第十八話「もとにもどる 後」
となりに居たのは小さなお前だった。
あのとき話し相手になってくれたのがお前だった。
ぼくが興味をもった相手がたまたまお前だった。
ぼくが一人だったとき、ココロのよりどころになってくれたのがお前だった。
全部、全部偶然だ。たまたまお前がそこにいただけで、もしかしたら別の誰かだったかもしれない。
――それでも、そこに居てくれたから、ぼくにとってお前は大切なともだちなんだ。
「にゃあ」
チビの鳴く声は、あまりにもいつも通りだというのに、その姿はとんでもなく変わってしまっていて、ぼくはなんかもうワケがわからなくなってしまった。
「にゃあって……チビお前、足は……」
チビはまるで元から三本足だったかのように、ぼくの足元まで器用に歩いてきた。
「にゃぁ~ん」
チビは変わってしまった身体で、相変わらず小さい頭をぼくにグリグリおしつけてくる。
これは、ネコが甘えて来る時の仕草だ。
そう教えてもらったことがあるけど、コイツの場合はエサがほしいだけなんだよな。
「ごめんなチビ。今はミルクとか何も持ってきてないんだ」
「にゃぁ~」
エサは無いよと言ってもまだ甘えてくるチビは、まるで『別にいいよ』とでも言っているみたいだ。
「チビ……何にもしてやれなくてごめんな」
一通りなでまわされたチビは、そのままハナに近づく。
「チビちゃん、やっぱり君も天使さんに……」
「みゃあ」
……ん? てんしさんってだれだ??
白い子猫のともだちはハナにもなでてもらうと、その足で商店街へ向かって歩き出した。
「お前、どこに」
今度はいきなり止まって、こちらを向いたと思えば何かを話し出したようだ。
「にゃあにゃあ、わうみゃう」
だめだ、なんて言ってるかぜんぜん分からないや。
「ヒビトくん、きっと△□◯ちゃんは、『ついてこい』って言ってるんだよ」
「にぁーう」
どうやら、ハナの言った通りらしい。
ぼくらはトコトコ歩く⭐×□◯の後について行くことにした。
あれ? こいつの名前って――――
☆☆☆☆☆
⚪△□は初めて出会ったとき、足にケガをしていた。
ママとお買い物をしに商店街まで来てたけど、気になっちゃってさ、買い物なんか放っておいてお前の後を追いかけた。
タバコ屋さんのとこを曲がって先に進んだところにある、何もないせまいスペースがお前の家だった。
お前のケガをどうにかしてやりたいと思ったぼくは、足にハンカチを巻いてやろうとしたんだ。
効果があるかは分かんなかったけども。
――それから、ぼくらは"ともだち"になったんだ。
ぼくにとっては、お前はこの町に引っ越してきてから初めてのともだちだ。
その日から、つまんない学校が終わった後にお前の所に通うようになった。
牛乳をいれた水筒を持ってさ。
ぼくは牛乳がニガテだけど、それを美味しそうにペロペロするお前を見るとこっちまでうれしくなった!
ただ、お前はぼくよりミルクの方の方が好きだって分かった時ちょっとかなしくなったけどな……。
そういえば段ボールハウスも作ったよな。
家にあった段ボールにタオルしいただけだけど、気に入ってくれてよかったよ。
いろいろな話しを聞いてくれたよな。
学校のこととか、ごはんがおいしかったこととか、ママがともだち作れってうるさいこととかさ。
お前は「にゃあ」しか言わなかったけどさ、ぼくはそれだけでうれしかったよ。
そしていつかお前の足が治ったらさ、公園とか散歩したいって思ったんだ。
犬はよく散歩するのを見るけど、猫のお前はどうなのかな。
まあよく飛び回ってるし、どうせいつも遊び足りてないんだろう?
ぼくとハルヤたちも巻き込んで遊びまくってやるからカクゴしろよ??
なっ! ☆△!
