第十四話「気持ち」
いつからだろう。
ココロは隠すべきだと、さらけ出すようなモノでないと、恥ずかしいモノなのだと。
そう思ってしまったのは、いつからだろうか。
惜しげもなく、自分の心を乗せた少年の言葉は、錆び付いていた私の心を動かした。
『すっごいキレイな、ヒューどっかーん!』
14話「気持ち」です。
よろしくお願いします
花火大会まであと4日。
今日もまたよく晴れた天気で、セミさんも相変わらず元気に、鳴いている。
「「「「うぃいいいいいんうぃんみんいんみんみんんんんんんん!!!!!」」」」
「うるせ~~~~~!!!!」
ハルヤん家の中にまで聞こえてくるセミさんの合唱に、ヒカリは耳をふさいだ。
「分かるよ~セミさんうるさいから描くの辛いんだよ~」
ハナはハナらしい悩みをかかえていた。
「ベツにいいだろ? セミは外で一週間しか生きれないんだぞ? 」
「知らね~~~~~!!!!」
ハルヤは自分の家だからか、庭の木にとまるセミさんには慣れているようだった。
「うるさいけどガマン! 始めよ!!」
セミもヒカリもうるさいけど、今日はあまり時間もないのでムリヤリ話を進めるしかない。
そう、ぼくら四人はヒミツの作戦会議をするためにハルヤん家に集まった。
今日、みんなで話し合う内容はほかでもない。
「ハナママ説得大作戦会議始め!」
そう。花火大会の前日に、ハナといっしょに海へ行ったり旅館に泊まったりするため、どうやってハナのママさんを説得するかについてだ。
ちなみに、作戦会議が終わった後すぐに、ハナん家に向かう予定になっている。
「話し合う前に、1つ確認したいことがある」
最初に声を出したのはヒカリだった。
「ヒメのママさんっておいくつなん???」
「んっぐ!」
あぶねえ!!
ヒカリのせいで口に入れたお茶ふきだしかけた!!
「マジメにやる気あんのかヒカリィ!!」
ハルヤは声をあげる。
「当たり前だ!!! この前ヒメとヒメママが歩いてるとこ見かけたんだけど、モデル顔負けの美しさだったからな!!? その時からもう気になって気になって昼も眠れない!!」
「えー!! 声かけてくれればよかったのにー!!」
あっハナさん気にするのそこなんだ。
「んで、おいくつなの?ヒメママ」
そんなこと聞いてどうするんだとぼくがあきれている中、ハナはもうしわけなさそうに答えた。
「ヒカリちゃんゴメン、聞いたことないから分からないの」
「なんだと!? 年齢不詳の美魔女……めっちゃ気になる……!!」
「んうぉっほん!!」
ヒカリがフザけたおしているのを見かねて、ハルヤがわざとらしくセキばらいをした。
「ヒビトは、なんかいい作戦あるか?」
ハルヤはぼくに話をふってきた。
ハナのママさんを説得するための作戦か……でもその前に。
「ぼくも1つ、カクニンしたいことがあるんだ」
「む??」
ハルヤがジーっとこちらを見てくる。
「い、いや! ヒカリみたいに変なことじゃないよ!ハナに聞きたいことが1つ」
「誰が変なことだブチ転がすぞ!!?」
「ヒカリ、話が進まなくなるから!」
今にもあばれそうなヒカリをハルヤはなんとかなだめてくれた。
「なになに? ヒビトくん」
ハナが青空色の目を丸くしてこちらを見た。
「そもそもハナのママさんは、ハナが海に行くこととかを反対しているの? 意外とあっさりゆるしてくれたりしないかな?」
ぼくがそう言うと、同じ事を思ったのかハルヤがうなずいた。
「たしかに、ハナママがベツに反対してるワケじゃないのなら、フツーにたのめばいいだけだ。どうなんだい? ハナちゃん」
ぼくらの目線がハナに集中すると、彼女はお茶を一口のんでから答えた。
