第二話「ノンフィクション」
少年は出会った。
悪役だろうと、ヒーローだろうと、ネコだろうと、ともだちはともだち。
初対面の相手に「目付きが悪い」とディスられようと、笑い合えればそれでいい。
愉快な奴らに、少年は出会った。
そんな「すっごいキレイな、ヒューどっかーん!」2話です。
よろしくお願いします。
タイトル【ノンフィクション】その1
さく・え きくち はな
あるところに、目が見えない女の子がいました。
その子にとってのこの世界は真っ暗で、とてもふべんなものでした。
自分の力でごはんを食べれないし、おトイレだって一人でするのはムズかしいです。
かべや物がどこにあるのか分からないので、よく身体をいろんなところにブツけてしまいます。
それにもちろん、お友達をつくることも出来ませんでした。
その女の子はいつも、
『わたしの目がちゃんと見えてたらよかったのに』
そう思っていました。でもそれを言うと、お母さんとお父さんはきっと悲しむので、口に出すことはありませんでした。
ある日、女の子はユメを見ました。
真っ暗なユメの中で、だれかがふしぎな声で話しかけてきます。
「はじめまして。こんにちは、ぼくは天使といいます」
いきなり知らない人に話しかけられて、女の子はとてもびっくりしました。
こわがりながらも、どうにか返事をします。
「は、はじめまして!わたしはハナです。天使さんは、わるい人ですか??」
初めて会った天使さんを"わるい人"かと思ってしまったことに理由はありません。なんとなくのことでした。
天使さんはこまったように言いました。
「えーっと……良い人でも悪い人でもあるかもね。アハハ」
「あやしい人だなぁ」
女の子は天使さんから離れるため、飛んで逃げようと思いました。
ユメの中の女の子は、なにも見えなくても自由になんでもできるのです。
「じゃあね。バイバイ天使さん」
ポケットから取り出した羽を背中につけて、フワフワ飛ぼうとしたその時、天使さんがあわてて呼び止めました。
「ちょ! ちょっと待って! キミにていあんがあるんだ!ぼくならキミの目を見えるようにしてあげられる! 」
「えっ!?本当に!!!?」
目が見えるようになる。それがもし本当なら女の子にとって、ワクワクが止まらないくらいに、すごく、すっごーーーく、うれしい話でした。
ですがおかあさんに、
『あやしいひとに付いていっちゃだめよ。あなたは目が見えないんだから人一倍、そういう人には気をつけなくちゃいけないの』
と、何度も言われていたことを思い出しました。
「ごめんなさい、天使さん。おかあさんにいいか聞いてこないといけないわ。それじゃあね」
もう一度飛び立とうとすると天使さんは、またまた「まって!」と止めてきました。
「ちょっとまって、悪いけどボクが君に会えるのは今だけなんだ! 今をのがしたらもうチャンスはないんだ!!」
女の子はますます、この人うさんくさいなぁと感じました。
それでも、もしもこの目が見えるようになるチャンスがあるなら、と考えずにはいられません。
「きっと君のお母さんもよろこぶと思うよ……!!」
「おかあさんが……?」
『わたしがあなたをちゃんと産んでいられなかったから……』
そういって泣いていた、おかあさんのことを思い出しました。
『わたしがちゃんと生まれることができなかったのが悪いの。おかあさんは悪くないよ』
そういうと、おかあさんは小さい声でなんども『ごめんなさい、ごめんなさい』と言いながら女の子をだきしめました。
そのとき、おかあさんに悲しい思いはさせたくない。そう強く思ったのです。
「天使さん、わたしの目を見えるようにしてください」
あらためて女の子は天使さんにお願いしました。
「そう言ってくれてうれしいよ。わかった、君の目を見えるようにしてあげる。ただし、ルールが2つある」
「ルール……?」
女の子は不安になりました。
「そう。まず1つは時間制限があること。3年でもとにもどる」
「ずっと見えるようになるんじゃないんだね……」
「ごめんね、できることならそうしてあげたかったんだけど」
天使さんは、申し訳なさそうに言いました。
「ううん、大丈夫。三年もあればおかあさんのこと、たくさん笑顔にできるから」
「やさしいんだね、君は」
「えへへ」
女の子は、ほめられて少しだけうれしくなりました。
「そして、2つ目はね――――」
☆☆☆☆☆
ヒーローごっこやろ!
キミ目付き悪いから悪役ね!
