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すっごいキレイな、ヒューどっかーん!  作者: 健康っていいね
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第十六話「かなしいのは」

わたしが悲しいと思うとき。


家で、足の小指をぶつけてしまったとき。


ころんでヒザをすりむいたとき。


おかあさんに怒られたとき。


すごく、せつない絵本を読んだとき。


こわいユメを見た時。


苦手な食べ物を食べなきゃいけないとき。


そして、一番悲しいときは……


――みんながかなしんでいるときなのかな。

 ハナママの言った"負け"の意味を考えていると、僕の頭の中は真っ白になった。



 心が動きまくってて、全身が熱くなっているのを感じる。



 さっきまで自分が何を言っていたのか分からなくなるほど、疲れがおもいっきりぼくにのしかかってきた。



 つっぱっていた足に力がぬけて、ぼくはへなへなとイスに座り込んだ。




「負けってことは……」




 ヒカリがおそるおそる聞くと、ハナママは困ったように笑った。




「えぇ。ハナをどこへでも連れていってあげて」




 とたんに、うおおおおお!!!と横の二人がケモノのように声をあげる。




「ま、まままじですか!!? やったなヒビト!!」




「すげー!よくやったヒビト!!」




 ぼくとは反対に、ヒカリとハルヤは何やら大興奮しているみたいだ。




 二人がバンバン背中を叩いてきて、ぼくの頭は再び回りだす。




「え? ぼくやったのか!? てかイタイ! イタイから!!叩くのやめ……パンケーキ出てくるから!!!」




 そっか。やったんだな。よくやったぞ、ぼく。



 ヤクソクを守れてよかったぁ。




「君たちにね」




 ふいにハナママが話始めたので、ぼくらはもう一度キチンと座った。





「お願いがあるの、1つだけ」





「はいはい!私共はどんな要望でも受ける覚悟が整っております!!!」




 おおげさなことを言うヒカリだったけど、ぼくも、多分ハルヤも同じ気持ちだ。




「あら、そこまで言われるとイジワルしたくなっちゃうわね」




 ワルい顔をするハナママを見て、ぼくも本気で覚悟を固めた。




「な……なんでしょうか!」




「まあ、それは冗談よ。 そんなに難しいことじゃないわ」




 よかった……カリフラワー克服しなさいとかじゃなくてよかった。




 それにしても、何を頼まれるのだろうか。




 美味しいおみやげとかかな?




 次にハナママの口から出た言葉は、


 


 青色のカレーのように、



 夜に昇る太陽さんのように、



 喋るそら豆のように、



 ワケがわからないお願いだった。







「あの子の身に何が起きても、あなたたちは悲しまないでいてほしい。フリでもいいわ」





「どうしてですか?」





 ぼくは思わず、前のめりになって聞き返してしまう。



 フゥ、と一息ついてハナママは答えた。




「君たちは、ハナちゃんが悲しむところを見たらつらいでしょ?」




 もちろんそうだ。あたりまえだ。




 横でハルヤとヒカリもうなずいている。




「同じ気持ちだからよ。あの子にとって、君たちが悲しむ姿は何よりもつらいことだから」



 ちがう、ぼくが聞きたいのは……。




「――――だから、お願いします」







 "どうして、ハナに何か起きることが分かっているみたいに言うんですか?"