「うーんっとね、この前おかあさんになにげなーく『海に行きたいなぁ』って言ってみたの」
け、結構ストレートに言ったんだな。
「それでそれで??」
「そしたら、『あぁー!いいねー!行きたいねぇー!』って。わたしが海に行くこと自体には反対してなかった」
「マジ!? それじゃあ……!」
ヒカリがうれしそうに反応したけど、ハナは首を横にふった。
「でもおかあさん、『私が休みの日にね!』って。 遠くに行くならいつも、わたしはお母さんといっしょだった。でも予定の日は、おかあさんおしごとなんだよね……」
ぼくのママでさえ、
『あんまり遠いところ行っちゃダメだよ!!』
っていつもうるさいんだ。
いつも元気で忘れちゃいそうになるけど、ハナが真っ白でキレイなのは病気なんだし、そのハナのママさんなら、他人の家以上に子どものことを心配するんだろうなぁ。
「じゃあケッキョク、ぼくたちとシショーさんだけで海に行くために、ハナのママさんにおねがいしなきゃいけないんだね」
話はまとまったものの、みんな「うーん」と考えこんでしまった。
ちょっとしてから、ヒカリが思い出したように言った。
「あれ、そういえばシショーは??」
そういえば、ハルヤの家に来てからシショーさんを見てないな。
「そういえば見てないけど、今日はシショーさんもいっしょに行くんじゃないの??」
「それなんだがな……」
ぼくらのギモンに、ハルヤが答えた。
「パパは今日、急に『外せない用事ができた!!』とか言って、どっか行っちまったんだ……」
ハルヤの口から出たびっくりな事実に、ぼくらはおどろいた。
「どっか行っちまった!!?」
「ヒーローがこんな肝心な時に!!?」
「おしごと……とかかな??」
これは困ったな。
ぼくはどうして『シショーさんもいっしょならなんとかなるだろう!』なんて甘いことを考えていたのか……。
「ぼくたちだけで、どうにかしなきゃってことか?」
「そういうことになるよな……」
あのハルヤでさえ苦しいと思える状況に、みんなしずかになってしまった。
……と思いきや、ヒカリがいきなり大声を出した。
「やはり! 賄賂しかねぇ!!」
バタンっ!!
と音をならし、つくえに何かが置かれた。
みんなの目線が置かれたモノに集中する。
「こっこれは……1万円の札束!!!?」
どれくらいあるんだ!?
っていうか、なんでこんなものを!!?
「え!!? ヒカリちゃん、いつのまにこんなおカネを!!?」
「ふっふっふー!! よく見てみろ、ホントに1枚1万円か??」
「なんだと!?」
「なんですって??」
ぼくとハナが、お冊の0を数えてみた。
「「いち、にぃ、さん、しぃ、ご!? ろく!!?? 」」
0が6つもある!!!?
1枚で100万円!!!!?
「ふふふふふー!!! どうだ!!わたしをなめるなよ!?フハハハハ!!!」
ヒカリがにおうだちをして笑っていると、ハルヤが100万円のさつたばを手に取った。
「メモちょうだぞ、コレ」
「「「えっ??」」」
「えっ? て、なんでヒカリまでびっくりしてんだ???」
ハルヤがそういうと、ヒカリはゆっくりと立ち上がり"おたけび"をあげた。
「うわぁぁぁぁぁぁあダマされたぁぁぁぁぁぁあああ!!!あんの駄菓子屋のクソオヤジいいいい!!!!!」
☆☆☆☆☆
ハナママ説得大作戦会議はロクな話し合いもせずに終わってしまった。
あの後、ヒカリが駄菓子屋のおじさんにクレームをつけるためにハルヤん家をとびだしたからだ。
駄菓子屋のおじさんが言うには、
『流石にあのヒカリちゃんでもそんな勘違いはしないだろうと思っていた。ワシが甘かった』
とのこと。
