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変わりゆく世界と…

作者: 水無月 弦

アパートのベランダで少年と少女は町を見ていた。

「変わらないものなんてないよ…人も…町も…関係も…」

少女はそう言うと空を見つめた。

「………」

「私達みたいにさ変わるんだよ…ゆっくりと確実にね」

「………」

「出会った頃は君みたいな人とここまで仲良くなれるなんて思わなかったもん」

「…うっ……うっ…」

うつ向きながら黙って聞いていた少年が涙を溢し始めた。

その少年に少女は優しく慰めるように背中を撫でてあげた。

「泣かないで変わらないものなんてないんだから人は変わり続けて行くしか無いんだよ」

「そんな難しいこと言われても分からないよ!」

黙って聞いていた少年は唐突に少女の手を払いのけて赤く腫れた目を少女に向けた。

「いつか会えるからその時までこれ預けとくね?」

少女は首からお守りを外すと少年に渡した。

そのお守りの中には少女の大切な思い出の品が入っていた。

一度、少年が触ろうとしたら少女は怒り丸一週間、話を聞いてくれなかった。

それくらい大切な物なのに…

「預かってくれないの?」

少年は首を振ると少女のお守りを受け取り首から下げた。

「変わる世界の中、君は変わらないでね?」

少女はそう言うと風に乗って消えた。



クリスマスが近くなると昔の夢を良く見る。

俺の名前は(ゆう)…至って普通の高校生だ。

…まぁこんな事を十二月も終わろうとしている朝に思ってる時点で普通かどうかあやしいだろうが気にするな…

「ん〜…」

俺は小さく伸びをすると学校の準備を急いだ。

今日は終業式…終わればそこから冬休みに入る…そう思うだけで寒空の下を歩く気力がわくのだから不思議である。

俺は準備が終わると朝食を軽く済ませて学校に向かった。

朝日が眩しく澄んだ空気が美味しい…訳がなく朝日どころか曇天空のせいで太陽の正式な位置もつかめず排気ガス溢れる町のせいで空気は濁っていた。

この町もゆっくり変わっていってしまった。

アイツと一緒に遊んでいた時はこの町は近代化に乗り遅れたおかげで空気は澄んでいて夜空に星を仰ぐことも出来た。

だけど近代化の波に揉まれるようにゆっくり早さを増しながら確実に近代都市にこの町を変わっていった。

しかし変わる世界の中、今もしぶとく変わらないものもあった。

そう言うものを見掛けるたびに心が温かく嬉しい気持ちになった。

だが変わらないものはないそう言わんばかりにその変わらないものも変わっていった。

学校も古く趣きのある校舎から近代的な校舎に変わっていった。

全てが変わっていくアイツとの思い出を塗り替えていくように…

俺は終業式を軽く寝ながらやり過ごした。

確かにあの頃に比べたら変わった事がたくさんある。

けどなにが変わったんだろうか?

町並みは変わってもそこに住む人達は変わらない。

俺の生活が変わっても俺自身は変わらない。

表面が変わってもそこにある本質は変わってないのだ。

それでも表面が変われば本質もゆっくりと変わり変わったことにも気が付かない…

そんな悲しさで胸に穴をあけながら帰路についた。

俺はアパートに着くと制服を脱いでベランダに出た。

曇天空を眺めた。

何が見えるわけでもなくただ灰色の雲がいまにも落ちそうに重圧をかけてきた。

俺は首から下げたお守りを持ち上げてお守りを見つめた。

未だに預り続けている中身を知らない大切なお守り…

「はぁ〜…」

暗い空に白い息が漂い消えた。

一体何時になったらアイツは取りに会いに来てくれるんだろ?

ふと白いものが空から落ちてお守りに触れた。

どうりで寒いはずだ。

雪が降って来ているんだからな。

俺は身震いをしながら室内に向かった。

『もうすぐだよ…』

室内に片足を踏み入れると後ろからアイツの声が聞こえた気がした。

急いで振り向いてもそこには誰もいなかった。

俺は後頭部をかきながら室内に入った。

『気のせいだよな…ダメだなぁクリスマス前は…』

室内に入ると暖房器具をつけてゆっくりとアルバムをめくった。

アイツと過ごした季節の数々が記された宝物…

春の花見に夏の花火、秋の紅葉狩りに冬の雪合戦、どの写真にもどの季節でもアイツと俺は笑ってここに残っていた。

懐かしいけど…温かいけど…優しい気持ちになるけど…俺はアルバムを閉じた。

直ぐに空虚と言う名の寂しさが押し寄せて来るからだ。

俺はする事もなく横になった。

楽しい夢が見れる事を祈って…



「優、いつまで泣いてるのよ?」

「だって…だって…」

「もぅ…」

少女は少年に困った表情を向けていた。

「優…約束するから泣き止んで?ね?」

「…約束?」

「いつかそれ返して貰うために帰ってくるから…ね?」

「うん分かった…」

「じゃ指切り」

「うん…」

「「ゆ〜びきりげ〜んまんうそついたらはりせんぼんの〜ます」」少年と少女は小指を絡ませて離した。



俺は重度の病気なのかもしれない…

アレから何年も経ってると言うのに毎年クリスマス前になるとアイツとの別れを夢見てしまう…

「はぁ…」

俺は暖房器具を切って日の沈んだ道を歩いた。

生憎、曇天の空で星を伺うことが出来ないが…いやそもそも最近だと排気ガスの影響で星空を仰ぐ事なんて出来なかった。

変わらなくても良いものまで変えてしまう世界に俺は軽い寂しさを抱きながらコンビニで夕食を買って近くの公園に向かった。

この公園も変わる世界の中で今もしぶとく残る場所だった。

俺は公園のベンチで夕食を手早く食べると空を仰いだ。

星が見えない所か今にもまた雪が降りそうな厚く黒い雲が見えた。

この空のどこかの下でアイツも見つめているのか…

それだと少しは嬉しいのだが…

…何はともあれ寒い!