 のどまで出かかったその言葉は、頭を下げたハナママの前で、ぼくの口を通り抜けることはなかった。








 ☆☆☆☆☆






 タイトル 「ノンフィクション」その9




「ハナー! 起きてるー?」





 ある日の朝、午前10時ごろのこと。



 昨晩はおそくまで絵を描いていたから、こんな時間に起きたというのに、わたしはまだおねむさんでした。





「ねてるー!」




 太陽さんの光がまぶしくて、まくらに顔をうずめます。




「起きてるじゃないの!!あなたに電話がきてるわよー!」




「電話?」




 一体だれだろう。




 気になったわたしは、勢いよく立ち上がり、フラフラしながらリビングへと向かいます。




「だれからー?」




「ハルヤ君のお父さん!ほらはやく!」




「シショーさん!?」




 電話の主はなんとあの、われらがヒーローのシショーさんでした。




 わたしは急いでお母さんから電話をうけとります。





「もしもし!」




『もしもしこんにちは!ハナちゃん』




「こ、こんにちは!」




 ちょっとだけ信じられなかったけど、声を聞くとやっぱりシショーさんです。




「ハハハッ、元気だねえハナちゃん、こんな朝からごめんね! もしかして寝てたかな?」




「…………寝てないです!!」




『おっそうかー!早起きでえらいねー!!ところでさ、早速なんだけど』




 ちょっとしたウソをついてしまい、少しだけ恥ずかしくなってきました。




『子供たちみんなでさ、海行きたくない??』




「え"っ"!!?」




 いきなり言われて、自分のモノとは思えない声が出てきました。




『す、すごい声がでたね……』




「すみません、びっくりしちゃって」




『それで、行きたい?海。花火大会の前日なんだけど』




 その日にみんなが海へ行くというのは、前々から知っていました。




「行きたいですすごく行きたいです!!」




『そうか!その言葉が聞けてよかった』




 それでも、やはり心配なことが一つあります。




「でも、お母さんが『いい』って言うか……」




『それなら大丈夫! もう許可はとってあるから』




「え""っ""!!!??」




 またまた、どこから出たのか分からない声が出てしまいました。




 お母さんの方を見ると、親指を立ててウィンクをしています。




「ほんとに!? すごくうれしいです!!」




『よかったよかった。それじゃ"あいつら"にも伝えとくよ!』




 "あいつら"とは、言うまでもなくヒビトくんたちのことです。




「そうですね! みんなどんな反応をするのか楽しみです!」




『そうなの? 前々から誘ってたらしいし、なんとなく知ってそうじゃない?』




「それはそうなんですけど、おかあさんが許してくれないかなと思って、みんなでどうお願いするか考えてたんです!」




『え"っ"』




 今度は、シショーさんがすごい声を出しました。




「えっ?」




『そ、それって本当なのかい?』




「本当ですよ? 今度みんなでお母さんに"お願いします"って言いに行こうと」




『マジか……』




 わたしには、シショーさんの何かを"やってしまった"みたいな言い方がフシギでした。




「?」




『ハナちゃん、一つお願いがあるんだけど』






 ☆☆☆☆☆






「ちょっともうしわけないけど、なんだかドキドキするね!」




 そんなことを言うわたしに、おかあさんは可笑しそうに笑いました。




「そう?いじわるな子ねぇ」




「シショーさんの方がいじわるだよ。なんでみんなにはわたしが海に行けるよ!ってことナイショにしようなんて……」





 間を空けずにお母さんが答えます。





「それはいじわるなんかじゃないわ」





「えぇ! わたしはいじわるなのに!!?」




 シショーさんだけずるい!




 と、ダダをこねるわたしの頭をナデナデしました。




 いつも、こうするとわたしが大人しくなると分かってやっているお母さんは、少しだけにくたらしいです。




「シショーさんはね、誰よりも子供たちのためを思っているわ」




「それは……なんとなくだけど、わかるかも」




 お母さんは頷いてから、真剣な顔でわたしを見つめました。




「だからね、海に行ったらちゃんとシショーさんの言うことを聞くのよ?」




「はぁい」




「それともう一つ。あなたの身体のことはあなたが一番よくわかっていると思うわ。だから、何かあったらすぐ周りに伝えなさい。どんなに細かいことでも」




「はい!」




「ん、わかったならよろしい!」




 お母さんは満足そうに笑いました。




「ところでさ、花火大会っていつなんだっけ」




「30日……じゃなかったかしら」




「えっ30日!?」




 その日にちを聞いて、少しの不安を感じたわたしは、急いでカレンダーを見に行きました。




「30……30……あぶない!!!」




「あぶないって、どうして?」




 追ってきたお母さんもいっしょにカレンダーを確認します。




「あぁ……そういう」




 おかあさんもカレンダーを見て気づいたようです。




 そう、花火大会の次の日、8月31日にはペンで『最終日』と書いてあるのです。




「ねぇハナ。ホントにこの日であなたの目は……」




 おかあさんは悲しそうにわたしを見つめました。




「『天使さん』? はそう言っていても、本当はこの先もずっと見えるとか……」




 この話になると、いつもはたのもしいおかあさんは不安そうな表情をします。




「お母さん、わたしは目が見えなくなることより、みんなが辛そうなのをみるのがいちばんかなしい」




「ハナ……」




「ぜんぜんへーきだよ!わたしには、おかあさんがいるし大好きなともだちもいるし、守ってくれるヒーローもいるもん。だから、だいじょーぶ!」




「ごめんね、ハナ。おかあさんがもっとしっかりしなくちゃね! さぁ来い!」




 いきなりしゃがんで両手を広げ、そんなことを言い出すおかあさんにビックリしましたが、意味が分かってすぐ、おかあさんのむねの中に飛びつきました。





「わああぁあい!! むふふー!!」



「よしよし!可愛いハナめ!」




 やっぱり、お母さんにはいつまでも笑っていてほしい。



 お母さんの、花みたいないいにおいに包まれながらそんなことを思うわたしなのでした。





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