いきなり真っ正面からそう言われたぼくは、ワケが分からなくて、頭も身体も石のように動かなくなった。
なにその、
サッカーやろうぜ!
お前ボールな!
みたいな。
しかもちゃんと悪口までつけやがった。
「ほら行くぞ!悪役くん!」
気づいたら手をつかまれていた。
悪魔みたいな子だなぁ。
というか、同じくらいの女子と手をつないだの初めてだ! やったぞ! 全くトキメかないけど!!
砂場まで引っぱられて、先にあいさつしたのはもう一人の男子の方だった。
「初めまして、オレはハルヤ!よろしくな!」
ハルヤ君はニカッ!と笑う。
いかにも、やんちゃって感じがする。
「は、初めましてハルヤ君。ヒビトっていいます。よろしくお願いします……」
まずい、なんかうまくしゃべれないぞ。
「呼びすてでいいよ!あと、もっとフツーに話してくれていいからな!」
そう言ってもらえて、少しほっとした。
「わかった。ハルヤ、でいい?」
「うん!そっちのがオレも話しやすい!」
やんちゃそうな見た目して、めっちゃいいヤツじゃないかコイツ!!
てっきり、となりの女子みたいにとんでもないことを言ってくるのかと思った。
ハルヤとはすぐ仲良くなれそうだ。
安心できたのはほんの少しの間で、問題はやはりこの女子だった。
「そうだぞ!ヒビト!そんなマジメ君みたいなしゃべり方じゃ、悪役になれないぞ!!」
ボク、コノコト、ナカヨクナレルキガ、シナイ。
「ヒカリ、その前にお前も自己紹介しろよ。名前わかんないだろ?」
「ハッ?!忘れてた!!!わたしの名前はヒカリ!またの名はヒーロージャー濡れ鴉!!よろしくね、ヒビト!」
「ぬ、ぬれ……?よ、よろしくヒカリ!」
「濡れ鴉!知らない?濡れたカラスの羽の色で、ヒーロージャーのヒロインカラーなの!!」
えっへん!と、じまん気に説明してくれた。
色だったんだ。っていうか、それすごく悪役カラーじゃないか!?
「そんなことより!早く遊ぼうぜー!ヒビトも!」
「おっけー!ほら、行くぞ悪役くん!」
また手を引っぱられた。
ヒーローと悪役が手をつないでいいのか??
まぁ、いっか。
「さぁやろ!ヒーローごっこ!」
「ところでさ、ヒーローごっこってなにやるの??」
なんか、変なエンギとかさせられるのかな。
「えっと、この砂場の足場を、ヒーローと悪役が反対から渡りあって、ぶつかったらじゃんけん! 負けた方は最初から。勝ったら進める。はやく進みきった方の勝ち! もちろん途中で落ちても最初から!」
ハルヤが分かりやすく説明してくれた。
よかった、思ってたのとはちがうけど、なかなか楽しそうだぞ?
「じゃあ、わたしヒーロー♪」
いつの間にかヒカリは足場についていた。
悪役かぁ、ぼくもほんとはカッコいいヒーローがよかったなぁ……
「んじゃオレ悪役やるわ!」
「ぼくも悪役やる!!!」
「おっけー!ヒビトとオレで悪役二人だから落ちたら交代しよっか。先にやるから、見てて!あと、はじめの合図はヒビトがやってくれ」
「わかった!」
「かかってこいやヒィィロォォ!!」
ハルヤが悪役っぽく叫んだ。
「フハハハハ!二人だろうがザコはザコ!チリがつもれどゴミ山よ!!濡れ鴉様に立ち向かうその威勢、認めてあげるわ!かかってきなさい!!!」
このヒーロー悪役より悪役っぽいこと言ってる!!!!
ハルヤ、ぼくたちで真の悪をたおそう!
「よーい、スタート!!!」
ハルヤとぬれがらす、最初のじゃんけんはハルヤが勝った!と思ったら、ハルヤは負けたはずのヒーローに押されて落ちていた。
「てめぇ!!ひきょうだぞ!!!」
「戦に卑怯もクソもあるかぁ!!わたしが勝つんだぁぁ!」
ぬれがらす、やりやがった……!!
