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すっごいキレイな、ヒューどっかーん!  作者: 健康っていいね
12/23

第十二話「フィクション」

熱が出た。


体調が悪い。ダルい。身体が重い。

元気がでない。


そんなときは、すごく不安になってしまう。


イヤだ。もうイヤだ。はやくみんなに会いたいよ…………


ココロの闇を、夢は写した。


すっごいキレイな、ヒューどっかーん!

12話「フィクション」です。

よろしくお願いします。

 タイトル「ノンフィクション」その8




 ある日、わたしは高熱でたおれてしまいました。




 前までは家の中にいる時間の方が多かったのですが、大好きなともだちが出来て、外でもよく遊ぶようになってからは、自分の部屋でじっとしているだけの時間はタイクツに感じます。




「ヒマだぁ……けど、もうすっかり外は真っ暗だし、みんなはもう寝ている時間だろうなぁ」




 それでも、1日中ずっと横になっていたわたしはなかなか寝つけません。




「みんなとあそびたいよぅ……描きたいよぅ……」




 もう時間も少ないのにと、おふとんの中でうなり声を上げても、どうしようもありません。




 それに、お熱をうつしてしまうかもしれないので、みんなと会うのは気が引けます。




「そうだ、あれを読もう!」




 重い身体をなんとか起こして、本棚から取り出したのは、1冊の絵本。




 その内容は、むかーしむかしのとある村に、かみさまのツカイがおりてきて、村人たちをたすけてあげるというモノです。




 この絵本は、わたしの目が見えなかったころからずーーーーっとお母さんが読み聞かせてくれていたので、もう内容はすっかり頭に入っています。




 それでもフシギなことに、この絵本を読むとわたしのココロはとても安らぐのでした。




 わたしはいつものように、絵本のページをパラパラとめくっていきます。




「……ん?」




 そして、物語が終わった後のページにとある一文を見つけました。





『この作品はフィクションです』




「うーん、どういう意味なんだろう」




 ガチャリ。




 部屋のドアが開く音がしました。




 ちょうどいいところに、お母さんがわたしの様子を見に来たのです。





「お熱は大丈夫? あら、絵本を読んでいたのね」





「そうなの。それよりもおかあさん、フィクションってなぁに?」





 わたしがそう聞くと、お母さんは少しだけ困ったように考えてから言いました。




「フィクションっていうのはね、それが"作り物のお話"ということよ」




 その言葉を聞いて、わたしはびっくりしました。




「作り話……? それじゃあ、この絵本はウソだったの?」




 お母さんは、わたしの頭をポンとなでます。




「……強く言うとそういうことになるわね。あなたがこの話を信じていたのは知っていたわ。ごめんね、ダマすつもりはなかったのだけれど」




 今までずっと、この絵本に書いていてあることが本当にあった物語だと思っていたわたしは、ショックというよりとてもビックリしていました。




「そうなんだ……なんだかスゴいね」




 わたしの言葉に、今度はお母さんがビックリしていました。





「スゴい?」





「うん。なんにもないところからこんなスゴいお話を考えて、こんな物語を作っちゃうなんてスゴいよ!!」





 お熱があるのにコーフンしている私を見て、お母さんはほほえみました。





「たしかにスゴいわね。それに、考えてみればあなたにも絵本が書けるんじゃないかしら」




「わたしが……絵本を…………?」




「えぇ。だってあなたは絵がとても上手なのだから」




 そう言ってやさしく笑うお母さんを見ると、なんだか本当にわたしも絵本を描けるような気がしてきました。




「わたしも絵本描きたい!!」




「はいはい。それじゃあ早くお熱を治さないとね!もうおそいんだし、早く寝ちゃいなさい」




「はぁい……お母さん、おやすみなさい」




「おやすみなさい。となりの部屋にいるから、何かあったらすぐ呼ぶのよ」




 そう言いのこして、お母さんは部屋から出ていきました。




「よし、もう寝よう……」




 それからおふとんにもぐり込むと、さっきとは違いすぐに眠りにつくことが出来ました。









 ――――そして、わたしは夢を見ました。





 気がつくとそこは、どこを見渡しても真っ暗な世界。




「まるで、また目が見えなくなってしまったみたい」




 わたしはとにかく歩いてみました。




 なんとなく、進めば誰かが待っているような気がしたからです。




「みんなどこなの……?どこにいるの…………?」





 ひとりぼっちですごく不安なわたしは、今にも泣きそうになりながら、しばらく歩きました。




「あれはなんだろう?」




 歩いた先に、ハートの形をしたドアを見つけました。




