三十五話 クナイ
(……クナイ…………?)
俺は飛んできたクナイを掴み、握り潰す。するとクナイは魔力へと変換され、あっという間に消えていった。
「……変換魔法か。」
………周りは誰もクナイの存在に気づいていない。犯人は隠密に長けているようだ。
『錬成・クナイ』
「……『そこ』だな。」
消えていった魔力の特徴を捉え、その特徴と同じ魔力を持った人物を感知する。
そして俺は意趣返しのようにクナイを作り出し、犯人へと返してやった。
「……うぉ!」
犯人は飛んできたクナイに驚きながらも軽々と避け、飛び出してきた。
俺は犯人へと体を向ける。
「……何者だ。」
「いやぁ、流石っすね! 俺のクナイをキャッチするなんて……まあ、投げ返されるとは思わなかったっすけど。」
犯人の男はそんな飄々とした口調をしながら、避けて壁に刺さったままの俺のクナイを抜き、軽く振って見せた。
……雰囲気からして受験生だと思うが…………
「……いきなりな挨拶だな、一体どんな教育を受けてきたんだ。」
「な、投げたのはごめんっす。つい興味本位で…………」
「……興味本位? ……いや、そんなことより…………」
俺はこんなよく分からない奴より、舞台の金髪の少女を見ようとする。
(……いない。)
しかし、既に試験は終わっていたようで、魔力も感知し忘れていた為どこにいるか分からなくなってしまっていた。
「……あ、自己紹介がまだだったっす。俺はニイダ、武器は短剣で、得意な魔法は金属と空間っす……以後お見知り置きを!」
「……はぁ。」
俺のことは気にせず勝手に自己紹介をしていた男……ニイダに溜め息を吐く。
ニイダは黒髪で首に灰色のスカーフを口を隠すように巻き、皮の長シャツに長ズボンといった……どこか前世の忍者というものを思わせるような霞色の服をきた男だった。
「あれ、溜め息?」
「……で、何のようだ。攻撃してきたからには相応のことがあるんだろうな?」
「いや、別に大したことじゃないんすけど…………」
ニイダは一拍入れ、俺を指差して言った。
「あんた、めちゃくちゃ強いでしょ。」
ニイダはさっきまで戯けていた顔を一変、真剣な様子でそう言った。
「………別に、普通だ。」
俺は淡々と告げる。
……俺は今、自分の異常なステータスを一般人程度まで自力で下げている。それに加え神眼も使って完璧に偽装しているので、相手が神眼でも使ってこない限り俺のステータスがバレることはない…………まあ、そんな奴はいないが。
「あれ、そうすか?」
「何の根拠か知らないが……俺のステータスは普通レベルだぞ。」
「…………確かにステータスは普通っすね……けど、俺の勘がいってるんっすよー」
「……じゃあ、その勘はハズレだな。」
……どうやらニイダは俺のステータスを見ずにこんなことを言っていたようだ。
実際、今の今まで俺のステータスを覗かれた感覚はなかった……だから、本当に勘か何かで判断したのだろう。
(……何か確信があるのか……?)
事実として、ニイダの勘とやらは合っている。何で判断したのかは分からないが………こいつは要注意、だな。
「うーん、そうすっかねぇ………おっ、なんすかあれ。」
未だ俺を疑っているニイダだったが、舞台の上が騒がしいのを見て話を止めた。
ニイダに倣うように俺も舞台を見ると、そこでは何やら試験官同士が話をしているようだった。
「がっはっは! ここからは儂が相手だ…いいだろラリーゼ!」
「……良いですけど、ちゃんと手加減はしてくださいよ。学院長は手加減が苦手なようですから。」
「分かってるさ、わざわざ自ら卵を潰すような真似はしない!」
「……なら、どうぞ。」
どうやらあの男はこの学院の長らしく、さっきまで試験官をしていた女は舞台を降りた。
「……聞いた感じ、あの人が試験官になったんすか?」
「……らしいな。」
「しかも、学院長とかなんとか……ここの学院長って確かめちゃくちゃ強いって話っすよね?これは面白くなってきたっすね!……そういえば、名前を聞いてなかったっすね。」
1人勝手に盛り上がっているニイダは、不意に思い出したかのように俺の名前を聞いてきた。
……正直、こんな胡散臭い奴に名乗るのは気がひけるが…………まあいい。
「……俺はウルスだ。」
「ウルスさんっすか……よろしくっす!」
「……こちらとしては、いきなりクナイを投げてくる奴とよろしくはできないな。」
「そ、それは出来心だったんす、許してくださいっすよ〜」
……出来心で攻撃するなんて、一体どんな思考しているんだ…………
当たり屋みたいですね。
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