
「はーい……」
洗面所で顔をあらっていると、鏡にうつった自分と目があった。
あれ、なんか泣いた後みたいな顔してる。
泣くようなユメでも見てたかな……思い出せないや。
っていうか、昨日のこともよく思い出せないな。
「うーん……?」
なんか、すごいことがあったような…………。
「うん、わからん!」
☆☆☆☆☆
「「いただきます!」」
目玉焼き、ウィンナー、ミニトマト。
ふりかけごはんに、みそしる。
ザ・朝ごはん!って感じだ。
「ヒビト、リモコンとって」
「はい、どーぞ」
「ありがと~」
ポチッ!
「あら?」
ポチッ! ポチポチポチポチポチ!
「ママ……そんなボタンおしてるとこわれるよ」
「だ、だって! つかないんだもん!!」
「電池がないんじゃないの?」
「あれ~最近変えたばっかだと思うんだけどな~?」
ママはリモコンのウラにあるカバーを開け、新しい電池を取ってくる……ワケではなく。
元々入っていた二つの電池の場所を入れかえた。
「…………」
「ケチくさいとか思ってんじゃないわよ~? こうすればまだ使えるんだから! えいっ! 」
ポチッ!
ポチポチポチポチポチポチポチポチポチ!
「だから、こわれるって」
「あれー? なんでー!?」
「あきらめて、新しいの持ってきたら?」
「もー!しょうがないわね……」
~3分後~
「よーし入れてきたわよー! えいっ!」
ポチッ!
ポチポチポチポチポチポチポチポチポチ!
「こわしちゃったね……」
「えええ!! なんでよー!! あーもう……」
リモコンを置いたママは、かんねんして直接テレビについているボタンを押した。
が、テレビがつくことはなかった。
「あぁ……お前もう、寿命なのか? そうなのか……?」
「新しいの、買わなきゃね!」
うちにあるテレビは、もう8年も使っているらしい。
ついにウチのテレビが新しくなるのか……!
ハルヤんちにあった大きいテレビが少しだけうらやましかったから、ちょうどいい。
「なんでアンタちょっとうれしそうな顔してるのよ……トホホ……」
「電源はちゃんと入ってるの?」
「あっ! って、ちゃんと入ってるわよ」
やったー!
どうやら本当にテレビはこわれてしまったみたいだ。
「はぁ……ついてないわ」
「こわれたテレビだけに??」
「やかましいわ!!!!」
ママはくやしそうにしながらウィンナーを食べてから、ごはんをかきこんだ。
落ち込みながらも、さすがの食いっぷりだ。
「そういえば、今日はどこか行くの?」
いきなりママが聞いてきた。
「うん。いつもの公園で集まって、ちょっと遠いとこに行く……んだよな?」
おかしいな。
確かにどこかへ行く約束はしたハズなのに、内容をうまく思い出せないぞ……?
「『だよな?』って聞かれても困るわよ。 それで、どこへ行くの?」
「わかんない」
ぼくがそう答えると、ママはおかしそうに笑った。
「アハハは! わからない場所かぁ~! いいわねぇ"冒険"みたいで!」
"ぼうけん"?
いや、ちょっとそれとは違うような……。
「ごちそうさまでした!」
「あら、早いわねぇ。ちゃんと噛んだ?」
「噛んだよ! 歯みがきしたらすぐに家出る!」
なんの用事なのか、分からない。
わかんないんだけど、知らない場所へ行くワケじゃないんだ。
そこにはきっと、ぼくたちにとって大切な意味がある……ような気がする。
「それじゃ、行ってきます!」
そんな気がしてならないんだ。
「行ってらっしゃい! 暗くなる前には帰ってきなさいよー!」
☆☆☆☆☆
今日はとてもいい天気をしている。
雲一つない……とまでは言えないけれど、緑色の気持ちいい空だ。
火星や土星、木星に太陽がよく見える。
それに、流れ星なんかもたくさんふっていた。
「……あれ?」
空ってこんなだったっけ?
「……まあいっか」
そんなことより、公園へ急がなくちゃ!
☆☆☆☆☆
公園のベンチにすわっている二人を見つけると、しぜんとぼくは駆け足になった。
「おっ! やっと来たかー!」
「おせーぞヒビト!!」
ハルヤは笑顔で手をふってくれたが、ヒカリは何だか怒っているようだ。
「おはよー! って、おそい?」
あれ? ちゃんと9時に着くように家を出たんだけどなぁ。
くびをかしげていると、ヒカリに肩をつかまれた。
「何とぼけてんだ1時間も待たせやがってからにいいいいいい!!!!」
「ああああああ頭とろけるうううううううううう!!!!」
すごい勢いでゆさぶられたぼくの頭はグラグラゆれて、どうにかなってしまいそうだった。
「って1時間!? ヒカリ、8時にはここに居たの?」
「何バカなこと言ってんだわたしは9時ぴったしここに来てんだよおおおおおおお!!!!」
頭ぐわんぐわん。しにそう。
「そしてオレは8時40分に着くように家を出たんだが、着いたのは9時30分だったぜ!」
さわやかな笑顔でハルヤはそんなことを言う。
……どういうことだ?