こう寒いと頭が可笑しくなりそうだ。

俺は身を縮めながらも空を見つめた。

「なに見てるの優…」

とうとう寒さで幻聴まで聞こえるようになってしまったらしい…

寒さを舐めていた罰なのだらうか?

「こ〜ら優、久しぶりに会った幼馴染みを無視しないの」

よし明日は病院に行こう…きっと風邪を引いてるに違いない。

「もぅなんで感動の再開で無視するかなぁ?」

でも…もし…

「もしかして優、その状態で寝てるの?!」

前を見てアイツがいたなら…

「あっ!やっとこっち見た!もぅ感動の再開で…ってわ!何泣いてるのよ?!」

あぁ…アイツが…舞空(まそら)がそこにいる…

写真の中の舞空より大人びているけど思い出に残る舞空がいる。

「泣いてない…」

「嘘…泣いてるじゃない…」

「それよりもこれ…」

俺は首から下げたお守りを舞空に渡した。

「えっあ…うん…まだ…持ってたんだ?」

「………」

「中身…見た?」

俺は舞空の質問に首を横に降ることで答えた。

舞空は気恥ずかしそうなしかし嬉しそうな顔をしていた。

俺はそんな舞空に笑顔を向けた。

「何笑ってるのよ…もぅ」

ゆっくり変わる世界で変わらない思いが舞空に会わせてくれた。

「舞空、久しぶり…」

「うん。優、久しぶり」

この世界もどの世界も変革をお越し変わりいく。

変わった世界を…変わった自分を嘆くより今は受け止めて前に進もう。

俺は舞空の顔を見て抱き締めた。

「えっ?ちょ?…なに?」

「会えて良かった」

胸に秘めた想いが溢れて止まらなかった。

「ずっと会いたかった…好きだよ舞空」

「………」

先程よりも強く抱き締めて舞空の存在を感じた。

例え振られても俺は構わない…

ただ言わなかったら次は何年後に会えるか分からないから…

「変わったね…」

返ってきた言葉は拒否でも受託でもなくただ悲しみのこもった声…

「私…今の優は嫌い」

「俺は変わってない。変わっていく周りに流されて変わらないようにしてた」

舞空は俺の腕の中からすり抜けると数歩距離を取った。

「変わったよ…昔の優なら周りが変わったら自分から変わっていったもん」

「それなら俺はどっちでも変わってるじゃないか!」

「うんん、優は気付かない内に本質が変わってるんだよ…」

「………」

「私、言ったよね?変わらないものはないって…優なら分かってくれると思ったのに…」

俺はどこで間違えたのだろうか?

舞空を想い続けることが間違いだったのだろうか?

それとも変わろうとしなかった事なのだろうか?

俺はまた舞空が離れるのを黙って見てるしかないのか?

「舞空!…」

考えがまとまるよりも先に舞空に声をかけていた。

「変わらないものはないなら俺は昔の俺に変われるように努力するから」

「優…それは退化だよ」

舞空は俺の言葉に冷たく一言を残すと歩みを止めなかった。

「何なんだよ…」

涙が止まる事なく溢れてきた。

振られても構わないと思っていたのに…

俺は何も考えずに悲しみに任せて泣き続けた。

いったいいつまで泣いていたか分からない…

いつの間にか雪が降り俺の肩に厚く層を作っていた。

俺は立ち上がりやるせなさと共に帰路についた。

アパートに着くと雪を払って室内に入ると暖房器具をつけてベランダに出た。

雪がひらひらと降っていた。

「はぁ〜…」

俺は白い息を吐き出すと少しだけ長く漂うと消えた。

「そう言う所は変わらないね?」

舞空の声が聞こえて隣を見るとそこに舞空がいた。

「………」

さすがに先ほどの事があって何を言ったら良いか分からなかった。

「私、今日の朝からここに引っ越したんだよ?」

「なんで?」

「言ったじゃない?クリスマスもうすぐだよって」

「だからなんでここに引っ越してんだよ?」

「こっちの学校に通うから以外ある?」

「ふ〜ん…」

「私ね…今、夢の途中なんだ…だから私は優の足枷になりたくない」

「俺は足枷なんて…」

「今日まで私の事、想ってた…だから私は優とは付き合えない…」

「だって…好きだったんだ…ずっと…ずっと…」

「ありがとう…その気持ちは素直に嬉しいよ…」

「じゃ…」

「ダメ!私達は支えあったら変われないから…」

「………」

「優も変わらないとダメだよ?」

「うん…」

俺の初恋はこうして幕を閉じた。

それでも後悔はしていない。

後悔しないように舞空がしてくれたから…

これで俺も前に歩き出せる。

変わることが出来る。

変わることが出来るのは前へ進めると言うこと…

だから俺は変わる世界で変わっていこう。


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― 新着の感想 ―
[一言]  評価依頼受けてやって参りました。でん助です。  不意打ちしますが、酷評はしませんが、色々ツッコミはします。  意味は同じです。  文章に関して、三行以上ある文内で一度も句読点がないのは、…
2008/05/11 10:28 退会済み
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