「ほら、次ヒビトの番!」
ハルヤにカタを叩かれた。
「お、おう!かかってこいぬれがらす!!」
そんな遊びを、日がしずむまでまでやっていた。
最初はなんだかハズかしかったけど、気づいたら途中からすごく楽しくなっていて、二人とバイバイしたあとも何故かぼくはニヤニヤしながら帰ったんだ。
☆☆☆☆☆
「ただいまー!!」
「おかえりー!!ってどうしたの!?砂まみれじゃない!」
「え?」
カガミを見てみると、あたまはボサボサで、服は言われた通り砂まみれだった。
「ヒビト……またどっかぶつけたり転んだりしたの??」
ママが心配そう聞いてきた。
「ちがうよ。ぼく、ともだちができたんだ」
「……そっか。フフフ、よかったわね!さぁ、とっととお風呂入ってきなさい!」
ママは安心しているような、あきれているような、心配しているような、でも、どこかうれしそうな、よく分からない顔をしていた。
「わかった!ところで、今日の夜ごはんなに??」
「今日はね、カレーうどん!!!特別に卵二つ入れてあげよう!」
カレーが続いた最後の日は残ったルーを使ったカレーうどん。ウチではよくある流れだった。
それにしても、ゆで卵二つ!?なんてぜいたくな!!!
「やったー!!!なんで!?ありがとう!!」
「うーん、今日は気分がいいの。まぁそれはいいから、お風呂入りなさい!作ってまってるから!」
「はーい!」
ママのうれしいことってなんだろう。
まぁいっか!カレーうどん楽しみだなぁ。
☆☆☆☆☆
次の日、またぼくはチビのところに来ていた。
「なぁチビ、聞いてくれよ。ぼく最近いいことがあったんだ」
「ナァ~ウ」
チビはやる気のなさそうな声を出す。
「聞きたいか??実はな、ともだちができたんだ!!やったぞ!チビ!わーい!!」
しかも、知らん顔で大あくびをしている。
コイツめ、少しくらいともだちのじまん話を聞いてくれたっていいじゃないか。
「チビにもさ、ぼく以外にともだちとかいるのか?会ったときから一人……というか一匹だったけど、ママとかパパはどこかにいるのかな」
「ミャァァウ」
「まぁ、だいじょうぶか。ぼくがいるからな!」
「ナァウゥ!」
「お、こっち来た。いいこいいこ」
ぼくはチビをヨシヨシしようとした。
が、スルリとよけられてしまった。
「アァ!ウゥ!」
チビはぼくのすいとうをパンチしている。
「はいはいわかったよ。お前ほんとミルクのことしか考えてないよなぁ。いいんだけどさ」
小皿にそそいだミルクをペロペロ舐めているチビを見て、一つ思いついた。
ミルクに夢中になってるときなら、コイツの左足に巻いてあるハンカチを取り替えやすいかもしれない。
そーっとチビの左足のハンカチをつかむ。
よし、外せた。このまま新しいのを着けてしま……。
って、あれ?
「お前、最初に会ったときより、ケガひどくなってないか??」
前よりも、明らかにケガのアトが大きくなっている気がする。
「みぁぁう……」
「みぁぁうって。お前、ケガしてるんだから変なことしちゃダメだぞ!大人しくしてないと!動くときは、ちゃんと周りをよく見なきゃダメなんだからな!」
「みゃあみゃあ」
「みゃあは一回でよろしい!」
「みゃあ……」
ホントに、はやく治してくれよ??