☆☆☆☆☆
小さいともだちは、商店街に出てすぐのところにある電柱の前で立ち止まった。
「×□△ちゃん、あなたはここで……天使さんと……」
「みぁぁ」
小さいともだちは、大きなあくびをしてからそこで丸くなった。
「なぁ、足が良くなったらいっしょにあそぼうって言ったよな」
小さいともだちはとてもねむそうにしている。
「お前に聞いてほしいことがまだたくさんあるんだ」
小さいともだちはとてもねむそうにしている。
「そうだ……今度みんなで海へ行くことになったんだ! 花火も見るんだよ! すごいキレイなんだってさ! 」
小さいともだちは今にもスヤスヤねてしまいそうだ。
「それにな、最近おこづかいためてるんだ! お前にいいエサを買ってあげたくてさ! 」
小さいともだちは気持ち良さそうにしていて、その目はもう開きそうにない。
「それとさ、こんどウチでお前を飼っていいことになったんだ! おかあさんはネコアレルギーとか言ってたけど……だいじょーぶ! ぼくがなんとかするから……」
小さいともだちはゆっくりと、動かなくなっていった。
「だから……なぁ……!おきろよぉ……」
視界がぼやけるから、目をこすったけどまたすぐにぼやけてしまう。
「お前ともっともっとたくさん……ぼくは……」
よく見ると、小さいともだちの横に一輪の白い花とネコカンが置いてあることが分かった。
「お前、もしかしてホントは――」
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それは、まるで劇場の幕が降りて場面が転換するときのように――
――――世界は、光に包まれた。
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「ん?? えっ?」
気がつくと、目の前には一本の電柱があった。
ぼくの頭は、まるで夢から覚めたばかりみたいにもやもやしている。
「おかしいな、ずっと起きてるのに寝起きみたいだ」
「ヒビトくん……大丈夫?」
横を見ると、ハナがとても心配そうにこちらを見つめていた。
「うん? なんか変な感じがするけどだいじょーぶだよ! ハナこそなんか不安そうな顔してるけど、どうしたの?」
「えっ!? だってチビちゃんが!」
「チビちゃん? 誰それ??」
「……!!?」
ハナは、ぼくの言葉にナゼかめちゃくちゃショックを受けているような反応をした。
「ハナ……?」
「だって、さっきまで……!!」
さっき?
そういえばさっきまで!
「思い出した! ハルヤたちと宿題進めてたんじゃん! でもなんでぼくたちこんな場所に?」
見上げた空はオレンジ色で、太陽さんが今にもかくれてしまいそうな時間であることが分かった。
「もどろうハナ、みんなが待って……なんだこれ?」
電柱の根本を見ると、そこには白い花とネコカンが置いてあった。
「白い花に、ネコのエサ? なんでこんなのが」
しゃがんでそれを見ていると、なんか……心が痛くなってくるような……。
「変なの。もう行こうかハ……ナ……」
あれ? おかしいな、立ち上がろうとしたのに、足に力が入らない。
「ヒビトくん……」
ハナが手を貸してくれて、ぼくはなんとか立ち上がった。
「どうしちゃったんだろぼく。ごめんね心配かけて!」
さあ、帰ろう。ハルヤたちが…………待って……。
「あれ……?」
歩こうとしたけど、また足に力が入らなくなった。
フラフラしながら、それでもどうにか歩いているうちに、どんどんバランスが保てなくなり、ついにぼくはカベにもたれかかった。
「なんだろう……この感じ」
――まるで、ココロに穴が空いてしまったようだった。
「あれ……? えっ?なんでぼく、泣いて……」
かなしいような、せつないような、つらいような。
大切な何かを失ってしまった、あの時のような。
理由も分からずに生まれたその感情は、水となってぼくの目からこぼれ落ちる。
それが地面に着いた瞬間、ハナが小さな白い身体でぼくを包み込んだ。
「ハナ……ぼく、大切な何かを無くしちゃったみたいなんだ……」