「時計がなんか、変になってるのかな……?」
「お前ら時計なんかに頼ってるからだらしねぇんだよ」
やれやれとヒカリはあきれた様子だ。
「なにその人間を止めてるヤツのセリフは……じゃあヒカリはどうやって時間ぴったりに来たの?」
「体内時計! そして今は午前10時!! これだけが真実だ!!! 」
ビシっ!
と、ヒカリが指差した先にある時計台は、彼女の言うとおり10時を示していた。
「ホントだ!! スゲェなんで……!?」
「フン! のうのうと平和な世界を生きてきたお前らなんかとは格が違うのよ!!!」
ドヤ顔のヒカリに、ハルヤはれいせいにツッコむ。
「でもさ、あの時計もこわれてるかも知れないぜ?」
「うるせぇー!!! しねぇーーー!!!!」
「がっ!!! いたい!!くすぐったい!! やめ、やめろ!!!」
今日もあいつらホント仲いいなー。
そんなことを思いながら、なんとなく空を見上げた。
「……あっ」
「なんだぁヒビト、コミュ障の喋り出しみたいな声上げやがって」
「うっさいなヒカリ!!! じゃなくて、空がすごいよ」
「?」
みんなで見上げた空には、すごい光景が広がっていた。
「なんだあれ、カーテン??」
「あれ、なんだっけ……黄緑のカーテンみたいなヤツ」
思い出したようにハルヤが答える。
「あぁ、あれは……オーロラだな」
明るい緑色の空と、暗い紫色をした宇宙の間に、とても大きなオーロラがかかっていた。
その回りには、いくつもの星が散りばめられていてすごくキレイだ。
「なぁ」
確認するように、ヒカリが言った。
「空ってさ、あんなだったっけ」
「前からあんなだったような気がするが、言われてみれば、たしかに違うような……」
「ぼくもそんな気がする……けど」
けど、それだけだ。
違うような気がする。 ただ、それだけ。
あれが普通だったのか、変わったのか。
ぼくらにはわからないし、どうすることもできない。
「それよりさ! さっさと行こうよ!」
そんなことより、大事な予定がぼくらにはある。
「……だな、行くか」
「おぉー! しゅっぱーつ!!」
二人は立ち上がって、服についた砂をはらった。
「んで、どこ行くんだっけ??」
「おいおいヒカリ……約束したろ? ってどこだっけ」
首をかしげる二人に、ぼくは答えた。
「わかんない! けど、行かなくちゃ。道はたぶんあっちだ!! 」
道は、なんとなく覚えている。
ぼくらは一体、何のためにそこへ向かうのか。
どうしてそこへ向かっているのか。
そこに何があるのか。
そんなのは分からない。
けれどみんな、そこに行かなきゃならないということだけは分かっていた。
☆☆☆☆☆
「すっげぇ……!お城みたい……!」
「ハルヤん家とは大違いだな……」
「オレんちとくらべないでくれるか!!?」
テレビでしか見れないようなお城のような家を目の前に、みんなで思わず声を上げた。
たしかに、ハルヤの家とは大違いだな。
もちろんぼくの家とも大違いだ。
この、大きな家こそが目的地。
「よし、押すよ?」
ぼくはためらわずに、ピンポンを鳴らした。
「可愛いお姫様でも出てきそうだなぁへへへ」
ヒカリは何を考えているのかすごいニヤニヤ顔をしている。
「まぁ、こんな家ならそれもありえそうだよな……」
「はーーい」
ドアの向こうから声が聞こえてくると、今さら緊張し出したぼくらは背すじをピンとさせた。
ガチャり。
ドアを開いたのはピカピカのドレスを着たお姫様……ではなく、いかにも仕事ができそうな服を着たかっこいい女の人だった。
「あら、ホントに来たわね! こんにちは!」
「こ、こんにちは! あそびに来ました!!! ヒビトです!」
「初めまして! 同じくあそびにきました!ハルヤです!!」
「初めまして!!! 好きです結婚してください!! ヒカリです!!」
みんなそろって頭を下げると、カッコいいおばさんはおかしそうに笑った。
「告白されるとは思わなかったわ……ごめんね、おばさんはもう他の人と結婚してるのよ」
「ッガーン!!!!」
ヒカリはひざからくずれ落ちる。
……こいつは何をやっているんだ?
