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すっごいキレイな、ヒューどっかーん!  作者: 健康っていいね
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第十五話「ワガママ」

それは、ワガママだよ。


物事をよく考えないで、周りを見ないで、自分に都合のいいことだけを望んでいるから言えるんだ。



でも、そんな君のワガママに、

ちょっとませた君の、愛らしくて子どもらしいわがままに……



「ぼくはハナを見て好きだと思ったんです。たぶん、ひとめぼれです」




「「ぶっっ!!!」」




 ハルヤとヒカリは同時にジュースをふきだした。




「なにしてんの2人して!!??」




「げほっ!! ゥゴホッ!! ゴッ!! ヒビトすげーよ! ヴォホッ! 」




 ヒカリはのんだジュースがノドのヘンなところに入ってしまったみたいだ。




「と、とりあえずテーブル拭かねえと……!」




 ぼくらはあわててハンカチでテーブルをキレイにした。




 ハナママはというと、さっきから目を丸くしてかたまっている。





「すみませんでした……って、おばさん?」




 ぼくが呼ぶと、ハナママは笑いだした。




「あははは!! ふふふふ! ……ふぅ、ごめんね。びっくりしちゃって。わたしがバカだったみたい」




 ハナママが自分を"バカだ"と言った理由は、ぼくには全くわからなかった。




「わたしも同じよヒビト君。私もハナのことが大好きなのよ」




「それは……ぼくのとはたぶん意味が……」




 ハナママは首を横にふった。




「いいえ同じよ。立場や状況なんて関係ないの。 "好きだから好き"。そこに大きな差は何もないわ」




 その言葉を聞いて、二人も声を上げた。




「わたしも!ブォホッ! ヒメやみんなのことが大好きです! ゴホッ!!」




 ヒカリはまだむせていたのか。だいじょーぶなのか。




「オレも、みんなのことが好きですよ。いっしょにいると楽しいですから」




 ぼくらの気持ちを聞いて、ハナママは、満足そうな顔をした。




「……すごく嬉しいわ。わたしもハナが大好きだから、あの子が好きな君たちも大好きよ」




 そしてハナママはコーヒーを一口飲むと、すごくシンケンな顔つきに変わった。




 それを見たぼくは、ヒザの上においた手に力をこめた。






「それじゃあ、本題に入りましょうかね」




 ジュースを飲んで、最初に切り出したのはハルヤだった。




「実は今日、おばさんにお願いが……」




「知っているわ。花火大会の前日に、ハナと海に行ってお泊まりしたいのよね」




 ぼくらはびっくりした。




 ハナは、


『おかあさんに今日皆で話したいことがある』


 とだけ伝えてあると言っていたからだ。




「君たちがハナと海に行きたい理由は、さっき話しててよくわかったわ」




「そ、それじゃあ……!」




 いけるか……??




 と思ったが、そんなことはなかった。




「行って、どうするの? あの子の"病気"のことはもちろん君たちも知ってるよね?」




 ハナママの"病気"という言葉には、とてつもない重みがあった。




「……アルビノは、日差しとかに弱いんですよね」




「そうよ。人より日焼けの影響が大きくて、紫外線のダメージも大きい。海みたいな日差しの強い場所にいれば、皮膚ガンになる可能性も高いわ」




 むずかしい言葉が多いけれど、"ガン"は知っている。




 ママが前に、たくさんの人が死んでいる病気だと教えてくれた。




 ヒカリが思い付いたように言う。




「じゃあ、日の当たらないところにいれば……!」




「君たちは、"海"へ遊びに行きたいんでしょ? 日の当たらないところは確かにあるだろうけど、君たちだけ海で遊んで、娘は屋根のあるところでじっとしてるの?? 」




「そ、それは……!」




 ヒカリは言い返す言葉をさがしていたけど、結局何も言えなくなってしまった。




「それに君たちはいいんだけど、他の知らない人たちの視線が彼女を傷つける可能性だって十分あり得るわ」




「でも、オレのパパもいるし、きっと大丈夫……」




「"きっとダメ"かもしれない。それじゃ嫌だわ。私の居ないところで、万が一でもあの子に何かあったら嫌だもの」




「…………」




 ハルヤも、そこで何も言えなくなってしまった。




「ごめんね。大人気ないだなんて思わないでね。私は、あの子も君たちも大好きだから、大人として絶対に後悔なんてしてほしくないの」




 そう言って、ハナママはコーヒーを飲み干した。




「もちろん、君たちに海行くななんて言わないわ。 だけど、今回は諦めてちょうだい。もちろん、花火大会の時には一緒に……」




 勝ち目がなかった。




 大人を相手に、ぼくたちはコテンパンに言い負かされてしまった。





 その時、ぼくはなんとなく、机の下で指切りの手をつくって小指を見つめた。






 そして、あの時のことを思い出したんだ。






 ぼくが彼女とした、ヤクソクのことを。






 ☆☆☆☆☆





 それは、みんなで線香花火をした日のことだった。




「ハナはさ、海に行ったことはないんだよね」




 休みたいと言うハナと二人でベンチにすわっていた時に、ぼくはなんとなく聞いてみた。




「うん! テレビでしか見たことないから、ホントにすごく楽しみ!」




 まだハナが行けるかどうかも分からないのに、彼女はすごくワクワクしているように見えた。




 身体のこととかシンパイだけど、その話はしないでおこう。




「海に行ったらまずなにがしたいの?? 」




「みんなでやきそばが食べたい!!!」




「ズコー!!!!」





 "絵を描きたい"とか言うと思ってたぼくは、まさかの答えにベンチから転がり落ちた。





「やきそば! 海で食べるとカクベツだろうなぁ! ぼくも楽しみだよ!!」




「だよねー!!あとアイスとかスイカも食べたい! 」




 ハナさんめっちゃ食うじゃん!!




