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第二話

 ボクは借りていた本を抱えて書庫へ向かった。


 ビンセントはいつも母さんを引き合いに出して、母さんとの思い出ばかりを語る。

 母さんとビンセント達が一緒に過ごした時間より、ボクといる時間の方が遥かに長いはずなのに。

 

 そんなに母さんの事が好きだったのなら、何故母さんを悪魔にしなかったの?

 どうして、人間のまま死んでいく母さんを放っておいたの……?


 もし母さんが悪魔になっていたら、永遠に別れが訪れることもなかったし、ボクも半分悪魔で半分人間という、中途半端な存在ではなかった。



 書庫は吹き抜けになっていて、一階から三階まで本がぎっしりと並べられている。

 ボクは魔術の本にしか興味がないけれど、この書庫には人間の世界の物語が沢山置かれていた。


「とっ……。あ……!」


 背伸びをして本を本棚に戻していると、バランスを崩して尻餅をついた。

 ボクの上にバサバサと古い本が落ちてくる。


「ああッ。もう!」


 落ちてきた本を拾い上げていると、人間が描いた天使と悪魔の絵が目に留まった。


 ボクは落ちてきた本を本棚に戻し、天使と悪魔が描かれた本を持って書庫から出た。



 自分の部屋に戻るため、廊下を歩いていると、向こうからビンセントが来るのが見えた。


 ビンセントの部屋は書庫の奥にある。


「……」


 ボクは持っている本を後ろに隠し、顔を背けた。

 ビンセントは少しボクの方を見たようだったけれど、何も言わず、すれ違った。


 分かっている。


 ビンセントは、ボクになんか興味がない。

 

 ボクと話す時も、ボクの顔を見る時も……。

 ずっとボクの母さんの事を思い出しているんだ。


 ビンセントだけじゃない。

 父さんもハイドも。この世界にいる皆そうだ。



 部屋に戻ると、ボクはベッドの上に寝転がり、持ち帰った本を開いた。


「天使って、こんな姿をしているんだ……」


 そこに描かれていた絵は、ボク達に姿が似ていた。


 ボクは一度も人間の世界へ行ったことがないから、人間は母さんしか知らないけれど。

 元人間だったハイドやビンセントも悪魔の父さんも同じ姿をしているから、人間も天使も悪魔も、そんなに変わらないのかな……。

 

「ボクの羽に似ている……」


 天使の絵の背中には、どれも真っ白い大きな翼が描かれていた。


 この世界で、背中に白い翼が生えているのはボク一人だけ。

 母さんにもハイドやビンセントにも、悪魔の父さんにすら生えていない。

 

 ボクの背中の翼は、この絵に描かれているほど大きくもなければ、立派でもない。


『綺麗ね……』


 母さんはそう言ってボクの翼を褒めてくれたけれど、ボクは空も飛べないこの小さな翼が邪魔でしかなかった。


 寝転がったまま本のページを捲っていくと、人間が描いた悪魔の絵が出てきた。


「これが悪魔?」


 全身黒々とした獣のような身体の手足には蹄、頭に角が生え、牙が生えた口は大きく耳まで裂けている。


 背中にはドラゴンのような翼が生え、ボク達とは全く姿が異なっていた。


 ボクは一体何だろう……。


 この本に描かれているような悪魔の姿をしていなければ、人間だった母さん達と違って、天使のなり損ないのような小さい翼が生えている。


 ボクはもしかしたら、父さんや母さんの本当の子どもではないのかもしれない。


「ボクが中途半端な存在だから……。だから、皆……」

 

 急に背中の小さな翼が重たくなったような気がして、ボクは自分の背中に手を伸ばした。


「こんな翼、いらない! こんな翼!」


 背中の翼を無理矢理引っ張ったら、真っ白い羽根が何枚か抜け落ちた。


 それでもボクは、背中の翼を取り除きたくて、何度も引きちぎろうとした。


「痛っ……!」


「ベルデ? ここにいるのか?」


 部屋の外から、扉をノックする音とビンセントの声が聞こえた。


「ベルデ……。

 ……! お前、何をしている」


 ビンセントが床に散らばった白い羽根を見て、驚いている。


「何でもないって! だから、入って来ないで!」


「何でもないって、お前……」


 ビンセントが慌ててボクに駆け寄ろうとした。


「出て行って! 出て行かないのなら、ボクが……」


 ボクが本を閉じると、ベッドの上に落ちた羽根が舞い上がる。


「ボクが出て行くから」


「ベルデ!」


 もう、うんざりだ。

 ビンセントの説教なんか、聞きたくない。


『お前の母さんが好きだった(・・・・・・・・・)翼を大事にしろ』


 きっとビンセントは、こう言うんだ。


 ボクはビンセントから逃れるように部屋を出た。


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