「そんなにかしこまらなくてもいいわよ!あなたたちハナのお友達でしょう? ちょっと待ってて頂戴」
そう言われて、ぼくらは顔をあげた。
"ハナ"か。
ナゼかその名前には、すごく聞き覚えがあった。
ぼくらはきっと、その子に会いに来たんだ。
「さっ! 上がってどうぞ~!」
「「「おじゃましまーす!」」」
なんだか変な感じだ。
この家の中、なんだか空気が違うような……世界が変わったような……。
「ハナー! お友達が来たわよー!」
ハナがいるであろう部屋のドアを、おばさんはノックした。
「入っていいよー!!」
部屋の向こうから声が聞こえると、とおばさんはにっこりしてぼくらの方を向いた。
「それじゃ、ごゆっくりどうぞ!」
「ありがとうございます」
おばさんはそのままリビングへもどって行った。
「相変わらずめちゃくちゃ美人さんだったなぁ」
「めちゃくちゃ仕事できそうでカッコよかったな」
ハルヤとヒカリは別々の方向から感動していた。
「おいおい、今日はハナママに会いに来たワケじゃないだろ? 開けるよ」
ドアノブを回し、ゆっくりと開けた。
その向こうには、よく見慣れた白い少女がいた。
「来たよ、ハナ」
そこはテーブルとベッドと棚だけの、白くてシンプルな部屋だ。
しかし、その棚には何冊もの本やスケッチブックがおさめられていた。
「……みんな。今日は来てくれてありがとう」
ハナはぼくらの方を向いて、ていねいにおじぎをした。
彼女は笑顔だったが、相変わらずその目は光を失ったままのようだった。
「ハナちゃんが、描いた絵本見せたいって言ってたからな」
「ヒメー!!! 目は大丈夫なの!?」
「大丈夫じゃないけど、なんとなく慣れたから大丈夫!……ってあれ? まだみんなわたしのこと覚えているの??」
ハナは不思議そうに首をかしげたけれど、フシギなのはこっちの方だった。
「覚えてるよ! っていうか、昨日の今日で忘れるワケないでしょ!」
ぼくがツッコむと、ハナは思いっきり笑いだした。
「アハハハは!!! そりゃあそうだよね。 あーよかった! ていねいに自己紹介から始めるところだったよ」
「何言ってるのさ。ハナのこと忘れてたら、ここに来ることもないでしょ??」
ハナはゆっくりと首を横にふった。
「いや、それでもみんななら来てくれるって、わたしは信じていたよ」
「??」
「まあいいから! みんなそこにすわって!」
ぼくらは、言われるがままにテーブルの手前にすわった。
「ごめんねみんな、今日はお菓子とかはないの」
「いやいや大丈夫だよ!!!パンケーキは美味しかったけど楽しみだったワケじゃないよ!! 楽しみじゃないっていうか、それ目当てで来たんじゃないっていうか……」
あぁ、ヒカリ。おばさんのパンケーキすごく楽しみだったんだな……。
「絵本の読み聞かせか。 幼稚園以来だオレ」
「ぼくも。なんかなつかしいね!」
ぼくらの言葉に、ハナは少しはずかしそうなそぶりを見せる。
「が、がんばって描いたから、楽しんでくれるとうれしいな……!!」
そう言って、ハナは棚とカベのすきまからすごく大きな本を取り出した。
「うわっ!! でっか!!すご!!!」
「あの中に、絵を描いてったのか!?」
ヒカリもハルヤもぼくも、ただただおどろいていた。
「えへへ……それじゃあ、読むね」
ハナは、大きな本をテーブルに立てるように置いた。
どうやら、本があまりに大きいからハナは立って読むようだ。
「お前ら、しずかに聞いてような」
「ヒカリに言われたくないが、分かってるよ」
ハルヤの言葉にヒカリはムッとしている。
「そういえばハナ、目が見えないのに読めるの……?」
ぼくが聞くと、ハナはゆっくりうなずいた。
「読めるよ。だって――」
――――これは、"わたしの絵本"だから。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
タイトル 『ノンフィクション』
さく・え
きくち はな
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
本の始まりにくるページは、ただただ黒くぬりつぶされていた。
とてもくらくて、ふべんで、まっくらで、こわい。
それこそが、少女にとっての"世界"なのでした。
――――1ページ、消えていく。
少女はとあるユメを見る。
そこには、天使を名乗るうさんくさいヤツがいた。
天使は、少女の目を見えるようにしてあげられるという。
少女は、はじめは断ろうとしたものの……
『きっと、君のお母さんもよろこぶと思うよ……!』
天使の言葉に乗せられて、その提案を受け入れたのだった。
しかし、後になって天使は言った。
『ルールが2つある』と。
1つ目は、時間制限があり、3年でもとにもどるというもの。
2つ目は、"最後の1日は笑顔でいてほしい"という天使からの願いだった。
「思っていたより、カンタンだ!」と、少女は安心して、天使にバイバイをした。
――――1ページ、消えていく。
目が見えるようになった少女は、形と色のある世界を見てとても感動しました。
しかしただ1つだけ、"つまらない"と思ったモノがあったのです。
少女は、それがいったい何なのかをお母さんに聞いてみることにしました。
……次の言葉を聞いて、少女はひどくショックを受けました。
「それは、鏡にうつったあなたの姿よ」
少女はその時初めて、自分が真っ白であることを知ったのでした。
――――1ページ、消えていく。
少女のお母さんは、娘の目が見えるようになったことをすごく喜んでくれました。
「せっかく目が見えるようになったのだから、いろんなモノを見に行きましょう!」
白い少女は、お母さんといろんな場所へ行き、たくさんのモノを見て、その度に感動しました。
そしてある日青いお花畑で出会った、とあるおばあさんが言いました。
「見た景色を絵に描けば、いつでも思い出せる。そして、その絵を見た人に感動を伝えることができる」