「なにか書いてある」




 ドアプレートをよく見てみます。




「"わたしのびじゅつかん"?なにそれ?とにかく入ってみよう」




 わたしはドアを開いて中に入ってみることにしました。





「わぁ!絵がいっぱいだ!!!」





 ドアの先は、赤いじゅうたんの長いろうかでした。そしてカベには、たくさんの絵がかざられています。




「ってこれ、わたしの絵じゃん!」




 そう、ここにある絵はどれもわたしがスケッチブックに描いた絵でした。




「うわぁ……最初の方の絵へたっぴだなぁ……」




 わたしは大分前に描いた自分の絵を見てビックリしました。





「あっ!あっちに虫さんがたくさんいるー!!」





 ろうかの先にある広いスペースには、今までわたしが描いてきた虫さんたちの絵がずらりと並んでいました。





「やっぱりチョウチョさんはかわいいなぁ」





 チョウチョさん、トンボさん、ダンゴムシさん、アリさん、セミさんなどなど。




 たくさんの虫さんたちをながめながら進んで行くと、突き当たりにはまたハートの形をしたドアがありました。




 そしてまた、ドアプレートには何かが書いてあります。




「"わたしの大好き"?なんじゃそりゃ」




 ドアを開けるとそこには……。




「みんな!!」




 大好きなともだちの絵がたくさんありました。




 わたしはかけあしで絵に近づきます。




 みんなが笑っている絵、遊んでいる絵、じゃれあっている絵、お話をしている絵。




 見ているだけでなんだかわたしも楽しくなってきました。





「ん?絵の下になにか書いてある」





 よくみると、どの絵の下にも小さな文字が書いてあることがわかりました。




 わたしは顔を近づけて、それを読んでみます。





『この絵のタイトルは……です』





「んー、大事なところがつぶれてて読めないや」





「その絵のタイトルは、"フィクション"」





「!?」





 わたしの後ろには、いつの間にかメカクシをした白い女の子がいました。




「その絵のタイトルは"フィクション"。ウソだってことだよ」





「どういうこと……?っていうかあなた誰なの?」





 メカクシをした白い女の子は、わたしのことを指差して答えました。





「わたしは"おまえ"だ。暗闇以外何も見ることのできないおまえの姿だ」





 彼女の話す言葉は分かっても、意味が全く分かりません。





「……??」





「それにしてもおまえは、目が見えてもほんとうのことは何も見えていないんだな」





「それ、どういう意味よ!!」





 わたしがつよく言っても、彼女は表情ひとつか変えません。




「どうせ見えなくなってしまう世界なんて"フィクション"だって言ってる」




「ウソなんかじゃない!!だってみんなは本当に……!!」





「本当に?」





「本当に……やさしくて、楽しくて、温かくて、キラキラしてて…………それがフィクションなワケないじゃない!!」





「ウソだね、君の目が見えなくなったら、みんなは君のことなんて見向きもしなくなるにちがいない」





「そんなことない……!」





「あるよ。君は何も見えなくなって、絵も描けなくなるしもちろん遊ぶことも何もできなくなる。そんなヤツは誰とも、ともだちになんてなれない」





「そんなこと……」





「だから、今お前が見てるみんなの姿はウソなんだ。いずれ変わってしまうんだから」





「もうだまってよ!!!!!!!」





 わたしは、耳をふさぎました。







 ……もう、いやだ。







 そんなこと考えたくないよ。







 なにも聞きたくない。








 みんなに、会いたい。





 みんなに……。







 ――――そのとき、目も耳もふさいだわたしの頭に、ポンと誰かが手を置きました。




「え……」




「もう大丈夫だよ。悪いヤツはやっつけた」




 わたしはおそるおそる目を開けます。




 周りを見わたすと、そこはもう"わたしのびじゅつかん"ではなく、真っ暗な世界にもどっていました。




 そして、わたしの目の前にいたのは……。




「オバケさん!!」




 真っ白な服にキレイな黒い髪の女の子。




 目の前にいるのは、いつかみんなで夜のトンネルへ行った時に出会った、あのオバケさんでした。




「オバケさんが助けてくれたのね……ありがとう!」




 わたしは思わず彼女に抱きつきます。





 しかしオバケさんは、そんなわたしをやさしく突き放します。




「どういたしまして。でも、今日はキミを助けるために来たワケじゃないんだ。伝えたいことがある」





「伝えたいこと?」





「あぁ。この前はキミがオレを描いてからすぐに行ってしまったから、伝えそびれていたことがある」





 わたしは、みんなでオバケトンネルに行ったときのことを思い出しました。