チビに新しいハンカチを巻き付ける。
「お前の足がよくなったら、もっといろんなとこ行って遊べるんだけどなぁ」
ぼくはチビにバイバイして、二人のいる公園へ向かった。
☆☆☆☆☆
「あのさ、気になってたんだけど、『ヒーロージャー』ってなに??」
二人にずっと気になっていたことを聞いてみると、ヒカリにお笑い芸人のようなリアクションをされてしまった。
「し、信じられない……!ヒーロージャーを知らないなんて!!それでも人類!!?」
「人類だよ!!」
下らないことを言い合っていると、ハルヤが説明をしてくれた。
「そりゃ知らないのも当然だよ。なんたって放送されてるの、深夜3時だし」
「そんな時間に!!?」
ぼくたちが寝た後にやってるのか……そりゃ知らんわ……。
「うん、オレのパパがヒーロージャーの大ファンでさ。この前ヒカリがウチに来てたとき、それのDVD見てたらドハマりしてんの!」
「そうだぞ、あれ見てハマらないやつ人間じゃないから。ヒビトも見な!ていうか見ろ!!」
「ハマらなくても人間だよ……でも、少し気になるかも」
「そしたらヒビトも今度オレんち来なよ!一緒に見ようぜ。ヒカリほどハマりはしないと思うけど、結構面白いからな!」
「わかった!今度ね!」
ハルヤの家、どんな感じかなぁ、楽しみだな。ヒーロージャーも。
っていうか、ちょっと前までひとりぼっちだったのに、今は二人もともだちができて、そいつの家に行くなんてやくそくまでしてる。
チビがいたから、そんなにさみしくなかったけど、新しい友達ができて少しうれしいなぁ。
ポツン。
近くでそんな音がした。
「お?なんかふってきた?」
ハルヤがそう言って空を見上げた。
つられてぼくとヒカリも上を見上げると、どこまでも続くくもり空があった。
そして次の瞬間、
「うぎゃー!!ふってきたー!!!」
大粒の雨がぼくたちに思いっきりふりそそいできた。
「やばい、ぼくカサもってない!!」
折りたたみガサも、今日は家に置いてきてしまっている。
「わたしも持ってねぇぇ!!」
「オレもカサない!今日はもう帰るぞ!!!」
「よっしゃ帰るぜー!!走れお前らー!!!」
ヒカリが先に走り出した。
「なっ!!先行くなヒカリ走ると危ないぞでもおれたちも走るぜ行くぞヒビトー!!!!」
「えっ!! ま、待って2人ともー!!!」
雨の道を、3人で走った。
思いっきり、雨を弾き飛ばしながら走った。
出来た水たまりも、強く踏み抜いて。
楽しくなって、ワケがわからなくなって、みんなで笑いながら帰るんだ。
橋に差し掛かったところで、ふと横を見たぼくは思わず足に急ブレーキをかけた。
「な、なんだあれ?」
橋の下、雨で少し勢いの増した川の中に、茶色い毛玉のような何がが見える。
「こ、子犬……? 泳いでる……ワケないよな?」
あの子犬まさか溺れてるのか!!?
「なんであんなとこに……助けなきゃ!!」
ホントに?
「下に降りれる場所……どこか……!!」
そういえば、ぼくって泳げるんだっけ?
「あそこから降りれそうだ、急いで行かなきゃ……!」
おそいよ、間に合わない。
「なんで、僕の足…………」
ほらまた、動けなくなった。こんな大事なときに。
「行かないと、あの犬が……!! 動け……!」
ほらまた、助けられない。
「うるせぇよ……動けよ……お願いだから……」
しかたないよ。
ぼくなんだから。
出来ないことだってあるよ。
「うるせぇ……」
あの時みたいにさ。
あきらめよ?
「ヒビト!! どうしたー? って何酷い顔して打ち震えてんだ!? 大丈夫か!?」
声をかけられて初めて、ヒカリがそばまで戻ってきていたことに気づいた。
「…………ヒカリ? あそこに……犬が……」
「犬?? 川の中……ってあれ!!!!流されてね!!?? よーーっし!!」
そう言うとヒカリは、荷物を地面に置いて軽いストレッチを初め出した。
「ヒカリ……どうすんの??」
「愚問。わたしは"ヒーロー"だぞ?」
「えっ?? "ぐもん"ってなにどういうこと!?」
ヒカリは反対側の歩道まで下がる。
「"わたしがこれからすることは、わたしにとって当たり前の行動"って事だ!」
そしてゆっくりと、陸上選手みたいに構えてから叫んだ。
「よっしゃいくぜええええええええええええええええぇぇ!!!!! うおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!!!!!!!」
そのまま止まることなんて1ミリも考えてなさそうな勢いで橋の縁にある手すり目掛けて走り出した!