その言葉に衝撃を受けた白い少女は、
「わたしも、見たものを絵に描こう!」
そう決意しました。
それは、白い少女が見た3年間を忘れないために。
それは、"世界を見た"感動をだれかに伝えるために。
――――1ページ、消えていく。
白い少女は、先天性白皮症という病気を持っていました。
何も見えなかった頃は、生きるだけでせいいっぱいでした。
だからこそ、気にすることもできなかった知らない人の視線や、耳に入る小言がイヤでイヤでたまりませんでした。
しかし、少女の目には時間制限があります。
『"そんなこと"を気にしている時間はない』
『イヤなことを気にしている時間があるなら、大好きな世界を描こう』
そう決意した白い少女は、大嫌いな自分のことを受け入れたのでした。
そして、ある日の病院からの帰り道。
道端に咲く一輪のタンポポを見つけました。
それを絵に描いてお母さんに見せると、不思議そうな顔でわたしに聞きました。
「どうして、タンポポに羽が生えているの……?」
――――1ページ、消えていく。
その日から、わたしは"羽と輪っか"が着いて見えるものを探しましたが、なかなか見つかりませんでした。
しかしある日、思いがけないところで見つかりました。
なんとそれは公園でサッカーをしていた女の子だったのです。
わたしより一回り大きい彼女の身体に着いていた"それ"が見えたときは、自分の目を疑いました。
「あたしはアヤカ!よろしくね!」
――――また1ページ、消えていく。
アヤカさんは言いました。
"あたしは昔ガンにかかっていた"と。
"それをユメの中に出てきた天使が治してくれた"と。
「こんな話、信じないよね」
悲しそうにそう言ったアヤカさんを見て、わたしは自分のことを打ち明けようと決意をしました。
「わたしも、天使さんにこの目を治してもらったんです……!」
アヤカさんは、少し悲しそうに笑って言いました。
「今日が最後の日なんだ」
それを聞いたわたしは、すごくショックでした。
アヤカさんは、明日にはまたガンに……。
考えるだけで、涙が出てきました。
そして、アヤカさんは泣いているわたしをやさしく抱きしめてくれました。
「今日会ったばかりのあたしのために泣いてくれるなんて、ハナちゃんはやさしいね」
――――また1ページ、消えていく。
アヤカさんは、最後の日だというのにあまり悲しくはなさそうでした。
それは、"天使さんに笑顔でいてほしいとたのまれたから"ではなく、実際そんなに辛くないからだとアヤカさんは言います。
「この二年間、サッカーができて……夢を追うことができてホントに楽しかった!」
そう言って笑う彼女は、わたしの目にはとても輝いて見えました。
わたしはそんなアヤカさんのことを描きたいと強く思い、そう頼むと彼女はこころよくOKをしてくれました。
アヤカさんと、彼女の相棒だというサッカーボールの絵は、わたしにとってこれ以上ない大切な絵になりました。
別れ際、アヤカさんは聞きました。
「ハナちゃんの、夢はなに?」
目まぐるしくまわる日々の中で、自分の夢のことなんて考えたことありませんでした。
けれど、たった1つだけ。
自分が嫌いなわたしが、ココロの中であることを望んでしまったことがある。
いつか、お母さんと花火を見に行った日のこと。
すっごいキレイな、打ち上げ花火を見上げる人たちを見て思ったこと。
「わたしは……わたしの夢は、だれかと花火を見ることです!!」
……次の日にスケッチブックを見ると、その絵の中からアヤカさんが居なくなっていました。
――――また1ページ、消えていく……?
時は経ち、目が見える最後の夏の日の夜。
夜は日差しのことを気にする必要がないので、わたしが出かける主な時間は夜中でした。
「なんだこれ」
わたしの目に映ったのは、ベンチの上でさびしそうに立っている一本の水筒でした。
「よしっと」
水筒の絵を描いてからすぐにその場を立ち去ろうと思いましたが……。
なんとなく、ホントに、なんとなく。
わたしは水筒のフタを外して、においをかいでみたのです。
「くっさぁぁぁぁぁああ!!!」
そのあまりにキツイにおいに、思わず声をあげすいとうを投げ飛ばしてしまいました。
「ぐはっ!!!」
そしてなんと、水筒を投げた先には男の子が居たのです。
その男の子は、たおれて動かなくなってしまいました。
「あぁ……どうしよう……」
わたしがしばらくあたふたしていると、男の子は目を覚ましました。
「んぅ……」
「あぁ、起きてよかった! ごめんなさい、頭のケガは大丈夫??」
――――またページが、白紙にもどっていく。
話を聞くと、その水筒は男の子が忘れてベンチに置いていったもので、中に入っていたのは牛乳だそうです。
「ごめんね、勝手に借りちゃって。絵を描いていたの」
わたしはさっき描いた水筒の絵を、男の子に見せました。
思えば、お母さんとアヤカさん以外の人に絵を見せるのは初めてでした。
なんて言われるか、不安だな。
変だって言われないかな。
「え、え?うまっ!!これ、ほんとにさっき描いてたの!?」
……ドキっとしました。
男の子は、前のめりになってわたしの絵をほめてくれたのです。
その時はホントにうれしくて、すごいヤバかったです。
「えへへ、ありがとう」
そう言ってから、わたしは自分の顔が熱くなっていることに気づきました。
「それじゃあね!わたし帰らなくちゃ!」
そのことを男の子に気づかれたくなかったわたしは、にげるようにその場から去りました。
公園からはなれたあと、ふとさびしい気持ちになりました。
「あぁ、もうちょっとだけお話ししたかったなぁ」
せめて名前だけでも聞いておけばよかったと、わたしは後悔をしました。
――――思い出が、1ページ消えていく。
……あれ、さっきのページの内容が思い出せない。
ぼくはハナとどんな出会い方をしたんだっけ?