 クールなそうな見た目と話し方に合わない、ダイタンなポージングをするオバケさんを思い出して、思わず笑いそうになります。





「あぁ、ごめんね。あのときはみんなを待たせちゃわるい思ってたから」





 彼女は首を横にふります。





「ううん、べつにいい。今こうして会えたんだから」





 いきなりロマンチックな言い回しをされて、わたしは少しハズかしくなりました。





「やっぱり、オバケさんは良い人だ!人というか、良いオバケ?」





「そんなことないよ。でも、ありがとう」





 オバケさんはせきばらいをします。





「キミに伝えたいことは、2つある」




 なんだかどこかで聞いたような言い回しだなぁと思いました。





「一つ。キミは天使から『その目にタイムリミットがある』と聞いているね?」




「たしかにそう聞いたけどオバケさん、天使さんを知っているの?」





「……まぁ、よく知ってるよ」





「ほんとに!? てんしさんはどこにいるの? 会いたい! 描きたい! 」




 わたしがコーフン気味に言いよると、オバケさんは困ってしまいました。




「ごめん、それは出来ない。天使は今、一人の女の子相手に手いっぱいなんだ」




 意外な答えにわたしはびっくりしました。




「そうなんだ!なんかそう聞くと、天使さんがまるで恋でもしてるみたいだね!!」




 オバケさんはあきれた顔で言います。





「……あながち、それも間違いじゃないかもしれないな。って、そんな話じゃなくて」





「タイムリミット? 3年で〜ってヤツだよね。うん、言われたよ。あとちょっとでわたしの目が元にもどっちゃうの」




 わたしがそういうと、彼女は悲しそうな顔をしました。





「……やっぱりそうか」





 やっぱりとはなんのことだろうと、考えてみてもよく分かりません。





「どういうこと?」





 聞き返すと、オバケさんはすごくシンケンな目でわたしを見つめました。





「よく聞いて。天使が君の目を見えるようにしたなら、『元にもどる』のは、"君の目のこと"じゃない」





「元にもどるのは、わたしの目じゃない……?」





「そう。たしかに、君の目は見えなくなってしまうけどね。正しく言うなら『元にもどる』のは、"この世界"のことなんだ」





「世界がもとにもどる???」




 わたしはますますワケが分からなくなりました。




「そう。たとえば、枯れてしまった花を天使がまた咲かせたのなら、タイムリミットが来た時にまた枯れてしまうワケではない」




「それってもしかして……あのタンポポのこと?」





 わたしがいつか描いたタンポポは、スケッチブックの中でいつの間にか枯れてしまっていたことを思い出しました。




 オバケさんは話を続けます。




「時が来れば、花が再び咲いた世界そのものがなくなって、元々あった世界に戻る。天使の言う『元にもどる』とはそういう意味なんだ」




 わたしはがんばってオバケさんの言うことを理解しようとしました。





 ……けれど、わたしはバカでした。




「だめ! もっと分からなくなってきた!」




「たとえ世界が『元にもどる』としても、キミが見た世界はフィクションなんかじゃないってこと。絶対に」




「――っ!!」




「だから、キミが自分の運命を理解するときが来たとしても、どうか……最後まで…………」




 オバケさんがそこまで言うと、真っ暗な世界はガラスにヒビが入ったみたいに割れて、そこから光があふれだします。





「オバケさん……」





「――――最後まで、キミらしく居て」





 夢の世界はこわれて、光に飲まれました。




 オバケさんは笑顔でわたしに手をふります。








 ……もう二度と、彼女には会えないんだ。





 ナゼかそう思ったわたしは、オバケさんに手をのばしました。




 しかしわたしの小さな白い手では、何もつかむことができませんでした。











「――――待って!!!」





 気がつくと、わたしの目には見なれた自分の部屋の天井が映りました。




 わたしはおでこに乗っかっている、ぬるくなった冷えピタをはがして身体を起こします。




 お熱はすっかり無くなっていました。




 きっとそれも、彼女のおかげなんだろうなと思います。




「ありがとう……オバケさん」




 さっそくわたしは、つくえから何も書いていない無地の本を取り出します。




 この本に何を描くかはもう決まっています。








 わたしが見た、大好きな世界を――――






 わたしが見た、大好きなみんなを――――






 わたしが見た、大切な思い出を――――







 ――――1つの、物語にしよう。










「この絵本の、タイトルは――――」




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