「大丈夫。わたしはちゃんと、分かってるから」
ハナはそう言うと、ぼくをギュッと抱きしめる。
空いてしまったココロの穴に、ハナの優しさがそそぎこまれているみたいだった。
「もう………………無くしたくないって……無くさないって…………決めてたのに……うぅ……あぁ……ぁあぁ……」
かっこわるいなぁ。また、こんな泣いてるところをハナに見られちゃうなんて。
「ごめん……ハナ……」
「いいの。わたしがこうしていたいの……」
ぼくらは結局そのまま、太陽さんが顔を隠すまでそうしていた。
ワケのわからないことだらけだったけど、ハナのおかげでぼくのココロは大分落ち着きを取り戻した。
本当に、ぼくはみんなにいつも助けてもらってばかりだと思う。
いつか、ちゃんとお返しできるといいなぁ。
☆☆☆☆☆
タイトル「ノンフィクション」その10
「海へ行く前に、たしかめなくちゃ……」
くもりのち雨、花火大会から二日前。
そう、わたしたちでチビちゃんが"元にもどった"のを見届けた次の日のことです。
天使さんが言っていた『元にもどる』ということについて、確かめなくてはならないことがありました。
チビちゃんの足が、天使さんに治してもらったモノだということは初めて見たときから分かっていました。
天使さんが治したモノには、”羽と輪っか"が着いて見えるからです。
いつか見たタンポポや、チビちゃん、アヤカさん、それにわたし。
それぞれにタイムリミットがあり、みんなその時が来たら"元にもどってしまう"のです。
「花火大会の次の日にはもう……」
わたしの目は、その時にまた見えなくなるようです。
……わたしはとっくに、それを受け入れる覚悟が出来ています。
そのために、わたしは今まで描いてきた。
このステキな世界と、大好きなともだちのことを。
そしてみんなとたっっっくさんの思い出を作れたから、悲しむことなんてありません。
だからこそ……。
だからこそ、いつかユメの中でオバケさんが言っていた『"元にもどる"のは、この世界のことだ』という言葉の意味を、わたしは確かめなくてはなりませんでした。
フシギなことが"3つ"ありました。
1つ目は、わたしが描いてきた絵のことです。
天使さんに治されたはずの、タンポポの花、アヤカさんの病気、そして、チビちゃんの足。
スケッチブックの中にあるそれらの絵は、それぞれが描いた時とは変わってしまっています。
タンポポの花は枯れてしまい、絵の中にいたアヤカさんはサッカーボールを残してどこかへ行ってしまいました。
チビちゃんの絵は、昨日見たときには足がまるで消しゴムでこすったような消え方をしていましたが、あの後その絵の中にいたチビちゃんも居なくなっていたのです。
『元にもどる』ことで、花なら枯れ、病気ならまた再発し、また同じようなケガをする。
これならまだ分かるのですが、一体どうしてわたしの絵にまで変化がおきてしまっているのでしょうか。
2つ目は、チビちゃんの足が『元にもどる』ことによって丸々無くなってしまっていた上に、チビちゃんがあの後どこにも居なくなってしまったこと。
そして3つ目。
誰よりもチビちゃんのそばにいたハズのヒビトくんが、あの後チビちゃんのことを何もかも忘れてしまっていたこと。
それらを確かめるために、わたしはレインコートを着て、カサを持ち家を飛び出しました。
☆☆☆☆☆
「おじさん、こんにちは!」
わたしがやってきたのは、商店街にあるタバコ屋さんです。
新聞を読んで座っていたおじさんは、こちらを見るとニコりとあいさつを返してくれました。
「こんにちは!たまに親子でここら辺歩いてるお嬢ちゃんだな。タバコでも買いに来たのかい??」
「かっ、買いません!!!」
ガハハハとのんきに笑うおじさんに、わたしは少しだけムカついてきました。
「ガハハ、冗談だよ! それで、何のご用だい?」
一息ついてから、わたしは勇気を出して聞きました。
「おじさんは、チビちゃんって知ってますか?」
「チビちゃん? 誰だそれ?」