――――思い出が1ページ、白紙にもどる。
彼女が物語を読み進める度に、そのページに描かれた絵は光となり、どこかへいってしまった。
――――また1ページ、消えていく。
また、大切な何かを忘れてしまった。
ぼくの記憶から、そのページがなくなってしまったんだ。
また1ページ、消えていく。
また1ページ、消えていく。
また1ページ、消えていく。
また1ページ…………消えないで。
おねがいだ。 なくならないで。
ぼくの中から、いなくならないで…………!
気づいたら、ぼくは手を伸ばして泣いていた。
その手を、ハルヤが掴んで止めてくれた。
「まだ、終わってないだろ」
そう言ったハルヤも泣いていた。
ヒカリも、表情を変えずに涙だけ流していた。
そんなぼくらをみて、ハナは1度うなずいてから続きを読みはじめた。
――――そして、また1ページ、消えていく。
わたしには、大切なともだちができました。
毎日が本当に楽しくて、すごく楽しくて、日差しや自分の白い身体のことなんて気にしていられないくらいに、みんなと一緒にいる時間が大好きでした。
だからこそ、忘れてはなりません。
時間切れが、近づいていることを。
わたしの過ごした日々が、特別なんだということを。
タンポポの花やアヤカさんと同じく、羽と輪っかを着けていたチビちゃんを見て、そう強く思いました。
――――1ページ、消えていく。
みんなと過ごした日々はとてもまぶしくて、キラキラしていました。
公園で遊んだり、ハルヤくんの家で遊んだり、たまにはちょっと遠いところへ行ってみたり。
特別なことは何もなくても、みんなと一緒に居るだけで、その時間はわたしにとってはかけがえのない宝物でした。
ある日、ヒビトくんが言いました。
「みんなで花火を見に行こうよ!」
――――そのページも、消えていく。
花火大会の前日のこと。
ヒビトくんのおともだち、白い子猫のチビちゃんの絵に異変が起きました。
その絵の中で、チビちゃんの足が消えかかっていたのです。
わたしはそれがどういうことかすぐに分かりました。
その日は、チビちゃんにとって"最後の一日"。
わたしは焦りと不安でいっぱいいっぱいになりました。
そして、気づいたらヒビトくんを連れて外へ飛び出して居ました。
――――また1ページ、消えていく。
走って、走って、走って、走り続けて。
たくさん汗をかきながら路地裏にたどり着いた時には……。
「やっぱり君も天使さんに……」
チビちゃんは、三本足になっていました。
その時のショックと、ヒビトくんの辛そうな顔を見ると。
その足で、チビちゃんはどこかへ向かって歩きだします。
「おまえ……どこに……」
「にゃあにゃあ、わうみゃう」
わたしたちに何かをうったえかけるようにチビちゃんが鳴きました。
「きっとチビちゃんは、『ついてこい』って言ってるんだよ」
「にぁーう」
チビちゃんは三本の足で、商店街を抜けた先にある電柱まで歩きました。
「チビちゃん、あなたはここで天使さんと……」
「みぁぁ」
チビちゃんは大きなあくびをしてから丸くなりました。
「なぁ、足が良くなったらいっしょにあそぼうって言ったよな」
ヒビトくんはチビちゃんに語りかけるように言いました。
「お前に聞いてほしいことがたくさんあるんだ」
きっと、チビちゃんはもう……。
「そうだ……今度みんなで海へ行くことになったんだ! 花火も見るんだよ! すごいキレイなんだってさ! 」
起きることはないのだと。
「それにな、さいきんおこづかいためてるんだ! お前にいいエサを買ってあげたくてさ! 」
そう、ココロのどこかで理解しながらも。
「それとさ、こんどウチでお前を飼っていいことになったんだ! おかあさんはネコアレルギーとか言ってたけど……だいじょーぶ! ぼくがなんとかするから……」
ヒビトくんは、チビちゃんに語りかけました。
「お前ともっともっとたくさん……ぼくは……」
チビちゃんの側に一輪の白い花とネコカンが置いてあることに気づきました。
「これって、チビちゃんの……」
つぎの瞬間、わたしたちは"光"につつまれたのでした。
――――そして1ページ、消えていく。
光は晴れ……。
そこに居たはずのチビちゃんの姿はもうどこにもありませんでした。
「ん?? えっ?」
ヒビトくんは、まるで何がなんだか分からないといった様子でした。
「おかしいな、ずっと起きてるのに寝起きみたいだ」
「ヒビトくん……大丈夫?」
今の"光"は、もしかして……。
「うん? なんか変な感じがするけどだいじょーぶだよ! ハナこそなんか不安そうな顔してるけど、どうしたの?」
どうしてそんな反応をするのか、わたしは不思議でたまりませんでした。
「えっ!? だってチビちゃんが!」
「チビちゃん? ダレそれ??」
「……!!?」
ヒビトくんはなんで……そんなこと言うんだろう……?
