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相合傘をあなたに 番外編

作者: 三木千紗

「相合傘をあなたに」番外編。


奏と美亜が両想いになった、その後のお話。


楽しんでいただけると嬉しいです。

ある日の夜。

美亜は、友達との飲みで遅くなるという奏の帰りを、2人の部屋で待っていた。


「まだかな〜」


付き合い始めてしばらくして、一緒に住もうと言われた。


「だって、その方が部屋行き来するより良くない?」


合理的だと言えば合理的だが、それは、奏が自分との結婚を考えてくれていると考えてもいいのだろうか…?

お互いの気持ちを天秤にかけたら、絶対自分の方が重い。そう思ってるから、初めは少し迷った。

でも他に断る理由も無く、2人で部屋を借りた。


いつもはできるだけ一緒にご飯を食べているから、1人で食べる今日は少し寂しかった。


2人で部屋を借りる提案をしたのは奏だが、絶対好きなのは自分の方だと思っている。だから好きだと言う言葉はなかなか言えずにいる。


普段から好きだとは言ってくれているが、美亜の方が片想い期間は長いし、奏はもともと親友の夏帆のことがすきだった。


なんとも思わないと言えば嘘になる。

今はお互いが想いあってるとはいえ。


そんなこと口が裂けても言わないけど。

だって、あたしはクールキャラで通ってるんだから。


適当に流れているテレビを観て、風呂に入って、時計を見るともう12時近くになっていた。


「盛り上がってるんだなぁ〜」


1人で呟いたその時。


ピンポン、と玄関のチャイムが鳴った。

画面を見ると、エントランスに奏が立っているのが見えた。

応答ボタンを押して、


「なにしてんの?入って来なよ」


と声をかける。


すると奏は黙ったまま、門をくぐる。


え、何。なんか機嫌悪いの?


少し不安になっていると、ガチャ、と玄関のドアが開く。


「おかえりなさい」


駆け寄ると、


あぁ。



これは、


相当酔ってる。


「美亜ちゃああああん」

「うわっ」


抱きついてきた奏の全身からはお酒の匂い。

加減をせずに抱きついてくる男の人の体重ってこんなに重いんだ。いつも加減してくれていることを知る。


でも、これは、


「ちょっと奏!!お酒臭い!!」


いくら好きな人だからといって、お酒臭いまま風呂上がりの体に抱きつかれるのは嫌だ。


「ん〜」

「ちょっと!どんだけ飲んだの!」


これは、かなりの量を入れたと思う。


引き剝がして風呂場に入れてやろうと思い、ほぼ体を引きずりながら廊下を歩く。すると、奏が突然言った。


「美亜ちゃん〜すきだよ〜」

「はぁ?!」


いきなり好きと言われてどき、としてないとは言わない、けど今の状態で言われても!!


「早くお風呂入って!寝ないと!明日仕事でしょ?!」

「ん〜いいからちょっと俺の話聞いてよ〜」

「よくないわ!」


とりあえず水を入れ飲ませた方がいいか?と、リビングの方に向かう。

やっとの事でソファに奏を放り出して、オープンキッチンになっているキッチンに向かい、コップにミネラルウォーターを注ぐ。


様子を伺うと、奏はソファに放り出されたままだ。


全く。


「はい、とりあえず水飲まないと」

「んー…」


水を飲むと、少しだけ赤かった顔が心なしかましになった。でも、


「俺の話聞いてよ〜」


としつこい。


時計を見ると1時になりそうになっていたが、しょうがなく、ため息をついて隣に座る。


「なに?」


満足したように奏は話し出した。


「ん〜今日さ…」

「うん」

「お互いの彼女とか嫁の話になって」

「うん」

「みんな、自分がどれだけ愛されてるか、って話になったの」

「おぉ」


男でその話?だいぶ盛り上がったんだな。

少し引きながら、相槌を打つ。


「そしたらみんな、俺は愛されてないって」

「…はい?」


待て待てなんでそうなる。


「で、俺は言い返したの。そんなこと無いって」

「そうだね、そうしてくれるとありがたい」

「そしたら…」

「ちょっ!」


また、いきなり奏は美亜に抱きついてきた。

もうしょうがないので抱きつかれたままにしておく。


「そしたら…!万年片想いの俺が両想いになるはずがないって…!」

「ぶっ…っ!」


思わず美亜は吹き出した。

そうだ、あたしが好きになった時もこの人は叶わない恋というやつをしていた。そして今までもそうだった。たぶん。


「ひどくない?!俺ばっかりが好きだってみんな思ってるんだって!ねぇ?!美亜は俺のこと好きだろ?!」


なんで今あんたそれを聞かなきゃならない。

それでも、今は酔ってるだろうと思って、朝には忘れてるだろうと思って、普段あんまり言わない言葉を、奏の耳元で囁く。


「ちゃんと奏のことがすきだよ」


背中に手を回し、よしよし、とぽんぽん叩く。そして、酔ってるなら、と思い少し不安を。


「あたしの方が絶対奏のことがすきだよ、だから大丈夫」

「え…」

「あたしの方が片想い歴長いもん」


すると奏は、少し体を離して、美亜を見つめて言う。


「それ、本気で言ってる?」


え、なになに。なんか怖いんですけど。


と思ったのもつかの間。

ふたたび美亜に抱きつく。


「ちょっと!っ…うわっ」


支えきれずにソファに倒れこむ。

かなり重い。


「ねぇ、重い…!!」

「俺の方がすきだよ絶対」

「はぁ?!」


もう、早くお風呂に入れて早く寝させよう。

体を浮かそうとバタバタもがいていると、さらに体を抱きしめられる。


「ちょっと…!苦しい…!」

「だって逃げるじゃん」

「ねぇって!」


「…俺は今美亜のことすごいすきでもうどうしようもないくらいなのに全然伝わってないなんて思わなかった」

「え…」


思わず抵抗する力が緩む。


「俺だってもうすごい美亜に好きって言ってたつもりだったのにさーあぁ悲しい」


待ってあたしはなんのスイッチ押した。


「今でもすごいドキドキしてるのになぁ〜抱気づく時もキスするときもすごい未だにドキドキしてどうしようもないのに〜」


もうこれはあたしの存在を忘れてるな…

ていうか黙って聞いてるとすっごい恥ずかしいんですけど!!!