なんとなく分かってはいましたが、おじさんもチビちゃんのことを忘れてしまっているみたいで、わたしは少しショックでした。
目を丸くしているおじさんに、わたしは別のしつもんをしました。
「じゃ、じゃあ、商店街を出たところにある電柱のところに置いてある白いお花についてなにか知りませんか?」
「ん? あぁ、あれは俺が置いたモンだからな」
「本当ですか!!? あれは、一体なんなんですか?」
「お、おう、ヤケにぐいぐい来るな……あれはな、"とむらい"だよ」
「とむらい??」
「そうだ。お墓みたいなもんさ。おじょうちゃんは行ったことあるか? お墓参り。こうやって祈るんだ」
おじさんは手を合わせておじぎをするジェスチャーをしました。
「……行ったことあります。おかあさんといっしょに、おじいちゃんのお墓に」
ということは、もしかしてあのお墓は……。
「もしかして、あれは白い子ネコちゃんのためのお墓ですか?」
わたしがそう聞くと、おじさんはとてもおどろいたような顔をしました。
「あぁ。そうだが、よく分かったな! もしかして、おじょうちゃんの言う『チビちゃん』ってのは……」
「おじさん」
呼びかけると、おじさんはウデを組んで目を閉じました。
「あの子猫ちゃんについて、知りたいんだな?」
「……はい。チビちゃんが居なくなっちゃった時のことを、教えて下さい」
おじさんは、思い出すように語り出しました。
「あんまりガキにする話じゃねぇけどなぁ、参ったな。おじょうちゃん、名前は?」
「ハナです」
「ハナちゃん、ちょっと残酷な話になるが、それでもこの話しを聞きたいか?」
「……はい」
「あれは半年くらい前のことだったかな。俺とそこに見える肉屋のおやじとちょっとしたことでモメてた時のことだ」
「おじさんたち、何でケンカしていたの?」
「ちょっと野球のことでな……互いにこだわりが強い上に頑固者でなぁ。暇さえあればいつも言い合ってるよ」
照れくさそうにおじさんは笑います。
いつもモメてるのにヒマがあればいっしょに居るとはどういうことなんだと思いましたが、どこかで聞いた、"ケンカするほど仲がいい"とはこのことなのかと、わたしは一人でなっとくしました。
「すると、俺たちのケンカに横からいきなり割り込んで来た奴がいてな」
「それってもしかして……」
「あぁ、おじょうちゃんみたいに、白くて可愛らしい子猫ちゃんだった」
自分よりもすごく大きな人が二人ケンカしている中につっこんでいったっていうの?
マイペースさがとんでもないなぁと、わたしはチビちゃんに関心しました。
「エサくれー!エサくれー!ってな。さっきのケンカなんかどうでもよくなった」
「チビちゃん、すごい!」
「可愛かったが、それからおっさん二人で大慌てさ。
『エサは何食べるんだ!』とか、『魚屋からなんかもらってくる!』
『でもあれ猫の健康に悪いって聞いたぞ!』
『そもそも野良猫にエサやっていいのか!!』ってな」
おじさんたちが、小さなネコちゃんのためにあたふたしている光景を想像して、すこし笑ってしまいました。
「結局スーパーで猫用のエサ買って、そこの路地裏をエサやり場にしたんだ。そんでもって、調べたところ野良猫にエサやると糞とか勝手なとこでやるから環境問題がどうのこうので、トイレもそこに置いてやったのさ」
おじさんは『してやったり』といった顔をして言いました。
「それから、俺はそいつとたわむれてやんのが密かな楽しみになったんだ。それからは肉屋のおやじともそんなにケンカしなくなったかな」
「チビちゃんに名前とかつけてあげなかったんですか?」
「名前ぇ? そういえばつけなかったな。『ネコ!』とか『にゃーちゃん』って呼んでたっけなぁ」
ネコは直球過ぎてびっくりしましたが、にゃーちゃんとはまた可愛らしい呼びをするなぁと、またまたびっくりしました。
「……だが、ある日エサやりの時間になってもなかなか来ない日があってな。『こんな日もあるか』と思ったが、なんとな~く不安になったんで探してみることにしたんだ。
商店街中探し回った。魚屋のおやじ、駄菓子屋のじじい、八百屋のばばあ……みんな知らねぇって言ってたな。