「だって、さっきまで……!!」
「思い出した! ハルヤたちと宿題進めてたんじゃん! でもなんでぼくたちこんな場所に?」
どうなっているのやら……ワケが分からなくて、わたしは不安な気持ちでいっぱいになりました。
すると、ヒビトくんは電柱の側にある白い花とネコカンが置いてあることに気がつきました。
「白い花に、ネコのエサ? なんでこんなのが」
彼は3秒ほどそれを見つめた後、立ち上がろうとしたのですが……。
「変なの。もう行こうかハ……ナ……」
足に力が入らないのか、上手く立ち上がれないようでした。
「ヒビトくん……」
わたしが手を貸すと、ヒビトくんはなんとか立ち上がることができました。
「どうしちゃったんだろぼく。ごめんね、ありがとう」
立ち上がったヒビトくんは歩きだしますが、フラフラしていてうまく進めていませんでした。
「あれっ?なんだろう……この感じ」
ついに、彼はカベにもたれかかってしまいました。
「あれ……? えっ?なんでぼく、泣いて……」
彼のココロが、しずくになって地面にこぼれ落ちたその時……。
「ハナ……ぼく、大切な何かを無くしちゃったみたいなんだ……」
わたしは、気づいたら彼を抱きしめていました。
「大丈夫。わたしはちゃんと、分かってるから」
何がなんだかわからなくて、不安で、悲しくて……。
「ごめん……ハナ……」
心細くて、それをなんとかしたくて……。
「いいの。わたしがこうしていたいの……」
――――また1ページ、消えていく。
物語のページは、のこりあと少しみたいだ。
ぼくはもう、この絵本の物語を……キミとの思い出も……あまり思い出せないのだけれど……。
じゃあ……このキモチはなんなんだろう。
この話をきいているぼくは、どうして泣いているんだろう。
絵本を読んでいるキミは、どうして泣いているんだろう。
――――また1ページ、消えていく。
夜の旅館で、みんながねむった後もわたしは眠ることができませんでした。
最期の1日が近づいているからか、どうしてなのか、全くねむたくはなかったのです。
「ちょっと、外でよう」
横に居るキミの寝顔を、まだ見ていたい気持ちはあったけれどね。
――――また1ページ、消えていく。
明るい時間はあれだけの人がいた海も、今は誰もいません。
「気楽だ……」
人の目と日差しを気にしなくていいので、わたしは夜の時間が大好きでした。
「んんぅ~~!!!」
キレイな星空の下で大きく伸びをすると、すごく気持ちが良くなりました。
キレイな星空に照らされる大きい大きい夜の海。
「良いな……」
スケッチブックは持ってきませんでした。
昼は、みんなに心配されたくなかったから描いていましたが……。
「描いても、もとにもどったら"消えちゃう"からなぁ」
そんなことを考えていると、後ろからわたしを呼ぶ声が聞こえてきました。
「ハナーー!!」
それは、よく聞き慣れた彼の声でした。
「ヒビトくん……?」
「探したんだよハナ! あぁーびっくりした!」
あぁ、申し訳ないことしちゃったな……。
「ごめんね、ヒビトくん。心配かけちゃって」
彼はぐったりした様子でしたが、わたしに笑いかけて言いました。
「見つかってホントによかったよ。 どこか行っちゃったのかと……」
「どこか……か」
わたしは海の方へ向き直って、やわらかい砂浜の上ですわりました。
もとにもどったら、わたしはどこへ行っちゃうのかな。
少なくとも、みんなの側にはいられないだろうなぁ。
今住んでる家も、わたしの目が見えるようになったから引っ越して来たワケだし。
それでも……。
「みんなに何も言わないで、遠くに行ったりはしないよ」
そういうと、ヒビトくんもわたしの横にすわりました。
「もしそうなるならちゃんと、"バイバイ"はするから」
お別れの言葉は、ちゃんと伝えたいなぁ。
花火を見た後でいいかな?
