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7話 成長


翌日制服に着替えると俺は学校に向かった。

久しぶりに着る制服は、自分がまだ学生であることを教えてくれる。

親からは、まず学校に行ったら担任の先生と学年主任の先生に挨拶に行きなさいと言われた。

俺が長期で休んだ時に相談に乗ってもらっていたらしく、大変親切にしてもらったとのことだった。今日俺が学校に行くことは親から事前に連絡は済ませてあるものの、本人から言うことが大事なのだと強く言われた。


通学路を歩くと、学校に近づくにつれて同じ制服を着た男女がどこからともなく沸いてくる。

同じ道を通っているだけなら、昨日までずっと休んでたタカシのことなど誰も気にする様子は当然ない。

それが今の俺には何となく嬉しかった。自分はまだ学校の一員だと誰ともなく言ってくれてるようだった。


学校に着くと真っ先に職員室に向かう。

さすがに学校についてすぐ職員室に向かう生徒は少ない。そこで自分はみんなと違うと言う事実を少し受け止める。

しかしそれは仕方のないことだ。俺はずっと休んでいたのだから。

そう思って職員室へ行く足取りを強くした。


職員室のドアをガラと開けるとすでに先生方の多くは席にいた。みんな朝から忙しいらしく、ドアを開けた俺のことなんて気にする人はいない。

担任の長谷川先生の元に向かう。長谷川先生は今日の日直らしい人と会話をしていたが、俺が近づいてくるのを見て、日直にじゃあ後は頼んだ。と伝えて追い払うように教室に帰させてくれていた。


「長谷川先生。

 ながらくご迷惑おかけしました。

 今日から復学します」


そう言って頭を深々と下げる。ちゃんと、そう思った。

長谷川先生は頭を下げたまま戻らさない俺に、10秒ほど経ってから戻していいよ、と言った。

頭を下げるのをやめると、なぜか先生は嬉しそうに話し出した。


「男子三日会わざれば刮目して見よ。と言う言葉がある。

 お前と会わなかった期間は三日じゃないが、顔つきを

 見ればわかる。成長したんだな?」


そう言われて無言で頷く。


「わかった。

 そんなに長い間いなかったわけじゃないから、

 勉強が追いつけないわけじゃないだろうが、

 数日は補修だ、残ってくれ」


「わかりました。

 今後もよろしくお願いします」


補修の話に対して、ありがとうございますと返せる俺は確かに成長したのだと思える。

他のやつらなら補修など真っ先にえーと言う不満が出て来るに違いないのだから。

それでは失礼します。と先生の前から離れようとした際に、長谷川先生以外の先生もびっくりした声を出していたのが聞こえた。




「長谷川先生、あの生徒確かずっと休んでいた子ですよね?

 あんなに立派な態度の子でした?」


「いえ、どちらかと言うと暗くて地味な子でした。

 きっと休んでる間に成長するような何かが彼の身に

 あったのでしょうね」


職員室内ではそういう会話がされていた。




職員室から教室に向かうと、ガラと開いたドアの音でクラスメートの何人かが見てくる。

そして、今日は休まないんだ。といろいろな感情の入り混じった声が聞こえた。

しかし声を掛けられているわけではないので全て知らない振りをして自分の席だろう場所に座る。

その場所は俺が休む前から何も変わることがなかったのですぐわかった。

椅子に座ってただ机をじっと見ていると、クラスの中で会話が成立していた数人が話しかけてきた。


「おい佐藤。もういいのかよ」

 

タケシの本名は佐藤剛史。タカシと呼ぶのはユウと家族、そして奈緒子だけだった。


「ありがとう。

 休んでた間、もしかして迷惑かけた?

 そうならごめん」


「いや、そんなことないけどさ……」


前なら、ああ。だけで済ませていたタカシが変わったことはクラスメイトはすぐに感じとって言葉を濁していた。

そしてなんとなく居づらくなり、じゃあな。とそれぞれの席に戻って行った。


意図的に変わろうと思ってやっていることもあるが、確実に成長した、乗り越えたと言うことが顕著になった朝だった。


授業はいくつかの科目が全くわからないことになっていた。

歴史のように、進んだ先は全く別の話なら暗記するだけでよいが、数学のように基本を勉強できずに応用が始まっているような科目もある。

面倒になって投げ出したい気持ちになるが、自業自得であるし頑張らないといけない。それに、授業でわからなくても補修で先生が教えてくれるはずだ。自主的に勉強しないといけないが、手がないわけでもない。

そんな気持ちで授業に臨んだせいか帰る頃にはくたくたになっていた。今まで学校でここまで勉強をしたことはない。


家にたどり着く頃にはお腹が空いて一歩も動きたくない状態になっていた。久しぶりの学校で精神的に疲れたことと、おそらく体力が低下していたこともあっただろう。


「タカシ、お帰り。

 久しぶりの学校はどうだった?」


帰りに気付いて母親が声をかけてくる。


「特に何もなかったよ。

 それが正直有難いかな。

 それより、おなか減ったんだけど、

 もう夕飯食べれる?」


「もうできてるわよ。

 でも、お父さんが後少しで帰って来るから、

 着替えて手を洗ってから来なさい」


うん。とだけ頷いて手を洗いに向かった。ご飯を食べれるとわかって行動は早かった。

今までこのような素直な姿も見れなかったので、母親は少し驚いたが好転しているだけに特に疑問は抱かなかった。

そして家族での夕食が始まった。

いつもは黙々とご飯を食べているだけだったが、今日は不思議と家族との会話が上手くいった気がする。

変わろうと思った1日目は思ったよりも順調であった。


今日から変わる! と思って変わるのはとても難しいことだと思います。

意識的にやらないと変わらない。

そういうことって誰もができることじゃないですよね。

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