百四十二話 フラン=ハート
「「………!!?」」
不意に、そんな試合の中断を告げる声が聞こえ揃って魔法を解除する。そしてその静止の声を上げた教師の方を見ると…………どうやら制限時間の5分に達していたようだった。
「5分を過ぎたため、この試合は引き分けとする。2人ともお疲れ様だ。」
「はぁ……せっかくいい所だったのに。でもまあ、それがこの選抜の目的だし仕方ないか。」
(……クルイも理解しているのか、流石首席だな。)
あのアーストを見ているせいか、一層クルイができた人間に見えてしまう。彼もこれくらい…………
(………いや、それはお門違いだろう。)
彼は彼で、何かを抱えていたんだ。それを誰も理解できなかった結果堕ちてしまっただけで、きっとどこかに手を差し出せる隙があったはず…………
『俺は別に自分のしてることが良いことだなんて、微塵も思ってねぇ。ただ気分からいいから人を馬鹿にしてきただけだ………けど、あいつはそうじゃねぇ。馬鹿にすることが正しいなんて、本気で考える…………狂人だ。』
『……? 当たり前じゃないか。僕は一年の首席で、貴族としても位は十分に高い。今はまだ成長途中だけど、そのうち英雄を越えるくらいには強くなるよ?』
『だろうな、お前みたいな奴は考えようともしない。強さが…………力が、誰に何を想わせるのか。』
「………………。」
「ん、どうした? 急に神妙な顔をして、そんなに名残惜しかったのか?」
「…………いや、何でもないです。」
頭の隅に追いやり、俺は彼へ手を差し出し握手を求める。するとクルイは何やらニヤニヤしながらその手に答えてくれた。
そのニヤケ面は兄弟揃って全く同じ物だったので、俺はつい強い口調でその意図を聞いてしまう。
「……その顔は何ですか?」
「いやぁ……こんなに強い1年が居たとはな。夏期休暇にニイダから少し話は聞いていたが、まさかここまでとは……これは面白くなってきたな! お前の周りの人間もきっと強いんだろ?」
「え、まあ……はい。」
よく分からないテンションの高さに困惑しながら答える。ニイダも大概だったが、兄はそれ以上の戦闘狂といったところか。
「ほう、楽しみだ。最近はどいつも腑抜けた奴ばかりでな、歯応えがなかったんだよ。だから、久しぶりにこんな熱い戦いができて良かった、ありがとうなウルス!」
「……こちらこそ、ありが「でも。」」
「まだ……力を隠してるんだろ?」
「…………どういう意味ですか?」
ニヤケ面がより深く、底の見えないものへとなっていく……本当に兄弟そっくりだ。
「そのまんまだ、さっきのお前からはまだ『全力』を感じられなかった………そうだろ?」
「……………」
……おそらく、これは俺のステータスを抑えていることの話……ではないだろう。その証拠として、俺はまだこの状態で見せられる全ての力を出したことがない。
今まではその必要もないと高を括っていたが……今後、クルイのような強者と渡り合っていくためには使っていく他ないだろう。
「……勘違いだと、良いですね。」
「くくっ……食えねぇな。」
握り合う手とは対照的に、俺たちの目には火花が激しく散っていた。
(…………果たして、どこまで通用するのか……俺の魔法は。)
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(ニイダは……この会場だな。)
2試合とも終了した俺は解散を告げられたので、とりあえずちょっど試合を行なっているであろうニイダが居る会場まで来ていた。
(さっきの試合がフルだったから、時間的にニイダも2試合目に入っているであろうが……相手は誰だ?)
ニイダの魔力は感じ取れたので、辺りに来ているであろう彼の対戦相手の魔力を探そうとするが……何故かどこにも引っかかることはなかった。まだ来ていないのか……?
「ニイダは……いた。ラリーゼが審判なのか……相手は……」
中に入り、舞台の上に立っているニイダと偶々この会場の審判を務めている担任のラリーゼを確認してから、対面にいるはずの相手を探す。すると、そこにいたのは…………
「……ふわぁ………」
「…………!! あれは、今朝の………!」
ニイダの向かい側に立っていた欠伸をした彼女は、例の魔力を感じ取れない白緑の髪の女だった。
(……やはり、何も感じ取れない。一体何がどうなって……)
「……おい、フラン=ハート。バッジはどうした?」
「…………部屋に忘れました。」
「はぁ……まったく、何回言われたら付けてくるようになるんだ。それに……髪と服もクシャクシャ、ちょっとくらい恥じらいというものを持て、お前は。」
「……………はーい。」
(……適当だな…………)
あの朝に出会った時に見せたオーラはどこ吹く風か、ラリーゼに怒られている姿は完全にただのズボラな少女にしか見えない。また、それはニイダも同じようで珍しく何とも言えない表情を顔を映してい…………
「……? 今の名前は………」
「どうだウルス、あれが儂の娘だ。」
「…………えっ?」
ラリーゼの出した名前に聞き覚えがあると思ったら、突如として背後からそんな渋い声が耳に届いた。振り返るとそこにはいつの間にか自慢げに語る学院長の姿があった。
「学院長? どうしてここに……というか、何故わざわざ転移を使ったんですか?」
「転移は気分だ、せっかくできるんだから上手く活用しないと勿体ないだろう。それと、ここに来たのは娘の試合っぷりを久しぶりに見たかったからだ。」
「娘……ということはやはり、フラン=ハートは学院長の子どもだったんですか。」
「ああそうだ、知らなかったのか? 苗字はがっつり一緒だし、てっきり知ってるものだと思ってたぞ。」
……言われてみれば、ガラルス=ハートだったな……まさか首席に学院長の娘がいるなんて想像もしていなかったが、そう言われれば首席なのはある意味当然なのかも知れないな。
「それで、どうだ? お前から見てフランは強いと思うか?」
「いや、強いも何も魔力が……」
「……ああ、そう言えばそうだったな!! 儂は慣れているからあれだが、普通の人間にはあの子の魔力は感じ取れないんだった。だがウルスまでも無理とは…………神眼をも欺く、最強の娘だな!!!」
(……ガータも同じようなことを言ってたな………)
子どもを持つとみんなこうなるのか……? 今まで想像もしたことないが、自分が万が一子どもを持ったとしたら……いや、無いな。
「……『魔力を感じ取れない』ということは、魔力自体は持っているということですよね?」
「もちろん、生き物に限らずこの世の全ての物に魔力はあるからな。当然、あの子にも魔力はちゃんと存在してる。」
「なら、一体どういう仕組みに…………」
「それじゃあ、ニイダ対フラン=ハートの試合を始める。2人とも準備はいいか?」
「はいっす!」
「………………」
俺が学院長にその訳を聞く前に、ラリーゼの試合を開始する声が届く。ひとまず彼女の魔力のことは置いておいて、実力の方を見なければ……
「では…………始めっ!」
「『クロスアビリティ』」
「よしっ、行くっす…………って、あれ?」
(………………?)
俺はまずニイダの出方を見るため、一度フラン=ハートから目を離した。すると早速飛び出そうとしていたニイダだったが……不意に足を止め、何故か困り顔を見せていた。彼女に何かあったの…………
「…………いない……だと?」
彼女の姿は、どこにも見当たらなかった。
学院最強たる所以が見えてきます。
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