口をパクパクさせている美亜をよそに、奏は好き勝手に、好きだの、愛してるだの言っている。


「マグカップとか歯ブラシとか並んでるの見ると未だにほっこりするし…美亜に愛されてる実感がないなんなんて思わなかった…」

「そこまで言ってないよ…」


普段こんなコミカルな感じになるなんて無いのに、相当飲んだんだなぁ。

ちょっと楽しいけど、やっぱ恥ずかしい…


奏はまだ1人で話し続けている。しかも、


「こんな美人がお前のこと好きなわけ無いって言われた…」

「俺はこの先どんだけ美人が目の前に現れても俺にとって一番可愛いって思ってドキドキするのは美亜だけだよ…」


と、言ってることも支離滅裂だ。自分が愛されてないと言われたことを嘆いて、自分の愛が伝わってなかったと大げさにしてことを嘆いて。



そして、


「…」


黙った。


「…え?」


ちょっと…奏さん?


見ると、奏はそのまま寝ているらしい。


「うそでしょ〜」


重い。すっごい重い。

付き合ってからわかったこと、奏は運動不足になるからと、体を鍛えていて、だから体は細い方になるのに、筋肉の分体も重い。


なんとか自分はベッドで寝たい、と必死になって奏の体の下から抜け出す。

本人が暴れてない分、思ったよりも抜けやすい。


寝たにも関わらずがっちり美亜の体をホールドしている腕をなんとか振りほどいて、ソファから落ちるように解放された。


「ふう…」


息をついて、奏を見つめる。

あれは…本音だと思っていいのか。

自分は思っているより愛されているらしい。

でもそんなことを自分で自覚するのは思ったよりも恥ずかしくて。


「明日、本人は覚えてないといいな…」


そのまま寝たら風邪をひくよ、と寝室から毛布を取ってきて、奏にかける。


「…今日はあたしベッド広く使うからね」


と囁いて、美亜は電気を消して寝室に入った。




朝起きると、奏はシャワーに行っているらしく、姿はなかった。

脱いで椅子にかけてあるスーツをハンガーにかけて、自分も着替えて朝ごはんの準備をする。


すると、奏がシャワー室から出てきた。


「あ、おはよう」

「…おはよ」

「朝ごはん食べれる?コーヒーあるよ」

「二日酔いしてないし食べる」

「ん、じゃあコーヒー」


と、マグカップを渡す。お揃いマグカップを見るたびにほっこりするって言ってたなぁ、と思い出して、口が緩む。

すると、受け取った奏が、口を開いた。


「…昨日の…あれはさ…」

「あ…覚えてるんですか…」

「いや…そりゃもう、ね…」


すっかり忘れてると思ってたのに、ぶり返されてこっちが恥ずかしくなる。


「ちょっと美亜!赤くならないで!こっちが恥ずかしい!」

「はぁ?!赤くなってません!!そっちは忘れてると思ってたのに!」

「うわぁ無理だ恥ずかしい!忘れてください!!!」

「忘れません嬉しかったから!」


そこで奏が驚いて美亜を見つめる。


「…何」

「…いや、嬉しかったんだと思って」

「そりゃ嬉しいでしょ、あたしが奏を好きなのと同じように愛されてるなってわかったもん」

「…そっ、か」


お互いに照れてコーヒーをすする。


「…なんか言ってよ」

「やだ恥ずかしい、奏がなんか言って」

「……………じゃあ」


と、奏がコトン、とマグカップを置く。

そして、美亜に向き直る。


「美亜、大好きだよ。多分美亜が思ってる以上に俺は美亜に惚れてて、離したくないって思ってるから………これからも、ずっとそばにいてくださあああ?!」


美亜は奏に抱きついた。嬉しくて恥ずかしくて、でもやっぱり嬉しい。


「最後まで言わせてよ」


と笑って奏は美亜を抱きしめた。


「…嬉しくて」


と、美亜も抱きつく腕に力を込める。


奏はふっと笑って、


「不安にさせてたのは俺なんだけど。必要以上にもう不安にならないでね」


と言った。美亜は頷いて、顔を上げた。


「ごはん食べよ、仕事遅れちゃう」

「あ、ほんとだ」


2人は一緒に朝食を作り始めた。

なんだ、相思相愛じゃん、とお互いに心の中で思っていたのは、2人は知らない。



Fin.

この話を書いている途中で、twitterより、似たような実話が回ってきました。


理想(妄想)をつらつら書いているわたしですが、「えぇ!実際にあるの!?」と驚きました。


美亜は、周りがクールだと自分のことを評価しているのに染まってしまった感じかな、と思ってます。

実はめっちゃコミカルな子だったりしてほしい。と思って書きました。


奏は…まぁ報われない男ということで…(笑)報われてよかったね奏!!


楽しんでいただけたら嬉しいです。


いつも応援してくれているあなたに⁂

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