「ハナは、どこかへ行ってしまうの?」
彼の言葉に、わたしはうなずきます。
「…………うん。どこかわからない所に行っちゃうかもしれないんだ」
夜の海は、波の音がよく聞こえました。
「みんなとも、もう……」
会えなくなるだろうなぁ。
なんて、口には出しません。
泣いちゃうから。
「"ぼくがずっと絶対にハナを支えてあげる"」
それは、君がしてくれた、わたしとの約束でした。
「そう、約束したでしょ? 忘れちゃった?」
「…………忘れてないよ。あの時、すごくうれしかったもん」
でも、きっとそれはムリなこと。
もとにもどったら、会う会わない以前に忘れてしまうんだから。
出会ったことさえ……。
約束したことさえ……。
忘れることさえも……。
「ハナがどこか遠くへ行っちゃうのなら、ぼく追いかけるよ。君の元へたどり着くまで」
ヒビトくんは、暗くなったわたしのココロを照らすように明るい笑顔を作りました。
――――思い出が、消えていく。
「ヒビトくん……」
何も変わらないと分かっていても、彼の言葉を聞くと、ホッと安心してしまう自分がいました。
その度に、涙がこぼれそうになるのです。
「あぁゴメン! 泣かせるつもりは……!」
そして、そんなわたしを見てヒビトくんはあたふたしていました。
「……おバカなヒーローさん」
……出会えたのが君で、本当によかった。
わたしは……彼のほっぺたに……
――――そのページも、消えていく。
「ママが言ってた……初めての"ちゅー"は大切なんだって」
「えっ……えっ……えぇ!?」
彼は、顔を赤くして信じられないといったような表情をしていました。
それを見て、わたしは自分がしたことに対して急にはずかしくなってしまいました。
「イヤだった……?」
おそるおそる、ヒビトくんに聞いてみます。
「い、いや!イヤじゃないよ! ちょ、ちょっとびっくりしちゃって!」
そんなヒビトくんを見て、いろいろガマン出来なくなったわたしは彼のムネに飛び込みました。
「バカ」
バカ。
「バカバカバカバカ」
バカバカバカバカバカバカバカバカ。
「……うれしかったよ。ありがとう、ハナ」
「…………今度は、ヒビトくんからしてね」
――――その思い出も、消えていく。
「ねぇ、ヒビトくん、ちょっと歩こう?」
「うん、そうしよう」
「ねぇヒビトくん、初めてあったときのこと覚えてる?」
――――わたしももう、あまり思い出せなくなってきた。
「うん、ちゃんと覚えてるよ。あの時、勇気をだしてよかった」
――――彼だってもう、思い出せない。
「わたしも、絵を描いててよかった」
「あの後すいとうを顔にぶん投げられたけど」
「あはははは……あの時は…………ごめんなさい」
――――みんなで笑った思い出も、何もかも。
「このまま時間が止まっちゃえばいいのに」
「ぼくもおんなじこと思ってた」
――――その思い出も、無くなってしまう。
「ねぇ、ヒビトくん」
「なぁに? ハナ」
――――それでも、たった1つだけ。
「おとといさ、どうして電柱の前で泣いたの?」
――――もしも、残るものがあるのなら。
「うーん……"悲しかったから"? あっ!ハナあれ!」
――――変わらない何かが、あるとするのなら。
目を向けた先には、真っ暗な夜空を切り開く太陽さんがいました。
その時になってわたしは、ようやく気づいたのです。
「それなら、もしかして…………」
☆☆☆☆☆
「白い少女はそこで倒れてしまいました」
「目が覚めた頃には病院で、遠くから花火の音が聞こえました」
「そのときにはもう、なにも見えなくなっていました」
「そして、わたしの夢ももう叶えられないことを知りました」
「それでもわたしは、みんなと花火をみている夢の景色を絵に描きました」
「そして、最期の空白を埋めたときに、わたしは気づきました」
「いつのまにか、わたしは"わたしのことが好きになっていた"のです」
「最期の最後に、それに気づけたことが何よりもうれしくて、何よりも悲しくなりました」
「わたしを変えてくれたみんなとは、もうお別れになってしまうからです」
「それに気づかせてくれたみんなとの、思い出が無くなってしまうからです」
「そう思って、一人大泣きしてしまったわたしの元に、彼は来てくれました」
「後から、みんなも来てくれました」
「そしてみんなは、たおれて迷惑をかけたわたしに変わらず明るく接してくれました」
「ヒビトくんは、わたしの目を治してくれると言ってくれました」
「そして、思いました」
「みんなとともだちになれたことは、みんなと思い出を作れたことは」
「花火を見たかったなんてことは小さく思えるくらいに」
「とても、とても」
「愛しいことなんだって」
「それでね、この本のページはもうないから」
「絵本はここで終わりなんだけどさ」
「最後に、みんなに伝えたいことがあるんだ」
「……何がなんだか分からないって顔をしているね」
「読んだ内容、覚えていないんだもの。 仕方ないよね」
「でも、どうしてか泣いているね」
「なんで、わたしたちは泣いているんだろうね」
「じゃあ、伝えるよ」