まぁ、どっかで呑気に遊んでんだろと思ったらな……ひどい光景がそこにあった」
「ひどい光景……」
「あぁ。車にひかれてたんだ。ちょうどあの花を置いた場所で、にゃーちゃんが……」
にゃーちゃんという呼び名に反して、すごくきびしい現実を語るおじさんはとてもつらそうな顔をしていました。
「……」
「野良の動物が車にひかれるなんてよくある話さ。 普段は気にもしねぇんだが、さすがに今回は堪えた。あぁ、ごめんなお嬢ちゃん、まだ小さい子にこんな話……」
自分の心が痛くなるのを感じました。
けれど、わたしはちゃんと事実を知り、そして受け入れなければなりませんでした。
がんばって……うけいれなくちゃ。
そのときが来たら、よけいにつらくなるだけだから。
「……いえ。もしかしてですが、チビちゃんは走ってきた車のタイヤに足を引っかけたんじゃないですか?」
わたしがそう言うと、おじさんは目が飛び出そうなくらいびっくりしていました。
「……!? ハナちゃん、なんでそれを」
「おじさん、お話を聞かせてくれてありがとうございました!」
「まてハナちゃん!カサ!!」
わたしは、おじさんに頭を下げた後すぐに走り出しました。
カサをそこに忘れていたことにも気づかないくらい、ただただ必死に。
「はぁっ……はっ……はぁ……!」
うけいれなくちゃ。みとめなくちゃ。
『もとにもどる』と、どうなるのかを。
わたしの描いてきた絵が、
みんなと作った思い出が、
三年間のキオクや、
おかあさんの笑顔や、
「はぁ……うっ……うぐっ……!」
うれしかったことが、
かなしかったことが、
たのしかったことが、
みんなと笑ったことが、
ともだちと交わしたヤクソクが、
どうなってしまうのか、うけいれなくちゃ。
今日はみんなが居ないということを知りながら、気づいたらいつもの公園まで来ていました。
「はぁ……はぁ……」
雨がふりそそぐ遊具たちは、どこか泣いているように見えました。
……みんなが居ないと知りながら、そこには本当にみんなが居ないことが分かったとき、なぜだかすごく、すごくかなしくなりました。
「うぅ……うっ……」
降っている雨が、もしかしたら自分の涙なのかもしれないと思ったそのとき――――
「ハナ?」
ふりかえるとそこには、わたしの大好きなともだちが居ました。
「ヒビト……くん……」
「カサも持たないでどうしたの?カゼひいちゃ……えっ?」
なにも言わずに、わたしは彼に抱きついて顔をうずめました。
「え? ……え?? どうしたのハナ……!? わっ冷っ!」
「……うるさい」
「……ごめん」
わたしが落ち着くまで、彼はそのままで居てくれました。
その後、
「どうして雨なのに外いるの?」
と聞くと、
「昨日の白い花のところへ行く」
とのことだったので、わたしは彼に着いて行くことにしました。
その途中で、タバコ屋さんに置いてきたカサを回収し、目的の場所につくと、二人でおいのりをしました。
「ついてきてくれてありがとう、ハナ」
「……どうして、今日はこんなことを?」
わたしが聞くと、彼はこまったような顔をしました。
「うーーーん、なんかこうしなきゃいけないような気がしたんだよ」
「そう……なんだ」
「ハナこそ、なんで公園にいたの??」
そう返されて、今度はわたしがこまってしまいました。
「わたしは……」
一瞬、ホントのことを言おうか迷い言葉がつまりました。
なんとなく、変だと思われるような気がしたからです。
けれど、わたしは彼にウソをつかないと決めたんだ。
息を吸って、彼の目を見つめてホントのことを言いました。
「みんなに、会いたかったの」
それを聞いて、彼はおどろいたような顔した後に笑ってこう言いました。
「じつはぼくも同じこと思ってた。明日みんなで海へ行くっていうのにさ」
おかしいね。
って笑う彼を見て、
ホントだね。
ってわたしも笑いました。
今日キミと会えたおかげで、明日も笑顔で居られそうだ。
そんなことを思いながら、わたしは大好きな人とバイバイをしました。