100万円メモ帳を見つけた時のヒカリは、それはもう花火みたいに目をキラキラさせて
「これください!!」
と100円玉をレジに置いていったそうだ。
最初はしっかりダマされたぼくが他人のこと言えないけど、よく100円で100万円の札束を買えると思ったな。
将来、ヒカリが変なサギにあわないか心配になってきたぼくたちは、何の作戦も決まらないどころか、ハナの家の前までたどり着いてしまった。
「すっげぇ……!お城みたいだ……!」
テレビでしか見たことないくらい大きな家を見上げ、思わず声が出る。
「ハナちゃん、思った以上にすごいとこ住んでるなぁ!」
「さすがはヒメのお城。ハルヤん家とは大違いだ……って、いつものヒカリなら言いそう」
「俺んちとくらべないでくれるか!!?って、いつもならヒカリに言い返してそう」
ぼくとハルヤはヒカリの方を見てみたけど、やっぱりまだタマシイが抜けていた。
「ワタシノソウシサンガ……ワタシノユメノクニガ……ワタシノヤボウガ……トオザカッテイク……」
「ヒカリちゃんだいじょーぶ?? わたしの家についたよ??」
「アーツイター!! マイスイートホームダー!! ウェヘヘヘヘヘヘヘ……」
ダメだ。ヒカリがいつも以上に頭おかしい、さっきから白目向いてるし。
「それじゃあ、ママとちょっと話してくるね。すぐもどるから!」
ハナが家の中へ入って行った。
「ヒカリが使い物にならない今、オレたちでどうにかするしかないぞヒビト」
「そうだね。とにかく今日は変なことしないようにしなくちゃ……」
「オコメハパンデモタベラレナイメンハコーンフレークー! フー!!! 」
ガチャリ。
ドアが開いて、ハナがそこから顔を出した。
「みんな! 上がっていいよ!」
ぼくとハルヤは、一度目を合わせる。
「よし、いくぞヒビト!」
「おう!」
ハルヤがヒカリの手をひっぱって歩き出し、後からぼくも続いた。
ぼくらはゆっくりと、ハナの家の中に足をふみいれた。
「「おじゃまします!!」」
「オジャマシマス……」
中に入ると、よりいっそうこの家を大きく感じた。
よくわからないけど"オシャレな家"ってこういうのを言うんだなって思う。
長いろうかを、一歩ずつ、一歩ずつ進んで行った。
その先にあるリビングへのドアの前でぼくらは一度立ち止まる。
「ジュンビはいいか? 二人とも」
「おう!」
「オー……」
ヒカリは本当に平気だろうか??
ハルヤはぼくらの返事にうなずいてゆっくりとドアを開けた。
この先に、ハナのママさんがいるのか……!!
「こんにちは初めまして!! ぼくらはハナさんのともだちの……っていないし!!!!」
ハナママは別の部屋にいるみたいだ。
「ヒビト落ち着け!? っていうか、なんか、すごいな……」
ぼくらは周りをぐるりと見わたした。
広いリビングはすごくシンプルな作りだったけど、置いてあるイスとかテーブルがカラフルで、なんだか見ているだけで楽しい空間だった。
カベにところどころ描いてある何かのラクガキは、ハナが描いたモノだろうか。
「あれ……ここは夢の国……?」
あっ、ヒカリが正気にもどったみたいだ。
「みんな、ここにすわっててー!」
先にいたハナに言われて、ぼくらはテーブルに着いた。
「ハナのママさんは??」
ぼくが聞くとハナは苦笑いして答えた。
「ちょっと、何か準備してるみたい」
何の準備だ……??
ぼくらになんかのシレンでも待っているというか??
そんなことを考えていると、ここから見えないカベの後ろからハナのママさんらしき声が聞こえた。
「できたぁ!!」
できた……??
何が……??
え?
こわい何が来るの???