「その前に、ここまで静かに聞いてくれてありがとうね」
☆☆☆☆☆
大きくて分厚い白紙の絵本を閉じてから、ハナはぼくらを見渡した。
みんな、絵本の内容はなにも覚えていないだろう。
それでも、なんだろうな。
この気持ちは。
「わたしさ、気づいたんだ」
「……何に、気づいたの?」
「ヒビトくんがさ、電柱の前で泣いていたのは『悲しかったから』って言ったでしょ?」
「言ったんだと、思う」
「あの時、たしかに"もとにもどった"はずなのに、ヒビトくんがそう思えたのはさ」
気がついたら、世界にヒビが入っていた。この世界は元に戻ってしまうみたいだ。
「――――この世界がもとにもどっても、"ココロだけは変わらない"からなんだよ」
泣きながら、一言ずつ。
ココロをこめて彼女は語り続けた。
「みんなからもらった感情は……やさしい気持ちは! 自分を好きになれた、あたたかいこのココロは……!! そのままなんだよ……!!世界がもとにもどっても、それだけは絶対になくさないんだって!!だからね」
「だから……わたしは辛くなんてないよ!!もし無くなっても、忘れてしまっても! みんなと会えたことは、絶対に意味のないことなんかじゃないから!みんなといっしょにいた時間は、これからもわたしの宝物だから!!ココロの中で、ずっと大切にしてるから!!」
部屋のカベや天井がはがれはじめる。
そのスキマから"光"がさしこんだ。
「みんなに、お願いしたいことがあるの。聞いてくれる?」
「あぁ、オレたちにできることなら!」
「あたりまえだよ!! ヒメの言うことならなんでも聞くよ!」
「うん、何でも言ってよ。ハナ」
ぼくたちは、白い少女の最後の言葉に耳を傾けた。
「――――たとえ世界が元にもどっても、わたしのことを忘れちゃったとしても……
みんなは、変わらないでいて。
みんなが今持っている"ココロ"を、そのままずっと大切にしてほしい。
そうすればわたしたち、またどこかで会えるから。絶対に。
それが、わたしからみんなへの最後のお願い」
ヒカリは、涙をふいて親指をたてた。
「お安いご用さ!ヒメ。わたしたちの友情は、そう簡単に変わったりしないよ!!」
ハルヤも、涙をふいて笑った。
「ずっと変わらない……か。まぁ、コイツらのバカさっぷりは一生変わんねぇだろうから、安心しろよハナちゃん!」
ヒカリは、いつものようにハルヤに言い返した。
「ハルヤにだけ言われたくない!!けどまぁ……それは言えてるね!
もちろんハルヤがマジメバカなのも変わらなそうだし!」
ぼくも、涙をふいたけど、ダメだ、涙止まらねぇ。
「ぼくは……変わらないよ。約束するよ。何があっても、ずっと……ずっとずっとずーーーーーっと!!ハナのことも! みんなのことも、大好きだから!!!!」
「ヒビトお前……めっちゃ熱いこと言うな……!! その気持ちは同じだ!! オレもみんなのことが大好きだ!」
「そうだな……わたしもそうだよ。でも、お前らなんかよりわたしの方がみんな大好きだからな!!!!そこんとこ分かっとけよ!!!!」
「みんな……ありがとう。今まで、ホントに……」
あぁ、おかしいな。
ぼくも、ハナも、 ハルヤも、ヒカリも、泣きながら笑ってやんの。
今までで一番泣きながら、今までで一番の笑顔をして、ハナは言った。
「ヒビトくんも、ハルヤくんも、ヒカリちゃんも……みんな――――
――――大好きだよ。またね」
~~~~~~~~~~~~~~~
それは、まるで劇場の幕が降りて場面が転換するときのように――
――――世界は、光に包まれた。
~~~~~~~~~~~~~~~
「んん……うぅ……」
あぁ、朝だ。まぶしいなぁ。
「あれ……」
まぶしいって、なんだ?
わたしの世界は、真っ暗でしかないじゃないか。
「でも、気持ちの良い朝だ」
きっと、外には太陽さんがのぼっていて、鳥や虫さんが鳴いているのだろう。
「あら、おはよう。ハナ」
お母さんの声だ。
今日も朝から、わたしを起こしにきてくれたみたい。
「お母さんは、すごいキレイな人なんだね」
「あら! まるでお母さんのこと見えてるみたいに……」
言葉を止めて、お母さんはわたしに駆け寄りました。
「まさか……見えてるの……?」
そんな反応をするお母さんにわたしは思わず、笑ってしまいました。
「見えないよ。でも、分かるんだ」
わたしがそういうと、お母さんはきっとほっぺをふくらませているでしょう。
「……もぉ~なによそれ! でも嬉しいわ。 ありがとう」
お母さんは優しくわたしのことを抱き締めました。
あぁ。 あたたかいなぁ。
なんだろうな。すごい、わたしのココロがあたたかい。
「ねぇ、お母さん。 笑わないで聞いてほしいことがあるの」
「いいわよ。何でも言ってちょうだい」
どうしてそんなことを思ったのか。
自分でもわからない。
でも、このココロは……あたたかい気持ちから生まれたこの思いは……。
叶えたいと、そう思うから――
「――――わたし、絵を描いてみたい」
オリジナル小説シリーズ
『ぼくらは晴れて人生を卒業します』
第一章
「すっごいキレイな、ヒューどっかーん!」
~完~