「え!? マジで!!!?」
「いいいいいいやっっほおおおおおおぉぉぉいぃ!!!!!!!!」
飛んだ。
ぼくの背より高い手すりを。
ヒカリは軽々しくとびこえてみせた。
まるで曇なんか全部ふきとばしてムリヤリ晴れにしてしまいそうな勢いで。
まるで自分に出来ないことなんて何もないみたいな感じで。
太陽みたいにキラキラした笑顔で。
川へ、落ちていったのだった。
☆☆☆☆☆
「死ぬかと思ったぁぁ……なぁワン公!!」
「アン! キャン!! 」
ずぶ濡れになり身を寄せ合う、ヒカリと子犬。
「死ぬかと思ったじゃねえよ危ねぇよお前あんまり泳ぐの得意じゃないのになんで飛び込んだんだヒカリぃぃぃ!!!!」
ハルヤがヒカリの肩をつかんでグラグラ揺らす。
そう、ヒカリは川に入って泳ぐのかと思いきや、ふつうに溺れていたのである。
そして溺れながらも気合で子犬の元までたどり着いてそれをキャッチ、流されるままになっていたヒカリと子犬を、先にある川辺まで死ぬ気で走ったハルヤが何とか捕まえたのだ。
その時のぼくはというと、ただただ橋の上で動けずにいたんだ。
「ありがとうだけどうるせぇよぉ〜ハルヤはわたしのおかあさんかよぉ〜」
「だれがおかあさんだよああぁぁあ!!お前ほんとそういうとこだぞお前ほんとに!!!!」
「ま、まぁ子犬もヒカリも助かったんだし、よかったじゃん!」
「なー! ヒビトそうだよなぁー! 」
ぼくがヒカリのフォローをすると、ハルヤはあきらめたようにため息を吐いた。
「はぁ……あんま心配かけさせんなよ……」
「 キャン!!!!」
子犬はぐったりしてるハルヤの周りをキャンキャン言いながら走った後、どこか遠くへ走り去ってしまった。
「行っちゃった。あの子飼い犬だったのかな……?」
ヒカリは不思議そうに首をかしげた。
「首輪ついてなかったし、この辺じゃめずらしいけど野良じゃないか? まぁどっちでもいいっしょ。とにかく帰ろうぜ……オレもう死にそう……」
息を荒らげて、フラフラしながらハルヤはゆっくり立ち上がった。
「おー帰るぞ!! 競走かー!!??」
ずぶ濡れの服で、走るジェスチャーをしながらヒカリは笑っている。
「死にそうっつってんだろぶちのめすぞ」
「HAHAHA、ジョークだよジョーク。イギリスンジョーク」
「はぁ。 ほら、ヒビトもボーッとしてないで帰るぞ」
「ほら置いてくぞヒビト〜!」
「あっごめん、行こ!」
ぼくは、考えていた。
忘れようとしていた日のこと。
けれど、忘れちゃいけないあの日のこと。
あの時、もしぼくがヒーローだったならって。
ヒカリみたいに、勇気があったなら。
すっごいキレイな花火を見て、かなしくなることなんてなかったのかなって。
それなら、もう遅いかもしれないし、なれるかなんてわかんないけど……。
ぼくもヒーローになりたいだなんて。
ちょっと、思った。
☆☆☆☆☆
「ただいまー!!」
「お帰りなさい!雨大丈夫……じゃないね。知ってたわよ。っていうかヒビト最近いっつも汚れて帰ってくるわね!! 早く身体洗ってきな!」
服も頭もバックも、家についたときにはびしょびしょだった。
「カサ忘れちゃってさ……今日は夜ごはん、なに?」
「今日はすき焼き!奮発していい肉買っちゃったの♪」
ついに……ついにカレー地獄が終わった!!
ぼくはこの後食べるすき焼きを思いうかべて、ウキウキしながらお風呂に入った。
そして、気がついてしまった。
「あぁー!!!」
☆☆☆☆☆
ない、やっぱりない!!
「あら、もうお風呂あがったの?まだすき焼きできてないわよ?」
「ひよこ公園にすいとう置いてきた!!!雨のせいで急いで帰ってきたから忘れてた!!」
「え、そうなの!?」
「ホントだよ!急いで取り行ってくる!!」
「まだ少し雨は降ってるし、もう暗いから気をつけなさいね!!!」
「分かってる!行ってきます!」
ぼくはカサをさし、走って家を飛び出した。
いつも通ってるはずの道が、暗いだけでぜんぜん別の世界のように見える。
オバケでも出てきそうでちょっと怖いなぁ。
さっさとすいとう見つけて帰ろう。
なんとかして、ひよこ公園にたどり着いた。
いつの間にか雨はあがっていたみたいで、ぼくはカサをとじたあと、公園を見わたす。
「すいとう、あるかな。だれかにとられちゃったりしてないよね?
夜の公園って、すごい静かだなぁ。
「あるなら、やっぱり砂場近くのベン……チ……に…………」
ベンチの方を見たぼくの目に映ったのは、いつも使っているすいとうと、
「……あれは?」
――――それを見て絵を描いている、ただただ真っ白な女の子だった。