 絵は!? 泳ぎは!? 砂遊びは!!?




「それとやっぱり、海で遊ぶみんなを描きたい!!」




「だよね! よかった! 美味しいモノ食べて終わりかと思った!! 」




 ぼくがホッとしていると、いつの間にかハナさんのキレイな白いお顔が赤くなっていた。




「そ、そんなわけないじゃん!! わたし、食いしんぼうさんじゃないよ!」




 海の話をして、真っ先にやきそばが出てくるハナさんが何か言っている。




「う、うん! だいじょーぶ分かってるよ!! そういえば思ったんだけど、ハナの絵ってさ」




「わたしの絵?」




「うん。すごく上手だなぁって思うんだけどさ、ハナ自身のことは描かないの?」




 ぼくの言葉に、ハナはハッとした表情を見せた。



 そして、彼女は少しうつむきながら答えた。




「まぁ、描けなくはないんだけどさ……」




「うん」




 ハナは自分の白い髪をいじりながら、ぼそぼそと続けた。




「わたしは、この身体あんまり好きじゃないんだ……」




 そう……だったのか。




「お母さんとか、みんなは『キレイだ』って言ってくれるんだけどさ、それでもやっぱり好きになれないの」




 それは、つらいなあ。




 誰がステキだと言っても、いくらぼくがハナをキレイだと思っていても、本人が自分を好きになれないなんてすごく悲しいけど、それを変えるのはカンタンじゃない。




 その気持ちは、ぼくもよくわかっているから。




「わかるよ。ぼくも、いくらママが美味しいと言ってもカリフラワーは絶対好きになれない」




「……!!!!!!????」




 ハナは『ここでまたその話する!!!??』



 と言わんばかりの顔でこちらを見つめてきた。




 いや、マジで、マジでカリフラワーはダメなんだって。




「それでも……それでもこれだけは伝えたいんだ」




「うん、なに?」




「……ハナの描いた絵の中でぼくたちは、いつも楽しそう笑ってるよね? こんなふうに!」




 ぼくは笑顔で言った。




 それを見たハナの顔にも少しだけ笑顔がもどった。




「そうだね。描いてるこっちまで楽しくなるくらいにね」




「ぼくらが、こんなに楽しそうなのは、きっと"みんなで居るからだ"と思うんだ」




 ハナは目を丸くして、ぼくの顔を見つめた。




「みんなで……居るから?」




「そう! ぼくとハナとヒカリとハルヤ! たまにシショーさんも! みんなと会って、みんなでいっしょに遊ぶからいつも楽しいんだよ!」




「……!」




「だれかがそこに居なかったら、多分そんなに楽しめないと思う。 だから実は、もしハナママが『ダメ!』って言ったら、みんな海に行くのはやめようって3人で決めたんだ」




「そ、それはダメだよ!! だって、ヒカリちゃんも、ハルヤくんもヒビトくんも前から行きたいって……楽しみだって……!!」




 必死にそういうハナを見て、みんなでここに残ることになっても、ハナはそんなにうれしく思わないと気づかされた。





 それなら、ぼくのするべきことはただ一つだ。





「――――それじゃあ、ぼくがゼッタイにハナを海に連れていくよ」





 ハナに不安な思いはさせたくなかったから、ぼくはもう一度笑顔で言った。





「ゼッタイに……?」





 ヤバい。





 彼女が笑顔になってほしいと思ってそう言ったのに、ハナは少し泣いてしまっている。




「ぜ、ゼッタイだよ!! やくそく!」




 ぼくは彼女に小指を差し出す。




「……うん!!」




 そして、小指をむすんだ彼女を見ると、今までで一番の笑顔になっていた。




 ☆☆☆☆☆






「……おばさん」




 ぼくが声を出すと、ハルヤとヒカリがぼくの方を見つめた。




「ヒビトくん、キミも今回は……」




「イヤです!!!!!!!」




「ヒ、ヒビトくん??」




 ぶつけよう。ぼくの気持ちを、全部ぶつけてしまおう。立ち上がって、相手の目を見て、ちゃんと伝えよう。




「たしかに、ハナは身体が弱くて、病気でいろいろ辛くて、海に行くだけでもタイヘンかもしれないです!!」




 ワガママでいい。怒られたっていい。




「それでも、ぼくたちはともだちなんです!! まだ会って1ヶ月ちょっとかもしれない、おばさんの方がずっとハナといっしょにいるかもしれない!」




 ただ、彼女のそばにいたいから。




「ともだちだから、楽しいときも、つらいときも、うれしいときも、かなしいときも! みんなでいっしょに居たいんです!!!」




 ただ、彼女のことが大好きだから。




「みんな、ハナのことが大好きだから!! ぼくがゼッタイにハナを守りますから!! だから……!!」





「もう、いいわ」





 必死なぼくを止めてハナママは一言、こう言った。





「――――私の負けよ」




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