「いらっしゃい!あなたたちがハナのお友達ね?」
声の聞こえた方を向くと、そこにはエプロンを着てパンケーキが乗った皿を持ったハナのママさんが立っていた。
☆☆☆☆☆
ダレが思うだろうか。
ともだちの家に入って、いきなりパンケーキが出てくるだなんて。
ぼくらはそれぞれハナママにあいさつをしてから、『冷めちゃう前に!』とみんなでパンケーキを食べた。
ハナママの作ったパンケーキは美味しいだけでなく、丸やハート、星形など、いろんな形があってすごかった。
それぞれがチョコシロップ、メープルシロップ、フルーツソースを好きにかけて、あっという間に完食した。
みんなで手を合わせる。
「「「「ごちそうさまでした!」」」」
「お粗末様でした!」
「ふぅ、やはり美人さんの作る料理は最高だぜ……」
ヒカリはなにやらキザなことを言っている。
「美人だなんてまあ! 私はもうおばさんよ、ヒカリちゃん」
「あまり甘いもの食べないんですが、本当にうまかったです!」
甘いのが好きじゃないハルヤもペロリと食べててびっくりした。
「じゃ、かたづけようか!」
ぼくらは、食べ終わった後のお皿をまとめた。
「オレ、皿集めるからヒビトはコップまとめて!」
「おっけー!」
「わたしとヒメはシロップたちね!」
ぼくの家やハルヤの家であそぶときは、ごはんやオヤツが出されたら、その片付けまでするのがフツーだ。
「えぇ!!!?? どんだけお利口なの!!? いいのいいのいいのいいの!! わたしが片付けておくから!!」
☆☆☆☆☆
片付けが終わって、ぼくらとハナママは再び向かい合うようにテーブルに着いた。
「なんというか、ビックリしたわ」
ハナママはコーヒーを一口。
「もっとこれくらいの子って、めっちゃ机汚したり、食べ終わった後のお皿をフリスビー代わりにして遊びだすモノじゃないの??」
「そんなことしないですよ!!!!」
ぼくはあわてて言い返した。
どんな風に思われていたんだ……そんなことしたら追い出されるどころか、コロされるだろ……。
「時代は変わったのねぇ」
とんでもないことをつぶやくハナママに、あのヒカリまで固まってしまった。
ぼくたちも、オレンジジュースを一口飲んだ。
このままくつろぎたい気持ちもあるけど、ハナママはこの後仕事に行ってしまうとハナから聞いている。
だから、早く本題に入ろう。
「あの、ぼくたち今日はお願いが……」
「ハナ、悪いんだけどあなたは自分の部屋に行って待っててくれるかしら」
ぼくの言葉をさえぎるように、ハナママは言った。
「……? わかった」
ハナは言われるがまま、リビングから出ていった。
残されたぼくたちに、何とも言えない緊張が走る。
さっきまでやさしかったハナのママさんが、いきなり怒ってあばれだすかもしれない。
……いや、それはないか。
ハナママは、ぼくの思った真逆のことを言いだした。
「本当に、いつもハナと遊んでくれてありがとうございます」
そしてなんと、ハナママはぼくたちに頭を下げたのだ。
自分たちみたいな子どもに、大人のハナママがそんな風に言ってくれるなんて思わず、ぼくはめちゃくちゃびっくりした。
固まっているぼくをよそに、ヒカリとハルヤが言った。
「わたしたちこそ、いつもハナさんと遊ばせてもらえて本当にありがとうございます」
「ヒカリの言うとおりです。4人集まって外で遊んだり、夜に線香花火したりできるのは、おばさんがやさしい人だからと、パパもよく言っています。 いつもありがとうございます!」
ぼくらもハナママに頭を下げた。
「ハナにこんな良い友達ができて、本当によかったわ」
ハナママはコーヒーをもう一口。
「答えづらかったらいいけど、一つ聞きたいことがあるの」
ぼくたちに聞きたいことって、なんだろう?
「君たちはあの子の身体を見て、どう思った??」
そう聞くハナママの目は、ナゼか少し悲しそうだった。
なんというか、聞きたくないことを聞きだそうとしているみたいな、へんなカンジだ。
ココロの中にある自分の答えを見つけるために、ハナのことを思い浮かべてみる。
真っ白な身体、真っ白な髪に、青空色の目。
初めて会ったあの日のこと。
ぼくが公園にわすれた水筒を取りに行くと、それを描いてるハナが居たんだ。
はじめはオバケかと思った。
でもあのとき、ぼくは逃げ出さなかった。
ビビりで、オバケなんて絶対ムリなあのぼくがだ。
逃げ出さなかったどころか、彼女を見ていたいと思ったんだ。
たぶんそれは、水筒がまだ置きっぱなしだったからじゃないと思う。
ほかの、なにか…………別の気持ちが…………。
……あぁ、そうか。
あのときぼくは、一目惚れをしたのか。
「――――ぼくは……ハナを最初に見たとき、"好きだ"と思いました」
 




